舞台裏
時刻はもうすぐ深夜2時。
家屋の灯りが落ち、辺りが寝静まった頃。
街のはずれ、コンクリートが昼間の熱を残す敷地の中に、煌々と照明の点いた建物があった。
そこは平屋づくりの広大な倉庫。
中には何十台ものハンガーラックが整然と並べられている。
武士や百姓などの和物の衣装、異国の王族や貴族を思わせる宮廷衣装、現代風の白衣や学生服など、数えきれないほどの衣装が吊り下げられていた。
観る者を魅了する映画の世界を作り出すために欠かせない道具。
映画撮影に使用される衣装を保管するための、衣装倉庫だ。
「うん、今回もいい出来上がりだねぇ」
倉庫の出入り口付近、作業台に広げられた真新しい衣装。
それを眺めながら佇む一人の女性がいた。
数々の話題作に携わり、世界的な映画賞でも候補に名前が挙がるデザイナー。
彼女がデザインした映画衣装が火種となって流行したファッションは枚挙に暇がなく、それゆえ「シネモードの魔女」とも呼ばれている女性。
業界にも彼女のファンは多い。
彼女の衣装に袖を通した役者は口を揃えてこう言う。
「彼女の衣装を着ると役が降りてくる」「衣装が芝居に魂を吹き込んでくれる」と。
だが、そんな魔女の素性をよく知る者は誰もいない。
彼女は今日も一人黙々と衣装に向き合う。
映画の世界へ降りていき、そこで生きる人々の息遣いを感じ、彼らが纏う生命を丹念に編み上げていく。
そうして、また一つ彼女の作品が完成した。
魔女の息吹がかけられた衣装を、彼女が丁寧にハンガーにかけていく。
丹精込めて作り上げた作品をハンガーに吊るし、静かに眺める時間が彼女は好きだった。
慈しむような表情で囁きかける。
「今夜はゆっくりお休み」
そうして、衣装は夢を見る。
魔女の倉庫の片隅で。
役者が纏う、その時まで。




