お嬢さんと怪しい影
コーデリア視点です。
「ここがハートリー王国の王都……」
「“ハーシェル”でしたな、ここもまた自然が多いようです」
何とか無事にたどり着いた母の故郷は、精人族との交流があるからなのかどこも緑が見当たるくらいに豊富だ。
王都ともなるとそれが顕著になっていて、私と同じ様に緑の双眸を持つ人達が多い。
それに……。
「耳が長く尖っていますね、精人族の方でしょうか?」
「王国内で暮らす精人族もいるからな、気が合わないのか里の奴らとは関係を絶っているヤツがほとんどだ……だからそんな顔をするな」
「分かってる、分かってるけど……難しいな、感情を抑えるの……ッ!」
アユムに手を出したのは精人族、でも王都の人ではない。
だからここで感情に身を任せてはいけない、なんとかしてあげたくてアリスの頭を撫でると抱きついてきた。
「ありがと……」
「良いのよ、気持ちはすっごく分かるから」
少なくとも今まで巡ってきた村や町などでは、原因に繋がる情報は手に入らなかった。
精人族達が何故あんな行動に打って出たのか知るには、やはりハーシェルで調べるしかないようだわ。
「さっさと商会のハートリー王国支部へ向かうとしよう、下手にそこらを歩き回ると嫌な形で刺激を受けかねんからな」
「ええ、少しでも安心出来る場所に行くべきでしょうな」
広く人もそこそこな通りを行き、木のアーチなどを潜ってお洒落な道に出た。
すると……。
「そこの“お嬢さん”!どうだろう、僕とお茶しないかな?きっと素晴らしい時間になるよ!」
何でこんな大人数で動いてる時にナンパ……。
「あの、結構です」
「クールだねぇ!でもそこがまた良い!是非とも僕とアバンチュールを!」
ただでさえ“お嬢さん”なんて言われ方して、思い出して、嫌な気持ちになってるのに……しつこい!
とその顔を見たとき目に入ったのは“翡翠色の髪”と“緑の双眸”、そして“長く尖った耳”だった。
「お嬢様がご不快な気持ちになっている、下がって貰おう」
「おやおや怖いねぇ……君、まさか精霊か?」
「だとしたら何でしょうかな、場合によっては……」
いけない、私の気持ちに反応しちゃってデクスターが……!
「おう、浮気クソ軟派者ッ!俺の従姉を誑かした上に、親友の女に近付くとはいい度胸だ!」
「え、エイブラハム・ドレイク!?何故君が……!」
「色々あって帰って来てたもんでな、さてどうしてやろうか!?」
「すまない用事を思い出したそれでは!!」
す、凄い早口で捲し立てて逃げていったわ……。
それにしても。
「エイブラハムの知り合いなの?」
「一応な従姉ナタリアの元夫のメイナードと言う精人族の男だ、まぁ繊細な種族の中では異端と言えるレベルで無神経で変人だ」
とんでもない奴が親類とくっつくって、エイブラハムってこっちでは苦労してたんでしょうね……。
同じ女好きでもアユムとはえらい違いよ!
「……まぁアレが声掛けてきたのも支部に近いからだろうな、ほら着いたぞ」
看板にドレイク商会と掲げられた、オリファント王国のそれより年季が入ってる建物。
でも大きくて立派だし、ちゃんと整えられてる。
「会長、いらしたのですか!?」
「さっきの騒ぎ、またあのバカ来たのか?」
「大事な要件がな、アレなら親友の女にナンパしてたから脅しといた」
「良くやった、でも2,3発ぶん殴った方がもっと良かったろ!」
「俺はお前と違って鍛えてないからな」
中に入って出迎えて来たのは。
黒髪に緑の双眸の中年男性と、金髪碧眼の女性だった。
話からしてこの人が……。
「貴女がエイブラハムの従姉のナタリアさんですか?」
「ああそうさ!支部で職員と冒険者やってる!ランクはルークだぜ!」
男勝りな雰囲気と暖かく優しげな雰囲気が混在してて、気持ちが良い程活気がある人だった。
*************
「初めまして会長のお客様方、ドレイク商会ハートリー王国支部取締役兼副会長でもある“フィリップ・マーケット”と申します」
奥に案内されてから自己紹介を聞くと、ちょび髭の人は思ったより大物だったわ!
まぁ元から商会長と一緒に旅してたんだから、今更かもしれないけれど……。
「精人族と交易が出来なくなった理由、それを解決するために情報が欲しい」
「その件につきましては調べがついてますな、しかしかなりきな臭い事になっておりますぞ」
「もう調べがついてるんですか!?」
「ええ、これで食っていますからな」
仕事が早い!
ドレイク商会No2は伊達じゃないわね!
「ハートリー王国近衛騎士団が現在慌しく調査をしているようなんですが、森で黒いオーラを出した魔物を見た者がいたそうで」
『!?』
それって穢れ!
