2つの『セイ剣』
「お頭になにさらしてくれとんじゃーッ!」
「なにって・・・ええっと・・・・・・去勢して差し上げようと思いまして・・・」
「なにお前、お頭の為を思ってやって上げましたみたいな顔してんだよ!」
「それはほら・・・実際そう思ってやってるからですヨ」
「意味がわからんが一応言い訳を聞いてやる。だから若頭をイジメるのをやめろ! いや、やめてあげてさしあげてください!お願いします!」
俺はお願いされてしまったので股間を踏むのをやめる。
それにしても、カシラのカシラの事を若頭と呼ぶとは・・・コイツ・・・ッ! できる・・・ッ!!
「じゃあ去勢することがどうお頭の為になるのか聞かせてもらおうか」
そんなの俺が聞きたい。と言いたいけど流石に言えば取り返しのつかないことになりそうだ・・・ん〜・・・・・・あっ!そういえば・・・
「ふん、いいだろう。そこまで言うのなら教えて上げよう」
「あんま偉そうにしてると言い訳聞かずにヤッちまうぞ!」
「すんませんでしたァァァ!! ・・・ごほんっ、では気を取り直してこのわたくしめが差し出がましながらお教えさして頂きますが──」
「ウザい!すごくウザい!普通にやれ!」
「はい・・・すんません・・・普通にやらせて頂きます。まず、さっき少し会話した感じおたくらのお頭さんは、あんまモテないだろ?」
「なん・・・だと・・・!」
「貴様、どこでそれを・・・」
そう言って慌てる盗賊団のみなさん。どうやら俺の名探偵もびっくりの名推理が当たったようだ。
そうとわかれば──
「女の子にモテないということは、男としての魅力が足りない、ということだろう?」
「まぁそうなる・・・のか? 認めたくはないが・・・」
「男としての魅力が足りない。つまり逆に言えば女としての魅力はあるということだ。だから俺はお頭を女の子にする為に仕方な〜く去勢した、というわけだ」
「「「「・・・なるほど・・・・・・」」」」
「いや、待て!!騙されるな!! その理屈は絶対おかしい! だってお前、お頭なんて強面のハゲだぞ!? いくら男の象徴をとったからってそこは変わらないんだぞ!?」
お頭の顔面を指差しながらいちゃもんを付けてくる兄貴。これは普通に失礼だ。
まぁでも、意見に関してはごもっとも! だって整形100回ぐらいしないと無理そうだもん! でも俺なら丸め込める! ・・・はず・・・・・・
「でもキミら、お頭のこと好きだろ?」
「確かにオレはお頭のこと好きだけど全然意味が違うだろ!? オレらだって可愛い男の娘ならいけるが・・・・・・流石に強面ハゲはちょっと・・・いや、普通に無理だ!」
可愛い男の娘ならいけちゃうのね・・・・・・
先程、兄貴と呼ばれていた男の「可愛い男の娘なら余裕でいけちゃいます☆」発言に大半の仲間は驚いている。だか、一部の仲間はそれに頷いている・・・・・・
それはそれとして、お頭姐さん化計画は失敗のようだ。だが、まぁいい。次の策を出す。
「今までのは、ほんのちょっとしたジョークだ。次が本命だ」
「何がジョークだ!?死にたいならそう言え!!」
「俺がお頭の息子さんをイジメてたのが息子さんを鍛えるためだとしても、か?」
そう言って俺は意味深な表情をする。
「ど、どういうことだ・・・?」
兄貴もそんな俺の表情にただならぬものを感じたのか少し動揺をみせる。そんな兄貴に俺は告げる。
「昔からよく言うだろ、剣と股間は熱い内に打てってな!」
「「「「・・・・・・」」」」
俺の言葉を聞き、驚いているのか固まる盗賊団の方々。まあ無理もない。俺の完璧な言い訳に穴は無──
「な、何を言ってんだお前ぇーッ!? そんなこと言わねぇしお頭の股間は熱くなってない! ・・・・・・多分・・・!」
まぁ~た、俺の言葉に文句を言ってくる。はあ・・・面倒くせぇな・・・・・・
「いやいや間違ってなんかいないぞ。だってどちらも〝セイ剣〟なんだから」
