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揺り籠、鉱山街にて事情を聞く

いやぁ、モフり欲を抑えるの大変だった。

色々と衝撃がデカかったが冷静さを失うわけにはいかんので、シェリル嬢とは……。


『我らのパーティは元々ベクター鉱山街に向かわれる予定なのですが、道のりとしては同じでしょうか?』

『えっ、は、はい……!』

『では共に向かいましょう、詳しい話についてはそちらで』

『分かりました、ありがとうございます……!』


と無事に話が収まった。

とりあえず落ち着く為にアリスの尻尾に鼻を埋める。


「ご、御主人様……!」

「すまん、ちょっとだけ……先っちょだけで良いから!」

「そこが1番敏感だよ!」


どうやら自分が思ってるより心は冷静じゃなかったみたいだわ、まぁ普段からサキの情報解析(スキャン)が及んでない範囲だとこんなもんか。

何とか落ち着くと、見えてきたベクター鉱山と鉱山街に目を向ける。


「活気があまりないわね」

「まだ鉱石が採掘出来る生きた鉱山としては、異常な事態です」

「ふぅ……中で何か起こってたりするのかな?」


コーデリアとエレンが言う通り、取引はまだあるが活気がある様に見えない。

鉱山の入口を見る限り閉鎖されてるし、アリスの推測が当たってそうだ。

万が一“邪獣”関連だと、自分がマジで呪われているかを疑う。


「あ、あそこがシェリル嬢の目的地だな」

「領都とは別に滞在用の館を持ってるみたいね、採掘が出来るなら重要だものね」


有事の際の別荘みたいな物か。

そしてその時が来ていて、彼女もここにと。


「よし、行こう」

「ええ!」

「さてさて、どの様なお話ですかね」

「何があっても、もう驚かないよ!」


皆で馬車から出てシェリル嬢と護衛の騎士達に合流する、こう並ぶと分かりやすく小柄だ。

騎士達が150cm前後、シェリル嬢は140……いや、もっと小さいかもしれん。


「で、では参りましょう……!」

「閣下と夫人も既に先触れから事情を聞いています、中でお待ちです」

「なるほど、分かりました」


盗賊も流れるように引っ立ててたし、騎士の皆さん仕事出来る方たちよね。

盗賊に押されてたのも実力が低いと言うより経験値が少ないと言うか……これも事情がありそうだ。

中に入ると侍女達からお出迎えされ、奥に通されていく。


「初めまして、ワガハイがショーン・ド・ベレスフォード伯爵です」

「妻のサンドラ・ド・ベレスフォードです」

「ご挨拶いただきありがとうございます、クイーンランク冒険者のアルフ・クレイドルです」

「同じく妻のコーデリア・クレイドルです、こちらから────」


全員の挨拶を順番に進めていき、それから許可を得てから着席する。

ショーン閣下が銀髪銀眼、サンドラ夫人が茶髪黒目だからシェリル嬢は閣下似なのかな?

だがやはりモフモフ度合いが違い過ぎる、個人差とかのレベルではないな。


「まずはこの度我が家の大切な娘を助けていただき、感謝申し上げる!」

「玉のように可愛がってきた子ですから、盗賊に襲撃されたと聞いて心臓が止まる思いでした!」

「あ、改めて本当にありがとうございます!」

「いえいえ、困った時はお互い様の精神がモットーですので」


自分が困ってたら辛いって相手の気持ちになり、手を差し伸べられる人間でありたい。


「素晴らしい精神です、だからこそシェリルがあの様に申して困られたでしょう」

「普段はそんな事を言う子じゃ無いのですが、今回は事情がありまして」

「も、申し訳ありません……」


確かに普段から自分を差しだすムーブしてたら怖いわ、色んな意味で困っちゃう。

シェリル嬢は「気を遣わせて迷惑かけてしまった」と感じた様子でションボリしてる、そりゃあビックリしたが暗い顔はさせたくないなぁ。

ちょっとここはキザな事言って、空気変えよう。


「驚きはしましたが、それだけの事情があったのは察しました……ですから顔を上げて下さい、愛らしい人」

「あ、愛らしい“人”!?」


おっと今度は向こうがビックリした、でも愛らしいのは事実だしさ!


「……アルフ殿はシェリルを見て愛らしい“人”とお感じに?」

「ええ、私は一目見てからその様に思っていますね」

「「おお!」」

「あ、愛らしい“人”……」


えっ、何?

こっちは話についていけてない!


「あっ、申し訳ありませんな!この子の様な“先祖返り”の産人族は特異な見た目故に“偏見”で見られる事が多くてですな……」

「人によっては“頭が良い魔物”の様に扱われます、平民の場合生まれてすぐ攫われて高額で売り払われる事もしばしば……」


エゲツな!

