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水筒と呪いと神器

『はっ!?』


と目が覚めた、ここは一体……?

見回してみると辺り一面真っ暗で、足元は液体で(おお)われていて足を上げると(したた)っている。

そして俺は何か青く発光しながら、堂々と“全裸”だ。


『ファッ!?』


俺が、一体何をしたって言うんだ……。

コーデリアみたいな豊満な美少女と、学生時代へ置き去りにした青春をひっそり夢見た罰とでも?

()(とも)召喚以前の俺のダメダメ加減を見て、その罪の分服を剥いだとか?

駄目だ、あの後が全く思い出せん!


(ヤカマ)シキカナ、青イ男』

『誰だ!?』


不意に声がかけられたが、青い男とは何事か!?

俺だわ。

そうして声を掛けてきたのは、浮遊する俺の身長とさほど変わらない大きさの黒い球体であった。

やべぇ、何か色々思い当たるけど(ろく)なのがいねぇ!


人身御供(ヒトミゴクウ)ノ娘ニ憑キシモノダ、コノバノ宿主ノ男ヨ』


……なるほどな、ここは俺の精神世界でコイツが呪いだと。

そして人身御供、つまり犠牲(ぎせい)……。

どうやらあのクソ暴君は、コーデリアを呪いの犠牲にした上で館に隔離したと言う事か。

あー、マジで許せねぇッ!


『俺に接触して、何が目的だよ?』

『決マッテオロウ、殺シ取リ込ム為ヨ』


呪いで死んだ人間もまた呪いの一部になるのか、確かに恐ろしいわ。

放っておけば無限に膨れ上がって強くなっていく訳だからな、ぶっちゃけ怖い。

だが、俺は死ぬ訳にはいかない。

もし俺が死ねば、やっとコーデリアも希望が持てたのにまた失っちまう。

そんなの、ごめんだね!


『サァ、死シテ共ニ災禍ヲ……ッ!』


黒い球体がボコボコと沸騰(ふっとう)した様に蠢き、姿を変えていく。

その姿はまるで漆黒のガシャドクロ、質量保存仕事しろーっ!

とツッコミ入れてる場合ではない、対抗しなきゃな!

おいで、神器ちゃーん!

祈りに応えて俺の身体から青い光球が飛び出し、水を纏いながら姿を現していく。


『ヌゥ……!貴様ガ原因カ、コノ男ヲ殺セナンダハ!!』


水筒型の神器ちゃんに、呪いは憎らしげな声を浴びせる。

ブランドルと言い何か矢鱈(やたら)目の敵にされるんだが、ウチの神器ちゃん。

こんな便利でスタイリッシュなのだが!?

……さて此処からが問題だ。

神器ちゃんを出した俺は、どうやってこのガシャドクロもどきを撃破する?

出来る事と言えば……。


『ナラバソノ男ゴト(ヒネ)リ潰シテクレルワァーッ!!』

『くらえっ!神器ちゃんスプラッシュ!!』


神器ちゃんの蓋を開け、水を強く強く噴き出してくれと願う事だけだァ!!

凄まじい水圧に伸ばしてきた巨大な骨の腕が弾かれ、骸骨にぶち当たる。


『グオオオォォォッッ!!何ダコノ水ハアアァァァッッ!!?』


ビンゴッ!

どうやら神器ちゃんから生み出される水は、無事に呪いに効いてくれた様だな!

神器ちゃんは繁神(はんしん)ラミト様が持つ力のほんの一部らしいが宿しており、その神器ちゃんが魂に溶け混んでいてくれたお陰で、呪いに殺される事態を防いだ。

なら守りじゃなく、こうやって攻めれば!


『ヤ、ヤメロオオォォォッ!!』

『ふははははっ!縮め縮め!そのまま消えろ!!』


逆に呪いを祓えると思ったのよぉッ!

昔から(けが)れを清めるのも、創作でアンデッドに効果的なのも、生者の命の源もそもそもが水!

効かない理由(わけ)ないわなぁ!

……ってあれ?

また何か、ダルくない?

ここ精神世界ぞ?

いや待てよ!


『この水瓶は私が作った神器の一つ“アクエリアス”、現状では魔力で水を生み出す力があります』

『……と言う理由(わけ)で君の水筒とアクエリアスを一つとし、より便利で強力な神器としよう』


つまり俺の魔力でこの水作ってる事考えたら、そのうち魔力切れ起こすってことじゃねぇか!

