異世界転移したら人外男子がいるっていうからついていったのに、ケモ耳・しっぽだけでは足らん!もっとだっ!※なお、ケモ耳・しっぽ男子は聖女(スタッフ)がおいしくいただきました。
聖女。
この世界の中心で祈りを捧げ、世界の安寧を歌う、最も尊い女性。
というのは建前である。
本当は欲望を無尽蔵に提供するエネルギータンク。あなたの欲望で世界運営に必要なタービン回してます。
そんな世界に聖女として着任しませんかと勧誘されている。
それもコンカフェで。
勧誘者曰く、穏やか過ぎて、そこまで強烈な欲望持ちが、もういなくなって異世界からお願いしてきてもらっている、ということらしい。
異界にも鳴り響く欲望って何なのと思ったが、この世界の支配者的存在から紹介リストがあり、そのうち対応できそうな相手にはなしをしているそうだ。
私で20人目らしい。様々な理由で残念だけど、と断られ、欲望を多少提供してもらって会った記憶を消して回っているという。
搾取されておる……。
そんな話をしているうちに注文の品が届く。
ここはバニーな耳とメイドな服が男女問わず制服。うさぎさんのおうち。今はコラボ中なので、コラボメニューがあるが。
「ルーミィ様のキラキラレモンパイと我が杯を受けよのトマトジュースです」
「あ、両方ともこっちで」
「レモンパイは半分という約束では」
「やっぱり一人で食べる」
ううっと泣く青年。財布の中身が少ないらしい。19人分の飲食代が地味にダメージを被り、すっからかん手前なのだそうだ。
かわいそ可愛いジャンルに入れ込めそうなくらいの不遇である。
まあ、なぜか筋肉マッチョの禿げだが。対象者がなんとなく話を聞いてもいいかなという感じの容姿に自動変換されているらしいので、私の趣味が繁栄されている。萌えの繁栄である。人の名前みたいだな。
「で?」
「で? とは?」
「報酬はなによ? ただ働きの搾取はいけない」
そう言いながら、じーっと見られていたレモンパイを一口差し出す。彼は恥ずかしげもなくぱくっと食べた。へにゃらと幸せそうに笑う。
……。
「報酬」
「ええと欲望に見合ったものを支給しますが、欲望が枯れるほどではありません」
「人外盛り合わせ?」
「お好みでしたら、調達します」
「なんか、もふもふなのも!?」
「もふもふなのも」
ガッツポーズをとって浮かれる私が失敗に気がつかなかった。
もふもふ(ほぼ二足歩行獣系獣人)
もふもふ(ケモ耳、しっぽ系獣人)
このぐらいの乖離があることを!
うきうきと身辺整理や異界間での設定調整などを行いやってきた異世界で、私は呆然とした。
お出迎えされたのはいい。
異世界転移の先にいたのは能面じみた顔の青年になった勧誘者。それから、お好みの人見つけましたと言われ期待してたのに!
「なんで! 猫耳なの!」
イケメンに猫耳ついてた。尻尾もあった。三人もいた。ショタ、王子、おじさまと揃っていた。
好き! でも今はこれじゃないっ!
「え。熊のほうが良かったですか?」
「ちがうっ! 異世界でしょ! 豹頭の王みたいな素敵な方、出してこないのっ!」
その叫びで、枯渇しかかっていたエネルギーがフル充電された、らしい。
大変余談ではあるが、豹頭の王は我が二次元の初恋である。大いに性癖を狂わせた偉大なる推しである。
「だめでした?」
「ニーズにあってない」
異形頭はいいよ、映画館のやつとか、ロウソクとか、つるんとしたやつとか、野獣とか……。
なのに、イケメン。いや、これもこれで好きなんだけど。
情緒がぐちゃぐちゃである。涙が出てきた。
困惑する青年たち。
泣き崩れる私。
とりあえずお部屋にと連れていかれた。
小一時間後、ようやく気を取り直して、この世界に勧誘した青年を呼び出す。
「想定と違うんですけど」
「そちらの世界的にそういうのがいいのでは? 頑張って探したんですよ」
「それはそれでおいしくいただきます。甲斐甲斐しく世話されたい。ご褒美です。
じゃなくって、異世界なら異世界らしいほんとのモノホンの人外生物を」
「……えー」
すごく残念そうな顔をされた。
「そういう人たち、保護種で外に出すのはちょっと……。生贄はかわいそう」
「生贄」
「すはすはしたり」
「うっ」
「撫でまわしたり」
「い、いや」
「鱗拾ったりするんでしょ? 抜け殻とかも残したりするんでしょ」
「すみません……」
「人相手にそれしないのに、人外だからとそういうことするのエッチだと思います」
「ごめんなさい」
ため息をつかれてしまった。あくなき異世界への願望がやば過ぎたらしい。
なぜバレたとおもったら、欲望のエネルギーからわかったそうな……。やばい性癖が大公開。もっともルール以外わからない仕様でちょっと安心。
ただ、ドン引きされた。
