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もしかして、すごい?

「おお、大したものだな。本当に作れるとは思わなんだ。……して、なぜそなたはそうもぶすくれておるのじゃ?」


愛らしい顔をしているのにもったいない、なんて女神は言うけど、そんな言葉には騙されないんだから。

今日は女神に約束通り魔封じの腕輪を届けに来ていた。腕輪を受け取った女神はさっそく装着してしげしげと眺めていたけれど、ふと目をやった私が膨れっ面をしているのに気づいたらしい。不思議そうに尋ねてきた。


「……なんで、お母さまとの関係とか、この腕輪がお母さまにとってすごく重要なものだって事前に教えてくださらなかったんですか。そうすれば、もっと立ち回り方を考えたのに……」


つい言葉にも恨みがましいものが混じってしまう。でも、その事を教えてくれさえいれば上手いことお兄さまを巻き込んで、その手柄を全部なすりつけたのに。


「立ち回りもなにも、皆がそなたに感謝しているではないか」

「そのせいで公爵家を継がされそうなんですよ!」

「よいことではないか……?」

「私はなるなら公爵夫人がよかったんです!公爵になったら忙しくて大変じゃないですか!私はできるだけ働きたくないんです!」

「公爵が大変……。それはそうだが……」


今日も付き添いでお母さまが一緒に来ているけれど、女神との面会ルールで離れた場所にいるのでいろいろとぶっちゃけていた。

鼻息荒く怒りをぶちまける私に、女神はしばらく唖然としていたが、ようやく我に返ったようで咳払いをひとつ。


「まあ、さっきも言ったが本当に作れるか思えなんだしの。期待だけさせて駄目だと可哀想であろ?」

「あんなに簡単なのに失敗しませんって」

「簡単?」


聞き捨てならないと言わないばかりに女神が眉を跳ね上げる。そんな風に反応されても、こねて乾かしただけだから簡単としか言いようがない。

しかし、きょとんとする私に対して女神はどんどん顔を険しくして「……少しよいか?」こめかみを揉んでいた。


「魔吸い樹の実はまず皮を剥くな?どうやってやった?」

「爪でぺろっと剥きました。薄皮だけ残すんですよね?」

「まず常人はそこで躓く」

「えっ?」

「例えるなら、生卵を薄皮だけ残して剥くようなものだ。普通は無理だろう?」

「そう言われると無理かも……」


レシピにそう書いてあったからそんなもんかと思ってやったし、あっさり出来ちゃったから普通に出来ることだと思ってた。確かに、ちょっと難しいことかも……。


「次に、月の光に当てて一晩乾かす。皮を剥いた実は酷く柔らかく、置いておくと自重で薄皮が破れてしまう。どうやった?」

「やばそうだなって思ったので、風魔法で浮かしてそのまま維持させてました」

「維持が難しいんじゃよな〜!」

「いや、さすがに魔法陣は使いましたけど」


魔法陣は魔法の補助に使ったり、魔力で動く魔動家具……、前世での家電に当たるもののによく使われている。例えば、扇風機だったら『動け』という指示が組み込まれた魔法陣を使って羽を動かす。


「どうせその魔法陣もそなたが手ずから書いたんじゃろ!」

「そりゃあそうですけど……」

「魔法陣は1ミリのズレや少しの書き損じも許されん。完璧に書けるのなんてこの世界でも数えるほどしかおらんぞ」

「ああ。だから魔動家具って高いんだ……」


この前魔動家具の値段を目にすることがあったのだけど、懐中電灯が庶民のひと月分くらいの価格でびっくりした覚えがある。


「それから、こねて?こんな本物と見紛う花がついた腕輪にしたと」

「粘土遊びみたいで楽しかったです」

「粘土遊びで出来るクオリティじゃないのだが……。それでまた、三日間浮かして月の明かりに当て続けたと?今度は魔力を求めて動くようになった花が動いて落ちないように固定して?」

「風魔法の他に、動くなという内容の魔法陣も発動させました。………あれ?もしかして、魔封じの腕輪って作るのがすごく大変なのでは……?」

「もしかしてじゃなく大変なのだ」


先ほどの扇風機に使う魔法陣の応用だ。おかげで金縛り状態になった花はおとなしく月の光を浴びて固まってくれた。

ここまで言って難易度の高さに気づいて私が驚いた様子を見せると、女神は疲れた顔をしながら何度も頷いていた。

……待てよ。そんなに魔法陣を作る能力が貴重で、簡単に作れるんだと思っていた魔法道具を作れる人間が希少なら、私ってものすごくすごいのかもしれない。なんたって、懐中電灯が庶民の生活費ひと月分。たまに働くだけで余裕のある暮らしが出来ちゃうかも……。


「あ、あの!この力があれば、公爵家を出てもやっていけちゃうんじゃ……」

「いけんな」

「いけないですか!?」

「魔法陣を作れるものは貴重だと言っただろう。平民になったら、それこそ馬車馬のように働かせられるであろうよ。貴族のままでいるか、周りに極力知られないようにするしかないな」

「やだーー!!八方塞がりーー!!」


状況を理解した私が喚くと、女神はほほほと声をたてて笑う。自分ばっかりが焦っていたのが実は面白くなかったらしい。実に人間らしい。

人間と結婚して子どもまでもうけていたくらいだし、価値観は人間に近いのかもしれない。


「ところで、実は三つ渡したな?後のひとつも腕輪にしたのか?」

「はい。試作品なのでデザインがあまり女性向けじゃないんですけど」

「本来はデザインに拘れるようなものじゃないんだが……。まあよい。この腕輪が使えなくなった時に備えてそれもシャロンに与えてやってくれんか。もちろん礼はする」

「え、この腕輪って壊れるんですか?」

「魔力が溜まったら割れて使えなくなる。妾が森の外に出る際に使っておったものを娘に譲ったが、孫には妾の血が強く出たらしい。そこで壊れてしもうた」

「……あの、魔力が溜まったら花が実をつけて、また新しい花を作るじゃないんですか?」


私が震える声で聞けば、女神は目をパチクリとさせて。腕輪を見、それから私をじっと見つめる。

それから真顔になって言った。嫌な予感がする。


「この世には、人が作るには難しい魔法道具がまだごまんとある。……平穏な人生が惜しくば、その力、やたらめったら知られるなよ」


やはり私は婚活するしかないらしい。

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