それも例の一件でサイラスの奴が成ってた、“邪獣”に関わりがあるんじゃ!?
「邪獣、ですか……!」
「まさかここでも同じ様な事が……」
「何かご存知なのですかな?」
「親友絡みか?」
「うん!実は────」
そこからは私達は獣人サイラスの事、ラミト教の助祭ザカリーが起こした事件、そして邪獣のことも話したわ。
するとフィリップとナタリアさんの目つきが変わった。
「リーデン帝国に残された研究資料ですか、やりかねない者は覚えがありますな」
「やっぱり奴なのか?」
「おい2人共、お前達だけ分かってるみたいだがどう言う事だ?」
エイブラハムも分かって無いなら、私達にも分かるはずないわね。
でも間違いなく推測の域でしかないけど、犯人に目星をつけてる!
「実は最近ハートリー王国の宮廷薬師に禁書庫への侵入を試みバレてクビになって、以後王都の郊外で行方を晦ましたって奴がいるのさ!」
「おいおい、俺がいない間にとんでもないのが出てきたな」
あ、怪しすぎる!
「王家も調査に入ってるんじゃ?」
「でしょうな、しかし行方は掴めていない……」
「邪獣が確認されてるのは、森だからね!間違いなく拠点が存在するんでしょうね!」
だとしたら精人族が交易を絶ったのは……!
「関係ない者達を巻き込まない為に、精人族が……?」
「でもあいつらは御主人様を拉致した!」
「『この男はこちらに必要なのだ』とあの時の森の精霊は言っていました、邪獣に追い詰められた時に対抗できる存在だから強引にと言う可能性も」
「精人族の特性を考えればパニックを起こしてもおかしくはないな、だがそうなら親友は無事だろ」
そうだ!
精人族にアユムを害する理由は完全に無くなったし、邪獣ならきっとあっさり倒しちゃってるに決まってる!
彼のことだからまた可愛い女の子の為にって頑張ってて、もしかしたらその流れで黒幕にたどり着く可能性すらある!
「はぁ……何かやっと安心出来たわ……」
「お嬢様!」
「ごめん、力が抜けて……」
「コーデリアさん、頑張り過ぎですよ」
「わ、ワタシが負担かけ過ぎたかな!?ごめんね!?」
違うのよ、今までこう言う気を回したりってのをアユムに頼ってたから……そのツケよね。
私達がついつい甘えても全部受け入れてくれる、赤ん坊にとっての“揺り籠”みたいな安心感がある。
本当に大切なヒト、だからこそ無事な可能性がほぼ確定で良かった……!
「だがどのみち何処に里があるかは知らなきゃならん、合流にしろなんにしろな」
「となれば接触すべき人物はただ一人ですな」
「そうだ、“才女”なら知ってるだろうさ!」
……え?
「さ、“才女”ってのは……」
「まさか!」
「精人族に限りなく近い形質を持つハートリー王国欠番王女にして、現近衛騎士団団長の“コレット・ド・ハートリー”さ!」
お母さんが……お母さんがいるの!!?
───────────
「た、頼むやめてくれ……!これ以上痛いのは耐えられん……っけ!」
「うるさいね、アタイの崇高な研究には穢れがいるんだよ!オラ!」
「ギャア!!」
シャーウッドの里、その少し離れた場所にそこはあった。
しかし場所管理隠蔽され、簡単には見つからないようにされていた。
痛みに止めてくれと懇願をする精人族を、無慈悲に痛めつけるのは紅髪紅目の女であった。
「ふむふむ、まぁこんなものか……精人族は精霊を祖先に持つくせに、精神が脆弱で負の念が得られやすいから助かるよ!」
「ひ、ヒギィ……!」
彼女は決して殺さない、あくまで負の念を発生させて魔具で抽出する為に痛めつけるだけなのだ。
「今日は……コイツで培養するか」
「ブヒッブヒヒィッ!?」
人の負の念を受けた魔物、それは時間をかけて呪いとなる。
「コイツはもう十分、ほい!」
「ゴガッ!?」
今度は魔物から呪いを抽出、そしてそれを別の魔具で圧縮していく……。
「出来た……完成度50%って所かな、まだ満足は出来ないね」
彼女にとってここは理想の研究場所であった、培養と実験用の魔物もいるし精人族と言う負の念を手軽に抽出出来る“生き物”もいる。
薬物では到達出来なかった“圧倒的な強者”を生み出すと言う彼女の野望、呪いがそれを成せるかもしれないと知った時笑みを止められなかった。
「軍神信奉者は強さへの信仰はあっても、極限への追求……探究心がない!だから失敗すんのさ!」
彼女の名はブライズ・ド・ミラー士爵、繁神信仰の果てに“歪んだ強さ”の発展にその生涯を注ぐ壊れた怪物であった。