それでもルールは私の要望の人を探してくれるらしい。何かの端末で検索をかけている。
「ケモ度40%くらいで不憫な人がいるんでそのあたりで手を打ってください」
「それどのくらい」
「二足歩行、人間ボディ、顔は獣より。ちょいと毛深いくらいですね」
「ああ、なんかどこかの狼男みたいな……。マッチョ?」
「レスラー系」
「よし! 拾おう」
そんな調子で、不憫な人外生物を拾い続け、私は慈愛の聖女と言われるようになった。
わぁい人外ハーレム。
エネルギーは調子よく集まり、ルールもご機嫌ではある。
ちょっと不満があるならば、聖女は聖女なので清らかな存在、という建前がある。退位しないと性的な接触不可。それで欲望が枯渇するという話ではないが、建前大事である。
しばらくは大丈夫と思っていたのだが、徐々に欲望が落ちてきていると気がつく10年目。
次さがしているからもうちょっと頑張ってと言われる昨今。
とは言われてもねぇ。
「なんかもっとすごいのいないの? この世界」
「竜の子も手懐けてさらに言いますか、あなた」
「現象そのもの、みたいなのとか神様みたいなのとかにどろどろに……。すみません」
「……愚かですね」
あっきれたーくらいの反応をされるかと思いきや冷ややかだった。
「そういうのは、もう、手放さないんですよ。あなたが、愛でるんじゃなくて、愛でられる。認識もなにもかも狂わされて、ただの玩具にされて、でも、幸せと笑うようなモノになるんです」
「え、癖」
「癖」
「直撃、どこにいるのその人、紹介して!」
聖女辞めたらどうしようかなと思ってたけどそういう人がいるなら、もう、思いっきり身を任せたい!
「……マジか」
ルールが呟いていた。どうも、エネルギーが充填されたっぽい。いやぁ、欲望に忠実なんで。
「…………、いちおう、私も、この世界の端末。つまりこの世界そのもので」
「うん?」
「そう言う現象そのものではあるんですが」
言っている意味がわからなかった。
ルールは、世界の意思の具現化。確かにそう言われた。
「おお、人外」
あまりにも普通にそこにいたので人間と思ってたけど、違った。
「本物の姿とかあるの? どうなの? やだ、ドキドキしてきちゃった」
「さようで。
いうなれば、この世界は私そのものなのでここすべてが私です」
能面のような顔の口が三日月のように笑う。
「それいい!」
「……そーでしょーねー」
「みんなあなたのお腹の中。くふふ」
ありえないくらいドン引きされた。
あー、ちょっと、寄らないでくれますぅ? 私が穢れるんで。とマジな顔で一年くらい距離取られた。
くっそと妄想を欲望としておくりこんでやった。苦情でも申し立てるがよい。これであと5年はいける。人外好き舐めんなよ。
というつもりでの二年目。
子供ができました。私のじゃないけど。
欲望が限界突破して、もったいないから、ということでちっちゃいルールができました。予備のエネルギーとして生まれたなんか。
「この子を守らねばならん!」
と思ったところで、欲望が全くたまらなくなってしまった。
「聖女が辞める理由ってこれなんですよね……」
ルールはため息をついて、自分によく似た子供の頭をなでる。
「愛しい者を見つけたら、もう、そこに注力されて貯められなくなっちゃうんです。
はあ、新しい人見つけないと」
「うん。早く見つけて」
何か言いたげなルールを見て私は首をかしげる。
「で、早く親子三人で暮らそう。そうしよう」
「は?」
「私がエネルギーを入れて、あなたが形を作った。立派に私、母親を名乗れると思う」
なんなら私が一年力を注ぎ込みましたと言える。
胸を張った私にルールは、ぽかんとした顔をしていた。くちがパッカーンというのは初めて見た気がする。
「本当に、あなたって人は」
私と小さい子と一緒に抱きこまれた。
「責任取ってくださいね」
あれ?
「二人で、世界を作っていきましょう」
そういうはなしだったっけ?
……まあ、いいか。
のちに聖女から女神に進化したことになった私は末長く異世界を運営することになったのである。もちろん夫と子供たちと一緒に。
「人外増やし過ぎなので減らします」
「やめてぇっ! 私の楽しみーっ!」
「私だけでいいでしょうに、浮気性なのが悪いんです」
「反省するんで!」
「……ほんとに?」
「半魚人に海を占拠させたのは悪かったです」
「そっちではなく、魚に足生やさないでください」
「スケトウダラとタイが呼んでたのよぉっ」
「……しばらく、禁止」
「へい……」
なお、変わらず異世界から欲望の聖女を勧誘している。
※繁栄は繁栄であってます。茂ってるよ。増えてるよ。いいぞ、レスラー体型のスキンヘッド。ついでにタンクトップ着てくんない? くらいまで盛られてます。さすがに仮面は公共の場なので除外されました。