俺の中に封印されしモノ
「悪いことは言わねぇから、俺についてくるのだけはやめておけ・・・」
俺は何時になく真剣な表情で警告をする。
「そ、それは、何故ですか?」
首を傾げながら理由を聞く少女。
「それは・・・」
「それは?」
「俺の右腕には・・・悪魔が・・・・・・魔王が・・・いや、勇者──・・・でもなく・・・けもの・・・そう!獣が封印されているんだッ!」
「悪魔に魔王に勇者に獣まで封印されてるんですか!?」
「いや・・・俺の右腕には獣〝だけ〟が封印されているんだ・・・!」
「それは・・・一体どういうことですか?」
よし。ここからが本番だ・・・俺の役者顔負けの演技をとくと見よ・・・!
「そのまんまの意味だ・・・俺の右腕には・・・化け狐が封印されていてッ・・・!今にもッ・・・暴れだし、そうなんだッ!ほら、こんな感じで!」
そう言った途端、俺の右手が狐の頭になり、少女を襲おうとする。それを瞬時に左腕で止め──
「死にたくッ・・・!なければッ離れてろッ!くッ・・・!」
と、力をいっぱい叫ぶ。
ちなみに、今言ったのはあくまでイメージで実際は、右手の親指に中指と薬指をつけた狐のポーズを作り、その右腕に左腕を添えてブンブン振っているだけである。
少女は目を見開き、口を半開きにして目の前で起きている光景を眺めている。
一方、目の前にいる少女のことを待ってくれている少女達は、何故かドン引きというより、どこか哀れむ様な視線でこちらを見ていた・・・出来ればあまり見ないで欲しい。
どうだ?これでいけたか?彼女にもし狐が見えていたなら多分諦めてくれると思うけど・・・見えてなかったら恥のかき損になっちまう・・・そうなったら、俺、どうしよう・・・ホントにどうしよう!?──・・・ん?待てよ・・・もし見えてなかったとしても、今の俺みたいな奴に関わりたいと思う奴はいないはず・・・──ってことは、一応目的達成出来そう・・・なのか?
とはいえ正直、現実を見ていた場合、目的達成できても心に深〜い傷を負いそうなので出来れば幻覚を見ていてほしいところではある。もう治せないほどの傷を負ってしまっているような気がするけど・・・
そして───俺の心がボロボロになっていることなど知らない少女が話し始める。
「そう・・・だったんですね・・・ごめんなさい。無理を言っちゃって・・・・・・」
少女は申し訳なさそうに謝る。
どうやら彼女には狐が見えていたらしい。
俺の演技に対しての自信が15上がった。
「いや・・・気にしないでくれ。じゃあ・・・・・・またな」
「はいっ!次会う時までには強くなって化け狐もブッコロ出来るようになっておきますっ!」
「え?」
なんか今すごく物騒な言葉が聞こえたような・・・・・・いや、気のせいか。そうに決まっている。だって、この子すごく可愛らしい笑みを浮かべているんだもの。なんか応援して上げたくなっちゃうな・・・・・・
「何をする気かは知らんがとりあえずがんばれ!」
「はいっ!頑張りますっ!それではありがとうございました!」
「おう!気にすんな!」
そう言って、何か勘違いしていそうな少女は他の少女達と合流しこの場から去って行った。
その背中を見送った後、俺は深く考えるのを止め、お頭が持っていた剣を腰につけ、この場を後にした。
─お頭去勢編 完─