第7話 索敵スキルは便利です。そして今日のパンは焼きそばパン
朝起きて、最初に思ったこと。
腹が減った。
「……昨日も食べたのにな」
寝る前にハンバーガーまで食べた。
それなのに、朝になると腹が減っている。
健康な証拠だと思うことにした。
俺はベッドから起き上がり、身支度を整える。
そして、朝食をどうするか考えた。
宿の食事を頼むという選択肢もある。
でも。
「……せっかくだし、今日も食玩だな」
空中に画面を出す。
【食玩】
【商品を選択してください】
一覧には、相変わらず大量のパンが並んでいる。
見たことのない名前も多い。
その中で、俺の目に入ったのは。
【焼きそばパン】
「これだ」
名前は知っている。
パンに焼きそばを挟んだ食べ物。
俺は画面の購入ボタンを押した。
【焼きそばパン】
【価格:銅貨8枚】
【購入しますか?】
【はい】
ポンッ。
いつもの紙袋が現れた。
受け取って袋を開ける。
すると。
「……おお」
香ばしい匂いがした。
ソースの匂い。
焼きそばの匂い。
そして、パンの甘い香り。
細長いパンの切れ目に、たっぷりの焼きそばが挟まっている。
麺には濃い色のソースが絡んでいる。
ところどころにキャベツも見える。
「いただきます」
大きくかじる。
まずパンが柔らかい。
そこへ焼きそばの濃厚なソース味が広がる。
少し甘くて、少し辛い。
ソースの香ばしさ。
麺のもちっとした食感。
キャベツのシャキッとした歯触り。
それらを柔らかなパンが包み込んでいる。
「……うまい」
これはかなり好きだ。
焼きそば単体でも美味しい。
パン単体でも美味しい。
それを一緒に食べることで、さらに美味しくなっている。
もう一口。
今度は麺を多めにかじる。
ソースの味が口いっぱいに広がる。
パンがその濃さをちょうどよく受け止める。
「これ、朝から何個でも食えそうだな」
あっという間に食べ終わった。
紙袋を見る。
もちろんカードが入っている。
【SKILL CARD】
【俊足Ⅰ】
「お」
今度は移動系か。
俺はカードを手に取る。
「使う」
カードが光った。
『【俊足Ⅰ】を習得しました』
俺はステータスを開いた。
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【アレン】
種族:人族
年齢:15歳
レベル:1
【体力】42
【魔力】18
【攻撃力】12
【防御力】11
【素早さ】13
【魔法力】15
【精神力】12
【習得スキル】
・言語理解
・初級剣術
・食玩
・身体強化Ⅰ
・身体強化Ⅱ
・火魔法Ⅰ
・鑑定Ⅰ
・気配察知Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・料理Ⅰ
・剣術Ⅰ
・索敵Ⅰ
・火力強化Ⅰ
・俊足Ⅰ
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「結構増えたな」
改めて見ると、かなり多い。
まだ冒険者になって何日も経っていない。
なのに、スキルだけなら一人前の冒険者より多いかもしれない。
「……まあ、スキルが多いだけだけど」
レベルはまだ1。
ステータスも特別高いわけじゃない。
だから、油断はしない。
それに。
「今日は【索敵Ⅰ】を試してみるか」
昨日手に入れたスキルだ。
どれくらい使えるのか確認しておきたい。
俺は宿を出た。
◇
「おはよう、アレン」
冒険者ギルドに着くと、ミリアが待っていた。
「おはよう」
「今日は何を食べたの?」
「焼きそばパン」
「……焼きそばパン?」
「うん」
「また知らないパン」
「美味かったぞ」
「食べたい」
「じゃあ今度買おう」
「今度?」
「朝に一個食べたからな」
「……一個だけ?」
「一個だけ」
ミリアが少し考える。
「足りる?」
「普通は足りる」
「そう?」
「そうだよ」
ミリアは納得したような、していないような顔をした。
「それより今日の依頼は?」
「これを見て」
ミリアが掲示板から一枚の依頼書を取る。
【薬草採取】
【街の北にある森で薬草を十束採取】
【報酬:銀貨三枚】
「採取か」
「昨日まで討伐ばかりだったから、今日はこういうのでもいいかなって」
「いいと思う」
魔物を倒すだけが冒険者じゃない。
薬草採取も立派な仕事だ。
「ただ、森か」
「危険?」
「浅いところなら大丈夫だと思う。でも、道に迷ったら面倒だな」
「だったら【索敵Ⅰ】を使えばいい」
「……そうだな」
俺たちは依頼を受けた。
「気をつけてくださいね」