「聖剣と性剣ってか!? やかましいわ! それになァ、いくら聖剣でも折れる時は折れるんだから性剣なんて折れるに決まってんだろ!!」
「そん時は俺が責任をもって大きい犬を連れてきてやるよ」
「それは成犬だろぉが!! そんなもん連れてきても盗賊団のマスコットができるだけでお頭の代わりにはなれねぇだろぉが!!」
「お頭の代わりには・・・・・・俺がお菓子をいっぱい持ってってやるよ」
「はあ!?何を言って────!? まさか、お菓子がいっぱいでお菓子らってか!?」
「どうだ? うまいもんだろ?」
「それを含めてうまくねぇよ! つーかそもそも〇〇等って言葉は対人用の言葉だ!! 対物用に使うもんじゃねえんだよ!!」
「え・・・? そうなの・・・?」
「ああ! 基本的には、だかな!!」
「へぇ~、そうなんだ・・・・・・知らなかった・・・・・・ありがとうございます。勉強になりました!」
「・・・気にするな。大人として当然のことをしたまでだ」
「それじゃあ暗くなってきたし子供の僕はそろそろ帰りますね」
「あァ・・・気をつけて帰えよ」
「はい!さようならー!」
「はいさいなら〜〜〜なんていくわけねぇだろ・・・!?」
デスヨネー。
「もういい、お前もう死ねよ!!」
もう付き合ってられんとばかりに剣を抜こうとする兄貴。これはそろそろ本当にマズいかも!
「待って待って!」
こうなったら仕方がない!兄貴を落ち着かせる時間はこの俺が命懸けで作る!
「今死んじゃうと遺言がくそしょうもないことになっちゃうから! 近所のゴミ捨て場に集まってる主婦の皆さんに『お向かいの家の息子さん、遺言がダジャレだったらしいわよ』『あらまぁ〜!』って噂されちゃうから!」
「知らねぇよ!!お前の近所付き合い事情なんて! それにお前さっきからしょうもないことしか言ってないんだからちょうどいいだろ!? ホントいい加減死ねよ!」
「しょうもないとか言うなァッ! そんでお前らも一旦落ち着けって! お前らには昔から落ち着きが足りねぇんだよ! なぁ、お頭?」
そう言って俺はお頭に同意を求める。
が、
「・・・・・・・」
返事がない。ただの屍のようだ。
「「「「・・・・・・」」」」
「ほ、ほぉ〜ら、お頭もお前らのことを呆れたような白い目で見てるぞぉ〜?」
「いや、白い目っていうか白目向いて気絶してるだけだろーッ!? そこまでやるか、普通!? お前、加減というものを知らないのか!? お前ら、コイツはお頭の仇だ! 遠慮はいらねぇ! やっちまえぇええ!!」
そのかけ声を出した兄貴をはじめに、剣を抜き始めるみなさん。
これはヤバい。もしかしなくても俺死す? ・・・・・・いや、いくらなんでもこんな死に方は嫌だ! どうせなら俺は───・・・と、とにかくせめて何か武器でも───お・・・?
俺はお頭の身体をまさぐっていると、お頭の物と思われる剣を見つける。武器、ゲットだぜ☆
───って、これ一本でどうしろってんだよぉぉーッ!
くッ・・・こうなったら───
「おいテメェら!コイツが目にはいらねぇか!?」
俺は、人生で一度は言ってみたい言葉ランキング上位の名言を言いながら剣を──
「貴様・・・卑怯だぞ!!」
「お前・・・人間じゃねぇ・・・!」
お頭の股の部分に添える。
俺、もしかしたら悪役のほうな向いてるのかも・・・───
ピクッ
───ん?ピクッ? おや・・・? お頭の様子が・・・
そう、ヤツが・・・先程まで白い目をして寝ていたはずのお頭が、遂に目覚めたのだ!
そして小さな声で話し始める。
「オレ───いや、わたしのことは気にしなくていいから! お頭の仇をとって!!」
「「「「・・・・・・・」」」」
───あの日俺は性剣を引き抜いた。
今になって思えばそれが勇者の力の覚醒に必要なモノだったのかもしれない・・・・・・
「・・・みんな聞いてる? もう1回だけ言うよ? わたしのことは気にしなくていいから! お頭の仇をとって!!」