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オレとアユ

メリッサ視点です。

オレは捨て子だ。

親父が里に捨て去って、じいちゃん達に拾われた。

オレを包んでいた布の内側に両親の名前が縫い込んであって分かったそうだ、迂闊(うかつ)だよな。

じいちゃんは本当にじいちゃんで、親父はじいちゃんの息子だ。

じいちゃんは親父は変わり者で常に反抗期みたいな感じ、“生まれついて精人族を嫌悪してる”……そんな人だったらしい。

だからオレは親父に捨てられたんだとは分かった、でも母親は知らない……人族って事だけは分かるんだけどな。


『メリッサ、今は忘れなさい』


そう言われて育った。

オレにはたまたま才能があって、魔力も多くあって魔法も結構使えた。

だから生きるのに苦労はしてないけど、代わりに少しずつ寂しさが募っていった。

そしてそこに黒き獣が現れて、皆戦うのに必死で……見知った顔が減っていく。


『どうして皆、置いてくんだよ……』


怒りと寂しさと悲しみがごちゃ混ぜになって、気を張ってても心が言う事を聞かねぇ……。

どうにかなりそうだった。


それが変わったのは、アユのお陰なんだ。

オレにとっての当たり前を褒めて、認めて、受け入れてくれた。

弱いのに強くて、穏やかなのに凄く勇気がある。

情けない奴だと思ってたのに、いつの間にか一緒にいたら頼もしかった。


『メリッサ!無事か!?』


深手を負って殺されかけたオレを助けてくれた。


『下がっててくれ、巻き込まれるぞ!』


目が覚めた後の初対面で心がささくれ立って煽ってたオレを、身体を張って守ろうとした。


『“可愛くていい子”のお前にこれ以上“傷ついて欲しくない”からだ!言わせんな恥ずかしい!!』


お、オレにこんな事言うなんて……本当に変なやつだ!

男勝りで生意気でそこらの男より頑丈なオレを……可愛いとか……いい子とか……傷ついて欲しくないとか……!

訳わかんねぇ……でも嫌じゃないんだ。

それどころか喜んでるオレがいて、自分まで変になった。


『メリッサ……』


アイツに名前を呼ばれる。


『頼む、メリッサ……!』


アイツに頼られる。


『メリッサの料理ウメェ……!』


アイツに喜んでもらえる。

それだけでオレの中で育ってた寂しさがどっかに行っちまった。

これがどう言う気持ちなのか分からない、でも今初めて不安になった。


『アシストします、トドメはどうぞ!“麗しきお姫様”!!』

『────ははっ!では“素敵な紳士殿”!遠慮なく!!』


オレはあの人みたいに、アユと肩を並べて戦えてない。


『オリファント王国第1王女“アルバータ・ド・オリファント”だ』

『召喚者でルークランク冒険者“アユム・ツツイ”です』


オレはアユの事、まだ全然知らない。

それを理解した時、言い知れない不安が襲ってきた。

だから握手する2人を見ながら、馬を連れて呆然としちまったのは仕方ないことなんだ。





*************





「まさかオリファント王国の姫君とは、里の者を救っていただき感謝を」

「「「ありがとうございます!」」」

「礼には及ばない、騎士としてすべき事をしただけだ」


あの後オレ達は里に戻ったが、当然ながらお姫様は歓迎された。


「魔剣を扱われるのはかなりの実力がなければ不可能だって聞きました、大変尊敬します!」

「非才の身だが、その思いに身合える様に精進しよう」


魔剣は強い分扱うのが困難……本当にすごい人だ。

分かってるんだ、そんな事は。

でも、なんかモヤモヤするんだ……!


「アリスも尊敬してましたからね、人を惹きつける物を持ってるんじゃないですかね」

「貴方を慕っているからこそ、アリスはついて行ったのだろう……正直どちらに嫉妬すべきか悩ましいよ」

「またまたぁ〜」

「本気だぞ?」


この感じだ!

あの時自己紹介してたし、初対面だよな!?

なんでそんな距離近いんだよ!

しかもアユは仲間にお姫様の妹がいたらしいし、そんな事聞く機会……。

あるわけ、ないよな……ただの同居人だしよ。

……ムムムッ!


