クリスタルとブライズの過去
アルバータとの一夜の翌日、メリッサと揉め……る事はなかった。
寧ろ……。
「オレ完全に舞い上がっちゃって……潰れてごめんな」
と謝られた。
俺としては乗せちゃった以上責任もあるから、今日は絶対メリッサと夜を過ごすと約束した。
あっ、お酒はなしでね。
彼女はキュアポーションで二日酔いを治して、頬にキスしてやると元気に自宅の霊果の手入れを済ませに向かった。
「姉上、やるね……!」
「虎視眈々と機を狙っていたからな、これからは仲間だぞ」
「うん!あっ、折角だから今日は稽古したい」
「良いだろう、今のアリスの実力は直接交えて確かめたい」
アルバータは姉妹の絆を深めてた、今後は姉妹でそういう事をって流れもあるんだろうな。
肉体強化の出番があるかもしれない。
「御主人様!」
「ふふっ、私もだぞ」
「はいはい」
出ていく前に2人も頬にキスをした、メリッサにしたのを見て羨ましかったのか。
見送ってからまず冷静になって自分が今すべき事を考えて、呪いを電脳干渉して無くす作業だと思い出す。
行くか、大精霊クリスタルのとこ。
「おはよう揺り籠、ゆうべはお楽しみだったデス」
「おはよう大精霊、それについては否定しないさ」
「からかい甲斐が無い奴デス」
「散々からかってる姿見てたし」
師匠ポジのデクスターさんと親友ポジのエイブラハムが遊ばれていた……あの2人が他人の恋愛にはノリノリなのに、自分の事だと弱すぎたのもあるけど。
「邪獣改のお祓い済ませに来た」
「こっちデス」
社の様になっているクリスタルの住処は、何となくパワースポット的な効果がありそうな雰囲気してる。
座敷わらしみたいな、巫女さんみたいな……そんな彼女の雰囲気も相まって“日本”をイメージさせる。
「これデス、一番デカいし禍々しいオーラデス」
「確かに、こりゃあ時間かかるわ」
あの時封印した水晶が最奥に安置されていた、量と濃度がエグくてデカくせざるを得なかったみたいだからな。
よし。
「サキ、ラミ!」
「出番だぁ!」
「作業だし!」
ラミを構えて電脳干渉開始、視界の隅に『残り9時間59分〜』って表記された。
マジでそれだけかかるんだなぁ。
「暇だし何か話さないか、クリスタル」
「……別に良いデスよ」
そう言って横にちょこんと座ってきた、身長は145cmくらいか。
この小柄な見た目が座敷わらし感を増させている、だが“大”精霊だ。
「クリスタルも元は普通の精霊だったのか?」
「そうデス、そしてここよりもっと東の国の生まれデス」
東……。
「オリファント王国?」
「そこより東のジンデル大公国デス、まぁ当時は違う名前デスが」
おお、新しい国の名前だ!
「当時とは違うってのは何かあったのか?」
「軍神ガスト信仰の国があって、オリファント王国に戦争を仕掛けたデス」
歴史は繰り返す。
「リーデン帝国と言い、軍神信仰国は戦争やりたがるなぁ……」
「下手にうまくいって大きくなると起こる、発作みたいなもんデス」
「辛辣ゥ」
でもまぁ合ってると思う、自分達は強いから何処まで行けるんだって歯止めが利かなくなるのだろう。
その末路がリーデン帝国。
「昔のオリファント王国は国力が低く、武力で押されていたデス」
「今でこそ強い国だが、そう言う時代もあるんだなぁ」
「そしてオリファント王国は、対抗する為に異世界召喚を決行したデス」
「えっ」
急に横っ面殴られた気分になるじゃん、ここで召喚者だと!?
「軍神の神器を授かった召喚者“ケイジ”は気ままに暴れ連戦連勝、繁神の神器を授かった召喚者“ランマ”は守り支えて強い国の基盤を整えたデス」
「方向性違うけどどっちも大活躍だ……」
これが本来あるべき姿なんだなって。
「そしてランマが私を生み出したデス、そして契約したデス」
「なぁるほどぉ!」
そう繋がるのか!
