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お嬢さんとお母さん

コーデリア視点です。

結局その日は私の体調不良と王家とも取引のあるドレイク商会が約束を取り付けて来るため、王国側に持ってる邸宅で泊まる事となった。


「あのエイブに親友って呼べる相手が出来て、その大事な人達が訪ねてくれたんだ!腕を振るってやるさ!」


ナタリアさんの料理は家庭的でとっても美味しくて、皆は味を学びたがってたけど私は気力が無くて断念した。

代わりにデクスターが熱心に聞いてくれてたわ。


「なるほど敢えて大きく切ることでボリュームを……」

「そっちも若くて食べ盛り多いんだろ、その方がいいだろうさ!」

「大変勉強になります」


ナタリアさん良い人だよね、一時は夫もいて……夫……。


『そこの“お嬢さん”!どうだろう、僕とお茶しないかな?きっと素晴らしい時間になるよ!』

『クールだねぇ!でもそこがまた良い!是非とも僕とアバンチュールを!』


夫、アレが……。


「ナタリアさん、凄く失礼な事を聞いちゃっても?」

「んー、何となく分かったけど何だい?」

「どうしてあんなのと結婚したんですか?」


あの精人族メイナードに私は魅力を感じなかった、顔は整っててもそれは精人族なら良くあるみたいだし。


「いやぁ、私も32になるけどさ……成人になった頃は若くてさ、アイツのしつこいくらいのアプローチが熱い男だって魅力的に感じちまったのさ!」

「な、なるほど……それで結婚を……」

「ああ、しかも子供まで作っちまった」

「「「ええ!?」」」


これにはエレンとアリスも反応した、アレと子供がいたの!?


「17の時に生んだから、丁度成人してる頃かな……どうしてこうなっちまうかなぁ……」

「お子さんはどちらに!?」

「メイナードが勝手に精人族の里にやっちまってたんだよ!『精人族の子供なんて僕らに相応しくない!さぁ、もう一度愛を育み直そう!』とかぬかしやがってよ!」

「「「はぁ!!?」」」


ありえない!

そんなのナタリアさんもお子さんも可哀想でしょ!!


「当然ブチギレてボッコボコにして離婚したさ、“精人族嫌いの精人族”なんて結婚前は知ることも無かったし……本当に後悔したさ」


どんな理由があっても自分勝手に子供をよそにやるなんて、自らの父親とも思いたくない存在を想起させる!


「……ナタリアさんは子供の事、愛してた?」

「それは、私も気になりますね……」


アリス、エレン……貴女達は気になるわよね。

両親から愛されなかった貴女達なら。

も、もしかしたら私も母さんに……!


「もちろん愛してたさ、“オレ”が腹を痛めて産んだ唯一の娘だ!でも里については国に秘匿されてて、アイツは『君に里の奴らと会って欲しくない!穢れる!』の一点張りだ!」

「そっか、ならその子はナタリアさんに会うべきだよ!」

「ええ、そしてナタリアさんは愛していると伝えるべきです」

「……2人共、いい子だな」

「これ以上、後悔して欲しくないもん」

「愛されない事は、辛い物ですから」


3人が抱擁し合う姿を見て、母と子の姿を見た。

少しずつ母さんと幼い頃の自分が重なって……。


「愛されてると、いいな……」

「今は信じましょう、お嬢様……アユム様もそうでした」

「あっ」


『祖国であるハートリー王国が大事なのは一般的なお姫様なら当然の事だ、けれど相手が相手でも自ら腹を痛めて生んだ子に愛情がないわけがない』

『……どうしてそう思うの』

『君の母親だからだ』


ふふふ……そんな根拠で信じてくれるのなんて、彼だけでしょ。

デクスターも思い出してニヤニヤして、もう。

少し、力出た。


「ならナタリアさんも一緒に母さんと会いましょう、そして里への接触の許可を貰って娘さんに会いましょう!」

「そ、そりゃあありがたいが……いいのか?」

「その日は非番、問題なしで良いだろ」

「エイブ……」

「お前があの時どれだけ苦しんだか知らんはずがないだろ、フィリップも当時を知る人間だから最初からその腹積もりで人事を動かしてる」


ナイスよエイブラハム!フィリップ!