「じいちゃん」

「どうした、メリッサ」

「あのアルバータ姫って何処に案内すんだよ、場所あんのか?」

「それなのだが、可能ならばアユム殿と同じ場所をと頼まれている……」

「なっ!?」


じゃあオレん家って事じゃねぇか!!

ふ、2人っきりの家に……お姫様が……それ邪魔なの、オレみたいじゃねぇか!

い、嫌だ……オレ、そんな……!


「メリッサ、どうした?」

「むっ、何かあったのだろうか?」


やめろアユム!

そんな目で見てくんじゃねぇ!

オレ、お前にまで捨てられたら……オレ!!


「い、嫌だぁ!!」

「メリッサ!?」

「ど、どうした!?」

「メリッサ!!」


オレは逃げ出した、とにかく誰もいない方へ!

走って走って走って走った!

少しでもアイツの顔見たら、何やらかすのか分かんなかったから……!


『かなり繊細なんだな……』


改めて自分の種族がどう言う特性を持っているのか、アユの言葉を思い出して理解されられる!

オレ、こんなに弱かったんだ!


「ハァ!ハァ!ハァ!ハァーッ……!」


体力が切れて立ち止まり、激しく呼吸する。

そうしている間に冷静になってきて、自分はとても失礼な事をしちまったと思えてきた。

別に誰が悪いわけでもないのに、オレが勝手に不安を爆発させて逃げ出しただけなのに。


「何やってんだろ、オレ……!」


アユはいい奴だ、捨てるなんてするわけないのに。

お姫様だって間違いなくいい人だ、俺だけのけ者にする感じは無かった。

ただオレが暴走しただけ、バカだなぁ……ホント。


「……帰って、謝ろう」


いつの間に里の外だ、心配させちまってるよな。

そう思って歩き出した。


「何故、よりによってお前なんだ……!?」

「え?」


急に声が聞こえて振り向くと、そこには精人族がいた。

でも里じゃ見たことない人で、そして本能的に自分の中で警鐘が鳴り響いていた。

早く逃げろと。


「だがまぁいい!未練を断ち切る第一歩だな、良い機会としよう!!」

「なっ!?うむぐっ!!?」


逃げようと頭で思っても、疲れ切っていた身体が思うように動かなかった!

奴が持っている杖の先端で地面を突くと、下からウネウネした触手が出てきて巻き付かれ拘束されて口を塞がれた!

あれは魔杖(まじょう)なのか!?


「だがある意味安心したよ!“僕の種”で出来た“忌み子”は全く役に立たない訳では無くなったわけだ!」

「ンン!?」


えっ、それって!……はっ!?

ま、魔力が吸われて……ッ!


「ンムッ!ンンンッ!!」

「ああ、醜いよ……どうしてあんな素敵な人からお前みたいのが生まれてしまったのか、(はなは)だ苛立つ!」


そんな、こいつが……親父、なのか?


「だがお前はマイハニーの求める穢れを生み、“邪獣”を生み出す糧となるんだ!その前に資金源として魔石を魔力満タンにする、寄越せよな!」


こんな奴が親父だってのかよ!?

あの“邪悪な紅髪女”を“マイハニー”って呼んで、裏で協力して皆をたくさん殺したのがオレの父親!!?

そんな、そんなぁ……!


「あぁ、今そんな穢れを生んでも仕方ないだろうが!これだから精人族は嫌なんだ、弱くて惨めで醜いったらない!!」

「ン……ンムゥ……」

「流石に魔力が完全に切れたら、今日穢れを生めなくなってしまってマイハニーをガッカリさせてしまう!ほい!」

「ガッ……!」


拘束を解除された、けど動けない……。

嫌なのに、オレは何処か納得していた……。

こんな奴の娘だから、捨てられてもおかしくないって……。

会ったことない母親もきっとそう思ってる、里の皆だっていなくなって清々してるだろう……。

あのお姫様だって、アユ、も……。

アユ……アユ……。


「よし!汚らしいがちゃんと結べたぞ!さぁ来るんだ“忌み子”!」

「グッ、うぅ……!」


アユもそうなのか?

本当に?


『心配かけてごめんな……』

『気にしないさ、俺がやりたくてやった事だからな……』

『じゃあメリッサ、世話になるよ……』


違う。

アユは、そんな人じゃない!


