揺り籠と勇気の証
「アユ、これって……?」
「“剣”、だな……」
光が晴れるとそこには……白金の鞘に納められた何か神聖なオーラが出てる、鍔と柄が“落ち着く緑色”の剣が浮かんでいた。
精霊石なんだから精霊が生まれるんじゃないの?
「ワレを生み出せし者よ、名を問おう」
「この剣喋ったぞ!?」
俺からすると喋る物はかなり身近だったから、そこまで驚きはしないが……そう言う形状の精霊ってことか?
声は威厳のある女性って感じだけども。
「アユム・ツツイだ……」
「アユム、だな」
そう言うと鞘から剣が抜ける、中から“紫色の高貴な”刃が現れた。
緑と紫……何か覚えある組み合わせ……?
魔力消費してる上、ダルいせいか頭回らん。
「ワレには名が無い、ナンジからの名付けと魔力を持って契約をして欲しい……必ずや役に立ってみせよう」
「け、契約!アユ契約だってよ!良かったじゃん!」
「そ、そりゃあ嬉しいが……」
俺の前に突き刺さる剣、どうやら名前がないらしい。
明らかに何かモチーフがありそうな存在だから、デクスターさんみたいに最初から名前あるもんだとばかり……。
「お前を生み出す為に魔力を可能な限り注いだんだ、今すぐは出来ない……」
「そうか……」
あっ、何かションボリしてる。
意気揚々と俺の前に刺さったのに出来なかったのもあるんだろうけど、意外とナイーブ。
「じゃあウチの“霊果”を食べれば良いじゃねぇか!魔力回復すんだぜ!」
「あっ、それあったな……!」
あの果樹園のリンゴは霊果と言うのね、精霊に関わる物は霊◯〜って名前付くのだろうか。
確かコーデリアに習った魔力の元になる精霊の死骸も、霊滓だもんな。
……霊果の魔力回復効果って、霊滓がたっぷり含まれててそれを食うことで直接摂取するから……。
今更か、深く感謝していただこう。
「契約の解決手段があるのか?」
「ああ、とりあえずそれが出来るまで待っててくれない……?」
「分かった、では共に行こう」
あっ一緒に行くのね、鞘に納まり直して俺の手に近づいてきたので持ってみる。
重い……こう言うの「まるで何も無いみたいに軽い!」って展開ではないのか。
契約したら変わるとか?
「そうと決まったら行くぜ!……って身体の調子悪いのか?無理すんなよ?」
魔力の減少と闇属性状態異常による負荷は、ノリと勢いでやるにはキツい行動だ。
皆と行動してた時も、寝る前にギリギリまで使うだけでこの状態で行動した事無いわ。
結果最初煽りまくりだった生意気娘のメリッサに、心配かけて労られてる。
「ああ、ありがとなメリッサ……」
「へへへッ、おう!」
ともかく精霊と思われる存在と契約が叶いそうだからな、うだうだ考えてても始まらん。
さっさと霊果食って魔力回復して、名付けと契約してみようそうしよう。
気合い入れて歩くぞぉ、剣重い!
*************
「ここは……?」
「オレんちだよ、誰もいねぇけどゆっくりしてけよな!」
メリッサに連れてきてもらったのは、なんとメリッサホームだった!?
霊果を食べさせてもらえる上に、お家にお邪魔させてもらえるなんて光栄だね。
……しかし誰もいないのか。
「仕事に出てるのか……?」
「いいや、両親は元々ハートリー王国に住んでる!この家にいるのはオレだけだよ!」
なん、だと……?
両親と別居って複雑な家庭事情があるのか?
慣れた感じで霊果を持ってきて、サクサク切り分けていくメリッサ。
「ああそんな深く考えなくて良いぜ!たまにあるんだってさ、精人族の生き方に馴染めず里を出る人!オレの親父はそう言う精人族だっただけさ」
「なるほど、そう言う人もいるんだな……」
「母親はハートリー王国の人族だけど、オレ産んだ後親父と一悶着あって離婚……親父は赤ん坊のオレを里にやって、今頃王国で遊び歩いてるかもな」
だ、ダメ親父だぁ!!?
