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キツネの婚約

シェリル視点です。

私は生まれた時からの姿から、今は公都ジャーマンの大公国立騎士学園に通うお兄様から呼ばれたあだ名が……“毛むくじゃら”でした。

これは先祖返りと呼ばれる現象で、私達産人族のご先祖様がこう言う姿だったのだそうです。

古くは凶悪な魔物から人族を救った尊き聖獣様が、惹かれ合った女性達と子を成し……結果今の私と同じ姿で生まれたとされています。


『毛むくじゃらは良いよな、大事に大事に可愛がられて……ボクは正直妬ましいよ』

『えっ……』


お兄様は次期当主として厳しく教えられて来たそうで、女で先祖返りの私を心配して甘く育てられているのに嫉妬したんだそうです。

ですが私はそれが良い事だと思えていませんでした。


『おお〜!シェリル、可愛いぞぉ〜!』

『お茶会で嫌なことがあったらいつでも言いなさいね!』


ベクター鉱山の存在により伯爵家の家格以上に重要視されていたベレスフォード家、そのお陰で皆が私に忖度していた。


『シェリルさん本当に美しいわよね!』

『ええ、まるで本物の聖獣様のよう!』


同年代の令嬢達が、腫れ物に触れるように接してくる。


『魔物がドレス着て歩いてるぞ?』

『バカ!マジで洒落にならんぞ!』


同年代の令息達が、影で密かに魔物と笑っている。


……もっと皆と同じ様に普通に仲良くなりたい、人として扱われたい。

そう思って過ごしていました。


『ベクター鉱山にアラクネが!?』

『間違いないかと、近辺で巣の移動跡が見つかっていますので!』

『何と言う事でしょう、アラクネなんて……!』

『災害の様なもので片付けられない話だ、最悪家の話どころでなく甚大な被害が出る!』


お兄様とは最後まで仲良く出来ずに学園へ見送った後、丁度見送った時のお兄様と同じ15歳になった時にこんな事が起こってしまいました。

お父様達ベレスフォード家の人も、ジンデル大公様も手は打てる限り打ったそうです。

しかしダメでした……かつての英雄を祖先に持つからと責任感が強いジンデル大公国は、長いリーデン帝国との戦争で軍は頑張りすぎて大きく消耗していました。


『分かっていたが、軍も出せん……!』

『相手が相手ですから、無理はありません!』


アラクネなんていうとんでもなく恐ろしい魔物に今の軍を出せば、無駄に犠牲が出るだけになる可能性が高かったのです。

ならば冒険者ギルドへと依頼を出しましたが、クイーンランク以上の強い冒険者は来てくれませんでした。


『リスクが少なく稼げる方な依頼を優先、か』

『このままでは本当に何の対抗策も……!』

『分かっている!……分かってるさ』

『……お父様、お母様……』


ドア越しに話を聞く度に手詰まりになっていくのが理解でき、両親から強い焦りが伝わってくる。

そんな時に現れたのがキングランク冒険者のヨランダ・レスリーでした。


『ウチやったら受けてもええけどぉ、条件があるんや……ええですかねぇ?』

『条件ですか、どの様な?』

『おたくのシェリルはん!是非ウチの愛玩奴隷にいただきたいんや!』

『『は?』』


彼女の要求は私を愛玩奴隷……つまりペットの様に扱いたいと言う事です、これには両親……私もショックを受けました。


『そのような事は受け入れられん!大事な大事な娘を嫁ならともかく奴隷など!!』

『えぇ〜、でもアラクネを倒せばおたく助かりますやん!そしてウチはシェリルはんを愛でられる、一挙両得ですやろ!?』

『貴女みたいな人がキングランク冒険者なんて!断りましょう!』

『もちろんだ!出ていってくれ!!』

『そんなぁ!堪忍やで!』


こうして彼女は追い出され、両親は私を庇いました。

しかし少しずつ冷静になって来て思いました、『彼女の提案を受けるべきだったのではないか』と。

私を捧げる事で両親と家、領地や国が助かるなら良かったのかもしれない……どれだけ両親が“人”として愛してくれていても、周囲から獣や魔物としか見られない自分が役に立てるなら……。

そうこう考えている間に、両親は状況が悪くなる一方のベクター鉱山街を落ち着かせる為に、私を領都べレノンに置いて向かってしまいました。

私は決意して立ち上がりました。


『申し訳ありません、皆様』

『お嬢様……?』

『この地を救うため、両親の下へ私を届けてくださいませんか?』

『そ、それは……!』


ベレンフォード家の騎士も戦争後の世代交代で、経験や実績がない若い方が多いです。

しかし忠誠心と愛国心が高い方々でした。


『お願いします、もうこれ以上苦しむ両親を見たくありません……!』

『……あくまで護衛しお届けするまでですよ?』

『皆さん!』


そしてべレノンを出てベクター鉱山へ向かい盗賊に襲われ……そして、あの方に救っていただいたのです。

私を愛らしい“人”と言って下さった、アルフ・クレイドル様に……!






*************





そして現在、鉱山街別荘の庭の広いスペース……。


「も、申し訳ありません!また勝手なお願いを!」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


私は完全に冷静さを失っていました、ヨランダの姿を見たらついつい嫌な気持ちが膨らんで……。

もしアルフ様に出会わなければ、きっと彼女のモノになっていたでしょうから。

両親もいない完全に孤独な状況で、ペットとして飼われる生活を思い浮かべて寒気が過ぎって……。


「でも私が最初から自分が引き渡されていれば、こんな……」

「彼女の実力ではチャクネとラクターのどっちか片方でやっとやり合える感じでしょう、ペアランがいたあの状況をどうにか出来るとは思えません」

「そ、そうなんですね」


アルフ様は自分よりランクが高い冒険者との決闘ですのに、とっても冷静です。

でもアラクネをテイム出来た凄い方ですから、きっと勝算があるのでしょう!


