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お嬢さんとお兄さん

※念の為、コーデリア視点です。

私は、生まれながらに魔力が多かった。


『そうか、なら使えるか』


皇帝の血を引く存在として、そして“戦力”として期待された。

……でも。


『この子には魔法の才能がありません』

『覚えが良いのは彼の国の“才女”の娘と言ったところだが、身体能力はな……』


誰もが私を“品定め”をし、“使えない”と言う感情が滲み出ている。


『あ、あの……』

『失せろ、弱い娘はいらん』


父であり、皇帝だった男も同じ。

リーデン帝国では等しく戦えない存在を無価値と断じる、あの男は特にそうだった。

でも……母だけは違った。


『コーデリア、どうしたの?』

『お母さん、この本読んで!』

『ふふっ、いいわよ』

『わーい!』


美しい翡翠の髪に私と同じ緑の双眸で、優しく見つめてくれる母。

あの人の前でだけはそのままの私でいられて、とても心が安らいだ。


『いいわよ、魔力は無くなってから回復する程増えるのよ』

『これ頑張ったら偉い?』

『ええ、もちろんよ!いつか貴女を守る時が来るわ』

『わかった!私頑張る!』


母がそう言うならばと必死に魔力容量を鍛え続けていた、沢山の空の“魔石”を魔力一杯にして。

誰も認めてくれない中、彼女だけが私を認めてくれていたから。


『?……お母さん?』


ある時母は失踪した、私が魔力を込めた沢山の魔石と共に。

後に知った事。

かつて帝国に負けて国土の割譲に多額の賠償金、そして“才女”と呼ばれた姫を皇帝の妻として差し出した国があった……その姫が母だった。

リーデン帝国は軍神様に酷く傾倒し、あちこちの他国を攻め武力で奪い取る敵の多い国。

それに対抗するため“反リーデン連合”が発足、母の国もその参加国の一つだった。


『裏切りよったか……ククッ、クハハハハァッ!!』


皇帝はこの事態に対して、怒りではなく“喜び”を表した。

戦いこそが真の喜びと、もっと戦えると歓喜していた。

そして誰も、あの暴君を止めない。

狂っている、この国は誰も彼もが狂ってる!


『お母さん……お母さんッ!』 


母は私を捨て、祖国を選んだ。

そんな事実を分かっていても、私は唯一安心出来た存在に(すが)りたかった。

だから母の部屋で、一人泣いていた。


『……グスッ!うぅ……あっ……』


その時目に入ったのはかつて母に読んで貰った本。

少女、青年、老人が力を合わせて村を脅かす魔物を退治する物語であった。

当時は少女に感情移入し、青年は悪くないけど同じくらいの年齢の人達のトラウマがあったため、どうしても好きになれなかった。

そして一番好きだったのが老人だった、優しくていつも少女に寄り添ってくれる。

それに元騎士で強くて、頼りになる……。


『……ぐすっ、私もこんな人が側にいてくれたらな』


そんな願望染みた独り言を漏らした、その時だった。


『あ、れ……魔力が……?』 


自分の身体から勝手に魔力が本へと移って行く、でも不思議と怖いと感じない。

次第に魔力が絡み合い形を変え、翡翠の光球が現れた。


『綺麗……』


見惚れていると、光球が姿を変えていく。

本の挿絵に描かれていた、あの物語の老人にそっくりな姿に。

そう、彼の名は────。


『デクス、ター……?』

『ええ、“お嬢さん”』


それが今にも続く(えにし)、彼との出会いだった。




*************




「……アユム?」

「すぅ……すぅ……」

「えっ、もう?」


急に意識を無くしてしまったわ、これって大丈夫なのかしら?

アユムが苦しんでる様子もないし、神器が力を貸してくれると言ってたから信じてる……つもりだけど。

まだ彼の事が心配になってしまう。

もうあんな思い、したくないから……。

────ハッ、これはあの時と同じ!


「の、呪いが右腕から!」


アユムが初めて呪いで意識を失った時、私の右手首から肘にかけて纏わりついていた黒い痣が剥がれた。

そして痣は彼の中に溶けて消えた、今回も同じ様に右肩までの痣が……つまり。


「アユム……」


呪いとの戦いが始まったんだ、どうすることも出来ない私の代わりに……。

彼は確かにリーデン帝国が信奉する軍神様とは対となる、繁神様に神器を授かった召喚者。

でもその神器は魔力で水が出る水筒で、本来は武器の様に戦いに使う物なんかじゃない。

それでも彼は恐ろしい呪いに立ち向かい、既に一度倒している。

……不思議な人。


『私の為に、どうしてそこまで……?』

『そりゃあ俺も男だからさ、可愛い女の子と仲良くなりたいからに決まってるだろ?』

「!?」


思い出してしまった、昨日の私の疑問に対する彼の答え。

変だ、顔が熱い……風邪かな?

