揺り籠、婚約パーティで偉い人が来訪する
やぁ!俺はアルフ!
何か牛女に喧嘩吹っかけられたから、ボコボコにしたら婚約者が増えたんだ!
……嬉しい事なんだけど、当事者の俺もビックリなんよ。
すっかり幸せいっぱいモードで放って置くのは流石に可哀想だから、ヨランダに祝福完治をかけてやる。
すると起きて内股座りで全身を確認している。
「あっ、身体が治りんした……?」
「武士の情けだ、価値観は合わないが最後に見せたガッツは良かったよ」
実際ボロボロで立つだけでも凄いのに、気力だけで斬りかかって来たからな。
キングランクなのは伊達じゃない、俺と相性悪かっただけだ。
「……負けたウチに施しを?」
「出会いが悪かっただけで美人だし、故郷の得物や装束に似た物を纏ってたから……郷愁かね」
「────ッ!」
「うおっ!」
ビックリした!
目を見開いて立ち上がるんだもん、さっきまでやり合ってたからつい警戒する。
だが実際には俺を上下にじっくりと観察してる様子だ、何が目的だ?
「そっかぁ、あんさんが……!」
やべっ、まさかさっきので日本人バレしたか!?
余計な事言い過ぎたかも……。
そして彼女は立ち上がると────。
「申し訳ありんした、ウチが皆様にご迷惑おかけしました!これからは反省してきばっていきますさかい……ほなまた!」
「えっ、ああ……出ていってくれるなら良かったが」
────ショーン閣下に迷惑をかけた事を謝って、ヨランダは立ち去った。
しかし最後に俺を見ながら「ほなまた!」と言っていた、さっぱり終わらせる為に決闘したが結局因縁が出来ただけだよこれ。
『マスターにしては凡ミスだね!おっぱい和服美人だからでしょ!』
『相手が厄介者だけど犯罪者じゃないから、脇が甘くなったし!』
あーはいはい、反省してまーす!
とにかくヨランダは去った、つまり……。
「では予定通り領都“べレノン”に向かいましょう、距離は離れていないのですぐですよ!」
「今回は婚約パーティにもなりますから、盛大に祝いましょうね!」
「婚約パーティ!アルフ様、行きましょう!」
「ええ、そうですね」
そうなる訳だな、やれやれ忙しい。
とは言え朝食をじっくり食べる時間が無くなった、ここは……。
「ところでよろしければ私どもの方で、手軽にいただける軽食を用意したいのですが?」
「おお、非常にありがたいですが……」
「では、デクスター!ドロシー!」
「「はっ!」」
綺麗に揃ってやって来た、大分距離感も埋まってきたんじゃない?
隠密水筒状態のサキを2人に回して、指示を出す。
「軽食の用意だ」
「はっ」「かしこまりました」
2人はサッとはける。
そして人が見てない所で筒内工房によって作られた物を、さもめっちゃ早く準備したみたいに持ってくるだろう。
「では食堂で待ちましょうか」
「ありがとうございます」
「奥様方、今日だけお隣をいただいても……?」
「ええ、大丈夫ですよ!夫を愛する“人”は大歓迎ですから!」
「わぁ!嬉しいです!!」
皆で食堂へ移動してから俺の左隣にシェリル嬢が、右隣にベティさんが座った。
二人して尻尾をモフモフと当ててくるから、静かに触った。
「失礼します、軽食をお持ちしました」
「おお!まだ座ったばかりですのに!」
「アルフ殿の従者は優秀な者ですな!」
「自慢の忠義者で、家族です」
そう褒めてると何かキラキラとオーラ出しながら、今回の軽食……たまごとポテトサラダのサンドイッチを出してくれた。
「おおサンドイッチ、どちらもこちらでは余り見ない具ですな」
「どちらも我が家で使われているソースで味付けされています、閣下達のお口に合えば良いですが」
「とても美味しそうですよ、いただきますね」
「わ、私もいただきます」
「どうぞ、フィアンセ」
ベレスフォード家の皆さんは“マヨネーズ”の初体験。
人によって好みに合わない事もあるらしいが、どうかな?
