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俺の戦いはここからだ!


「お頭になにさらしてくれとんじゃーッ!」

「なにって・・・・・・ええっと・・・・・・去勢して差し上げようと思いまして・・・」


 俺はお頭の股間を踏みながらそう答える。


 何故俺がお頭を去勢して差し上げているのかというと色々あったからだ・・・本当に・・・・・・

 と、いうわけで時間は少し遡る・・・


 


 俺は山の中で道なき道を歩いていた。理由は単純、迷子だから。しかも、手ぶらで。

 時刻は夕暮れ時。

 

「やべぇよ、もうどんだけ歩いたかわかんねぇよ・・・そろそろお腹も空いてきたし・・・・・・誰か助けてくれぇぇぇええええ!!」


 ・・・・・・

 

  返事がない。屍すらいないようだ。


「はぁ・・・なんで俺がこんな目に・・・・・・いや、こんな俺だからこんな目に遭うのか・・・・・・はぁ〜、仕方がねぇ・・・なんか適当な野生の動物でもつかまえて食べるかぁ」


 などと考えていた、その時。


 ガサガサ


 どこからか物音が聞こえてきた。ご飯ゲットだぜ!


「早速お肉みぃーッ──!?」


 カサカサッ


「アリャバァァァァァァァァァァ!! ゴ、ゴキブリぃぃぃぃーーッッッ!?」


 そこにいたのは茶色とも黒色ともとれる濁った色をしたゴキブリだった。しかも何故か角が生えている。その姿、まさに怪物。


「──いやいや『まさに怪物』じゃなくて!! なんでゴキブリに角なんか生えてんだよ!? 戦闘力上げたくて修行したら角生えましたってか!? おかしいだろ!? ───ん? あっ・・・コイツ・・・カブトムシじゃん・・・・・・」


 俺が永き修行の果てに角を獲得したゴキブリだと思っていたそれは、ただのカブトムシだった。まあ、〝ただの〟にしてはちょっとでかいような気もするが。

 

「チッ、紛らわしい見た目しやがって・・・ゴキブリ以外の虫は全部虹色とかにしとけってんだ! そしたら可愛く見えるかも知んねぇのによぉ!」


 不運にも今は夕暮れ時。それ故、もう暗くなってきているのだ。だから紛らわしい虫共を見間違えるのもしょうがない。

 ちなみにだが、もし虫が虹色になったとしても俺は可愛いとは思いません。なんなら業者を呼びます。何故って? だって普通にキモいじゃん・・・・・・なんか毒もってそうだし。


 ────・・・


 その後も俺は、角を2本持つゴキブリ(クワガタ)や、少し苔がついたゴキブリ(カナブン)に遭遇したが、なんとか生き延びることに成功した。

 成功はしたけど正直めっちゃお家に帰りたい! というか、なんで俺───


「〜〜〜〜〜〜〜!」


 またどこからか音が聞こえてきた。もう虫だけは勘弁して下さい! マジで!! 神様お願いします!!オラに力を!!


「・・・・・・」


 俺はその音がする方へ息を潜めて近づく。

 そして姿が見えるぐらいまで近づいた所で、動きを止める。俺は割と隠密行動もいけちゃうクチなのだ。

 まあ、それはともかく、あれは・・・まさか・・・・・・


「今日の襲撃は大成功でしたね!」

「あぁ、若い男がいなかったおかげで、金も女も楽に盗れたからな」


 そんな物騒な話をしながらナニカを食べている怖ーい人たち。そう、音の正体は野生の盗賊の群れだったのだ。

 本来なら草食動物じゃない時点で逃げ出したいところだが、アイツらはお食事中だ。つまり、ご飯が欲しい俺は逃げる訳にはいかない。

 そんなわけで、どうやったらご飯が貰えるかと考えよう。

 まず普通に「ご飯をください」なんて言っても貰える可能性は低そうだ。つまり「ご飯をください♡」と可愛く言えば貰える───いや、無理か・・・俺には「ご飯をくれるかな?子猫ちゃん達☆」の方が合ってる。それで行くのもいいけど・・・流石にアイツらを子猫ちゃんと呼ぶのは少し・・・かなり抵抗がある。だとすると、あたかも盗賊団の一員みたいな顔して「兄貴、ご飯をくだせぇ」とか言えばいけるか?


