一方その頃
アルバータ
コーデリア
の視点です。
リーデン帝国と反リーデン連合の全面戦争は、我々の大々的な勝利となった。
物資がなく士気がガタ落ちの帝国軍に対して、各地で連戦連勝だったからな。
無論被害は決して軽微ではない、だがその大部分はかの“奇跡”で救われたのだ。
「やっと私も本国に戻れる……長かったな」
「帝国民の大半が反抗的で、中々平定が終わりませんでしたからね!今後土地の割譲で領地を割り当てられた貴族が、こんな土地を治めるの大変ですよ〜」
ハロルドよ、分かるぞ。
しかし少しずつでもいい、まともに治められていつかプラスが出る……そう思ってでも誰かがあの地域の頭にならないと、局地的な“乱世”が顕現しかねない。
……もし可能ならば。
「まだ見ぬ召喚者に治めて貰えれば或いは……」
「またその話ですか!?しかしその人の話掘っても掘っても出て来ないんですよね……」
「少しでも情報があればと思ったが、ままならぬ物だ」
帝国側では求めている召喚者の情報がまるでない、逆に以前討ったあの男の話は聞こえてしまうから不快感が増すだけだった。
余程皇帝“ブランドル・ド・リーデン”にとっては晒したくない存在だったと、ならば尚の事会ってみたいのだが。
既に2ヶ月以上も経っているし、案外王都でバッタリ会えたりしてな!
……しかし。
「召喚者の話題は聞かないぞ、それどころかアリスの行方すら掴めていない状態なのだからな……ッ!」
「は!?」
この有り様だ、呪いによって苦しんでいた私達の妹アリス・ド・オリファントが行方不明だと!?
「兄上は何をやっていたのです!また馬鹿な“貴族派”の仕業ではないのですか!?」
実際にアリスに呪いを封じた魔具を着けさせたのは、庶子であるあの子を認めず毛嫌いしていた“貴族派”……それも過激な思想の子爵が暴走した結果だと判明し、証拠も十分だった為既に処刑が済んでいる!
もしかしたらあの件の裏にいた、別の者の犯行なのでは!?
「当然そうでないかと調べている!しかしそれにしては証拠がまるで残っていない!」
「なっ……くっ!」
思わず机を叩いてしまう、だが真面目なのに不憫で可哀想なあの子が今頃酷い目にあっているのではと思うと!
召喚者だと勝利だと浮かれていた、自分が情けない!
「……王家の情報網でダメならば、最早“神殿”に頼るしか!」
「聖女の神託か!……しかし最近パターソン公爵領で内部分裂があったとか、ラミト教がこちらの話を聞く余裕があるか?」
「そちらでも何かあったのですか!?ならば王女としてではなく、“友”として会いに行くまで!」
「無茶はするなよ!ラミト教との関係を悪化させるわけにはいかんのだから!」
「分かっています!」
そうして急いで神殿に向かい、聖女エリザベス・オリストに友人として取り次いだ。
だが会った彼女は取り乱していた。
「お兄さんが、お兄さんが危ない……!」
「ど、どう言う事だ?今度は兄上に何か────」
「違う!お兄さんは召喚……あっ」
────何だと!?
「その話聞かせてくれ!」
「うっ……誰にも漏らさない?お兄さんは、それを求めてない」
「そうか、ならば誓おう!オリファント王家と騎士の誇りに賭けてな!」
これは直感だが、重要な案件だ!
誓って情報を得られるなら、何度でも誓って守り抜いてやる!
少なくとも先ほどの反応から召喚者は関わっている、アリスにももしかしたら!!
「お兄さんはラミト様の神器を授かった召喚者、それどころか軍神ガスト様の神器も宿してるすごい人」
「はぁ!?」
あの時飛び立った神器がもう一人の召喚者の元に行ったと、しかも神器を2つも……規格外が過ぎる!
「……うん、アルバータはアリスを探してる?」
「そ、そうだ!」
「アリスは呪われたまま奴隷に落とされて、迷宮領都ポールの奴隷商館ドレッドで売られてた」
「迷宮領都!パターソン公爵がアリスの件に関わっているのか!?」
だとしたら公爵家が貴族派に参加しており、王家の縁戚による簒奪も狙って!?
「落ち着いて、そう見せかけるためなんだって」
「そ、そうか……良かった、のか?」
「ともかくそのアリスを購入して呪いを祓って、そこから一緒に行動してるのはお兄さん」
「おお!」
召喚者によってアリスの呪いは祓われたのだな!
良かった、少なくともそこは安心だ。
……だが待て。
「その召喚者が危ないと言うのが、元の話だったな?」
「はっ!そうなの、お兄さんは正体を明かさない様にクイーンランク冒険者を目指してて!」
「最早そこまで昇格を……」
「そして国の推薦を求めて“ハートリー王国”を目指したの、そこで精人族に不意打ちされてお兄さんが拉致されたの!」
「拉致!?召喚者がか!?」
精人族に詳しくないから分からんが、神器への対抗策の様な物があるのか!?
