侍女の日常
ドロシー視点です。
お疲れ様です、私はドロシーと申します。
元は不死の小迷宮と呼ばれるダンジョンの迷宮主に支配されていたこの身ですが、アルフ・クレイドル様と言う素晴らしい方にテイムしていただきました。
お陰で侍女として自由に伸び伸び働きながら暮らさせていただいています、サーヴァント冥利に尽きると言うものです。
では今日も今日とて、朝のお仕事を始めて行きます。
「おはようございます、旦那様」
「んぁ……おはようドロシー」
「サキ様のお力を借りて入浴の準備を終えております、エレン奥様とお入り下さい」
「ありがとうな、行こうエレン」
「はい……朝は身体の動きが悪くて助かります、ドロシー」
「いえいえ、これも私の務めですから」
旦那様は6人の奥様に加えて、2人の使い魔と肉体関係をお持ちです。
それでいて毎日誰かしらのお相手がいらっしゃいます、あの方で無ければ干乾びてしまいかねません。
しかも将来的にはまだお増えになるとか、男としてこれほどの甲斐性がある方がいますでしょうか?
お二人が入浴されている間にベッドを整えたり、部屋内を軽く清掃します。
ゴミは旦那様自身で処理できると言う事で、もっとお手間をかけていただいてもいいくらいにお出来になる方です。
「お、おはようございます……ドロシーさん」
「おはようございます、デクスター様」
旦那様の部屋を出た後で出会ったこちらの方はデクスター様、精霊にして侍従であり私の先達です。
基本侍女としての役割をこなしているだけの私と違い、クイーンランク冒険者の肩書も持つ凄い方です。
非常に尊敬していますが、何故か私の前ですとこの様に硬い表情をされます。
お仕えするのがコーデリア奥様であった筈なので、女性が苦手なのはありえませんし……。
いいえ、あまり気にしていてはお仕事に滞りが生じます。
変わらず共にお仕事に邁進しましょう。
「こちらは大丈夫ですね……デクスター様、配膳をお願いします」
「ええ」
お食事の用意もお仕事の1つですが、たまにサキ様がお作りの料理が提供される事もあります。
あの味はとても美味しくて、ついその日を待ち望んでいる自分がいます。
侍女としては余り感心出来ない感情ですが、それだけ旦那様の故郷の料理は素晴らしいのです。
現在私もデクスター様も、ワショクは研究中です。
「はたけおわりましたの〜」
「館の方のお仕事終わったよ!」
「ありがとうございます、サジェリア様、フィオナ様」
ドリアードのサジェリア様とエルダーリッチのフィオナ様、使い魔としての先達です。
それと同時に旦那様より寵愛を賜っております、私はその対象では無いとの事で示された格差があります。
ですが侍女として働く身としては、寵愛が無くて良かったと言えます……奥様方の様子からして、お仕事に身が入らなくなりますから。
「おはよう!」
「おはようございます」
「旦那様、おはようございます」
「デクスター、ちょっと」
「え、ええ……」
旦那様とデクスター様はたまにコソコソとお話をされています、皆様には言えない何か重要な事があるのだと思いますが……私には伺い知れない事です。
気にせず仕事を続けていますと、他の奥様方もやって参りました。
「御主人様!今日はワタシ右隣ね!」
「んでオレが左なアル!アーンな!」
「はーい、おいでおいで」
当番制で夜のお相手と食事での隣がお変わりになります、今日はアリス奥様とメリッサ奥様ですね。
メリッサ奥様は最近ルークランク冒険者になられたそうで、クイーンランクも推薦はいただいています。
再度のヴァンパイア撃破も終えた様ですから、後は依頼だけだそうです。
凄まじいスピード出世に、あの方の才能が感じられます。
「それじゃあ皆揃ったな、いただきます」
『いただきます』
侍従と侍女は別の卓で食べています、現状デクスター様以外の同僚は居ないため2人だけです。
「ど、ドロシーさんは腕を上げられましたな」
「いえいえ、デクスター様こそ素晴らしい出来ですよ」
「そう、ですかな……ははっ」
不器用に笑うデクスター様が何となく面白くて、心で笑っていたのは内緒にします。
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「じゃあ行ってくるから、後はよろしくな!」
「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様、奥様方……デクスター様、よろしくお願いいたします」
「もちろんですとも……い、行って参ります」
今日は依頼をこなしに行かれる様です、メリッサ奥様のクイーンランク昇格は今後の事も考えると急務だそうです。
こうなりますと屋敷に残る私は、黙々と仕事をする事になります。
しかし私はその時間が嫌いではありません、静かに仕事すると落ち着きますから。
「あっ、連絡が……」
ラミ様のお力でその分け御霊の様な存在が、手のルーンから現れます。
震える感覚があったので確認します。
どうやら聖女エリザベス様と第一王女アルバータ様は友人同士であり、将来的に旦那様の妻となられる方々から旦那様に連絡が送られた様です。
私も内容を確認する事にしました。
『霊果の“配達”求む、爺ちゃん司教のご機嫌とり』
『兄がハマってしまってな、こちらもお願いしたい』
霊果はハートリー王国シャーウッドの里にて、精人族によって作られている果実です。
しかしサキ様とサジェリア様が共同でどうにかなさった様で、屋敷でより高いクオリティで生産出来たようなのです。
それをラミ様の新しい能力とされる電脳配達で、契約により資格を得ているお二方の元へ送ったらしく……結果反応が良かったみたいです。
『すまんがこっちから送れん、ドロシー見てるみたいだから頼む』
『かしこまりました』
『『たすかる』』
霊果は自然の多い場所にあった方が味が落ちないそうで、屋敷の方に保管されています。
ここは私の出番ですね、館の裏庭の方へ向かいます。
「……ここですね、っと」
『お二方、数は幾ら必要でしょうか?』
『20個』
『あの感じ50は欲しい』
『王様ハマりすぎだろ……』
『かしこまりました』
必要とされた方を選択し、注文された量包んだ霊果を分霊の中へと入れていきます。
……よし。
『届いた、司教感謝してる』
『こちらもだ、兄もこの事は忘れんだろう』
『今後の事考えたらどっちも仲良くしないとな……』
キングランク冒険者は国の推薦が3カ国必要であり、その上でラミト教から人格的に問題がない人物とお墨付きが必要なのだそうです。
その推薦の1つをオリファント王国からいただき、ラミト教の司教様からお墨付きを得る為……と言う建前で、仲の良い方に美味しい果実を届けてるわけですね。
実際は国王と司教のお心は既に掴まれていると思いますので、連絡を見る限りですが。
『慎重だな』
『司教、怖くない』
『本当ぉ?』
「ふふ……本当に仲がよろしいですね」
普段遠く距離が離れていて会えないからこそ、この様に繋がりを求める。
それが実現できる旦那様の神器の方々は、本当に別次元の存在です。
無論旦那様が素晴らしい方だからこそ、サキ様もラミ様も素晴らしく成長されている訳ですから。
「では本来のお仕事に戻りましょう」
それから静かな中で黙々と掃除や整頓を進めて行きました、皆様がいつでも帰ってきて大丈夫な様に……揺り籠の様に安心できる家、クレイドル家を作る一部に私も含まれている。
旦那様が以前私に言って下さった言葉なのです、ならばその言葉に相応しくしてみせましょう。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、旦那様、奥様方、デクスター様」
「も、戻りました……ドロシーさん」
「ええ」
これからもそうありたい、そんな誓いを心でひっそり立てているのでした。




