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公女は隠す浪漫を理解する

ライラ視点です。

『ライラはランマ様が好きなのか?』

『はい!戦争に勝ってこの国を起こし、発展する土壌を作り上げた強者ですもの!』


ワタクシ、強者は斯くあるべしと思っています。

母君たるブリトニー大公妃からその性格を受け継いだ為か、強者に対して興味をそそられていますから。


『公女様は大変な才能をお持ちです!』

『これは将来途轍もない大物になれますよ!』

『ワタクシが大物、当然でしてよ!』


ですがワタクシは他者のみならず、自分が強者である事も好みます。

才能を褒められても決して妥協せずに努力もしましたし、強くなる為に必要な事は様々試しましたわ。


『殿下はお美しいだけでなく座学も実技も優秀でいらして、本当に尊敬しています……わ、私とお付き合いいただけませんか!』

『残念ですけれど、ワタクシより強者な方にしか興味ありませんの!では!』

『ああ、殿下……!』


この様な事は日常茶飯事、ワタクシの結婚の将来を家族に心配されたほどでしたわ。

……しかしある時に知る事になりましたの。


『はぁっ、はぁっ……最近頑張っても頑張っても伸びた気がしませんわ……!』

『殿下は大変努力されています、しかし生命力による活が足りませんな』

『生命、力……?』

『ええ』


段々伸び悩み実技で首席が取れなくて必死になっていた時に、担任のゼビアン準男爵から教えて頂いたのです。

どれだけ身体能力や技量に優れても、高い生命力により活を入れた爆発的な力に負けると。


『今のままでは何も変わりません、やり方を変えるべきでしょう』

『どうすれば、どうすれば良いんですの!?』


ワタクシの疑問にゼビアン準男爵は喜んで教えてくださいました。


『生命力を高める為に栄養を蓄える……つまり沢山食べましょう!』

『沢山食べる!』


盲点でした、完全に目からウロコが落ちる思いでしたの。

確かに体格の良い方は力があるだけでなく、それが長時間持続する印象があります。

騎士や上級生でも、高い地位や順位に体格の良い方がいる……コレだと確信しましたわ。


『こ、こんなに食べるのか?』

『新しいドレス入らなくなるわね……』

『姉君太るぞ!』

『強くなるためですわ!』


とにかく食べて食べて食べまくりました、栄養を蓄えて生命力を引き上げる為。

その結果。


『オーホッホッホッ!勝ちましたわァ!』

『な、何てパワーだ……!』


無事に当時の学年首席も打ち倒して、ワタクシは首席に返り咲きました。

自分自身が強者であると自覚出来て、満足な状態。

ただそろそろ年齢的にも適齢期ですから、蓄える為に健康面で家族を心配させた分、結婚相手もワタクシが満足出来る相手を見事に射止めてみせますわ!


『以前はあんなにお綺麗だったのに、どうして太っちゃったんだろうな?』

『ふふっ、お前は前みたいに告白しないのか?』

『冗談!っつかもう彼女いるんだから、変なこと言うなよ!』

『わりぃわりぃ!……あっ、す、すんませんした〜』

『お、お疲れ様です〜』

『……』


周りは既に付き合っている殿方も多く、そうでない方も今のワタクシの体格に寄り付かなくなっていました。

……姿形で意見をコロコロ変えるなんて、そんな方もとよりワタクシに相応しくありませんわ!

強者は斯くあるべし、堂々としてこれと思った相手にアタックですわ!


『申し訳ありません、私では貴女様とは釣り合わないでしょう』

『殿下は魅力的な方ですが、僕には縁がなかったと……』

『すいません、勘弁して下さい』

『な、な、なぁっ!?』


見る目がありませんわ!!

成績でワタクシより下ではありますが、実力もある器量よしな者達に声掛けしてみました!

なのにどいつもこいつも大して話してないのに、お断りお断りです!

こんなのおかしいです、ワタクシでなく世間が間違ってますわ!

ならばとゼビアン準男爵に相談しようとしましたが、体調不良で休業!

こんなはずじゃありませんのにぃ!!