「霊霧と言う物で神器が実質封じられちゃった、その後の事を聞いても『山あれば谷あり』って教えてくれない!辛い!」
繁神様!?
一体何が起こってると言うんだ……!
「アリスは、一緒に行ったのだろう!?」
「呪いを祓われてからすごく強いから怪我はないよ、でもお兄さんを救えずに撒かれちゃったから打ちひしがれてる……気持ちが凄く分かる」
「なるほど……」
逆に言えばハートリー王国に向かえばアリスに再会出来るし、召喚者にも会えるわけだな!
ならば我が道は決まった!
「助かったぞ、私はハートリー王国へ向かう!」
「アルバータ、分かってると思うけど……」
「ああ、召喚者について伏せれば良いのだろう?」
「お兄さんをお願い、動けない私に代わって」
友の頼みだし、私個人の願いでもあるからな。
何の問題も無く引き受け……そう言えば。
「引き受けるのは構わないが、名前はなんと言うんだ?」
「召喚者としはアユム・ツツイ、冒険者としてはアルフ」
「あい分かった!その頼みアルバータ・ド・オリファントが引き受けた!」
「お願い」
アユム、いやアルフの方が安心か!
ともかく名前さえ分かれば、探すのに問題ない!
しかし戦後の書類の処理どうするか……よし、“いつも通り”ハロルド達に投げよう!
今は召喚者とアリスが大事だからな!
待っていろよ!!
───────────
召喚者の捜索の件が無くなった代わりに、「ハートリー王国に行ってくる!」と戦争周りの書類を全部投げられたハロルド達は。
「諦めよう、この人が動くなら必要な事なのだ」
「実際結果的に良いことに繋がるんだ、俺らが頑張る甲斐も出る筈さ」
「でももう20歳だし、結婚して落ち着いてくんねぇかな」
と愚痴ってたそうな。
*************
どうしてこんな事になってしまったの?
アユムのお陰で強くなった筈の私達は、視界や謎の不調で上手く動けず彼を攫われた。
「アユムさん、うっ、うあぁ……ッ!」
「ごめんなさい、御主人様、ごめんなさい、ごめん……ッ!!」
ずっと無双の限りを尽くしてきた英雄は、呆気なく私達の前から姿を消した。
当たり前にいてくれる優しくて暖かく大好きな人は、己の無力さで失ってしまった。
「摩擦があるとは聞いていたが、精人族がこうなる程の理由があるのか……!?幾ら何でもやり口が強引すぎる!」
「あれは“森の精霊”、自然が豊富なここでは不利とは言え……不覚だ!!」
普段冷静に努めてくれてるデクスターもこの有り様、頼りになる母と同郷の人物も異常事態に混乱してる。
でも、このままじゃダメ!
「皆、聞いて」
『!』
どんな時だって落ち着いて頑張ってくれてた人に、私は救われたでしょ。
取り乱したくなるけど、結果が好転するわけじゃない。
────切り替えるの。
「予定通りハートリー王国の王都“ハーシェル”へ向かいましょう」
「コーデリアさんどうして!?」
「御主人様を見捨てるの!?」
言いたいことも、気持ちも凄く分かる。
でもそれじゃあダメなのよ。
「デクスター、精人族や森の精霊を感知出来ないでしょう?」
「お嬢様……面目ありません」
「ならば今すぐ乗り込んでどうこうとは出来ない、違う?」
「それは……くっ!」
「完全に撒かれた以上、その通りだよ……」
当てもなく彼方此方動き回って、それで見つかるものでは無い。
それに。
「エイブラハム、本来はこの様な短気を起こすタイプではないのでしょ?」
「あ、ああ……俺が知る限りはな」
「ならわざわざ気絶させてたしアユムは生きてるはずよ、焦らずハートリー王家から精人族の集落を知って交渉するの!」
「それが最善、だな!やれやれ俺としたことが、取り乱してたな」
ふぅ……どうやら皆少しずつ冷静になれてきてるわね、気を張って頑張った甲斐があるわ。
貴方がいない中、私なりにしっかり出来たかな?
「ありがとうございます、コーデリアさん!」
「ワタシ冷静じゃなかった、ごめん!」
「流石お嬢様です、ここまで大きくなられて……!」
「アンタの言うと通りだ、とにかく急いでハーシェルへ向かうぞ!」
待っててねアユム、必ず助けるから!
精人族に関してどうするかは分からないけど、最低限落とし前はつける!
人の愛する英雄を奪った罪、償ってもらうから!!
奇跡→異世界カノスでは魔法はあるが、奇跡があるかは神のみぞ知る
謎の不調→神聖性が霊霧で封じられた為、無くなると元に戻った
森の精霊→自然が豊富な状況だと操れる小さな精霊が多いため、エネルギーとして運用し息をつかせず全力を発揮出来る