「当時のオリファント王国のお姫様から貰ったお守りの水晶に、魔力を注いで生まれたから“クリスタル”だそうデス……改めて安直デス」
「そのままだけど名前としてはアリな分類だ、そう邪険にしてやるなよ」
スイショウって名前だったら、流石にちょっとどうかと思うけどさ。
「その後ってどうなったんだ?」
「ランマは戦争に勝利したあと英雄と評され、初代ジンデル大公として君臨してたデス……老衰で大往生だったデス」
当時を懐かしむ表情をするクリスタルは、長い年月を生きて来た者特有の雰囲気があった。
穏やかで遠い目をしている。
「それからは特に誰かと契約する事なく、この大陸でうろちょろして……最終的にここにいるデス」
「それで大精霊になれるのか?」
「たくさん契約をすれば良いものでもないデス、でも契約を重ねた方が強い精霊になりやすいデスかね」
「ふーん」
サキが作業中だから、調べられないがそういうもんなのか。
いつかエルフも大精霊になれるのだろうか……。
あっ、そう言えば。
「ケイジってその後は?」
「自由と喧嘩が大好きな奴デス、『俺様より強い奴を探す』と船に乗って大陸の外へ向かったデス……その後は知らないデスね」
気持ちが良いタイプの戦闘民族だったみたいだな。
大陸の外と関わる機会があるかは知らないが、そのレベルなら嫌いじゃない。
その後は他愛もない雑談が主だったけど、“ランマ”と自分の親和性のお陰か少し距離が縮まった気がした。
*************
作業に関しては半分くらいに区切った、焦ってないから明日にもう半分をする事に。
そしてその分得た力の塊なのだが……。
「エルフが貰いなよ、ボク達は自然成長を待つ段階だからさ!」
「急激に成長しすぎたから、アンタの成長を追いつかせるし!」
「姉者達、ワレは感謝するぞ」
との事で聖剣の精霊エルフ強化週間らしい。
ってか力の塊って精霊も強化出来るの?
「エルフは生まれ持って神聖性がある精霊だよ、武器の形状をしててそのあり様は神器に限りなく近いでしょ?」
「それで力の塊を糧として成長できるらしいし、前から邪獣を浄化した時にゲットしてたし」
「えっ?」
思わずエルフに顔を向けても仕方ないだろ?
まぁ剣だから意味ないけど。
「ナンジから特に聞かれなかったが故な」
「そっかぁ……」
急に新技の血茨召喚を習得してた理由が判明した、こう言うとこ不器用ね君。
とりあえず力の塊をやった所……。
「力が、溢れてくる……!」
「「「おお……!」」」
見た目で言えば紫色が刃の中央に圧縮されて濃い紫になり、刃先が白金に変わった。
だが何より能力が全体的に強くなっている、情報解析で分かる。
肉体強化が他者にもかけられる様になった、祝福完治は消費魔力を増やして範囲回復出来る、冷気放出は威力上がって実戦的な運用が可能になり、血茨召喚は魔力も吸収でき……。
ニックバス、これまでありがとな。
いつか俺以外にも使える人間が現れるかもしれない、それまで収納の肥やしになってくれ。
「とりあえず現在ある技が強化されたな」
「それをアタイの前で態々話すのは、嫌がらせかい?」
そして現在は屋敷に作った収容部屋で寝転がってるブライズと面会している。
ご飯はあげてるしお風呂にも入れてるから、快適に過ごせてるのだろうと確認をね。
「退屈だろうと思ってね、話しに来ただけさ」
「ハンッ、まぁ確かにね……だがアンタは随分甘いね、こんな良質な環境に罪人を置くなんざ」
言ってる事は合ってる部分もある、沢山人を殺した罪人に対しては良質な環境だ。
……だが実はこれにも理由がある。
「甘いとは思わないよ、必要だからそうしてるんだからな」
「必要?そりゃどういう意味だい?」
興味が湧いた様でこちらに視線を向けて来た、それじゃあ真実を話すか。
「ブライズ・ド・リーデン……それがお前の本当の名前だ」
「……バレてたか、いやあんなデタラメな神器がありゃ調べ上げるなんざ簡単か」
観念したと言った様にガクッと頭を落とすブライズ。
情報解析で知って驚いた、こいつはブランドルやブラッドと年が離れた腹違いの妹だった。
紅髪紅目とは言え、アレらの血縁者がハートリー王国にいるとは思わなかったからな。
「何故ハートリー王国に?」
「連合が出来た時にスパイのつもりで潜り込まされたのさ、アタイはもう野望があったからどうでもよかったけどね」
「宰相クラーク辺りか?」