と言うか俺の中に魔力があるの確認したの初めてだし、魔力が無くなると体調悪くなる系のそれじゃんこの感じ!

も、持ってくれよ俺の魔力ゥ!!


『オ、オノ、レェ……ッ!』

『ハァッ、ハァッ、しぶてぇぞ、骨野郎……ッ!』


もうほぼ人サイズにまで縮んでるから、ガシャドクロからスケルトンにランクダウンしてる呪い。

それでも尚俺に向けて手を伸ばして、何としても取り込もうとしている……何と言う執念だ。

そして神器ちゃんが放つ水の勢いは衰え、既に小さいジョウロでチョロチョロ出してるレベルになっている。

俺の体調も……いや、魂の調子と言うべきか?

兎も角良くないな、ガッツリ息切れボロボロよ。

だが──。


『オ、オォ……我ラが……消エ……ルゥ……!』


──これで終わりだな、敵ながらナイスファイト。

黒いスケルトンと化した呪いが崩れ去り、戦いが決着ッ!

……と思ったら丁度呪いが崩れて落ちた水面から、白くぼんやりした光球が浮遊して現れた。


『あ、新手か?』


だとしたらもう魔力ないだろうし無理だろと思ったが、光球は特に何もしてこない。

それに微かに、神器ちゃんがアレに反応している。

……まさか。


『こうかい?』


俺は神器ちゃんの口の方を、白い光球へ向けてみた。

するとなんと光球がゆっくりと引き寄せられていき、神器ちゃんマウスから飲み込まれて行ったのだ!

さ、散々殺して取り込むって言ってた呪い……の残滓(ざんし)らしき物が逆に取り込まれようとは、因果報応。

とか考えた次の瞬間、神器ちゃんから放たれる青き光。

咄嗟に顔を庇ったが、恐る恐る周りを見てみると。


『ちょっと、明るくなった……?』


薄暗い早朝の時間の様な、そんな雰囲気だ。

この変化が“成長”ってことなんだろうか……。


『神器とは神の力のほんの一部ですが混ざっている物です、そこには魂があり意思があり成長するのです』


……俺も、成長出来るかな。


『デキル』


ふふっ、そうかな……そうかも?


『デキル、デキル』


……自己暗示の類とか幻聴かとでも思ってしまったが、どうやら違った。

何故ならこの無機質にデキルと音を発しているのは、俺の手元からだったのだから。


『神器ちゃん!?』

『デキル』


まさかこんな変化が起こるとは、流石に予想出来んかった。

今のところ録音音声みたいな感じでしかないが、神器ちゃんなりに応えてくれてる気がする。


『うん!これからもよろしくな!』

『デキル』


このやり取りを最後に視界が段々と白んでいき、瞳を閉じた。




*************




無事、目が覚めた。

(かたわ)らには俺と触れ合えて喜んでいた、お胸な素敵な美少女が……。

ではなく、ロマンスグレーな侍従さんでした。

ただ今回は目を見開いた、初めての表情を見せてくれた。


「うむ!」

「あっ、デクスターさ……はえぇな」


部屋を出るまでにあっという間の出来事である、そして戻って来るのもまた。


「アユム!!」

「やぁ、コーデリア」


が先に入って来たのはコーデリアだった、起きた俺のもとへ駆け寄ってくる。

やれやれ、しょうがないから俺が受け止め……れなかった。

あと少しと言った所で彼女が立ち止まったからだ。


「コーデリア?」

「……今回はアユムが助かったから良かったけど、また倒れちゃって今度はそのまま……!」


おおう、そうだよな。

倒れて起きた矢先だし、この反応は仕方ないよな。

────落ち着け落ち着け。


「でもさっきので祓えたんじゃ……?」

「え?呪いは残ってるよ」 

「うむ」

「へ?」


どう言うことぉ!?

驚いているとコーデリアがワンピースの右腕を捲って見せる。

(うごめ)く禍々しい(あざ)の様な物が、確かに彼女の身体に残っていた。

これが呪われた人の身体の外に現れる、呪いの証……。


「……つまり俺が呪いを祓ったと思ったのは」

「多分、膨大な呪いの一部だったんだと思う」

「うむ」


マジかよ……。

じゃああの戦いって神様のほんの一部と、呪いの一部でやり合ってた訳か。

呪いめ……糠喜びさせおってからに!

……待てよ?

現状これ以上取り込まれて呪いが増大することはない、そして呪いの一部なら神器ちゃんと協力して逆に俺の精神世界の中に引き込んで倒せば削れるんじゃね?


