揺り籠と青炎の姫騎士
メリッサの家に転がり込んでから翌日。
男女が同じ屋根の下だろうが当然特に何か起きるはずもなく起きて、メリッサが霊果の収穫と手入れに向かおうとしてたので現在手伝い中。
「よしっと、これで全部か……?」
「おう!ありがとな、手伝ってくれてよ!」
「いやぁ、流石に家にのんびりしてただ飯食わせてもらう訳にはいかんしな……」
働かざる者食うべからず。
彼女の料理は非常に美味しかった、方向性的にはプロのシェフと言うか主婦と言うかお袋の味だな。
最近成人したての15歳だと言うのに、熟達した料理の腕は周囲の大人から学んだのか、天賦の才か……。
ともかく美味しいと分かってるのだ、敬意を払って仕事して食べさせていただきたい。
「飯の後警戒の為のパトロールに、一緒に出てくれるだろ?」
「それは俺の義務だからな、共同生活をする以上ちゃんと手伝いたい……」
「ふーん、オレの為に?」
「そりゃそうだろ、これからも仲良くやっていきたいしな……」
「えへへ……そっか!」
何だその反応は、ドキドキしちゃうだろ!
「それじゃあ飯作るからな!それあっち運び込んどけよ!」
「分かった……!」
霊果は森の精霊の力で非常に痛みづらいが、日には絶対長時間当てない様にしないといけない。
何故なら生命力が高すぎて芽が出かねんらしい、すごい。
と言う訳で各家屋の蔵に霊果は保管される、古いものから使う様にしっかり別けられてるので間違えない様に。
「ナンジ、あちらの家屋の方から反応が出た」
「あちらは母子家庭のとこか、分かった」
昨日挨拶の途中で知った事だが、聖剣の精霊エルフは誰かが“契約者”に助けを求めてると、この様に知れる特殊な感知能力を得ることが出来たそうだ。
これはまた正義の味方な能力を得たもんだよな、俺の中の“聖剣”のイメージが関わってそうだな。
ほら“勇者”は人助けとかお使いとかを熟して、段々と強くなって行くものだしな。
と、ここでメリッサに無断で行ったりする俺ではない。
「メリッサ!お隣さんトラブル発生っぽい、行ってくる!」
「わかった!でもすぐ帰ってこいよ!」
「あいよ!」
許可は取れたので早速向かうと……。
「いてぇっ!いてぇよぉ〜!」
「あっ、“勇者”様!すみません、この子ったら貴方の真似してチャンバラしてたら怪我しちゃったみたいで……!」
どうやら昨日久し振りにしっかり鍛錬しようと、エルフで素振りやってたのを見て真似したようだ。
精人族は身体能力が人族より低いとは聞いたが、運動神経ない子はとことんないのかもしれん。
不幸中の幸いは、木の棒を削った物でたんこぶが出来ただけだった事だな。
「ほれ治ったぞ……」
「“勇者”様ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「良いんですよ、坊主は真似するのは良いけど焦らずやんな」
「はい!」
先ほどから俺が勇者と言われるのは、少なくとも精人族は聖剣の概念を知らなかったが故だ。
聞かれてどう伝えるか迷ったが、日本の伝統としてそのまま伝えたら勇者=俺になってしまったのだ。
まぁ剣の人とか、揺り籠の人とか、メリッサのお手つきとかよりは聞こえは良いだろう。
と言うか最後のは俺がメリッサに抱かれてるみたいじゃん、そりゃあ生命力と身体能力を強化する……名付けて肉体強化がなきゃ俺のが弱いしね。
「ただいま……」
「おかえり、もう出来てるぜ!」
「おお、美味そうだ……!」
ご機嫌な朝食だ。
塩ナッツのマッシュポテト、肉と根野菜の味噌煮込み、おろし醤油と葉野菜のサラダ、そして霊果。
主食、主菜、副菜、デザートと揃ってる!