手で仰いでも冷めてくれない、でも嫌じゃない。


「これって……」

「呪いの様な穢れたモノでは御座いませんぞ、“お嬢様”」

「────えっ」


今の、声は!


「デクスター、なの?」

「はい、お嬢様」


あ、あぁ……!

ずっと、呪われた3年前のあの日からずっと!

何となく言いたいことが分かる、でもちゃんとした会話が出来ない。

そんなもどかしい時が続いていたのに!


「普通に喋れるのね!?」

「ええ、漸く会話が出来ます……まぁ力は1割あるかないかと言った所ですがな」

「十分よ!貴方とまた話せるなら!」

「ふふふ……アユム様には大恩が出来てしまいましたな」

「あっ」


そうだ!

デクスターがこうして話せるように戻れたのも、呪いを削ってくれてるアユムのお陰じゃない!


「アユム……」

「ふぅ……ふぅ……」


少しだけ息が乱れてる、魔力が減ってきたんだわ。

それが分かるけど、私には……。


「お嬢様、ご安心なされ」

「えっ」

「呪いの量が膨大に過ぎるお嬢様の魂ならば兎も角、アユム様の魂に触れている呪いならば……今の私でも感知出来ます」

「本当!?」


それならもしかして!


「もちろんです、感知した通りならば呪いは既に大分縮まり消えかけております」

「すっ、凄い!もうそんなに!?」

「あの方と水筒の神器は、呪いに無類の強さを発揮していますな」


笑顔でアユムを見ながら笑うデクスターに、私も釣られて笑顔になってしまう。

さっきまでの不安や心配は既に何処かへ行ってしまったみたい!


「おお、と言ってる間にも消えてしまいましたな」

「凄い……凄い凄い!やった!」


アユム!

本気で私の呪いを全部祓ってくれるつもりなのね!

……あれ?


『の、ノープロブレム……!ゼェ、ヒィ……』


いつも戦いでボロボロで、不恰好な状態だし。


『……さ、流石に見過ぎじゃない?』

『すいません』


女の子にスケベな所もあるけど。


『喜んでお受けしましょう、“お嬢さん”』

『ふふっ、お願いしますね!“お兄さん”!』


決める時はちゃんと決めてくれる……そんな人に覚えが……。


「そう言えばこの方は“アルフ”に似ているかもしれませんな」

「────ッ!」


昔私が大好きだった物語の青年“アルフ”、確かにそんな特徴だった!!


「名前もアユムとアルフで音が似ていますし」


うん!


「お嬢様と私が揃えば、見事にあの物語と一致しますなぁ!」


うんうん!!

……待って……待って待って待ってぇ!


「そ、それじゃその……」

「ん?どうかしましたかな?」

「だってあの物語の最後は……!」


ヒロインの少女“オリアナ”とヒーローの青年アルフは、む、む、結ばれ……!!


「ん、むぅ……」

「はわっ」

「ふむ、何とタイミングの悪い」


で、デクスター!?


「……今の声ってもしかして?」

「はい、アル……アユム様」


デクスター!?


「おお!デクスターさん、話せるんすね!」

「ええ、力はまだ出せませんがな」

「いやーっ、良かったっす!」


……良いな、二人共仲良さそうで。


「むっ……コホン」

「?……あっ、コーデリア!」

「ふぇっ!?」

「呪い削れたんだろ?どうよ身体の感じは?」


……あっ、そ、そうだよね!

そこからだよね!


「うん!また身体が軽くなったよ!」

「そうか、良かった良かった」


アユム安心してくれてる、実際本当に呪いが削れて負荷が減ってるし!

いつか本当に……本当に……。


『俺はこれからも気兼ねなくコーデリアと仲良くしたい、だから君の呪いを祓わさせてくれ』

『う、うん!私も……だから、助けてほしい!』


こんな事言ってくれるのも、実際に助けてくれるのもアユムだけ……なんだよね?

本当に気兼ねなく貴方と仲良くなれる時が、そう遠く無い時に来るのだとしたら。


「ねぇ、アユム」

「おう、どうした?」

「改めて私の事を、よろしくね!」

「ああ、俺に出来る事なら任せてくれ!」


何処まで仲良くなっちゃうんだろうね?

魔法→魔力を燃料として現象を引き起こす技術、魂と直接繋がっている神器と比べて大なり小なりラグが発生する


魔石→魔物の体内から採取される魔力を貯め込む性質を持った石、大きさや色で魔力容量が変わる


感知→精霊は知能が高い程、魔力や穢れ等の感知能力が比例して高まる

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