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水筒と魔力と精霊

召喚された翌日。

コーデリアの呪いによる影響を考慮し、朝食は昨日の夕食と変わらず冷え冷えなメニューだが……違う所もある。

彼女との距離が20歩分から5歩分くらいまで近付いた場所で座って食べてたし、無言で静かだったのが和やかに会話出来ている。

そして……。


「アユムの神器から出たお水、身体が楽になるしとっても美味しい!」

「うむ!」

「いやぁ〜、良かったよ」


神器ちゃんで生み出したお水が大変好評である。

実際飲むとスッキリ爽やかで飲みやすい、軟水かな?

そして同時にコーデリアに向け呪いが起こした身体に対する負荷を、明確に分かるレベルで(やわ)らげるのだ。


「昨日は身体が勝手に動く事も無かったし、ぐっすり眠れたよ!」 


実は倒れてから起きたのはまだ夜8時くらいだった、つまり放っておけばまた呪いの悪影響が出る。

そう読んで。


『ハァ……ハァ……魔力を戦いで大分消耗しちまってるから、ちょっとしか出ないけど飲んでおいてくれ』

『う、うん!わかったわ!』


グラスになんとかチョロチョロと注ぎきると、俺の身体も息切れしてたが無事に彼女に飲んでもらえた。

そこで初めてコーデリアは、普段から掛かっている呪いの負荷の存在を思い出したらしい。

 

『私の身体って、こんなに軽かったんだ!ありがとうアユム!』

『の、ノープロブレム……!ゼェ、ヒィ……』

『うむ』


そこからは俺は魔力カツカツ身体フラフラで、彼女は呪いの影響を軽減出来て深く安全に眠れたと言うわけ。


「流石にそれを飲んだだけでコーデリアの呪いを祓える強さはまだないけど、神器は成長する物だから今後に期待しててくれ」

「そっか……な、仲良くしたいアユムが言うなら信じるわね」


よし、楽しく話せたな……あっ、そうだ。

今後を考えるからこそ、話したい重要なことがあったな。


「えっとさ、コーデリアは俺がこの世界の人間じゃないのは分かってると思うんだが」

「ええそうね、こんな力を持ってる神器を呼び出して扱えてる訳だし」

「だからこそ、この世界カノスでは存在してる“魔力”の概念を良くわかってないんだ」

「あー……」


だよね、当たり前な事だとそこ失念しちゃうよね。

俺も地球でファンタジー作品履修してたり、今回呪いに襲われたから咄嗟(とっさ)のノリで神器ちゃんスプラッシュとか出来たみたいな感じでしかない。

マジでギリギリ何とかなっただけで、負ける危険性を(はら)んでいたわけだし“知識”が欲しい。

恐らく暴君側に引き込まれた熊倉(チョロ)力矢(ヤンキー)は、今頃戦力化に向けて“綺麗どころ”ハーレムお勉強会でもやってる頃であろう。

一方で俺は呪いに処分されて一体化したか、生き残ってても“いらない物”として隔離出来ているから別に構わないってとこかな。

今に見とけコラ。


「どうか俺に魔力について教えてください、コーデリア先生!」

「せ、先生!?」

「君は信頼できるし、それに……他に頼れる人もいないっしょ?」

「え?あっ……」

「……うむ」


すまねぇ、デクスター語はさっぱりなんだ。

そんな言語はないだろうが、どのみち「うむ」だけでは内容が入ってこないやん?