リーゼが声をかけてくれる。
「森の中は街道より魔物が多いですから」
「分かりました」
「もし危険を感じたら、無理せず戻ってきてください」
「はい」
「それと」
リーゼが俺を見る。
「今日は何パンですか?」
「焼きそばパン」
「……また聞いたことのない名前ですね」
「美味しいですよ」
「では、また今度教えてください」
リーゼが笑う。
「はい」
俺たちはギルドを出た。
◇
北の森。
入口までは歩いて一時間ほど。
森に入る。
木々が密集している。
昼間なのに、頭上を葉が覆っているため少し暗い。
「ここから【索敵Ⅰ】を使ってみる」
意識を集中する。
すると。
「……分かる」
「何が?」
「周りの気配」
昨日まで使っていた【気配察知Ⅰ】でも、近くにいる魔物などは何となく分かった。
でも【索敵Ⅰ】は少し違う。
自分を中心に。
周囲にいる生き物の位置が、なんとなく把握できる。
正確な姿までは分からない。
でも。
「右に一匹」
「魔物?」
「たぶん」
しばらく待つ。
草むらが動いた。
出てきたのは小さな鹿だった。
「……動物か」
「魔物じゃなかったね」
「でも、位置は分かった」
かなり便利だ。
ただ、何でも判別できるわけではない。
「生き物がいる、くらいか」
「それでも十分便利」
「だな」
森を進む。
薬草を探す。
依頼書に書かれた特徴を確認しながら、茂みの中を調べていく。
「あった」
ミリアがしゃがみ込む。
「これ?」
「たぶん」
俺も確認する。
依頼書の絵と同じ。
「間違いない」
薬草を採取する。
一束。
二束。
三束。
順調だ。
「この調子ならすぐ終わりそう」
「そうだな」
さらに奥へ進む。
四束。
五束。
六束。
七束。
「あと三つ」
「順調」
ミリアが立ち上がった。
その瞬間。
俺は何かを感じた。
「待って」
「どうしたの?」
「前方に何かいる」
【索敵Ⅰ】を意識する。
気配が一つ。
いや。
二つ。
三つ。
「三匹」
「魔物?」
「たぶん」
少し待つ。
木の陰から姿を現した。
狼型の魔物。
「ウルフだ」
ミリアが杖を構える。
三匹がこちらを見る。
「来る!」
一匹が飛び出した。
俺は身体強化Ⅱを発動。
俊足Ⅰも使う。
身体が軽くなる。
「速い!」
自分でも驚くほどだった。
ウルフの突進を横へ避ける。
そのまま踏み込む。
剣術Ⅰ。
斬る。
一匹目。
残り二匹。
右からもう一匹。
「ミリア!」
「分かってる!」
水魔法。
水の塊がウルフへ飛んでいく。
ウルフが横へ飛ぶ。
そこへ俺が回り込む。
剣を振る。
二匹目。
最後の一匹がミリアへ向かう。
「危ない!」
俺が叫ぶ。
ミリアが振り向く。
しかし。
「大丈夫!」
ミリアは冷静だった。
回復魔法ではない。
水魔法。
足元へ水を叩きつける。
ウルフの動きが鈍る。
俺が横から斬る。
三匹目。
「終わった」
「うん」
ミリアが息を吐いた。
「俊足Ⅰ、便利だね」
「かなり速くなった」
今までなら、ウルフの攻撃を避けるのにもっと苦労したはずだ。
身体強化Ⅱとの組み合わせもいい。
「カードでどんどん戦いやすくなってる」
「私も」
ミリアが杖を握る。
「水魔法と回復魔法があるだけでも、かなり違う」
「だな」
俺は周囲を見る。
「それに【索敵Ⅰ】のおかげで先に気づけた」
「気づかなかったら危なかったかも」
「うん」
新しいスキルは、ちゃんと役に立っている。
◇
その後、薬草を三束見つけた。
「これで十束」
「終わり」
「帰ろう」
森を出る。
街へ戻る。
ギルドで依頼を報告すると、銀貨三枚を受け取った。
「お疲れさまでした」
リーゼが笑顔で言う。
「魔物にも遭遇したようですね」
「ウルフが三匹」
「怪我は?」
「ありません」
「それなら良かったです」
俺たちは報酬を受け取った。
「じゃあ」
俺はミリアを見る。
「パンを買うか」
「うん」
ギルドを出る。
そして、いつものように【食玩】を開く。
「今日は何にする?」
「焼きそばパン」
「まだ食べてないだろ」
「だから食べたい」
「なるほど」
俺も焼きそばパンにすることにした。
二つ購入。
紙袋が出てくる。
ミリアが一つ受け取る。
「いただきます」
かじる。
「……!」
ミリアの表情が変わった。
「美味しい」
「だろ?」
ソースの香り。
もちもちした麺。
シャキシャキのキャベツ。
ふわふわのパン。
ミリアは夢中になって食べている。
「……これ好き」
「俺も好きだな」
俺も二口目。
ソースの濃い味が口いっぱいに広がる。
少し焦げたような香ばしさもある。
