日記ちょう(毎日書く!)
8月8日(土)
今日は雨なので、外で遊べないです。
明日は、村の子みんなで、おにごっこをしてあそびます。
お母さんが、ごはんに何を食べたいか聞いたので、なんでもいいよって言ったらおこられました。
やおな様は、頭をぐいぐい、がくがくふっていました。
8月9日(日)
明日、やおな様のめびな様が来ると、大人の人が言っていました。お父さんもお母さんも、いそがしそうです。
ぼくもお手伝いしたいと言ったけど、遊んでいなさいと言われました。
やおな様のめびな様は、村の外から来る女の人です。どんな人が来るのか楽しみです。かんじょと、はやしは、村の中からえらぶそうです。
やおな様が、道を歩いていました。じゅりゅじゅりゅと、音がしていました。ぼくは、ポケットに、あしのわを入れていたので、それをお納めしました。でも、きいっちゃんは、持っていなかったので、やおな様が歯を抜きました。
きいっちゃんは、口からどろどろ黒いものを流して、「またやっちまった」と言いました。きいっちゃんは、わすれっぽいので、歯が、あっちこっちありません。
みんなで、おにごっこをしました。楽しかったです。
8月10日(月)
やおな様のめびな様が、今日、村に来ました。
すごかったです。
かみの色はきんきらきんで、くるくるしていました。お星さまと、お花のかざりを、かみにいっぱいつけていました。緑色のめがねをして、半そでの白いブラウスと、短い青いスカートをはいていました。スカートはとっても短くて、ふとももが見えていました。お母さんとか、おばさんたちは、どろどろの顔をしかめていました。
お名前を聞いたら、「あーしはギャルだよ、よろぴくねー!」と言っていました。ギャルさんは、めびな様が身をおきよめする、お家におとまりするそうです。
ギャルさんは、にもつをいっぱい持っていたので、ぼくもお手伝いしました。細長いつつみを持って、お家まではこんであげました。細長いのに、ちょっと重かったです。つつみを持った手が、なんだかビリビリしたけど、がまんしました。あとで見たら、ひふがべろんとはがれていました。
「ありがとう、少年! あーしは感動したから、頭をなでなでしてあげよう」と、ギャルさんはぼくの頭をなでてくれました。うれしかったです。
「今年のおよめ様は、あめこうか。あんな、いろけもねえすべた、たのしむ気もおきねえや」と、となりのおじさんがどろどろのお酒を飲みながら、言っていました。
あめこう、とか、すべた、とか、分からなかったので、お母さんに聞きました。お母さんはとてもおこって、おじさんのお家に行きました。ぼこぼこにされたおじさんに、あやまられました。
やおな様は、いつもみたいに川の中で、ぶんにょりぐんにょり、のびちぢみしていました。
8月11日(火)
たちばなのばば様が、ギャルさんに「くさい」と言っていました。
「くさい、くさい! あのむすめっ子、くさくてかなわん! ももじゃ! くさいもものにおいじゃ! あんなんを、やおな様のめびな様にするなんて、もってのほかじゃ! ああ、くさい、くさい!!」と言って、お散歩をしていたギャルさんに、お水をばしゃっとしました。ギャルさんは、黒いお水でどろどろになっていました。
まわりのおばさんたちは、ギャルさんにあやまっていました。ギャルさんは「いーって、いーって! あーしってば、水もしたたるいい女になった感じ?」と、笑っていました。「うぉーたーぷるーふめいくだからね、だいじょびだいじょび!」と言っていました。ギャルさんは、やさしい人だなあと思いました。
14日まで、めびな様は村の中を自由に歩けるそうなので、明日ぼくと、きいっちゃんと、じろちゃんと、たあちゃんと、かずっちゃんと、ぐーちゃんと、遊ぶことにしました。
みよちゃんと、さっちゃんと、かなちゃんも、遊ぼうって言ったけど、お家の人に、だめって言われました。
みよちゃんも、さっちゃんも、かなちゃんも、村の中で三人しかいない女の子で、かんじょにぜったいえらばれるから、明日までずっといっしょにいたいんだって言われました。
やおな様が、道を歩いていた桜のじじ様を、のみこみました。ばきばきごきゅごきゅ音がして、やおな様は大きくなっていました。
8月12日(水)
お父さんとお母さんが、泣いてました。
ぼくが今度は、はやし、にえらばれなくてよかったって。
今日はきいちゃんたちと、ギャルさんと遊ぶやくそくだったけど、だめって言われました。
今日は、かんじょと、はやしにする日だから、外にはぜったい出たらいけないって。
耳に大きなせんをつめられて、おへやから出ちゃだめって言われました。
音がしないので、つまらないです。
やおな様が、村のちゅうおうにいます。ずるずるしてました。村のちゅうおうにいるのは、めずらしいです。
ちょっとだけ、せんをはずした
すごくこわい声がした
いっぱいさけんでた
やだって
ぐちぐちぶきぶきいってる
ぎゃーってこえ
いっぱいする
きいっちゃんのて、が
8月13日(木)
こんどは、ぼくじゃなかった
8月14日(金)
村のちゅうおうに、かんじょが三体と、はやしが五体、できていました。