『デキル』


しかも今回と同じ感じになるなら、神器ちゃんの成長に繋がる……最終的にはコーデリアから呪いが消えるし、良いことづくめでは!?


『デキル、デキル』


……ありがとう神器ちゃん、俺自信が出た。

一緒に頑張ろうな!


『デキル』

「アユム?」

「うむ?」


おっと、反応がなかったせいでコーデリアもデクスターさんも心配させたかもしれん。

反省反省。


「コーデリア」

「う、うん?」

「俺は今日から毎日、君に触れる」

「────へ?」

「うむ!?」


……あっ、言い方紛らわしいかも。

一々格好がつかない、がある意味俺らしい。

下手に格好つけようとして、沢山間違えた俺からすればこの辺りが丁度いいさ。


「一部とは言え呪いを祓えた、なら行けるはずだ」

「そ、そんな!危ないよ!」


心配してくれるんだなコーデリア、優しい。


「ありがとう、でも君も心配なんだ」

「えっ」

「あんなヤバそうな奴が膨大な量取り憑いてるならさ、絶対コーデリアも大丈夫じゃないよな?」

「うっ、それは」


どうやら合っているらしい、目を泳がせながらあたふたする彼女は可愛らしい。

そこへデクスターさん、優しくコーデリアの背中を押してくれた。


「うむ」

「……実は夜になると突然身体が言う事を利かなくなって自分を傷つけたり、食事が冷たいのも温かい物が酷く熱い物に感じられたりするからなの」

「やっぱり……」


憑く相手が死ぬのはまずいから、命に関わらない程度で宿主にも悪さするんだな。 

今のはあくまで一例に過ぎなくて、もっと辛い事もあっただろう。

それでもこの館から出ないし、最初会った時俺を遠ざけようとしたのは、巻き込みたくないと言う彼女の善性による。

そんなコーデリアを放って置ける訳がない。


「なら絶対何とかしないとな」

「……アユム」

「ん?どうした?」

「私の為に、どうしてそこまで……?」


どうして、か。

昔なら格好つけたセリフ言おうとして全力で外す所だろうな。

だから思った事、直球だな。


「そりゃあ俺も男だからさ、可愛い女の子と仲良くなりたいからに決まってるだろ?」

「……ウェッ!?」

「うむ!うむ!」


デクスターさん、スタンディングオベーション……いや最初から立ってたけど。

コーデリアは顔が真っ赤になった、下心丸出しで申し訳ないが誤魔化す事はしたくない。

暫くモジモジと視線を彷徨わせてから、俺をチラリと見てくる。


「私、もっ!……アユムと、仲良くなりたい……よ」

「ごふっ!」


初対面とは別の意味でダメージ入りました、はい。

恥じらう美少女の仲を深めたい宣言は、今はガンに効かないがそのうち効くようになる。

コホン……と咳をならして、気持ちを切り替え手を差し出す。


「なら、改めて」

「はうっ、で、でも……」

「少しの時間なら俺と一体化してる神器ちゃんが防いでくれるから、これくらいなら」

『デキル』

「出来るってさ」

「……そ、それなら」


躊躇いながらも、コーデリアは手を伸ばしてくる。

俺は迷わずその手を握る、目が合った。


筒井(つつい)(あゆむ)24歳だ」

「えっ!?こ、コーデリア……18歳よ」


あっ、若く見られてた?

だから捕まえた後以降、割りかし遠慮ない雰囲気だったのかもな。

異世界なら、そう言う事もあるわさな!


「俺はこれからも気兼ねなくコーデリアと仲良くしたい、だから君の呪いを祓わさせてくれ」

「う、うん!私も……だから、助けてほしい!」


素直で可愛い!

18歳ならギリギリ制服着てる頃、そんな若い子にはもう一度こう言ってしまおうか。


「喜んでお受けしましょう、“お嬢さん”」

「ふふっ、お願いしますね!“お兄さん”!」


は?かわい過ぎるが?

白い光球→呪いの負の念が祓われた後の力の塊。それは既に単純な強い魔力などではなく、神器の宿す力にほど近い性質を持つ


神器の成長→白い光球(など)を神器が取り込むのは効率が良い成長が出来るに過ぎず、召喚者が様々な経験を積む事が基本的な成長方法である


スタンディングオベーション→本来は大人数が立ち上がり拍手を送って称賛する、デクスターとは一体……ウゴゴゴ……

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