別れと帰国
近衛騎士団と別れてから5日ほど経った今日、無事に受け入れる準備が整ったと報告と迎えに来た。
と言うより、コレット姫に付き添いで2名が来たと言うのが正しいか。
「すぐにでも会いたかったんですもの……もちろんコーデリアによ?」
「アッハイ」
こんな事言いながら腰に触れてくるの、この人。
年上かつ若々しい人にアプローチ、ナタリアさんも遠慮なくなったし。
帰ったらベティさんも待ってる、このままじゃ俺年上好きになっちまうぞ……別に元から好きやったわ、学校の先輩や先生イイなってなってたこともあるし。
ともかくそうなった以上、向こうでクイーンランクへの推薦も貰うことになる。
証言するセドリック里長と契約精霊のモーガンと俺に付いてくるメリッサ以外の精人族と、シャーウッドの里とはここでお別れだ。
「勇者様、我らが里をお救いくださりありがとうございました!」
「この事は子々孫々語り継ぎますので!」
「まぁいつかエルフを携えた俺以外の人間が現れる時もあるでしょうから、そう言う時は“勇者”を教えてやってください」
『はい!』
こちらは元々里に暮らしてた方々、聖剣と勇者の概念を知り尊んでくれている。
俺じゃない本当の“勇気ある者”が現れる、そんな時も来るのかもな。
「あの極悪人から救い出してくれて、心より感謝を!」
「我らの為にお力を使ってまで家屋を建ててくださった事、生涯忘れません……!」
「ここの霊果が好きなんで、また来た時は歓迎してもらえたら嬉しいです」
『是非来てください!』
「その時は、ウチの霊果食べてくれていいんで……!」
「ごめんなさい、気持ちは受け取っとく」
こちらが里以外のコミュニティから移り住んだ方々、ブライズとメイナードによる拉致被害者でもある。
あの後里の一員になりたいと、入って来たばかりの者たちもいる。
慣れるまで大変だろうが、自分で選んだ道……頑張ってほしい。
「ついに行く時が来たデスね」
「解呪終わった後の水晶は結局全部貰ったけど、本当に良かったのか?」
「そう言うのは思い出しちゃうから残さない趣味デス、それにただ消したら勿体無いから誰かに上げた方が良いデス」
「分かった、ありがとう」
「ん…………また来るが良いデス」
大精霊クリスタル、何だかんだまったり会話して仲良くなった間柄だ。
最後もナデナデしたけど素直に受け入れられたし、大分懐かれたのかもしれない。
俺を“揺り籠”として彼女を中に入れて回復する……それが始まりだったわけだ。
色々拗れて面倒になったが、同時に聖剣エルフが生まれるきっかけにもなったんだ。
結果的に良いことだったんだろう。
「行くわよ、アユム!」
「ああ、分かってる!……また会おう、シャーウッドの里」
こうして手を振り、里を後にした。
ハートリー王国の王都、ハーシェルを目指して。
*************
罪人であるブライズ、そしてメイナードの裁定結果はスムーズに出た。
物的な証拠が山程あったし、実際に被害にあって交易を絶っていた精人族側からの証言もあったのだから。
ブライズに関してはラミト教による検査で、改めて妊婦であると公的に判明。
メイナード自身が自分の子供であると声高に証言する等、場が荒れたが無事判決が下った。
ブライズは犯罪奴隷として無報酬かつ自由がない環境で、薬師としての仕事を強制的にさせられる。
ただ妊婦であるため、安定期までは相応の扱いをされるだろう。
一方メイナードは極刑を言い渡された。
理由はブライズの共犯以外に、余罪がポロポロ出てきたからだ。
主に王都内での精人族への暴力沙汰や、ニックバスを用いての人族女性に対しての性的暴力が“複数”あったみたいだ。
収納の肥やしから重要証拠へ早変わりのニック、全部終わった後手元に戻されたけど複雑なんだよな。
「それではこれより罪人メイナードの処刑となる、言い残す事はあるか?」
そして現在、処刑場にメイナードは引っ張り出されていた。
既に幾つも鋭い視線を投げかけられている、その中にはメリッサとナタリアさんもいる。
もしナタリアさんが初めて会ったメイナードを拒絶していたら、その時は性的暴力を一方的に振るわれていたのだろうとか思うと俺もむかっ腹が立つ。
コーデリアが目をつけられたのも上乗せな、デクスターさんも睨みつけているし。
それでありながら、奴は別に意に介した様子は無かった。
「神よ!どうか我が子が人族である事を望みます!精人族等という弱くて穢れた種でない事を強くッ!望みまぁすッ!!」
この場の誰もが唖然としていると言うか、呆れると言うか……こんな時までそれが最優先なんだな、と感じている。
このこだわりようは最早病気レベルに見受けられるそれであり、頼むからまともに生まれ直して欲しいと切に思う。
そうして口を塞がれた後、その首は討たれた。
後に調べた所、紅髪緑目である“精人族”の男の子が生まれたそうだ。
一念岩をも通すと言うが、必ずしもそうなるわけじゃない。
結局奴が願った夢が果たされる事は、決してなかったのである。
*************
「それでは、“冒険者アルフ殿”!」
「はっ!」
「こちらがハートリー王国よりのクイーンランク推薦状だ……大変お世話になったわね」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
今回の件で無事目的を果たすことが出来た。
セドリック里長達の証言と推薦、コレット姫率いる近衛騎士団の口ぎきもありしっかり獲得出来た。
メリッサに関しては才能はあっても冒険者になってないので、一から始めていく事になっている。
まぁメリッサなら、そう遠くなく追いつけるだろ。
と思ってたら耳元に顔が寄ってきて。
「いつか正体が公になった時、また会えるのを楽しみにしてるわね!」
「オウフ」
と、友達として?