……それにお胸がおっきい美少女と、仲良くお勉強したいのが本音である。

THE・下心、フルプライス。 


「わかったわ!私が教えてあげます!」

「よっ、先生!」

「うむ!」

「……とりあえず食べ終わったから、食器片付けてからね」

「あっ、はい」

「うむ」


この館には使用人はおらず、いるのは俺とコーデリアとデクスターさんのみである。

掃除や洗濯はデクスターさんが担当しているが、食後の片付けくらいは俺達もやるべきか。




*************




魔力の授業は書斎で開始されることとなった。

その手の文献があればデクスターさんでも教師役出来たのでは、と思うかもしれないが無いらしい。

コーデリアがクソ皇帝に押し込まれている場所って事は分かるが、この館も大概分からん事だらけだ。


「まず魔力は変質する前の段階、“魔素”と呼ばれる物がこの空気中に浮いているわ」

「魔素、変質、空気中にある……ふむふむ」

「そのままでは魔素は力ない物だけれど、生物が徐々に魂に取り込んで魔力へ変質させて行くわ」

「魂に?」

「そう」


魂ってすげぇ。

神器ちゃんを溶け込ませられるし、魔素を魔力に変える事も出来るのか。


「魔力は何処に貯まるんだ?」

「それも魂よ」

「へぇーっ!魂多才だなぁ!」

「生きとし生けるもの全ての根源ですもの、当然よね!」


ワォッ!デケェッ!!

と思わず揺さぶられしものへ視線を向けてしまった。


「……さ、流石に見過ぎじゃない?」

「すいません」


いやこれどう考えても反則だろ……俺のシマじゃノーカンだから、まぁ一般論でね?

……兎も角魔力は魂の中で魔素を徐々に変換していって、そのまま器の様に貯め込んでもおけるカノスに生きる生物の根源なのだ。


「コホン……それから魔素を魔力へ変質させるには魂に取り込まれるだけじゃなくて、魂の中にある“霊滓(れいし)”と混ざる必要があるの」

「おお、初めて聞いた」

「アユムには馴染みない言葉よね」 

「ああ」


れいしと言う響きだけなら聞いたことはあるな、霊視とか。

しかし魔力の元は魔素とその霊滓な訳だから、重要案件だな。


「私が習えていた範囲では、霊滓は最初様々な学説があったらしいのよね」

「例えば?」

「魂の垢みたいな物説、食事に含まれてる説、神々の贈り物説とかまであったわね」


2つ目までは分かるが、流石に最後のは無理筋すぎる。

完全上位者たる神々が、いちいち数多いる下位の生命体達にプレゼントフォーユーしてるとでも。

身の程を弁えよ。


「じゃあ実際は何だったんだ?」

「えーっとね、極々小さな“精霊”の死骸らしいの」

「……ええっ!?」

「あはは、ビックリだよね」


そらビックリさ!

まさかあのファンタジー作品じゃ重要な役割果たしがちなあの“精霊”、その死骸が生き物の魂の中に!?

ワッツダット!?


「その精霊達は緑豊かな場所で沢山沢山生まれて、空気中に魔素などと一緒に漂っているの」

「なる、ほど……植物から生まれるのか?」

「この精霊に関してはそうね、そして生き物の中に入って1日から2日ほど過ごして短い生を終えるの」


えっ、何それ儚い。

地球にも短い期間しか生きれない生物多いけど、この精霊達も同様なのね。


「その小さな小さな精霊達の死骸だから、霊滓って名前なんだな」

「そうね」


……精───。


「うむ」

「おおう!?どうもデクスターさん」

「ありがとね、デクスター」

「うむ」


アホな事考えてたら、デクスターさんのディフェンスが光る。

カップを置いてくれた、これはそういう事ね。

来てくれ、神器ちゃん!


『デキル』


俺はコーデリアと自分の分を置かれたカップに、神器ちゃんウォーターを注ぐ。

俺は心の中でラミト様と神器ちゃんと精霊達に、表では二人に感謝を込めて飲む。


「ありがとうな、二人共」

「うむ」

「ううん!こちらこそ!……えっと」


ん、何か言いたいことがあるのだろうか?


「い、いただきます!」

「!?……ど、どうぞ召し上がれ」

「うん!」


俺の世界の挨拶を、態々(わざわざ)意識言ってくれただとォ!?

良い子や……ごっつ良い子やないか!

感動した!


「うむ」

「分かってくれますか、デクスターさん」

「うむ!」


流石だ、デクスターさんは大変紳士的なお方──。

──でももうここらで聞くべきではないか?


「ところでデクスターさんって何者なの?」

「えっ?……あっ、言ってなかったね!」

「うむ」


デクスターさんからは知りようないし、最初に指示出ししたクラーク宰相から聞かされるわけないし、コーデリアは色々余裕なかったもんな。

そら仕方ない。


「デクスターは私が契約している精霊なの」

「うむ」


なん、だと……?