そうこうしてる間に学園が連休に入りましたわ、とにかく落ち着いて今後をいい方向に修正する為に見直す……そう考えていた時に現れたのです。

召喚者アルフ・クレイドルが。

聞いた所によるとベクター鉱山を占拠したアラクネをテイム、後に弟の乳母の娘でキングランク冒険者のヨランダを一方的に倒したとか……そこだけ聞けば大変な偉業ですし、あのランマ様と同じ召喚者ですから凄い方だと思えたでしょう。

しかし妻を6人娶り、最近出来たばかりの婚約者や女型の使い魔を沢山連れているとモテモテ!

その癖実際に会ったら生命力による活力もなく、女にデレデレする軟弱な男にしか見えません!

別にこれは特別器量が良いわけでも無いのに、人気がある事に僻んだりしてる訳ではありませんわよ!?


『────とこれ程の功績を打ち立てて……姉君?』

『貴方は何か矢鱈評価していますが、あの方そんな強そうに見えませんけどね?覇気もありませんし、母君に褒められてデレデレしてますわ』

『確かに表面的な部分を見ると特別強者には見えないかもしれないが、それもまた彼が特別ゆえのあり方と言うべき物なのだ』

『……ッ!それはワタクシが表面的な物しか見ていないと、そうおっしゃりますの!?』


つい弟の言葉が癇に障りました。

それだとワタクシの表面だけ見て手のひらを返した男達と同じだと言われたみたいで、むかっ腹が立ったのです。


『いや、だがそうでろう?今も────』

『どうせ聞いただけの話を真に受けておいでなのでしょう!?貴方が話すあの男の成した事全部に信憑性が感じられませんわ!』

『訂正せよ!召喚者にしてボクの友となってくれた人物を嘘つき呼ばわりするか!?』

『ええ、信じられませんもの!家族皆してあの男ばかり見て!こうなったら!』


そこからは怒りに任せて思ってる事を全部ぶち撒けてやりましたわ!

まぁ“弱い”は完全な侮辱の言葉ですから使いませんし、“嘘つき”とも言ってはやりませんでしたけど。

お陰で少しスッキリしましたが、気不味くなって休み中あまり家族ともお喋り出来ませんでしたわ。

結局引っかかる物がありながら、召喚者アルフが臨時講師になる日が来ましたわ。

そして話の流れで、奴はこんな事言ってのけてきましたわ。


『3年生首席、ライラ・ド・ジンデル君。私と試合をしましょう、魔法抜きの剣による一対一で』


まさか、まさかまさかワタクシに試合を挑んでくるなんて……是非もないですわ!

ずっとストレスが溜まって仕方なかったのです、発散出来ますしこの男が強者でないと知らしめてやれます!


『なるほど、上等ですわ!やりましょう!!』

『おおーっ!』


教室の皆が沸き立っている、何だか久しぶりに高揚してきました!

最近は首席になれたのに、満たされない感覚ばかり味わっていましたからね!

家族が皆揃って評価し、召喚者だからと当然の様にモテモテ!

ワタクシが成敗いたしますわ!!






*************






向こうの指定でアルフとの試合は道場で行う事になりました、こっちとしても良く使う場所ですから問題ありませんわ。

ある程度広く戦いやすい、他の同級生も皆正座や胡座で興味深そうに観戦する姿勢ですね。

道場試合はランマ様がお伝えされた文化で、素足かつ道着で打ち合いとなりますわ。

得物は竹を使っていたそうですが、材料が無い為こちらでは木を用いますわ。


「ふん、まだ来られてはいないようですわね」


ワタクシは白い道着と袴に着替え、左手に木刀と既に準備万端。

しかし向こうはピッタリのサイズを探すと待たされています、まぁ合わない道着で来られてこっちが勝っても納得出来なくなりますからね!


「お待たせしました、ライラ君」

「やっと来ましたわね」

「ええ、少々手間取りましてね」


ふーん、まぁ黒髪ですから黒い道着と袴は似合いますわね。


「ですが少し待っていただけますか?」


は?このタイミングで?


「怖気づきましたの?だとしたら───」

「いえ、本気を出す為です」

「本気?」

「はあああっ!!」

『!?』


こ、これは!?

急にあの男から伝わる生命力が満ち満ちて、覇気を感じますわ!

この場の皆がそれを感じ取ったのです、一体どう言う事ですの!?


「よし、待たせました」

「先ほどまでとは別人の様、どうしてこれほどまでの生命力と覇気を!?」

「癖になってるんですよ、身体に負荷をかけるの」

「なん、ですって……!?」


方法は分かりませんが、普段は自身に負荷をかけて力を抑えることで鍛えていたと言いますの!?