焼きそばの麺がパンの中でほどける。
柔らかいパンと、もちっとした麺。
食感が違うのも面白い。
「……やっぱり美味い」
食べ終わる。
紙袋の中を見る。
カードが一枚。
【SKILL CARD】
【魔力回復Ⅰ】
「お」
今度は魔法系だ。
俺はカードをミリアへ渡した。
「これ、使う?」
「いいの?」
「俺よりミリアの方が魔力を使うからな」
「……ありがとう」
ミリアがカードを受け取る。
「使う」
カードが光る。
『【魔力回復Ⅰ】を習得しました』
ミリアがステータスを開く。
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【ミリア】
種族:人族
年齢:16歳
レベル:1
【体力】31
【魔力】48
【攻撃力】7
【防御力】8
【素早さ】11
【魔法力】42
【精神力】35
【習得スキル】
・言語理解
・火魔法Ⅰ
・火耐性Ⅰ
・水魔法Ⅰ
・回復魔法Ⅰ
・防御強化Ⅰ
・魔力回復Ⅰ
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「これで魔法をたくさん使っても、少し楽になるかも」
「便利そうだな」
「うん」
ミリアがステータス画面を閉じる。
そして俺を見る。
「アレン」
「ん?」
「いつも私にカードをくれるよね」
「必要そうだからな」
「……ありがとう」
「気にするなって」
ミリアは少しだけ頬を赤くした。
「……うん」
そのとき。
「お二人とも」
後ろから声がした。
リーゼだった。
「はい?」
「今日はもうお帰りですか?」
「そうですね」
「それなら、もしよければ……」
リーゼが少し迷うように言う。
「その、ハンバーガーというものを」
「ああ」
そういえば約束していた。
「食べてみます?」
「いいんですか?」
「もちろん」
俺は食玩を開いた。
画面を操作する。
【ハンバーガー】
【価格:銀貨1枚】
「これです」
購入。
ポンッ。
紙袋が出る。
リーゼが目を丸くする。
「本当に何もないところから……」
「これが【食玩】です」
「不思議ですね」
リーゼが袋を受け取る。
そして開ける。
「……いい香り」
焼いた肉の香り。
香ばしいパン。
チーズ。
野菜。
リーゼがハンバーガーを両手で持つ。
「いただきます」
一口。
「……!」
目を見開く。
しばらく無言。
そして。
「美味しい……」
小さな声だった。
「お口に合いました?」
「はい」
もう一口。
今度は少し大きめに。
パンがふわりと潰れ。
肉汁がじゅわっと広がる。
チーズの濃厚な味。
レタスのシャキシャキした食感。
トマトの瑞々しさ。
甘辛いソース。
それらが一つになっている。
「……こんな食べ物、初めてです」
「美味しいでしょう?」
「はい」
リーゼは嬉しそうに笑った。
「これは……毎日食べたくなりますね」
「分かります」
「アレンさん」
「はい?」
「このスキル」
「【食玩】?」
「はい」
リーゼがハンバーガーを見ながら言う。
「やっぱり、ハズレスキルではないと思います」
「……俺も最近そう思います」
ミリアも頷く。
「私も」
三人で笑う。
そして。
リーゼの手元にあるハンバーガーから、肉汁が少しだけ垂れた。
「……あ」
「大丈夫ですか?」
「はい」
リーゼは慌てて拭う。
それから、もう一口。
「……美味しい」
結局。
リーゼはハンバーガーを最後まで綺麗に食べた。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
「また食べたいです」
「いつでも買えますよ」
「……では」
リーゼが少し考える。
「また、一緒に食べてもいいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
リーゼは嬉しそうに笑った。
ミリアが俺の袖を少しだけ引っ張る。
「アレン」
「ん?」
「私もまた食べたい」
「分かった」
俺は二人を見る。
美味しいパンを食べて。
スキルを手に入れて。
冒険をして。
そして、また美味しいものを食べる。
そんな生活も悪くない。
「明日は何パンにしようかな」
「焼きそばパン」
「また?」
「好きだから」
ミリアが即答する。
リーゼも笑った。
「私も、もう一度ハンバーガーを食べたいです」
「じゃあ明日は……」
俺は考える。
まだ食べていないパンは大量にある。
明日は別のものを選ぼう。
そう決めた。
――俺の異世界生活は。
今日も平和だった。