『それは俺の義務だからな、共同生活をする以上ちゃんと手伝いたい……』

『ふーん、オレの為に?』

『そりゃそうだろ、これからも仲良くやっていきたいしな……』

『えへへ……そっか!』


アユはいつだって寄り添ってくれたじゃないか!


「おら!さっさとしなよ!穢らわしいモノなりに僕とマイハニーの為に役立て!」

「……けて」

「あ?」

『メリッサ!お隣さんトラブル発生っぽい、行ってくる!』


アイツは、助けを呼ぶ者を放っておかない!

本当の英雄、“勇者”なんだ!

だから────。


「────助けて!アユゥ!!」

「ああ、任せろ!!」


ほら、来た。


「ゴホォッ!?」

「メリッサ!拘束とけ────」

「アユ!!」


ああ、間違いないアユだ!

オレの英雄、精人族の救い手勇者様!

優しくて頼りになるオレの“大好き”な……あっ。

……オレ、そうだったのか。

だから、こんなに!


「もう、大丈夫だ」

「うん……」


自覚したら、ああ……好きだ、好きだ、大好きだ!

気持ちが全然止まってくれねぇ!

これが誰かを好きになるって事なんだな、心臓がずっとドクドク脈打ってるのが分かる!


「ナンジ、敵に動きあり」

「わかった、待っててくれメリッサ」

「ん、気を付けてな」

「ああ」


アユが離れちまったのは名残惜しいけど、オレの為に真剣な表情でヤツに立ち向かうアイツを止めるなんて出来るわけねぇ。

オレはアイツの(かせ)になりたいわけじゃねぇからな。


「貴様、僕の邪魔をするとは!」

「人の事を穢らわしいとか思ってる前に、まず鏡見とけボケナス!」

「ほざくなぁ!!」


魔杖を地面に突いて触手を出してきたが、アユはまるで対抗する様に地面にエルフを突き立てた。


「新技だ!」

「な、何ィ!?」


なんとイバラを纏ったツルが触手に絡み突き刺さり、血を吹き出させている。

すごいスピードで触手が萎れて行くと、カラカラになり崩壊した。


「その魔杖は射程距離が長くないみたいだな!」

「くっ、クソォ!」


アユの言う通りだ、オレにやったみたいに足下から急襲したり出来てない!

しかもイバラを警戒して触手を安易に出せないから、逃げ惑っている!


「冷気!」

「め、目がぁ!?」

「はい、じゃあおねんねしましょうねぇ!」

「グッボゴコッ!?」


はははっ、オレが首を絞めて落としたのと同じ様に落とすんだな。


「はっきり言うぜ!お前、弱いだろ!!」

「ご、ごのぉ!ごろじでや、がッ……かっ……かぁ〜っ……!」

「やっと追いついたが、もう終わったか」

「あっ、アンタは……」


ヤツが落ちる頃にお姫様がやって来た。

ど、どんな顔してれば良いんだろうか。


「先に言っておくと、英雄色を好むと言う……それに彼には甲斐性もあるだろう、そう気に病むなよ」

「えっ、あっ、はい……」


完全にオレの気持ちバレてんだな。

そして恐らくこの人も……他にも沢山?


「いててて……ふぅ、さてこの杖はっと……おっ、使えた!見た目アレだけど魔力だけ吸い取るのには便利だな……」

「いきなりで自然と魔杖を使い熟すのだな、流石神器を2つも扱うだけあるよ」


オレの父親……だったヤツは触手に反逆されて、魔力を吸い上げられている。

あんな事があったのに、何かもう笑えてきた。

……よし!


「なぁ、アユ!」

「ん?どうした……?」

「……後で聞いて欲しい、色々とさ!」

「お、おう分かった……とりあえずコイツ拘束して、帰ろう!」

「おう!」

「分かった」


もう逃げたりしない、オレも向き合うんだ!


───────────


この後メリッサから恋する乙女の想いと、絞め落としたのが彼女の父親だと言う事実をアユムは聞いた。


「女の子に想いを告げられたんだ、応えなきゃな!」


と言う男として責任を取る決意と。


「ダメ親父どころかクズ親父じゃないか!」


と言う男として怒りを燃やす心と。

それぞれに感情を揺さぶられながら……。


「私もメリッサの家に厄介になる事にした、よろしく頼むぞ?」


と畳み掛けられ大混乱に陥ったのは言うまでもない。

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