跳躍する者
「今日もぶっ跳びますか」
秋の肌寒い星月夜、高層ビルの上で独り言を言っている青年が今回の主人公、中山信行だ。
舞台は現代日本、この世界には異能がずっと昔から根付いており、中山も当然異能を持つ。彼の異能は『跳躍』。能力を自覚した幼稚園児の頃は物理的な跳躍、要するに単純なジャンプが人より少し高く出来たというだけだった。
「やっぱ最高ー!」
その力を使って、今やビルの間を飛び越えられるほどのジャンプを出来るようになっていた。異能は磨けば成長するというのは常識だ。
「あっ」
調子に乗って跳んでいたら足を滑らせてビルの縁から真っ逆さまに落ちてしまった。しかし、何ら問題はない。彼は異能を磨く中で、まったく新たな力を獲得したのだ。それが、空間的跳躍、瞬間移動だ。
「よっ、と。ちぇ…連続ジャンプ記録更新中だったのに」
刹那、彼は何事もなかったかのようにビルの屋上へ戻ってきた。緊張感というものがまるでないが、いつでもどこへでも行けてしまうのだからしょうがない。
ちなみに、彼には何人か友人がいるが、この瞬間移動に関しては誰にも明かしていない。なぜなら、友人たちの異能は、火を吐く、怪力、雨を降らすなど地味なものであり、瞬間移動なんて異能はきっと浮いてしまう、と彼は考えているからである。
―――五年後
「早くウーバー来ねぇかなー」
高校を卒業後、彼は大学に入学することもなく、就職もしないで自堕落に、自由気ままに過ごしていた。ちなみに無職ながらも金には困っていないのだが、これには彼の新しく開花した能力が関係している。
時間的跳躍、タイムワープだ。この力を使って未来に行って、競馬やら競輪やらの結果を覚え、帰ってきて儲けることを繰り返し、結果金には困らなくなった。たまに違う未来になり負けることもあるのだが、基本的には同じような結果になるため安定して勝っている。
ちなみに、過去には今のところ行っていない。何かしらのタイムパラドックスが起き、自分の存在が消えるかもしれないからだ。
それからあまり外にも出なくなった。外では時止め異能警察官が誕生したらしいが、彼はもはや外の世界には興味がなかった。なぜなら、今から十年後の未来、この世界は滅んでいるからだ。
―――九年後
「この世界終わっちゃいそうだなぁ…」
時止めの異能者が現れて以降、生まれる異能がどんどん強くなっていった。悪魔召喚、隕石を降らせる、海を操るなど、そんな者たちが力を存分に振るうから世界が耐えられなくなっていった。もはや地獄と化した景色を廃墟のビルの一室から眺める中山の顔には、それでも焦りや絶望は見えなかった。
彼はこの九年間で並行世界への跳躍を会得していた。この世界にいた彼の友人も家族も、きっととっくに死んだだろう。おじさんになって、夢もない。それでも、無為に死ぬ理由にはならない。彼はこの世界に見切りをつけ、新たな世界へと飛んだ。
―――千年後
「はぁ…」
なんやかんやあって、不老不死になった彼は色々な世界を旅し続けていた。魔法がある世界、人間がいない世界、滅んだ世界、自分がたくさんいる世界、本当に色々な並行世界を見た彼は、もう生きることに飽きていた。
「もう…つまらんなぁ…」
―――十万年後
彼はついに次元的な跳躍をすることにした。実はだいぶ昔から使えたのだが、使うべきかどうかで悩んでいたのだ。違う次元に行くということがどんなことをもたらすのか、今までは恐怖が勝っていたからである。
しかし、もはやどんな並行世界に跳んでも既視感のある展開しかなく、もう精神が限界だった。
「よし…ふんっ!」
彼は思いきり力を込め、上の次元へと跳躍した。
「…は?…あ、あー…そうか…俺の能力が進化し続けたのも…生きる理由もないのに生きてきたのも…薄っぺらい人生だったのも…」
その通り。ご苦労さま、中山信行。
――END




