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揺り籠、殿下に一泡吹かせる

開放された鉱山の行く末や、盗賊等の治安の改善。

それから俺について来る事になったシェリルと閣下夫妻のお別れまでの期間として、大体10日間領都でのんびり過ごした。

そして今日、学園がある公都“ジャーマン”出発の日となった。


「お父様、お母様!行ってまいります!」

「アルフ殿ならば心配は無いだろう、どうか元気でな」

「向こうではシドニーと会うこともあるでしょう、よろしく伝えてね」

「はい!」


寂しみを分かち合う時間は十分だったからか、笑顔でお別れする事が出来たようだ。

シェリルは俺が乗る予定の馬車に乗った、夫妻が今度は俺へ向かってくる。


「殿下が臨時講師にとは、何か考えあってでしょうが……十分にお気をつけください」

「成人済で若い盛りの男女が集まる場所です、気を緩めると貴族のいざこざに巻き込まれかねません……ご注意を」

「肝に銘じます」


そうだな、それは気をつけないと!

学園で貴族のいざこざは、危険な香りするもんな!


「それではどうかお元気で!愛する娘をどうかお願いします!」

「本当にありがとうございました!シェリル、また会う時まで!」

「こちらこそ!お世話になりました!」

「お父様、お母様……また!!」


俺も子供を誰かに預ける時は、笑顔で別れられると良いなぁ。

俺こっち来てからの時間考えると24から25になってるし、落ち着いて子供作って見送ってって……40過ぎだからすっかりおじさんだよ。

奥さんも沢山いるから必然子供も沢山いる、だから沢山泣く事になるんだろうなぁ。


「どうしたんだよアル、急にそんな表情になって」

「勝手に未来を想像しちゃっただけさ、それよりシェリルには話しておこうか」

「えっ、何の話ですか?」


そこからは俺が召喚者である事を明かし、キングランク冒険者になってから公表される事になってると話した。

シェリルはずっと驚きっぱなしだったが、アラクネをテイム出来た事と言い納得出来たらしい。


「召喚者様が私の旦那様に……それはとっても素敵です!」

「そう思って貰えて良かったよ、これから改めてよろしくな」

「ええ!アルフ様!」


明かした事でスッキリして、またイチャコラし始める。

触れられる距離に好きな人がいると、無限に触れてしまうのは俺だけだろうか。


『マスター、豪華な馬車が向かって来てるよ!』

『どうやら接触する気みたいだし!』


事前に情報を調べてたからな、今回は一方的にやられる気はしていないぜ。

さも帰るみたいなこと言って話を詰める為に俺を隠れて待ってたみたいだな、今度はこっちが一泡吹かせてやろうランドン殿下!





*************





「やぁ!まさか出迎えてくれるとはありがとう!」

「先日は世話になりんした」

「どうもランドン殿下、それからヨランダ」


豪華な馬車から降りてきたのは、情報解析(スキャン)通り殿下とヨランダだ。

少なくともこちらの予想を超えてくる存在って訳ではなさそうだ。

なら大丈夫だ。


「打って変わってコチラに忖度しなくなったな、それが“召喚者”アルフの素と言う訳か!」

「正体をバラされるのが弱みだと分かって付け込む相手です、忖度は不要でしょう」

「はははっ、違いないな!あそこでボクがキミを召喚者だと言えば、大多数はそうだと納得するに相違ないからな!」


ケラケラと笑う様はまるで悪ガキである、いい性格してるよ。


「それで……俺を臨時講師にする本当の目的、そこを詰めていく腹づもりですか?」

「そう言う事さ、キミとて気になっていただろう?」

「ええ、まぁ……ヨランダも関係があるんですか?」

「ウチは殿下に頼まれた護衛兼アンタの助手なんよ」


監視役のつもりなんだろうか、性格考えたら余り向いてない気がするんだが。

あとシェリルが警戒してるから、もっと後ろ下げて。


「その顔はウチがちゃんと仕事せんと思っとるんやな、でもそれは無いから安心してええで〜」

「ヨランダはボクの乳母の娘だからな、ボクの仕事では手抜かりないと断言出来る!」


あっ、ふーん……実はこの2人がてぇてぇのか?

大公子と釣り合える関係になりたくて必死に努力を重ね、結果キングランク冒険者にまで成れたのだとしたら大変興味深い。

……そんな人物の口に触手突っ込んだ事は忘れよう、アレは向こうも悪い。


「そうですか、では本題とは何でしょう?」

「実は大公国立騎士学園には生徒の育成の為に、小型と大型のダンジョンが存在しているのだが……最近妙な黒い魔物が散見される様になったんだ!」

「黒い、魔物……」


あー、今回も逃れられなかったか……邪獣関連の匂いがプンプンする。


「我が国でも調査が行われているが、中々進展しないのだ!かなりの知能を持ってるみたいでね、被害者は限られているが上手く逃げられて尻尾が掴めない!」


ほう、何か今までの邪獣と毛色が違うな?