 ぐぅぅぅ〜


 そんなことを考えているとお腹にいる虫が鳴いてしまったようだ。

 ちなみに俺のお腹にいる虫は虹色ではない。そう信じている。俺のお腹の虫はおそらく黒光りしている超カッコいい虫だ。───・・・あれ?黒光りしている虫ってゴキブリじゃ・・・・・・いや、これ以上考えるのは止しておこう。なんか気分が悪くなってきたし・・・・・・


「なんだ?」

「誰かいるのか?」


  そう言って盗賊の人達は俺がいる所を睨みつける。

 ヤバい、かなりヤバい! 俺のお腹にいる虫がやらかしやがった! ホント虫ってロクでもねぇなクソッ! ・・・こうなったら、さっき考えてた「兄貴お肉をください♡」作戦・・・ではなく「兄貴、お肉をくだせぇ」大作戦でなんとかするしかない! 大丈夫だ! きっと俺なら出来るはず!

 そして、俺はヤツらの前に姿を現す。


「あ、兄貴ぃ〜俺ですよ俺! ちょっと小便行ってました!」

「あ?オレは兄貴じゃねぇぞ。兄貴はこっち。お前酔ってんのか?」


 ウソだろ!? お前「自分は兄貴ですけど何か?」みたいな顔してたじゃねーかッ! 紛らわしいなァ、コンチキショーーッ!!

 

 俺は一瞬焦ったが顔には出さず『兄貴』と呼ばれていた男の方に視線を移す。

 俺は演技には自信があるのだ。・・・・・・決してウソがうまいとかそういうわけではない。


「兄貴すいやせん間違えました。どうも酔っちまったみたいで。ハハッ」


 そう言って笑う。

 そんな俺に帰ってきた言葉は──


「確かにオレはコイツの兄貴だが、お前の兄貴になった覚えはねぇ!」


 そりゃあそうだ。なんせ俺には兄貴なんていないからな! でもさあ、こういうのって心の兄貴(?)的な意味なんじゃないの!? ねえ!? そうだろ!? そうだと言ってくれよォォォォ!!


「お頭、そもそもこんな奴いましたっけ?」


 そもそもお頭呼びだったんかい!! なんなんだよ人をおちょくりやがってぇぇええええ!!


 そして、お頭と呼ばれていた坊主の男が俺の前まで来る。

 それから、じぃ~と顔を見つめられる。なんかちょっと照れるな・・・


「・・・・・・」


 そして、一通り見終わったのか顔を離す。

 さて、お頭の判定はいかに・・・?


「こんな奴ウチにはいねぇなぁ・・・お前、誰だ?」

「お、俺って一体誰なんでしょうかねぇ?」

「・・・・・・」


 あっさり不合格判定を貰った上に憐れむような視線を向けられる。やめて! そんな目で見ないで!

 やがて、俺の処遇についての話し合いが始まる。


「どうしやすかお頭? コイツ、奴隷商にでも売りとばしやすか?」

「いや、こいつはこの辺じゃあ珍しい混ざりモノの上によ~く見れば顔も悪くわねぇ。だが、地味だしパッとしない。そう、言うならば、花がない」


 うるせぇよ。


「例えるなら通行人C・・・いや、Eぐらいだな。それに俺達の前にノコノコでてくるようなアホだ。金にはならんだろう」


 随分と好き放題言ってくれるな・・・。 しかも、地味でパッとしないってのは俺が少し・・・ほんの少しだけ気にしている数少ない欠点だ。それに俺だってお腹が空いてなかったらこんな奴らの前にノコノコでてくるような真似はしない。

 くッ・・・! こめかみがッ・・・! 疼くッ・・・!


「それに、こんな奴より坊主のオレのほうが目立つしカッコいい。だが、コイツはもう駄目だ。個性がねぇ。顔を思い出せねぇ近所に住んでたマイケルみてぇだ。というわけで、だ、マイケル。お前にはもう用はねぇ。土にでも還れ」

 

 そこまで言われたところで俺はプッツンという音が聞こえた気がした。

 そして、気付いたときにはもうお頭の股間を思いっきり蹴り上げていた。 

 超常現象というものは存在するらしい。


「オヴゥ゙ゥ゙・・・・・・」


 言葉にならない悲鳴を上げるお頭。


「「「・・・・・・」」」

「・・・・・・あっ・・・」


 うん、これは流石にアウト! もう見逃してもらえないコースだぜ! フルコース確定だ!

