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第一章:綺麗な殺気

俺がマルセイユの丘に建つ白い自宅で惰眠を貪っていると、ベッドの脇にあるテーブルに置いておい電話がけたましく鳴った。


「・・・・誰だよ」


電話の横に置いた時計を見れば、まだ朝の10時だ。


部下達には、12時以降に電話しろと言っているのに・・・・・・・・・・・・


電話をシーツの外から出した手で取り上げて、耳に当てた。


「誰だ・・・・・」


『お、お休みの所、申し訳ありません・・・・・・・・・・』


電話越しから怯えた声を発したのは、俺の部下の一人だった。


あいつ等が言うには、どうやら俺の寝起きは悪いらしい。


それこそ最悪と言われる事も多々ある。


女からは言われた事など一回も無いのだが・・・・・・・・・・


だから、怯えるのも仕方ないか、と回転しない錆びた歯車で思い浮かべた。


「謝らなくて良い。で、何の用だ・・・・・・・?」


『は・・・はっ、実は貴方様を狙う輩が敵組織に雇われたという情報が入りまして・・・・・・・・・』


俺を狙う奴、ね・・・・・・・


自慢にもならないが、俺は嫌と言うほど命を狙われる。


危ない橋を何度も渡って来て、敵対する者は完膚無きにまで叩き潰したから狙われるのも無理はない。


しかし、逆に命を狙われる事に対して、何処か今では哀しいとも言える喜びを感じる。


昔なら死を渇望していたのだが、どういう感情の表れなのか・・・・・・・・・・・


まぁ、だからと言って簡単に殺される気はない。


俺を亡き者にしたいなら自分の手で殺せ。


自分の手で殺す、という意志がある奴以外に俺を狙う資格はない。


誰かを雇い、自分は安全な椅子から動かずに居る輩に俺は殺せないし、殺させない。


部下から言われた刺客の話で俺は昨日の事を思い出した。


ベンツで海岸沿いの道路を走っている時、妙な視線を感じた。


チラリと見れば、女だった。


ドラグノフ狙撃銃で俺の眉間を狙う女。


ポンコツと馬鹿にする奴も居るが、あれで狙われて生きて居られる奴はそう居ない。


下手なボルトアクションよりも良い。


そして、ドラグノフを構える女の髪。


ただの鉄から何度も叩いて、火に灯し、水で冷やす行為を何度も繰り返し、作り上げた最上級の鋼の色だ。


あの鋼色の髪には、覚えがあった。


・・・・・魔界で、俺を狙い、皆殺しにした一族だ。


全員が鋼色の髪をしていた。


しかし、俺が皆殺しにした筈だ。


どういう訳か?


『どうなさいますか?伯爵様』


部下が俺のここでの名前を言った。


伯爵は、フランスで得た階級だ。


別に大した事はしていない。


ただ敵と戦って、戦功を立てただけだ。


その恩賞として国王から貴族の階級を与えられた。


今はもう死んでいるが、あいつは俺にこう言ったのを覚えている。


『貴方は我が戦友であり共に地獄の業火を潜り抜けてきた。私が亡くなった後も、どうかこの国を陰ながら護って欲しいのです』


死ぬ間際に言われた言葉は、俺らにとっては契約と同じだ。


別に紙に書いただけの契約が全てではない。


言葉でも契約を結べる。


故に俺らは言葉を発する時も気を付けている。


特に死ぬ間際だと、言葉の力が増すから要注意だ。


まぁ、俺の場合はただ気が向いたから引き受けただけだが。


話を戻すと、俺は、その願いを聞き入れてこうしてこの地を護っている。


そして周りから伯爵と呼ばれているのさ。


「あー、分かった。正午に会議を開くと伝えて置いてくれ」


別に会議など開かなくても良いのだが、そうでもしないとこいつらが騒ぐのは目に見えている。


だから、敢えて先手を打たせてもらった。


『分かりました』


電話を切った俺は、直ぐに別の相手に電話を掛けた。


『はい。こちらネルガルです』


電話越しから聞こえたのは、丁寧な物腰の口調だった。


「俺だ」


『これはこれは、“皇子”様。おはようございます』


「その呼び方は止めろ、と言った筈だ」


前々から何度も皇子と呼ぶな、と言っているがこいつは治す気配が無い。


もう無理、だと思いながらも言ってみた。


『そう言われましても・・・・貴方様の父君からも口酸っぱく言われていますし、実際皇子なのですから』


ちっ。相変わらず口が減らない男だと思う。


「早速で悪いが、ヴラド一族の事について調べてくれ」


『ヴラド族ですか?貴方様が皆殺しにした筈では?』


「昨日、狙われたんだよ。鋼色の髪をした女に、な」


『鋼色の髪をした女、ですか・・・・・・・?』


「あぁ。それにあいつ等一族に共通する点がもう一つある」


『殺気ですか?』


電話の声に俺は居ないのに頷いていた。


「あぁ。あいつ等の殺気は情熱的であり、冷たいのさ」


あいつ等は皆が同じ殺気だった。


炎のように情熱的に相手を見ているが、それでいて心は氷みたいに冷たい殺気。


あんな殺気はそういない。


それでいて綺麗なんだよ。


今まで味わってきた殺気の中でも一番と言える。


大抵、殺気なんて汚いものなんだが、あれは違うと断言できる。


『その殺気を、その女から感じたと言うんですか?』


「そうだ。調べてくれ」


『分かりました。では、1時間後に連絡をします』


「そうしてくれ。俺は寝る」


『それでは良い夢を』


電話を切り、俺はまた眠った。


朝っぱらから叩き起こされて迷惑だ。


俺はまたシーツを頭から被り惰眠を貪る事にした。


頭が碌に回らない時は眠るに限る。


正午まで時間があるんだ。


眠って頭を回復させるんだ。


俺は夢の世界へと旅立った。


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