と言うか味噌と醤油に関しては、名前は違うけどそれっぽいのがあったと言う……何処かでそう言うの似通う時もあるのだな。
「「いただきます!」」
メリッサも俺が言うのを見て合わせて来た、元は先祖の自然の大精霊に感謝する挨拶だったらしい。
変えていいのかと聞いたら「オレはお前と一緒のが良い!」と言うので、当人が良いなら良いかで納得した。
*************
「アユム殿、メリッサと共に警戒感謝を」
パトロールに出てきたらセドリック里長と会った、モーガン老はいないから別行動か。
「そっちは特に異常なさそうですね……」
「貴殿らのお陰で穢れに苦しんでいる者たちもいない、新しい家屋を建て始めたりと活気に満ちている」
「以前にも増して元気だよな!」
呪いの負荷でトレーニングになってたらしい精人族は、身体能力の向上が見られた。
無論時間によって個人差はあるが、普通に暮らしてる精人族に比べると効果が出ている。
俺も状態異常トレーニング、効果出る時が楽しみだ。
「それなら良かったです、少しずつでもいい方向に────」
「ナンジ、緊急案件だ」
────ならないんだなぁ!
「どうした……!?」
「里の外の方からかなり強く反応が出ている、邪獣が出たのかもしれん」
「外に出たなら相応の実力があったと言うことだもんな、分かった……!」
エルフの制限があるが広い範囲をカバー出来るこの感知能力からして、里の人間である事は確定だ。
「アユ、今回はオレも行くぜ!戦いについて来れなくても、他で助けになれるかもしれないからな!」
「メリッサ……ああ、頼む……!」
「よっしゃあ!」
距離を置くだけが守ることじゃないし、メリッサは守られる事に甘んじる女って感じじゃないもんな。
なら少しでも側にいて、守れる位置にいて欲しい。
「万が一の為モーガン様にも声がけして、戦える体制は整えておこう!」
「ええ、セドリックさんまた後で……!」
「うむ、メリッサも最大限尽くしなさい」
「もちろん、アユの為だかんな!」
セドリックさんと分かれて、2人でエルフの感知に導かれて外へと向かった。
その先で会ったのは、明らかに穢れと傷を追ったであろう精人族3名。
「ぐぅ……す、すまない勇者殿……!」
「エルフ……!」
「承った」
この世界に回復魔法は存在しない、だから聖剣エルフによるこの治癒と浄化は祝福完治と名付けた。
こいつで3人共癒やす!
「助かった!しかしこのままでは彼女が……!」
「どう言う事だよ?」
「我らを助けに入った人族の女性の騎士がいたのだ、彼女がいなければ今頃……!」
「人族の騎士がこんな森の奥地に……?」
聞く限りシャーウッドの里は入り組んだ奥地だし、土地勘無いときついはず。
そんな場所の奥までって、里の位置を知るハートリー王国の上位の騎士なのでは?
「ハートリー王国の騎士か!?」
「“青い髪”の全く知らない騎士だった、確か鎧の胸元に紋章が……」
「えっ……!?」
「アユ、知ってる奴か!?」
知ってるさ、アリスの姉であるオリファント王国の第1王女様だもんよ!
戦場でその鎧姿見たことあるし、アリスから話は良く聞いてた。
状況的にリスクあるんだが、迷っとる場合かぁ!
アリスの尊敬する姉で、姫騎士やぞ!
助けるに決まってるだろうが!!
「方角は……!?」
「あっちだ!頼む、勇者殿!」
「分かった、肉体強化!!」
「心得た、ナンジ」
「アユ!?」
四の五の構ってられん、急行だ!!
「メリッサ、口開くなよ!噛むぞ!」
「ええっ!?む、むぐっ!」
「またな!!」
「「「は、速い……!」」」
最初は驚いた物の直ぐ様口を閉じたメリッサに心の中で称賛すると、お姫様抱っこで現場へ向かう!
腕の中では俺の顔をチラチラ見てくる赤面オレっ娘がいるが、そちらばかり見てられん。
並み居る木や背が高い草花や小川にと、越えてビュンビュン駆けていく。
あっ、一般通過魔物。
「邪魔だぁあああああっ!!」
「キーーーーーーッ!?」
鷹っぽいやつを蹴っ飛ばしてしまった、すまんが死ぬほど急いでる。
黒いオーラが見えた、あそこだ!
今行くぞ、うおおおおおぉぉっ!!