 でも、やっちまったもんは仕方がないよね! こうなったらとことんやってやるぜ! 1回も100回も変わんないっしょ! もう終わりだ! お終いだ! 短い人生だったがみんなありがとう!


「オイ、随分好き勝手言ってくれたじゃねぇかこの野郎ォ!!」


俺は、膝から崩れ落ちたお頭の股間を踏む。踏み心地は───まあ、うんって感じだが、気分はとてもいい。まるで気に食わないヤツの股間を踏みつけている時のような気分だ。


「お前なァ、ちょっとハゲてるからってそこまで言わなくたっていいだろォ!? それになんで通行人Cから通行人Eまでランクダウンしてんだよぉ・・・! せめてAにしてくれよぉ・・・! あと、マイケルってだれ!? マイケルさんと俺に謝れよコラァ!!」


 そんなことを言いながらでも俺は、まだまだお頭の股間を踏み続ける。もう離さないんだから♡

 ちなみに盗賊団のみなさんはその様子を口を半開きにして眺めている。

 これは余談だが、俺はそれなりに強い。その理由のひとつは股間を蹴るのがとてもとても上手だからだ。その結果、巷では玉取り名人と呼ばれて───あれ? ギロチン大魔王みたいなヤツだったような・・・・・・あれ? なんだったっけ?


「お、おいテメェ! お頭になんてことするんだ!?」


 ここで、呆然としていた子分たちが正気に戻りはじめる。

 これは謝って済みそうにない。ならばもう開き直るしかないよね!


「なんてことって・・・見ての通りタマ踏みですけど・・・・・・どうかしましたか?」

「・・・は? いや・・・・・・は? どうかしましたかって、そりゃお前・・・・・・」

「・・・? よくわからないですけど、用はないんですね? 用がないなら僕早く帰りたいのでこれで失礼させてもらいます。お疲れ様でしたー」

「あァ、お疲れさん・・・」


 俺はお行儀良く一礼した後、踵を返しこの場を立ち去───


「ちょ、ちょっと待て!! お頭を連れて行こうとするな!!」


 ───去れなかった。だか問題は無い。


「あっ、すいません。コレは置いて行きますね。では僕はこれにて失礼します」

「あァ、お疲れさん・・・」


 俺はお行儀良く一礼した後、踵を返しこの場を立ち去───


「ちょっ、ちょっと待て!! 逃げようとするな!!」


 ──去れなかった。大問題だ。


「なんですか? まだ僕に何か用があるんですか?」

「当ッッッたり前だろ!? お頭をこんなことにしたお前を許すわけねぇだろ!? オレ達から逃げられると思うな! お前は死ぬまでオレ達と一緒だ!」

「そ、そんな・・・・・・困りますぅ♡」


「「「「殺すぞテメェ!!!!」」」」


「仲良いな、お前ら。なんかもう早く結婚しちゃえばって感じっていうかか、見てるこっちがお腹いっぱいっていうか・・・・・・もう付き合っちゃえば?」


「「「「はあ!? なに言ってんだお前ぇ!?」」」」

 

「「オレとコイツらが付き合うなんて・・・・・・あるわけねぇだろ!?」」


「あはは、息ぴったりじゃ〜ん」 


「「黙れ!!」」


「ほら、言ってるそばから仲良しじゃん。ヒュ〜♪ヒュ〜♪」

「テメェ・・・マジでどうなっても知らねぇからな・・・?」


 お前が知らないなら俺も知らねぇよ。

 まぁ、それはさておき、これからどうしようか・・・・・・とりあえずお頭の股間でも踏んでおくか。なんか集中できそうな気がするし・・・・・・


「あっ、テメェ!! しれっとお頭の股間を踏み直すな!! マジでブッ殺すぞ!?」


 チッ! 人が集中しようとした矢先に・・・! なんか俺、ムカついてきちゃたぞ☆


「さっきからガミガミうるさいなァ!? なんなんだよ!?股間を踏んでなにが悪いってんだ!?」

「身体に悪いんだよ!! お前も男ならわかるだろ!? あのなんとも言えない気分の悪さが!!」

「あぁ、よくわかるぜ」


 それはまさに痛いほどに。


「ならやめろよ!!」

「ヤだ」

「はあ!?」


 そう、世の中には「それはそれ、これはこれ」や「他所は他所、家は家」という言葉があるのだ。


「もう、駄々をこねるのはやめさい! みっともない! 男の子に生まれたんなら潔く覚悟を決めなさい!」

「うるせぇんだよババア!! ちょっとぐらいいいだろ!? 減るもんじゃねぇし!」

「いや、減るんだって! お頭のタマが減っちゃうんだって!」

「いやいや、コイツ最初からタマ3個あるんだから、ちょっと減るぐらいがちょうどいいだろ!?」

「それタマっていうか(かしら)(あたま)だから!確かにお頭のハゲ・・・じゃなくて坊主頭はツルツルだけども違うから! それにハゲ・・・坊主アタマはお頭のチャームポイントだから!!」