いやあくまで想像ってだけだよね、実際にはいい人……ばかりでもないよな。
そんな話をしてるのだが、メリッサは関係なくお皿に綺麗に霊果を並べて俺の前に出してくれた。
「オレみたいな家庭事情じゃないけど、両親と暮らしてない奴は結構いる……どうしても合わなくて上手くいかないとさ、一緒にいるだけで嫌な感じになっちまうし」
「かなり繊細なんだな……」
精人族が拉致に出るほどパニックだったのは、その精神の繊細さが原因だと改めて分かったな。
森の精霊モーガンが協力したのは、契約を遵守したって所か……。
「さっ、食ってくれよ!美味いぜ!」
「あ、ありがとう……!」
そうそう、これを食べるために来たのだ。
しかもメリッサが手ずから切って食べやすい様にしてくれたんだ、大事に食べよう……んむっ!
美味い!
瑞々しくシャキッとした食感も、口いっぱいに広がる甘さも大変美味!
味はリンゴで間違いないが、これかなり高級感あるで!
「美味い……!」
「ホントか!良かった良かった!ドンドン食えよ、いくらでも切ってやっからさ!」
いい子すぎる!
最初の生意気さは警戒心の表れだったのかな?
だとしたら家に入れてくれたり、霊果を切ってくれたりと気を許してくれてたんだな!
うむうむ、食うたび気力が湧いてくる……!
こんだけ魔力ありゃあ、いけるか!?
「今ぐらいで大丈夫か……?」
「うむ、十分だろう」
「ありがとなメリッサ、本当に助かった……!」
「おう!」
形の良い胸を張ると、美しい金髪ポニーテールが跳ねる。
マジ美少女。
さてとなると剣の名前か……。
「そう言えば精霊で合ってるのか……?」
「無論だ」
合っているらしい。
剣の精霊なんだろうし、そこからとれば……いや。
カラーリングとか生まれた場所、イメージからが良いかな……よし、決めた!
多分異世界カノスにはこの単語存在しないよな?
「決めたぞ、お前の────」
「く、黒い獣だ!!」
「「!?」」
何、この状況下で!?
と言うか大精霊がまだ帰ってきてないのに!?
「バカな!早すぎんだろッ!」
「今までよりペースがおかしいのか……!?」
「ああ!急がねぇとッ!」
「め、メリッサ……!」
「ダメだ!アユはここにいろ!!」
立ち上がりを抑えられた!?
「だ、だが……!」
「────お前はいい奴だ、それが分かったからこそ巻き込めねぇよ!!」
「……」
メリッサ……。
「クリスタル様の揺り籠にしたのはオレ達の都合だ、お前は関係無いのに巻き込んだのはオレ達精人族のエゴだ!!」
「……」
「大丈夫、オレ達結構強いんだぜ!多少犠牲出ちまうかもしれねぇけど……時間まで保たせて勝ってみせる、だから待っててくれな!!」
「メリッサ……!」
そうして振り向かず家を出ていったメリッサ。
邪獣と戦うのだ、それもサイラスより強い魔物が元かもしれない。
今までは大精霊クリスタルと言う存在がいた、だからこそのあの被害……それであれ程の……!
なぁ、大精霊!
早く回復して出てってくれよ!
そうしたらサキとラミで邪獣ぶっ飛ばしてやれるんだ!
頼む、色々繊細でやらかす時もあるけど良い人達だって知ったんだ!
俺にこの里を救う力を……!
「ナンジよ」
「あっ……」
「求めたのだろう、力を」
「……ああ」
他の皆に置いてかれてて、情けないなって思ってたこともあるし。
メリッサにあっさり負けて拉致された時に、もっと鍛錬してればなって思ったし。
そして今度はそのメリッサと仲良くなってから、その命が失われてしまうかもしれない。
へへっ、本当に情ねぇなぁ……!
「ならばワレと契約をせよ、必ず役立ってみせよう」
「……良いだろう、なら契約だ……!」
今大精霊も神器も戻ってこれない、そんなの分かりきってたことだろ!
不安だったから、今まで傍にあって当たり前だったから縋った。
そうじゃないだろ。
人のメンタルどうこう言ってる資格ねぇよ、目の前に戦う力があったのにそれに手を伸ばさないとか正気か?
「ならば呼べ、ワレの名を」
「ああ、お前の名は────」
ここでジッとしてるとか、男じゃねぇだろ!!