「おおっ!これは!」
「まろやかで深いコク!酸味!」
「いくらでも食べられます!」
どうやらご満足いただけたようだ。
食事後べレノンへ向かう途中でレシピを伝える事となった。
*************
時刻は夕方となり、鉱山開放の祝宴兼婚約パーティが開催された。
絢爛豪華な料理に美味しいお酒、領都べレノンの有力者が参加して賑やかになった。
皆こっちに覚えて貰おうと挨拶にやってくるが、そこら辺は俺じゃなくて元文官のエレンや従者組が覚えてくれている。
彼らを覚える事でいつか役に立つかもしれないからと、その分俺は婚約者のシェリル嬢と仲良しアピールを欠かせない。
「鉱山開放の英雄殿は美しい女性ばかりが奥方となられているのですな、大変眼福で御座います!」
「此度もショーン閣下の御息女とのご婚約とは、まさしく英雄色を好むと言った次第ですな!」
「皆愛して止まないかけがえのない妻です、シェリル嬢とも近い内にそうなる予定ですよ」
「まぁ、アルフ様ったら!」
『ワハハハッ!』
こう言う事も大事なやり取りだ。
女好きで愛妻家って伝われば、女性との縁を持って来てくれる。
つまり……エイブラハムに紹介できる女性を、向こうが勝手に見繕ってくれるわけだ!
俺はこっち来てモテ気が来てるが別に“イケメン”じゃない、面食いな女性と政略結婚は可能な限り避けたい。
その点エイブラハムならイケる、商会長で有能でイケメンだ。
この場にいる有力者だが貴族じゃない家の娘さんとかなら、あいつとの方が良い縁だろ。
「と言うか私達もここにいて良いのかしら?」
「寧ろテイムされたってしっかり周知すべきだからな、偉そうな奴が近づいて来ても言う事は聞かなくていい」
「もちろん、主様にだけ従います」
「かあさまと私達が信頼しているのは、あなた様だけですから」
パーティ会場にはペアラン、チャクネ、ラクターのアラクネ3人は来てもらっていた。
普通に飯食って、余計な事しないだけで話題になる。
それに閣下が面倒なのは事前に弾いてくれるしな、いやぁありがたい話よ。
おや、侍従が慌ただしく入って来たな。
「緊急事態です────」
「な、何だと!?何故あの方が!」
「ん?」
閣下が驚いてる、この領地のトップがあの方って事はまさか!
「全員礼を取るのです!大公子様がお目見えだ!」
『なっ!?』
まさか次代の国のトップとなる、そんな人物が来るとは!
正体を明かしてないし、ここは俺も……。
「アルフ・クレイドル!君は礼を取る事はない、此度の主役も主役なのだからね!」
「分かりました」
向こうがそう言うなら……と顔を上げて見る。
その容姿は黒髪ショートで赤目、タキシードを身に着けた少年だった。
凄くラノベ主人公みたいな見た目してるわ、この大公子様。
堂々としていて風格があり、トップの器を感じさせるなぁ。
「ボクがランドン・ド・ジンデル、この度は大公国のベクター鉱山を救ってくれた事……心から感謝するよ!」
「光栄の至りです、殿下」
「同時に伯爵家の御息女と婚約おめでとう、2人が末永く幸せだといいね!」
「あ、ありがたき幸せ!」
見た目年齢的には10代……だが迷いがなくて、ハキハキした喋り方するから気持ちが良い。
同時に俺を見る目が楽しそうなんだよな。
「今回は感謝と祝福を伝える為もあるが、アルフにはこれも伝えたくてね!」
「これは……」
渡されたそれは、大公国立騎士学園への紹介状。
……臨時講師として。
「その力を活かして、是非とも生徒達への刺激を与えて欲しい!当然相応の見返りは用意する!」
「見返り、ですか」
絶対何か別に思惑ありそうなんだよなぁ〜、でも国のトップの一族からだと立場的に断れない。
せめて見返りが良くないと……。
「リーデン帝国との戦争の後、奪った土地に関して持て余していてな!キングランク冒険者への昇格を求めていたから、それを確定した上で土地も渡そう!ボクの権限で!」
「えっ」
いやいやいくら大公子とは言え、そんな権限あるのか?
それとも大公から俺に渡すと言う確信があるから……っと耳元に来た!
「ヨランダ」
「!」
「さぁ返答はいかに!」
正体をチクられたのか!?
これは、油断して口滑らせた自業自得か……仕方ない。
「謹んでお受け致します」
「ありがとう、ありがとう!助かるよ!」
大変嬉しそうである、クソー!
「ではボクは行くよ、忙しい身の上でね!皆は楽しんでいくと良い!」
『はっ!』
大公子は余裕で得たい物を得て帰っていった、これは完敗だな。
だが異世界カノスの学園って気になるしな、良いチャンスと思っとくか!
その後パーティは再開されて無事に終わったが、サキ調べで領都は色んな話題で盛り上がってたみたいだ。
また婚前交渉は特に縁起悪いとか無く気にされてないみたいだっただから、愛されたいシェリル嬢……いや、シェリルの気持ちを優先して抱いた。
「アルフ様、愛してます」
「俺も愛してるよ、シェリル」
「はい!……あっ」
本当に相性が良かったみたいで、とっても仲良く出来たと思う。