「うるせぇよ! 『アタマ』って『ア』の『タマ』なんだから実質タマだろ!?」

「『ア』の『タマ』ってなんだァ!?」

「アタマ。」

「いやそれはさっき聞いたって!」

「知ってるよ! でもお前が聞き返すから答えてやったんだろ!?」

「あ、ああ・・・・・・そ、そうだな・・・・・・」

「いや『そうだな』じゃなくて謝れよ! 変なイチャモンつけたこと俺に謝れよ!」

「あ、ああ・・・悪かったな・・・ってなんでオレが謝ってんだ!?」

「悪いことをしたからだろ?」

「してねえよ!! この場で悪いことしんてんのはお前だけ!!」

「え・・・? キミら盗賊なんてやってるのに悪いことしたことないの? え? マジで? それって正直どうなの? なんか情けな──」

「い、今言ったことはジョークだぁ!! オレ達悪いことなんて星の数ほどしてきたんだからねっ!」

「そうだ!そうだ! オレなんてこないだトイレ混んでたから横入りしてやったぜ!!」

「俺はこないだプリン買った時、店員が計算ミスしてお釣りを多くくれたんだが、そのまま黙ってボッタクってやったぜ!!」

「あっしなんてこないだ───・・・」


 何やら悪いこと自慢大会が始まった。

 でもその内容は・・・


「俺はこないだ下着盗んでやったぜ!!」


「なんか・・・・・・ショボいな」


「「「「なんだと!?」」」」


「いや、だってさあ? 下着盗むってなんだよ。あんな布切れ盗ってどーすんの? 雑巾代わりにでもすんの? だったら雑巾盗めよ」

「うっ、うるせぇえええええ!!!! テメェに下着泥棒の何がわかるってんだ!!」

「何もわかんねえよ。・・・まあ、いいや。とにかくお前らは悪いことたくさんしてきたんだな?」

「「「「ああ!! 星の数ほどな!!」」」」

「なら言わなきゃいけないこと、あるよね?」

「「「「え・・・?」」」」

「お前ら小さい頃母ちゃんに言われなかったか? 思い出すんだ。じゃあいくよ? はい、悪いことをしたら? せーのっ」


「「「「ごめんなさい。」」」」


「うんやっぱり息ぴったり」

「いや『息ぴったり』じゃなくてッ!! なんでオレ達が謝ってんだ!?」

「なんでって悪いことしたからだろ?」

「ああ!そうだ! オレ達は悪いことをたくさんして・・・・・・あれ? オレ達謝るべき・・・?」

「おい落ち着けぇ!! 確かにオレ達は悪いことをたくさんやってきたが、オレ達はワルなんだ!! ワルは自分のやった行いを謝ったりしねえよ!! だってワルなんだから!!」

「そ、そうだな! オレ達はワルなんだ! だから謝る必要はねえ! つーわけで残念だったなァ! オレ達はもう謝らねえよ!!」

「じゃあ俺もワルなんで謝らねえっす。」

「あっ、テメッ・・・!」

「おい! テメェ舐めてんじゃねぇぞ! お頭になにさらしてくれてんじゃーッ!!」


 今の今まで呆然としていた兄貴が復活する。復活するまで結構時間がかかったな。脳みそ大丈夫なのか? 新しいのに取り替えた方がいいのでは?


 ちなみに復活した兄貴は顔を真っ赤にしている。ブチギレ寸前である。というかもうブチギレ完全である。

 ここで冒頭に戻るわけだが、俺も正気に戻る。

 俺、もしかして調子に乗り過ぎた? ここから謝っても許してもらえなさそうだし・・・ここはなんとか言い訳するしかねぇ!

 ───そんなことを考えながらでもお頭の股間は踏み続ける・・・



 

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