───────────
シャーウッドの森の精人族の里、その一角。
黒いオーラを放ち赤い光を瞳から放つ、大柄の狼の魔物が暴れていた。
既に手傷を受けて呪いに苦しむ者の姿が散見されており、まだまだ黒き獣“邪獣”は大きな傷は負っていない。
その状況に、金の尾髪を靡かせて少女は駆けつけた。
「この野郎!!」
相手は強い、それは理解している。
既に何人も仲の良かった手練れが命を落としている、中には今の自分よりも強かった者もいただろう。
しかし彼女は引けなかった。
元々引く気は無かった、だがより引けない理由が出来てしまった。
「燃え盛れ我が業火、眼前に迫る脅威を滅し、湧き上がる勇気の名の下に、敵を焦がし尽くせ!“バーニングブレイブ”!!」
自分達の都合に巻き込んだ青年は、自分より強くなかった。
それどころかひ弱と思えるほどで、心が広く優しく共にいると居心地が良く感じた。
関係ないはずの人達の事で心を痛めて、その犠牲を尊いと祈りを捧げた彼を見て……彼女は生まれて初めて心を締め付けられた。
それでいて自分より魔力容量があって、自分に生み出せなかった精霊を精霊石で生み出し、自分の環境について話しても変わらずいてくれた。
メリッサは、嬉しかったのだ。
「どうだ、まともにくらえば────」
「グオオオォォンッ!!」
「────ガッ!!?」
自身が最も得意とする最大火力の魔法を当てた、それも頭部と言う最大の弱点であろう場所に。
しかし邪獣は火傷を負ったが致命傷にはならなかった、そしてその爪をメリッサに振るったのだ。
吹き飛んだ彼女の姿にも怯まず……いや、最早ヤケクソ気味に精人族達は魔法を放つ。
頼むから倒れてくれと。
「ゴホッ……へ、ヘヘッ……やられち、まった……」
腹の辺りに詰め物などをして守ってはいたが、大きな傷を受けてしまった。
血が止まらず、呪いに憑かれ、今も続く絶望的な状況。
狼がコチラを見る、狙いは自身。
メリッサは死を覚悟した。
「ごめん、アユ……オレ、弱くて……せめて、お前だけでも……」
迫る死に、彼女は目を閉じた。
────刹那、金属質な何かと何かがぶつかる音がした。
「メリッサ!無事か!?」
「……アユ……?」
そこには邪獣の爪を、先程生み出した剣の形の精霊と見られる物で防いで立つアユム・ツツイの姿があった。
「どう、して……?」
「悪いな!本来の俺はこういう時ジッとしてられんタチでな!!」
「グオォンッ!!」
「うるせぇぞ犬コロ!!」
「ギャンッ!?」
剣を振るうと何と邪獣が弾き飛ばされた、しかもその爪の先が断ち切れたのである。
それはとんでもない膂力であり、先程までのひ弱な彼とは似ても似つかぬ姿だ。
「頼む!」
「任せよ」
「うっ、あぁ……き、傷が!?」
アユムは剣から緑色の美しい光を放ち、メリッサの負った傷どころか呪いまで祓いさったのである。
「す、すげぇ!どうやってこんな……!」
「メリッサ!」
「うぇ!?」
「下がっててくれ、巻き込まれるぞ!」
「はぁ!?」
いきなりの立場の逆転、メリッサは混乱した。
「何言ってんだよ!オレだって戦う!それにコイツはオレ達の問題で!!」
「ああ!でも関係ない!下がっててくれ!」
強情なメリッサに対し、怯まず強情さを発揮する。
流石にこの物言いにムッと来た。
「ふざけんなよ!どうして────」
「“可愛くていい子”のお前にこれ以上“傷ついて欲しくない”からだ!言わせんな恥ずかしい!!」
「────ッ!!?」
一瞬理解できなかった。
何故なら彼女の生涯で“可愛くていい子”なんて褒め言葉も、“傷ついて欲しくない”と言うキザなセリフも言われた事がないからだ。
理由も分からないまま、顔から火属性エネルギーが吹き出した様に真っ赤になった。
「頼む、ここは引いてくれ!」
「……わかっ、た……!」
メリッサはパニックで冷静な判断が出来ず、とりあえず言う通りにした。
彼がこれを狙ったのかは、この場の誰にも分からない。
「さて、時間あまり無いからな……行くぞ、“聖剣エルフ”!」
「よかろう、“聖剣の精霊”として穢れを討とう」
「ウオオオオォォンッ!!」
“聖剣”、それは異世界カノスにない概念。
地球におけるそれは、勇気ある者の証である。