かんじょは横の二体は、たおれないように、ぼうでさして、立たせていました。まんなかも、すわったままでいるように、ぼうでさしていました。手から、ちょうしが落ちないように、ちゃんとぬわれていました。
はやしも、ちゃんとぼうでさして支えて、たいことかを、手にぬっていました。
ギャルさんは、それを見て「ヤッベー」と言っていました。どういういみなのか聞いたら、「ヤッベーはヤベーっていみだよ」と言われました。よく分からなかったです。
ぼくとギャルさんと、二人で遊びました。
村の子どもはぼくだけなので、いっしょに遊べる人がいないから、楽しかったです。
ギャルさんは、木のぼりがとくいでした。スカートが短いのに、さるみたいにスルスルと、木をのぼるのがすごかったです。ぼくものぼったら、ギャルさんは木に、紙をぺたっとはっていました。そして、別の木にのぼって、またぺたっと紙をはっていました。
なにをしているのか聞いたら、「んー、お守り?」と言っていました。ぼくもお手伝いすると言ったけど、これは十五才じゃないとできないお仕事なんだよー、と言われました。
ギャルさんは、村のまわりの木にぜんぶのぼって、紙をぺたぺたはっていました。
そしたら桜のおばさんが、ぼくとギャルさんに、おにぎりとお茶をくれました。「お昼ごはんだからね、二人でなかよくたべてね」と言っていました。おばさんはいつもやさしいです。
おにぎりとお茶も、ぐちゃぐちゃどろどろしておいしかったです。
ギャルさんがお昼を食べなかったので、どうしてか聞いたら「あーしは今、ダイエット中だからねー。食べていいよん、少年」と言って、ぼくにおにぎりとお茶をくれました。ギャルさんもやさしいです。
ごごは、川で遊びました。いつもなら、やおな様がいるけど、今日はいませんでした。
ギャルさんは川の石に、ふでで何かを書いてました。ぐねぐねした文字でした。なんて書いてあるか、分からなかったです。
聞いたら、「これも十五才じゃないと教えらんないのだ」と言っていました。
その石を川のふちに、いっぱいならべていました。ぼくはお手伝いできないので、それを見るだけでした。
そうしていたら、ギャルさんがひたいの汗をぐいっとして、ぼくに「スイカ食べよっか、少年」と言いました。
ぼくが首をかしげていたら、ギャルさんはスカートのポケットから、コップを取り出しました。とうめいなコップの上にフタがかぶせられていて、ギャルさんはそれを取りながら、ぼくをちょいちょい手まねきしました。
ぼくがとなりにすわると、ギャルさんはぼくの手に、四角く切ったスイカを、ぽとんと落としてくれました。
スイカは、赤かったです。ひさしぶりに、黒いごはんじゃないのを見ました。
食べていいの? と聞いたら、ギャルさんは緑のめがねをくいっとして、「あーしは、おたくにやさしいギャルなのだ」と言いました。おたくのいみは分からなかったです。
それから、ぼくとギャルさんは、ならんでスイカを食べました。
スイカは、おいしかったです。口の中で、ぐちゃぐちゃねとねとしなくて、さらさらしてました。あじも、甘かったです。にがくなかったです。
とっても甘くて、おいしくて、ぼくは、ねとねとのなみだを流してしまいました。
ギャルさんは、だまってスイカを食べながら、ぼくの頭をなでてくれました。
「ごめんな。助けてあげられないんだよ」と、ギャルさんは男の人みたいな声で言いました。ぼくが顔を上げると、ギャルさんはなんだか悲しそうな顔をしていました。
それから大人の人たちが、ギャルさんをよびに来ました。やおな様のめびな様になるじゅんびがあるそうです。ギャルさんは、ぼくにのこりのスイカをぜんぶくれました。
「これで流せば助かる」と、となりのおじさんが言っていました。よく分からなかったです。
月 日( )
大人たちがおこってる
お父さんとお母さんがさけんでる
にげたって
やおな様がじゅるじゅるずるずるおこってる
めびな様がいないって
さがせさがせって言ってる
ギャルさん、やおな様のめびな様になるの、いやだったのかな
村から出られないって、大人たちが泣いてる
また、やおな様が流れていかないって
よく分からない
まどをのぞいたけど、やおな様が村いっぱいに広がってたから、外は見えなかった
おへやがまっくら
お父さんとお母さんの声がしない
おなかすいた
おゆうはん、まだかな
ギャルさんがくれたスイカがあったのに、どこにもない
どこいったんだろう
スイカ、さいごに食べたかったな
・
やおな、やおな、厄負男雛
一人で流れるは悲しかろう
一人で流れるは寂しかろう
女雛はどこじゃいな。お前の女雛はどこじゃいな
迎えに行こうぞ、探しに行こうぞ
官女も囃子もおらんぞな
お前におるのは女雛だけ
迎えに行こうぞ、探しに行こうぞ
・
8月8日(土)
今日は雨なので、外で遊べないです。
明日は、村の子みんなで、おにごっこをしてあそびます。
お母さんが、ごはんに何を食べたいか聞いたので、スイカがいいって言ったらおこられました。
スイカはおやつでしょ、とおこられました。でも、なんだかぼくはスイカが食べたかったです。
やおな様は、頭をぐいぐい、がくがくふっていました。