「当たり前だろ、あの兄がスパイなんて狡い真似しようとすると?」
確かに、真正面から叩き潰すタイプだからな。
「お前が強い存在を作り上げる事を目指して固執したのは、そのまま強い存在である兄ブランドルに対する反発か?」
「意識してないとは言わないよ、だがアタイは作り上げた最強の存在がより素晴らしい繁栄を望めるって本気で思ってたんだ」
「そうか、そっちが目的なんだな」
生まれが皇女だが努力してハートリー王国王宮薬師になり、禁書庫に最強の存在へのヒントを探りに入った。
結果的に失敗してクビになったが、コネから別の情報を得た……それが邪獣の存在。
「過ぎたるは及ばざるが如し、邪獣で分かっただろ?強さばかり望んでも身を滅ぼす」
「……」
「だからお前は死なさん、理解したなら次は真っ当な方向性で研究して役に立って償っていけ」
少なくとも努力で王宮薬師になれる才能がある、間違った方向性だが邪獣改みたいな強い存在を生み出せた、ならばもっと人の為に役立つ何かを研究して生み出せるかもしれない。
ただ殺すより、その才能を奉仕に使わせた方が建設的だ。
「ハハハッ!だから甘いんだよ!アタイがやった事をハートリー王国が許すはずがないだろ、もう死ぬのは確定なんだよ!!」
死を覚悟してて完全に諦めムードだな、だがな。
「いや、お前は死なない」
「……何を根拠に言ってやがる?」
「……気づいてなかったか」
「あ?」
情報解析で驚いた事はもう1つある、正直愉快な事ではないが。
「お前は妊娠している、メイナードの子供だ」
「────は?」
今日初めて大きく動揺したな、正体を当てられてもこんなに目が泳ぐ事は無かった。
「アタイが、あのクソ野郎のガキを……!?」
「神器サキの能力なら調べられるからな、間違いない……そして繁神信仰の国家は“妊婦を死刑に処さない”、繁栄の象徴だからな」
「あっ、ああ……そう、か……」
顔を抑えて崩れるブライズ、何とも言えない静寂が部屋に訪れる。
暫くして。
「最悪だよ、本当に……多少使える奴を、やる気にさせる為に、身体使ったら……こんな……」
「混血が多いんだから子供は普通に出来易いのは分かりきってる、避妊しないで好きにやらせてたらそうなるさ」
「ぐぅっ……!」
嗚咽を漏らすブライズ。
死ぬと思ってたのに死なない事が分かった、そしてその理由が余りにも自業自得だった。
彼女が抱いているのがどう言う感情なのか、グチャグチャ過ぎて最早分からない。
「そうだ、アンタなら腹の奴だけなんとか出来るだろ!やってくれよ!」
「何故だ?死なずに済むぞ、良かったじゃないか」
「冗談じゃない!じゃあいっそアタイを殺せ!」
完全に錯乱していた、でもこれは後で分かること……だからここでちゃんと伝えないといけない。
「このバカ!!言ったろッ!甘くない、必要な事だからそうしているとな!」
「うぅっ!」
「自分のやろうとした事が!掴めると思った野望が!徒労に終わったと気付いた途端に、降って湧いた罪悪感から死に逃げようとしやがって!!ふざけんな!!」
「ああッ!あああぁぁ……ッ!!」
泣き崩れるブライズ、哀れとは思わん。
幾らでも真っ当な道に進めたのに、1人で突っ走ってこのザマだ。
「……死ねない、何でだい……!」
「舌を噛もうとでもしたのか?神器ラミで永続の暗示をかけてるからな、『お前は自害出来ない』と」
「反則野郎ォ!お前が死ね!」
「嫌だね、やりたい事が沢山あるんだ……じゃあな、“絶対に生きて”もらうからな」
「うぅ……うううぅぅ……!」
俺が部屋を出ると、メリッサがいた。
「お疲れ様だな、アユ」
「メリッサ……」
先ほどまですっごい嫌な奴になってたから、自分だけ若干気まずい。
でもメリッサは穏やかな顔をして、俺に抱きついてきた。
「オレの立場じゃ安易に死ねって言いたくなる側だからさ、アユにしか出来ないことだよ……だからありがとな」
「感謝される事でもない、結局これも自分でこの形の終わり方が良いって選んだだけなんだから」
「ならオレが勝手に感謝してるだけだ、良いだろ?」
「……分かった、良いとも」
「えへへっ!」
さっきまでのから癒やされる!
メリッサを抱きしめ返すと、鼻にいい匂いが伝わってくる。
「実は俺も疲れたんだ、慰めて貰っていいか?」
「もちろん、オレはアユの恋人だもんな!」
「ああ、好きだよメリッサ」
「おお、オレも……好き、んむっ」
俺はメリッサを抱えて、自分の部屋に向かった。