でもそうか先祖返りだからあんなにモフモフで尻尾あるのか、そして偏見なしで接せられる現地民は少ないと……。

逆に言えば俺に拐かされる危険性を加味してでも会い、高値で取引されると知ってるからこそ自分を売ってでも家を助けたかった……それが分かった。


「盗賊がシェリル嬢を襲ったのは……」

「現在鉱山内に“強力な魔物”が住み着いて閉鎖されており、職にあぶれた若く資金が必要な鉱夫の中には賊になった者もおるでしょう」

「領地民はシェリルが先祖返りな事を知ってますから、騎士を連れているとは言え1人のシェリルを狙ったのかと」

「お父様やお母様には領都で大人しくしている様に言われたのです、なのに私が勝手に出てきてしまいましたから……」


それでご両親と別々だったのか、本来は安全な本拠の屋敷にいる予定が狂ったわけね。

盗賊も金が無くてやむにやまれず、とは言え狙いが明らかな犯行だから相応の罰があるだろう。

しかし強力な魔物か、だったら……。


「冒険者に依頼として出すことはしなかったのですが?」

「既に(おこな)っていますが、芳しくありません……他に近くて実入りの良い依頼がありますから、態々ここまで来る冒険者の方が少ないのが現状ですな」


え〜、依頼で稼ぐ冒険者が多くなってる状況でもそうなる?

リスク取ってチャンスを掴もう、みたいなスタンスがいないのか?

貴族が依頼主かつ国益に関わる依頼なら、受けたらリターン大きいって判断出来るだろうに。


「指名依頼もダメですか?」

「クイーンランクやキングランクの冒険者にあたって見ましたが、大体の方が予定で埋まっています」

「一応1人だけキングランクの人物がいたのですが……問題がありまして」

「うぅ……」


うわっ、シェリル嬢が嫌な顔をしている。

一体どう言う相手だったんだ?

閣下に視線を向けると、答えてくれたが……。


「牛獣人の女性の冒険者で“ヨランダ・レスリー”と言うのですが、『シェリルを愛玩奴隷として貰いたい』と言うのが条件でした」

「へぇ?」

「それ以外の条件では飲まないと……」


女性で貴族令嬢を愛玩奴隷にしたいって、色々拗らせてそうだおい。

それで良くキングランクの許可通ったな!?

いや、嫁とか言い出してないからマジで可愛いもの欲しさかもしれんが……。


「ウチとしては大事な娘を奴隷になんか出せません、国にも泣きついてみたが軍は出せん様でしてな……」

「それ程の相手なんですか?」

「はい、“アラクネ”と言う魔物です」


アラクネ!

蜘蛛の身体に女性の上半身生えてるイメージあるあの……。


『マスター!ウォルターさん達が倒したワイバーンより、圧倒的に格上の魔物だよ!』

『直接戦闘でもワイバーンとやり合えるのに、詠唱破棄クイーンランク魔法に糸による搦め手とやり手だし!』


脅威度高っ!!

完全に舐めてたけど、そう考えるとリスク高いなおい!

クイーンランクだと街に大きな損害与えられるレベルのはず、鉱山を住処にしたのは魔法で対抗できる保証があるからか……頭も良さそうだな。


「かなりの危険が伴うと思われます、しかしどうか頼めませんでしょうか!」

「報酬は勿論通常の依頼より高くお支払い致します、どうか!」

「お、お願いします!」


男爵くらいの権限でしかないクイーンランクの俺に頭下げるのは、伯爵であるショーン閣下としては相当へりくだってる行為だ。

プライドよりも領地の為、ひいては国の為……この人達は良い貴族だ!


「その話お受けしますが、条件を掲示してもよろしいでしょうか?」

「じょ、条件ですかな?」


あっ、少し不安そう。


「安心してください!そう言うのではないですから!」

「で、ですよね!」


良かった、皆ホッとした顔だ。

では改めて……。


「私はアラクネを討伐では無くテイムしようかと思っていまして、それを成し遂げた事を閣下に保証していただけないでしょうか?」

「「「え?」」」

「報酬はこれだけです、お金も不要です」

「「「ええ!?」」」


ご家族も驚いているし、後ろに控えてた侍女達も目を丸くしている。

でも本当なのだ。


「私は現在キングランク冒険者を目指していまして、その為にジンデル大公国からの推薦が欲しいのです」

「既にハートリー王国とオリファント王国から確約を頂いてますから、後は一国と言う事でコチラを選んだ訳です」

「な、なるほど……!確かにアラクネをテイム出来たのなら推薦は得られる可能性はほぼ確定になるでしょうな、住処の移動で捨てた巣の素材でも莫大な資産になる程ですから!」


すげぇ!

これは是が非でもテイムしたい、そしてアラクネ糸で交渉すれば推薦待ったなしだな!


「と言う訳でその条件で大丈夫でしょうか?」

「是非お願いします!」

「承りました」


俺とショーン閣下は固く握手を交わす。

こうしてベクター鉱山を占拠したアラクネ確保が、今日の俺達の予定として決定したのだ。

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