「はははっ、分かった!恩に着るよ!」

「良かったね!ナタリアさん!!」

「ああ!踏み込んで来てくれた、あんたらのお陰さ!!」 


皆が笑顔で溢れてる、今日は良く眠れそうね。





*************





翌日は私、デクスター、エレン、アリス、エイブラハム、ナタリアさんで近衛騎士団に会うこととなった。

調査への協力と精人族との接触と問題解決……そして、もう一つが。


「あれがハートリー王国近衛騎士団が森に繋がる様にに作った拠点だ、騎士団がまだ戦後処理に追いついていないから駆り出されているようだ」

「なるほど、少なくとも帝国との戦争は勝てたようですな」

「あれだけ暴れて負ける方が難しいのでは?」


そうそう、アユムの神聖団結(ホーリーチーム)で皆が姿を隠して飛び回りながら戦場を引っ掻き回してたのよね。

一体どんな風に話が伝わってるのか、楽しみなような怖いような。


「それワタシいなかった時だよね?」

「クククッ、アイツ戦場でも何かとんでもない事仕出かしてたのか?」

「アユム……いやあの“アルフ”だと名乗ってるんだったか?エイブがそんな笑い方する程の男……俄然興味が湧いてきたじゃねぇか!」

「あああれは本物だ、間違いなく退屈せんぞ」


そんな風に雑談してると、女性の騎士達が数人出てきたわ。


「貴殿がドレイク商会会長のエイブラハム・ドレイク殿だな」

「念の為、王家から賜ったであろう徽章(きしょう)を見せていただいてもよろしいですか?」

「了解した、これでよろしいかな?」


エイブラハムが出したのは紋章が刻まれたバッジである徽章、緑色で蔦と花に囲まれ中央に“果実”が描かれている。


「確かに、どうぞ」

「団長がお待ちです」

「ありがとうございます、行こう」

「うん」


もう覚悟は決まった。

小さい頃会いたくても会えなかったあの人に会える……そこにはもう恐怖なんていらない。

中に入ると……。


「ようこそドレイク商会とその連れ添いの冒険者の方々、私が────」

「……」


目があった、母さんだ……間違いなく母さんだった。

“全然変わってない”、私が会っていた時とそのまんま過ぎて似た別人かとも思った。

でも私と目が合い、動揺し、固まった。

“翡翠色の髪”、“緑の双眸”……雰囲気だけは“才女”としてのそれを発揮しているのか、とても凛々しい。


「身長が、並んだね……久し振り、母さん」

「これは夢……?どうしてコーデリアが……?」


夢みたいって思ってくれるんだね、名前もちゃんと覚えてて……私だって分かってくれたね。


「ある人が私を帝国から……あの悪魔から救い出してくれたの、だからここまで来れた!」

「もしかして召喚の噂は……!」

「そう、繁神様の神器を授かった人……!」

「そう、だったの……そうだったのね……!!」


涙を流して母さんは駆け寄ってきて、私を抱きしめてくれた。

恐る恐る抱きしめ返す、ああ……良かった!

私も愛されてたんだ!