「被害者はどうなっているのですか?」

「気絶させられ、起きると穢れに蝕まれていたそうだ」

「穢れ、呪いに憑かれたりは?」

「そこまで重篤ではないよ、神官がいれば浄化も可能だ……だが捕まらなければ、また同じ事が起きかねない!」


……なんか力が弱いというより、理解して使いこなしてないか?

下手にただ強いやつより厄介な雰囲気する。

だがなるほどな、俺を巻き込んだ理由は分かった。


「だから召喚者の私を協力させようと、あの場を利用したのですね」

「悪かったとは思っている、キミの本来の目的を叶えるならただの寄り道だ……だが我が国が誇る学園で不安の声が上がっている、それをボクとしては何として解決したいのだ!」

「流石殿下ですなぁ、カッコええですわぁ!」

「フフフ……」


仲が良いね。

だが巻き込まれた以上、こちらも只でやらされてはおらん。

俺はラミを取り出す。


「ん、それは……?」

『話は聞かせてもらった、ランドン・ド・ジンデル大公子』

『ええ、ええ、全部聞こえましたよ……召喚者を脅して利用しようとは、看過出来かねますね』

「なぁっ!!?」


はい。

実は話の間中にオリファント国王のアルヴィン陛下と、ラミト教トップのヴァージル司教と繋げてます。

ジンデル大公国は英雄の作った国とは言え、宗主国たるオリファント王国から枝分かれした国だから立場的に低い。

ラミト教はどこでもある程度強い力を有してる、それに睨まれるのは避けたいだろう。

偉い人にチクラれたから、こちらも偉い人にチクらせてもらった。


「殿下、一体どう言う……?」

「オリファント国王陛下とヴァージル司教に声と姿が繋がっている!神器はこんな事も可能なのか!?」

「う、嘘やん……」


さっきと逆転、向こうが泡くう番だな。

完全に青ざめ、焦っている。


『それに聞き及んでいるよ、大公子の権限を持って自国の保有する土地を報酬として譲ると』

『召喚者に対してオリファント王国を差し置いてそのような勝手は、裏切りに限りなく近い行為ですな』

「そ、そのような事は!」

『だが可能なら将来的な優位性を持って付き合いを持つ狙いがあった……違うかね?』


前々から帝国の土地を持て余してる報告が上がってはいて、オリフォントとハートリーの両国がやり取りしており、追々俺が正体を明かした際に任せるみたいな話出てたのは知ってる。

それにジンデルが一枚噛む時に、土地の譲渡で先手を取ることで俺との間に他国よりも優位性が得られる。

……話した時に大公子はそう考えてるだろうと読んだが、いかが!?


「…………も、申し訳ありません」


はい、圧に屈した。

流石に白を切れないだろう、このメンツに。


『召喚者アルフ殿に関しては、連合に参加しているオリファント、ハートリー……そして今回のジンデルが土地の譲渡をする事は構わん、だが抜け駆けは許せん』

「は、はい……」

『いずれラミト教も間に立ち、正式な約定を取り決めましょう……共に繁栄する為なら、力を惜しみませんからな』

「い、痛み入ります」

「殿下……」


これで通話は切れた、後は大丈夫だろう。

んでどのみち臨時講師はやろう、邪獣は結局放って置けないからな。


「と言う訳でこれで一発ずつ殴り合ったみたいな物なので、貸し借りなしで行きましょう」

「き、キミは敵に回していけない……そうハッキリ理解したよ」

「自分で言うのもなんですが、理不尽ですから……とりあえず臨時講師も仕事もやりますから、そこはご安心を」

「そうか、真に解決しなければならない事をやってもらえるのなら良かったよ」


ホッと息を吐くランドン殿下、愛国心は本物だからな。

ただチャンスと見ると手段を選ばないだけで。


「では共に大公都へ向かいましょうか、過程で互いを知っていきましょう」

「ああ、ありがとう!流石に嫌なイメージを持たれたままは避けたかった!」

「ああ、ヨランダはシェリルに近づけないでください」

「心得た」

「うぅっ!ウチもう諦めたから大丈夫ですよぉ!」


たまに視線が怪しいから、安心は出来ない。

ランドン殿下に恋愛感情がある可能性を考えると……母性?とかかもしれんけど、それも行き過ぎると怖いからね。

さておき……俺達はそれぞれ馬車に乗り、改めて公都ジャーマンを目指し動き出したのだった。

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