「精霊なの!?」

「うむ」


しかも契約精霊、コーデリアの!

美少女な精霊使いと老紳士な精霊のギャップッ!

良いじゃないですかぁ……!


「じゃあ、デクスターさんが呪われないのは」

「呪いは精霊には取り憑けないのよ、不浄な物は弾いてしまうわ」

「じゃあ、ずっと「うむ」としか言えないのは」

「私の魂の魔力容量が呪いに蝕まれて、少ししか契約の対価を渡せないから節約する為に……本来はもっと話してくれるし、強くてとっても頼りになるわ」


そうだったのか!

しかも強いのかぁ……ッ!!

呪いのせいで対価が減っても契約を打ち切ったりせず、側にいて支えてくれてたってのかよぉ!


「紳士ッ!デクスターさん、あんた圧倒的紳士だよッッ!!」

「うむぅ」


絶対「その様な大層な者ではありませぬ」って言ってる!

これはもう、こうせざるえんよ。

俺はデクスターさんに手を差し出す。


「共にコーデリアを助け、支えていきましょう!」

「うむ!」


ガッシリと手を握り合う、男同士誓いのシェイクハンズ。

今日から俺達は同士、彼女を害獣(ブランドル)雑菌(呪い)から救うのだ!


「え、えーっと……二人も仲良さそうで何よりね!」

「おう」

「うむ」


漸く真実を知れて、心から信頼出来てスッキリしたぜ。




*************



何事もなく夕飯を終えました、俺は横になってます。

ここは呪いと精神世界にいて倒れてた時も、その後改めて睡眠取った時も使っていた寝室だ。

エントランスホールの正面階段を途中の踊り場で左へ上がり、すぐある扉がここだ。

因みにコーデリアの寝室は隣のそのまた隣のお部屋、あくまで呪いに気を付けての配置だ。

嫌われているなど、その様な事は御座いません。


「ところで魔力容量って増やせれるの?」

「魔力を沢山使ってから自然回復で増やせるわよ、増える量は個人差があるそうだけど」

「なるほど」

「うむ」


なら俺は呪いとバトってれば自然と増えるんだな、何処まで個人差……つまり“才能”があるかは知らないが。

でもまぁ、そこは関係ないわな。

やる事に変わりはない。

呪い潰すべし、慈悲はない。

俺のベッドの横で椅子に座っているのは、信頼してくれてはいてもやはり心配そうなコーデリア。

そしてその後ろで変わらぬ表情で立っているデクスターさん。


「それじゃあそろそろ始めるよ、手を」

「うん……アユム」

「ん?」

「頑張って!」

「うむ」


ふふふ……よーし、頑張っちゃうぞ!

頷いてコーデリアのスベスベお手々と握りあう。

今です!

神器ちゃん頼む!


『デキル』


その無機質な声が頭で響くと────。


『ってはや!!』


────もう、全裸。

そして精神世界に来ていた、元々可能だったのか“成長”して出来るようになったのかは分からない。

だがありがたい。


『何ダ、ココハ……?』


出たな、黒い球体。

今回は呪いの一部を千切って拉致ったから、理由もわからず困惑している様だ。


『どーも、呪いさん……アユム・ツツイです』

『ハ?アッ、ドーモ?』


不意打ちの挨拶。

どれだけ禍々しく恐ろしい存在でも、理解が及ばぬ事には混乱するのだ。

その間に神器ちゃんを手元に出し、蓋を開け、早々に構える!


『消えろ黒カビ野郎がぁ!!!』

『グワーッ!!?』


そう、こんなの雑菌だ……!

精霊に弾かれる不浄な存在だもんなぁ!

だから……ッ!


『俺達が全部、消毒してやる!!』

『デキル』

ハーレムお勉強会→お金で雇われた下級貴族の子女達が充てがわれているらしい


精霊→魔力がカノスに存在する物質と結びつく事で生まれる、強さや姿形に寿命など個体差がある


挨拶→大事、そしてされたら返さなければならない

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