ですが急な生命力の変化には納得がいく……!


「普段は鍛錬の為に力を抑えてるのか!」

「最初に見た時より、今の方がアルフ臨時講師がデカく見える!」

「急激に強くなった様に見えて、カッコいいです!」


く、悔しい……悔しいですが、確かにカッコいいかもしれません!

普段力を隠しておいて、いざという時にその本領を発揮する……浪漫!!


「では3本勝負でやりましょうか、構えて下さいライラ君」

「い、良いでしょう!例えそれでもワタクシの方が!」


……強いと口に出来ませんでしたわ、だってあの男の力が開放された時に気圧されてしまったのですから。

審判役として、ヨランダが腕を掲げます。


「始めぇ!」

「メェエエエエッ!」


先手必勝!

蓄えた事で発揮出来るパワーと持ち前のスピードで早急に勝負を決める、これに皆敗れ去ったわ!

ワタクシは振り被って面を取りに向かいます、開幕勢いに乗っている相手をどう対処しますの!?


「ドオオオオオッ!!」

「一本!」

「え?」


抜き、胴?

こちらも相応のスピードで打ち込んでいたのに、瞬発力で負けた!


「構えてください」

「────ッ!まだですわ!」

「二本目、始めぇ!」


作戦を変えます。

……認めましょう、この男は強い!

ならば慎重に、そして確実に一本を取る!

このワタクシが負ける、それも一本も取ること無く負ける事などあってはなりませんわ!

構えて木刀を交わし合い、ジリジリと機を狙う。

コンコンと木刀から出る音だけで、静かな時間……しかしワタクシは汗が止まらない。

隙が、ない!


「コテェエエエエエッ!!」

「一本、勝負ありぃ!」

「あっ……!」


目にかかった汗に気を取られた、一瞬の隙を逆に突かれた。

ワタクシは蓄えたパワーで首席になってから、久方ぶりに敗北しました。

……ですが、何故かホッとしている自分がいたのです。


「互いに、礼ぃ」

「「ありがとうございました」」

『おおおおおっ!』


拍手が聞こえる、皆さん双方の健闘を称えてくれている。

分かっていてもワタクシは色々な思いが渦巻く。

どうして強者である事に拘ってしまったのか、拘りすぎて別の何かを見落としていた、そしてそれが自業自得なのに周囲に当たっていた。

自覚していく度に自分の内面の未熟さが分かり、情けなくなってくる。


「アルフ“先生”、申し訳ありませんでした……ワタクシは自分の感情を制御出来ず、自分の都合で起こした苛立ちを発散する為に、貴方に当たりました」

「貴女がそれに気付けて良かった、本来のライラ君は純粋に強い存在に憧れただけの人だったと聞いていました。それがいつしか悩みのエスカレートが起こり、極端な道に向かってしまった」


極端な道……実際そうでしたわ。

強くはなれましたがどんどん周りとの距離が開いていって、気がつけば学園内で孤立してましたわ。

ゼビアン準男爵がこれを教えたのは、ワタクシの未熟さに自分で気づかせるため?それとも別の……。

いえ、憶測などするものではないですわ。


「1つお聞きしたいですわ」

「何でしょうか?」

「……ワタクシは痩せても強くなれますかしら?」


正直今のワタクシには自信がありません。

だからこそ1人で考えるのではなく、しっかり実力があると理解できた彼に頼りたいのです。

……でもあんな酷い言いぐさだった上に肥えて周りから見放される女に、この方は手を差し伸べてくれるのかしら?


「なれますよ、私が保証します」

「ほ、本当ですの!?」

「ええ、全然大丈夫です。ですから、本来の魅力的な貴女を取り戻しましょう」

「はい、はい!」


アルフ先生は手を差し伸べてくれました!

そしてワタクシはその手を取りました、肥え太った顔や身体を見ても一切嫌な顔せずに微笑んでくださいますわ。

……何でしょうこの気持ちは、何だが顔が火照って来たように感じて。

でも、嫌じゃありませんわ。


「よろしくお願いしますわ、アルフ先生!」

「はい、改めてよろしくお願いします。ライラ君」


ワタクシは必ず返り咲く、魅力的な自分に!

いいえ、もっと魅力な自分になってみせますわ!

……その時はアルフ先生に褒めていただけるでしょうか?

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