揺り籠、気不味い学年の臨時講師になる
歓待の日から数日後、俺とヨランダは大公国立騎士学園の学園長室に来ていた。
「ようこそ大公国立騎士学園へ、私はダリル・ド・ホールデン。学園長を務めさせていただいています、よろしくお願いします」
「アルフ・クレイドルです、紹介していただいた者として精一杯働かせてもらいます」
「ヨランダ・レスリー言います、恥ずかしくない様勤めさせていただきますぅ」
俺達とそれぞれ握手してくれるダリル学園長、細身の人族のおじさんだ。
頭のてっぺんは寂しく、何かしらの苦労によるものである事が偲ばれる。
……何故俺とヨランダだけなのか。
それは今回臨時講師が必要なのは1クラスで最低2人の為、俺達だけで学園に向かうこととなり、奥さん達は学園外の別の大型ダンジョンを攻略する事になったのだ。
またキングランクで大公国で活動してる人物の方が、説得力が出るってのも理由の一端だ。
ヨランダが暴走しない事を切に願う。
「お二人に担当して頂くのは3年生、年齢としては殆どが18歳の方々です。成人していても大人になり切れない方が殆どですから、しっかりと導いていってあげてください」
「畏まりました」
「承りますぅ」
18歳か……あれ、そう言えば話題で出ること多々あったな。
シェリルの兄さんであるシドニーは、確か18歳じゃなかったか?
そして例の件から接触が無かったライラ殿下も18歳だった気がする、ランドン殿下は17歳で学園通ってるって言ってたし。
……ハハッ!
とりあえず今度は職員室へ向かい、休業中の3年の教員の代わりとして来た挨拶をする事に。
「今回臨時講師として参りました、アルフ・クレイドルと申します。よろしくお願いします」
「同じくヨランダ・レスリーですぅ、よろしゅうお願いしますぅ」
「これはこれは初めまして!1年生担任のフランク・ド・ヘッジ士爵と言います!よろしくお願いします!」
「2年生担任のオリーヴ・ド・ヒューム士爵よぉ、お二人とは3年生担任復帰までですがよろしくねぇ」
フランクは青髪の活発な産人族男性、オリーヴがのんびり猫獣人族女性だ。
皆先生である事に自覚を持って取り組む良い人みたいだ……“この人達はな”。
「実は3年生の担任の方がどの様に授業されていたかと言うのは、お聞きしても大丈夫ですかね?」
「ゼビアン準男爵の事ぉ?元軍教官で教育熱心な方だねぇ」
「1年と2年でやっていたからと体力作りより、座学や上手い戦い方を重点的に教えてたのは知ってます!ただちょっと熱入り過ぎて厳しすぎるって声はありました!」
「そうだったねぇ、まぁ体調を崩しちゃって今休んでるわけだけどぉ……無理してたのかなぁ」
俺とヨランダは顔を見合わせて頷く、概ね情報解析通りの周りの認識だと理解できた。
「大変参考になりましたわぁ、ホンマにありがとうございますぅ」
「ありがとうございます、それでは教室へ向かいますので」
「おお、私達も向かわないといけませんね!それでは!」
「行ってらっしゃ〜い、頑張ってねぇ」
先生方とお別れすると、職員室から今度は3年生の教室だ。
……しかし。
「表向きはええ先生やったんやねぇ、準男爵はん」
「裏では向いていそうなターゲットを絞って追い込んで、自身の実験に協力する事で評価点を上げるぞと誘惑して徐々に洗脳していく……」
「それがこの学園で先生やってはったとか、ほんま衝撃やね」
そう、今言っているのが得た情報による真実。
大公国立騎士学園3年生担任のゼビアン・ド・スネリング準男爵は、下級騎士の軍教官で研究者でもあった。
彼は後天的な軍神信奉者で、被害が少なく効果はある効率的な戦いを理想としてその手段を模索する中で“邪獣”を知った。
ハートリー王国のブライズ・ド・ミラーの研究を参考とし、より安全性があり効果が出る物を作りたかった。
後に学園の職員の椅子が空くと聞いて、教官職を退いてそちらへ転職した。
理由は学園側に権利があって管理されているダンジョンがある事で、魔物を介した呪い培養が安易に出来る事……そして学園と言う閉鎖された場所による人体実験も、また容易だったからだ。
「だがこれに関してはライラ殿下以外の大公家の人間、それからお前とクレイドル家だけの秘密だ」
「ライラ殿下は実際に関わりがあったお人やし、思わぬ行動に出かねんわぁ」
「現状俺を信頼出来ない態度だったのも、話さない要因だがね」
これが漏れた時にどんな動きをするか読めない人間が多い、どれだけ情報を知れたとしても決定的な証拠がないと抑えられない。
だから今は普通に臨時講師として振る舞って、後で確実にとっ捕まえてやろうと決めているのだ。
……待ってろよ、“助け出してやるからな”。
*************
3年生の教室、俺とヨランダは今プレッシャーをかけられている。
「初めまして。クイーンランク冒険者アルフ・クレイドルと言います、今日から臨時講師として務めます」
「同じく初めましてぇ、キングランク冒険者のヨランダ・レスリー言いますぅ。どうぞよろしゅう」
『……よろしくお願いします』
空気が良くねぇなぁ?
今まで下級とは言え爵位ある貴族が担任だったのが、冒険者の臨時講師で訝しげに見ている。
3年生は40人分席があり、何人か姿がない。
純粋に体調不良もいるが、どうしても来られない理由があって来てない人間もいる。
そして訝しげに見てくる視線の中には、当然ライラ公女の姿もある。
「まずは点呼を取らせてもらいます、最初は────」
出席番号順で名前を呼んで点呼を取る、これが一番最初にやるべき事だ。
これにはとりあえずちゃんと応えてくれているから良かった、この中で注目すべきは……。
「シドニー・ド・ベレスフォード君」
「はい」
銀髪黒目の産人族のシドニー君……いや義兄さんか。
伯爵夫妻やシェリルの話通りなら次期当主として厳しく躾けられていたと言う話だから、家族にはグレた態度だが学生としては普通な感じがする。
……仲良く出来るかは正直不安だなぁ。
「ライラ・ド・ジンデル君」
「……はい」
こっちは「本当に来たのか」と言った感じだ、まぁ冒険者としてやれても教員として務められるかは別だもんな。
でもオイラ負けないよ。
「────はい、これで全員ですね。では今回は臨時講師の我々が、皆さんの教鞭を取るにたる存在か……それを証明しようかと思います」
『え?』
「3年生首席、ライラ・ド・ジンデル君。私と試合をしましょう、魔法抜きの剣による一対一で」
「なるほど、上等ですわ!やりましょう!!」
『おおーっ!』
そう、ライラ殿下は“強い”んだよな。
お腹出てるけどいわゆる動けるタイプなので、身体の重さも武器に出来るのだ。
また技量も高く、物覚えも良い。
お陰で実技で負けなし、座学も出来ると文部両道……素晴らしい才能だ。
だからそんな相手を余裕持って打ち破れば、証明となるだろう。
「では道場へ向かいましょうか」
「ええ、ワタクシの“強さ”を見せて差し上げますわよ!」
大公家に頼まれてるからな、その伸びた天狗の鼻を折らせてもらうよ。