涙が溢れだす。


「母さん!母さぁん!!」

「良く生きててくれたわ!良くここまで大きく立派に育ってくれたわ……!!」


ああ、心が温かい……。

2度と会えないと諦めていた、愛されていないと絶望していた人に……再開できて、愛されていた。

私は恵まれていると知った。


「良かったですね、コーデリアさん!」

「本当に、本当に良かった!」

「お嬢様がお母様との再会……うおおおおっ!」

「クククッ、これもアイツが起こした“奇跡”と言えるかもな」

「やれやれ、オレもあんな風に上手くいくかね?」


皆祝福してくれてる、近衛騎士団人達だけ混乱してるけど特に割って入ることもない。


「たくさん話したいことがあるの、聞いてくれる?」

「もちろんよ、不出来な母親だけど……貴女の為なら私の出来る限りなんだってするわ!」

「ありがとう、母さん!」


そしてありがとうアユム、すぐに母さんと一緒に行くから。

……これってそう言う挨拶って事でもあるかしら、少し別の緊張してきたわ。





───────────





「やぁマイハニー!新しい穢れ製造機を連れてきたぞぉ!」

「は、離せ異端者ァ!!」

「あら来たのかい、別に減りはしないけど数は多ければ多いほど良いからね」


ブライズの隠れ家に恐怖に叫ぶ精人族と、それを連れた矢鱈喧しい“精人族”の男が現れた。

しかし彼女は何事もなく受け入れる、何故ならこれは共謀者だから。

“精人族でありながら精人族を嫌う”、そんな彼は精人族のコミュニティに忍び込み彼女の下へ運んで来た。


「オラ!こっちに来な!これからアンタは負の念吐き出すだけの家畜になるんだからね!」

「ひ、ヒィッ!!」

「いいねぇ!気が強くて逞しい人族の女性……たまらないねぇ!」

「相変わらず気持ち悪いねぇ!負の念が出ない代わりに使えるし協力的だからいいけどさぁ!」

「その辛辣さも素敵だ!」


そう、彼はメイナード……メリッサの血縁上の父親であり、ナタリアの元夫だ。

王国内の情報収集、王都内外の精人族のコミュニティにて潜入拉致、ついでにナンパと“未練”の消化を行っている。

結果ブライズは必要なら隠れ家変えて行方を(すら)まし、呪いを得る為の精人族を集める事を容易に行えていたのだ。


「それでやる事が終わった後なのだが……今夜、僕と熱い夜を過ごさないかい?」

「はぁ、コイツ渋るとやる気無くすからね……仕事をちゃんとするなら幾らでも“ヤって”やるよ」

「ヒャッホー!もちろんさぁ、マイハニー!」

「どうせ使う相手もいなかったとは言え、こんな奴ってのは何とも言えないがね」


この2人は共謀者であり、肉体関係を結んでいる。

ブライズは仕事の円滑化を、メイナードは真に求める尊き命を得る為に身体を幾度も重ねていた。

そこに愛があるのかは、神すらも理解を拒むだろう。


「ところでこの間作ったオオカミの邪獣の遺体は確認とれたのかい?」

「おや?マイハニーが既に回収したのでは?」

「……どう言う事だ?」

「んん?」


普段ならば時間で蝕まれきって命を落とすか、或いは精人族と精霊達により倒されて命を落とすか。

どちらにしろ遺体からサンプルを回収して、研究に活かすのがブライズのいつものやり方であった。

しかし両者の間で同時に遺体が確認出来ないと言う、いつもなら起こり得ない事態が発生していた。

つまりイレギュラーだ。


「近衛騎士団に大きな動きは?」

「いつも通りだったよ?」

「里の方で強力な精霊が生まれたなんてことは?」

「それは確認してないなぁ……あっ」


と、ここでメイナードが反応した。


「どうした?」

「……いや、別に何もなかったな!」


しかしここでメイナードは痛恨のミスをした。

彼は未練を思い出したくない為か、無意識に“娘”のいる場所は確認していない。

おまけに“人族の女性”に強く“センサー”に反応が出るが、“人族の男性”には反応しない。

ここで脅威となる存在を、2人は見逃した。


「そうか……まぁ、余り遠くに行けない以上そちらは調べられん」

「仕方ないさ!僕らは感づかれる訳にはいかないからね!」

「とりあえずやる事をやる……それまで邪魔するなよ?」

「ああ!大人しく待ってるさ!それに大嫌いな奴が痛めつけられる様は、胸がすく思いがするからね!!」

「はいはい、改めて歪んでいるねぇ」


自分を棚に上げて、プライズはメイナードと共に隠れ家へ入っていった。

イレギュラー→どうして発生するのだろうかと問われると、いわばツケである

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