「姫騎士に興奮してんじゃねぇぞ、オークがぁ!」
───────────
とある媛騎士は、やらかしてしまった。
「いかんな、迷った」
自身が憧れる英雄と離れ離れの異母妹に会うため、ハートリー王国へ向かっていた。
普段の彼女ならば、こんなミスはしなかっただろう。
友人からの頼み、会う人物への高揚に緊張、土地勘のない場所。
それらが彼女にこの事態を引き寄せた。
「プギイィッ!!」
「クソッ!邪獣めが!」
「保たない、このままでは!」
「勇者殿も流石に、この距離は間に合わない!」
「これはいかん……!」
彷徨っている間に精人族3人と、邪獣と化した“ワイルドオーク”が戦っている状態に遭遇。
正義感が強いアルバータ姫は、当然これを捨て置けなくなった。
馬を直ぐ様置いて駆けつけた。
「こいつは私が受け持つ!逃げろ!!」
「プギィッ!?」
「あ、貴女は……!?」
「構うな、逃げろ!」
「す、すまない……!」
無事逃がしてワイルドオークと切り結ぶ。
ワイルドオークは普通のオークの上位の存在で、猪の特徴を持ちより荒々しく膂力が高い。
それが邪獣となったことでより強くなっていた、これにはアルバータも苦戦を強いられていた。
「腕が痺れる、これ程の魔物と戦ったのはいつぶりだ……!?」
久方ぶりの強敵に嫌な汗が出る。
誰かを守り育む為の戦いは尊いと感じる彼女だが、決して戦闘狂ではない。
可能なら戦わずに済むならそれに越したことはない、今回は人助けの為に致し方なかった。
「ブヒヒヒィッ!」
「くぅっ!」
最初こそ拮抗していたが段々と防戦一方となるアルバータ、圧縮した高濃度の呪いに身を晒しながらワイルドオークはその表情に下衆な笑みを浮かべていた。
「負ける、のか?いや、負けられない!まだ、会えていない!!」
本来の目的の人物達に自身のやらかしと矜持によって会えなくなるのは、流石に彼女にとってあってはならない事だった。
だから決して引かずに敵を睨みつける。
「ブヒャヒャヒャッ!!」
弱った状態で強がる姫騎士に興奮するオーク、まさしく地球の“その手の本”では良くある展開であろう。
だが、この物語はそれではない。
「姫騎士に興奮してんじゃねぇぞ、オークがぁ!」
「ヒャギィンッ!!?」
「……えっ?」
そこに現れたのは、少女を抱え“空飛ぶ剣”を連れた青年だった。
「メリッサ、そいつの警戒を!」
「わ、分かった!」
「遅れて申し訳ない!祝福完治!」
「承った」
「こ、これは……ッ!」
アルバータは自らの身体の痛みや疲労が吹き飛ぶのを感じた、なんなら移動の疲労も言えた為万全の状態だった。
「戦えますか?」
「────あ、ああ!」
「あいつ起き上がってきた!」
「オッケー!メリッサはさっき見かけた馬連れてきてくれ、この人の愛馬のはずだ!」
「分かった!やっちまえ、アユ!!」
「ブホホォッ!!」
メリッサが離れていくのを確認して、勇者と姫騎士はオークに剣を構える。
「どちらから?」
「レディファーストで!」
「ふふっ、任された!」
姫騎士は駆け抜け、オークと斬り結び抑える。
勇者は横入り、その太い腕を切り飛ばす。
「ブヒッ!?」
得物を落としたオークに青炎を纏った魔剣で袈裟に斬りつける。
勇者は合わせるように逆袈裟で十字になる様に斬った。
「ピゥグググッ!?」
「アシストします、トドメはどうぞ!“麗しきお姫様”!!」
「────ははっ!では“素敵な紳士殿”!遠慮なく!!」
勇者は剣から冷気を放ち、オークの動きを鈍らせる。
姫騎士は魔剣に魔力を込めて、必殺の技を放つ。
「焼き尽くしてやれ、魔剣ルーティス!!」
「ブヒャアアアアアッ!!!」
「こりゃあ、苛烈だな」
彼女が魔剣を納めた時には、オークの丸焼きが出来ていた。
しかし勇者はそのまま剣を構え、緑の光を放つ。
オークの穢れは浄化されていった。
「話したいことが山ほどあるが、先に互いに自己紹介と行こう……実は事情は聞き及んでいる、嘘偽り無く頼むよ」
「ありゃりゃ、ならそうしましょうか」
共闘した2人は互いに向き合う。
直接会うのは初めてであったが、理由は違えど会えた事に喜びがあった。
「オリファント王国第1王女“アルバータ・ド・オリファント”だ」
「召喚者でルークランク冒険者“アユム・ツツイ”です」
2人はどちらからともなく歩み寄り互いに手を握る、そこには間違いなく強い信頼が見えたのだった。