「でも本当にご迷惑じゃありませんか?」

「シェリル嬢にお願いされなくても、彼女に決闘を挑まれた時点で因縁発生してますからね……多分ああいうタイプは納得させないとしつこいです」

「なるほど……」


一度領都で追い出された経緯があった上で、鉱山街まで来ていました……もう一回押せばイケる!と考えたのかもしれませんね。

そう思い浮かべた時に、アルフ様は微笑んで言います。


「それにムカつくじゃないですか」

「何がでしょうか?……わっ」


身体を屈めて優しく手を取り、しっかりと私の目を見て下さいます。

顔が、熱い。


「貴女の様な可愛らしい人を、愛眼奴隷にするとか抜かす奴が相応しいって思ってるのを放っておくとか……男が廃ります」

「おと、こ……」

「ええ、だからしっかり見ててくださいね。俺が男を見せるので!」

「は、はい!」


彼は手をひらひらと振って、ヨランダが待つ決闘の場へ向かいました。

アルフ様の侍女たるドロシーさんが、合図を行うようです。


「ようもウチの前であんなちちくりあう真似見せよったなぁ!」

「彼女が嫌な気持ちにさせられてたからな、フォローいれてたんだ」

「ムカつくわぁ……絶対勝ったる!」


ヨランダの得物は薙刀と呼ばれる長柄の武器で、魔槍“キリキリマイ”と言うそうです。

ルークランクの魔具で強力な風属性を扱うとか……。

一方でアルフ様は剣なのですが、何と契約精霊なんだそうです!

聖剣エルフと言う名前らしいです、なんだか聖と言う字が運命を感じます……!


「ではよろしいですね」

「ええで!」

「頼む」

「畏まりました、では開始!」


ドロシーさんの合図でヨランダが攻めます、アルフ様は受けに回る様子。


「生意気な口きけんよう、潰したる!」


と攻撃したその時に、アルフ様の周囲に膜の様な物が張られました!

恐らく私の馬車の上で使い、盗賊を吹き飛ばした結界では!?


「なっ!」

「ほい」

「ちょ!?」


今度はツルにイバラが生えた物が呼び出されて、ヨランダに絡みついて傷つけて血が出ます!

それらを吸い上げようと、さらにさらに締め上げ食い込みます!


「ぐぅっ!この!だったら食らわせたる、やったれキリキリマイ!!」


これは武器型の魔具ならば基本で扱えると言う、属性力の放出を行うのでは!?

アルフ様は……構えているだけですね。

……そしてヨランダの方も特に何も起きません。


「な、なんでや!?何で力の放出が……き、キリキリマイ!!……嘘やん」

「もう手はないか、思ったよりあっけないな?」

「あ゛ぁ゛!?だったらぁ!渦巻け我がぶむぉっ!?」

「ニックデース」


あっ、さっき捕らえるのに使っていた触手です。

それの太い部分一本が、ヨランダの口に挿入っています……何か凄く、扇情的な光景に見えます。

あっ、開放されました。


「がはっ……な、にを……!」

「生命力も大分減ってる、魔力もほぼ吸われきった……諦めとけ」

「諦め、へん……!ま、まだぁ……ウチは、シェリルはんを……!」


ヨタヨタと立ち上がる彼女は、そこまでして私を得たいのでしょうか。

とても執念深い。


「ウチが……守護るんや、可愛らしいもん、は………ウチがぁ!」

「お前が相応しくないのはそこだ、一方的に押し付けるだけで相手の気持ちを……思いを知ろうともしていない」


必死にキリキリマイを振りかぶり襲いかかろうとしますが、瞬時に間を詰めて手に持った何かを彼女の腹に当てました。

すると!


「がっ、ガアアアアッ!?」

「これで終わりだな」


凄まじい電撃がヨランダを痺れさせました、意識はありますが完全に戦闘不能です。


「勝者はアルフ殿だ!」

「はい、当然旦那様ですね」


お父様とドロシーさんがそう告げます、私は思わずアルフ様の下へ駆け出しました!


「アルフ様!」

「シェリル嬢!」


再び屈んで私を抱きしめ、受け止めて下さいました。

ああ、アルフ様のいい匂いが全身に染み込む様です……幸せ。


「無事に勝ちましたよ」

「はい!私に相応しいのはアルフ様だけです!」


勢いで凄いことを言っちゃいました!

でもそう思えてしまうくらい、今はアルフ様の事でいっぱいで……とお父様が近づいて来ました。


「あー、アルフ殿……ものは相談なのですが」

「あっ、はい」

「もしアルフ殿が良ければだが、娘を嫁に貰ってくれないだろうか?もちろん立場上正式な婚姻はキングランク冒険者になってからとなるが……」


お父様、アルフ様と一緒になるのを許してくださるのですか!?

お母様も笑顔で頷いて下さってる、あ、アルフ様は……?


「シェリル嬢は私でよろしいのですか?」


そ、そんな!

あれだけの実力を見せていただいて謙虚過ぎます!


「もちろんです!貴方以外もう見えません!」

「分かりました、でしたらキングランク昇格までの婚約お受け致します……幸せにしてみせます!」

「嬉しい!」

「良かった、良かった……!」


こうして素敵な方が婚約者になって下さったのです、聖獣様……私は幸せになります!


その時、何処かでコンコンと聞こえた様な気がしました。

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