娘のいい人として……?
それとも……。
「メリッサ、アルフ殿のもとでもしっかりやるんだぞ」
「当たり前だろ!ア……ルの側にいられるんだからさ!」
「デクスター殿、同じ精霊として共に精進しようぞ」
「モーガン殿には不覚を取った、この経験を忘れず鍛錬に励ませていただく」
セドリック里長とモーガン老ともここでお別れ。
公的な場では普段のアユじゃなくてアル呼びになる、名前似てるから紛らわしいのはすまん。
モーガン老とデクスターさんは爺精霊として、通じ合う部分もあるんだろう。
「自分の気持ちに嘘はつけないとは言え、良いのかい?」
「元より一人二人欠けただけで回らない様には出来ておりません、ご心配なく」
「人材育成、問題なく進んでるみたいだな」
「貴方様のドレイク商会ですから」
「クククッ、そうか」
俺は初めましてだがドレイク商会ハートリー王国支部取締役の“フィリップ・マーケット”さん、親友に負けない有能オーラがある。
あっでもちゃんと奥さんも子供もいるから、エイブラハムより男としてしっかりやってるわ。
「ナタリア様、どうかお幸せに」
「あ、ありがとう!」
フィリップさんの視線がこちらを向く、俺も引き抜きした以上答えなきゃな。
「必ず幸せにする」
「アルフくん……!」
「ご馳走さまです」
どうやら合格した様だ、にっこりと頷いてる。
「後は会長が良い方を引っ掛けて欲しいものですがね?」
「さて、帰るか」
「……頼みます」
「アッハイ」
デクスターさん含めて、俺が探した方が良さそう……うん。
「それではこれで失礼します、また何処かで!」
「母さんまたね!」
「ええ、アルフと幸せに!」
再び手を振っての別れ、短い間に色んな人に世話になった。
さぁ帰ろう、皆待ってる。
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「ね、ねぇそろそろかな?」
「馬車な事と、手紙が送られてきた場所考えたら今日だろうよ」
「そ、そうだよね……アルフくん」
「本当にハートリー王国から推薦貰えてきたんだもの、そんなに心配いらないわよ」
オリファント王国のパターソン領都ポール。
夕方に差し掛かる時刻に、仕事を打ち切ってベティ達マスター家族は待っていた。
僅かな期間の間に起こった問題を解決、国の推薦と新たな仲間を得て帰ると言う。
恐らくその主の正体を知らなければ信じられない手紙の内容だったが、3人とも納得していた。
「帰ってきたらまずどうするよ?」
「沢山甘えて新しい仲間の方に挨拶して……沢山甘えて……」
「つまり甘えたいのね、女として気持ちは分かるわ」
「ジェーンも治ってから暫く甘え通しだったからな!」
アルフを好きになってから、彼女は会えない期間が続いた。
ベティは悶々とした日々を過ごしていた、だからこそ甘えたいと言う強い欲求が頭を支配していた。
「あっ、あれよ」
「おう、聞こえた!アイツ元気そうだなぁ!女の割合も増えてる辺り隅に置けない……ってもう走ってら、ベタ惚れだな」
「そりゃあ私達の娘だもの」
「互いにってか……その通りだな!」
愛する男の下へ走る娘の姿を、ウォルタージェーン夫婦は肩を抱き見守った、微笑みを浮かべながら。
「アルフくん!!」
「ベティさん!!」
そして2人もまた抱き合った。
英雄の帰国を、夕陽が照らしていた。




