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#4

 部屋でスマホをいじっていると、突然画面が暗くなった。

「吉田さん」という文字に、ふぅと溜息をついてから応答ボタンを押す。


「もしもし」


—もしもし?マネージャーの吉田です、オフ中にすいません。


聞きなれた男性の声がする。いやいや全然、と口にしておきながら少しの面倒くささを感じる。



—取り急ぎ、理人さんにお知らせがありまして。


はぁ、と適当に返事をする。



—『love or love』の主演が決まりましたっ。


「はぁ!?」



スマホの奥で俺の大声に驚く吉田さんの声がした。



『love or love』は、有名な1話完結の恋愛ドラマ集だ。1話ごとに登場人物や俳優が違っているのだが、おそらくその1話分のドラマ主演に選ばれたということだろう。



—しかもですよ。ヒロイン役が人気急上昇中のあの花衣―



「花衣慧!?」



また大声を出してしまった。が、今の俺は吉田さんの鼓膜の心配をしているどころではない。



—と、とにかく、来月から顔合わせや撮影が始まってきますから。じゃ、じゃぁ、そういうことなので、これで。


俺の声に怯えたのか、吉田さんは俺の返答を待たずに電話を切ってしまった。


 どすっ。

鈍い音がテレビ局のロビーに響く。


「か、か、……」



両手を口に当て、花ちゃんが小刻みに震えている。



「かっこいい……」




相変わらずの限界度合いに思わず笑う。特大感情のおまけで落とされたバッグを拾い、彼女に手渡す。



「えっ、え、私服見ちゃってもいいんですか?い、いいんですか?」


「いいんですかも何も、共演者だし。きょ・う・え・ん」


「リヒトくんと共演とか、夢……?」



いや、この状況だと、貴方と共演できる方が夢ですが。世界的女優ってことを自覚しているんだか自覚していないんだか、兎に角俺のファンであることは自覚しているようだ。




「よ、よろしくお願いしますっ」


九十度を超す角度の礼を受け、慌てて俺も頭を下げる。


「こちらこそ。よろしくお願いします」




 そのまま隣に並んで控室に歩く。大人2人分ほど離れた右で、俺にバレないようにチラ見を繰り返している。



「ってか俺、ドラマ初めてだから……頼りにしてますね」


「初ドラマですかっ。あ、でも、日本のなら……、私も初めてです」


日本のなら。そんな恰好のいい言葉を口にできる彼女の大きさを改めて尊敬する。



 話の内容は自然にドラマに移っていった。


今回のドラマは、電車でみかけた女性に一目惚れをした男性の短編ドラマで、一時間放送。俺は主人公の「東仁」を、花ちゃんはヒロインの「佐野瞳」を演じる。



「私、申し訳ないです、本当に」


「いや、どっちかっていうと俺のほうが—」



「……ファンのみんなに顔合わせられないです。みんなのリヒトくんだし」



たしかに、ファンのみんなは俺と花ちゃんの恋愛ドラマが見られるのだろうか。でも、本気で恋しているファンの方が少数なわけで。……おそらく。



「確かに俺はアイドルだけど、推されてるっていうのは花ちゃんにも言えるわけで」


それはまぁ、と花ちゃんが濁す。でも私はNeo+のファンですからとかなんとか、花ちゃんが愛を並べていると控室に着いた。

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