電脳水筒と飛ばっ散り
────5日後、出発の準備が整った。
正式に別の国へ出るって事で、エイブラハムが手配した馬車を使って移動する事になった。
屋敷の留守周りに関しては、奴隷商館ドレッドから借り受けた労働奴隷達に任される。
ただ防衛に関してはこちらからハガードとジャックとジョンの、強さと見た目威圧感あるメンバーで固めた。
「後の事、頼んだぜ……」
「お任せを」
「フン、居ナクテ清々スルゾ」
「ソノ様ナ事ヲ言ッテイルガ、寂シイノデハナイカ?」
「アリエンナ!」
ツンデレ乙。
まぁ段々素が出て来てて良いのかな?
「アルフくん、無事に帰ってきてね」
「いつでも待ってるぜ!ちゃんと恩を返させろよ?」
「貴方様のお陰で家族が心から明るくなったのです、娘と幸せになる為にもご無事で」
「はははっ、何があっても絶対に帰りますね……」
ベティさん、ウォルターさん、ジェーンさん。
デズモンド家の皆様から暖かくお見送り、ベティさんは準備期間の間に散々……これ以上は言うまい。
「アルフさん!お土産期待してますね!」
「こら何言ってるのお馬鹿!お気をつけて!」
「ありがとう……!どんなモノあるか知らんが、買ってはおくか……」
ドナルド君とキャロルちゃんもハートリー王国に行くと伝えてくれてたから、特に心配してなさそうにお見送りに来てくれた。
まぁ、信頼はされてるかな?
「では行くとするか、アルフ」
「ああ、と言うかエイブラハムは大丈夫なのか……?」
「ハートリーの視察も兼ねている、直接見ないと分からんことも多いだろうからな」
「なるほど……」
ってわけでエイブラハムもハートリー王国行きだ。
デクスターさんと共に、男性陣で頑張っていこう!
「アルフ」
「うん……」
「行きましょう!ハートリー王国に!」
「ああ、出発だ……!」
馬車が動き出す。
ハートリー王国の王女でコーデリアの母、そして精人族の血を引いてる方だと知れた“コレット”さん。
向こうで会えたらどんな事になるか、コーデリアもそれを考えて気合を入れているみたいだ。
「アルフくん!」
「ベティさ……んむっ!」
急に現れて唇を奪うとは、強引!
「待ってるんだからね!」
「……はい!」
互いに手を振る、希望を胸に向かうが……摩擦が起こってるってことは、人同士の争いもあるだろう。
だからベティさんは、心配で仕方ないんだろう。
今回の件聞いてから、避妊をしたくないって言ってた程だし。
当然避妊した、必ず帰ると何度も約束して。
「ワタシはオリファント王国を出た事が無いから、少し楽しみだな御主人様」
「そっか、ならきっといい事あるさ」
「うん!」
ビギナーズラックって言うしね、俺も初めてだしいい事あるさ。
そう思いながら、馬車の中で揺られてた。
*************
「神器があると分かっていても、旅先でこれ程温かく美味い飯が何度も食えるとはな」
「食材の提供はそっちだからな、出来る手段がある以上こっちがやらんとな……」
「アユム様がいるからこそ、出来る芸当ですな」
既に何日も休憩を挟みながら移動して、国境は既に越えてハートリー王国の中に入っている。
エイブラハムの感覚的に、普段よりも魔物が襲ってこなかったらしい。
「普段もこれぐらい楽なら、旅も悪くないがな」
「やっぱり大変なのか……?」
「治安が良いから賊は湧かないが、魔物ばかりはどうにもならん」
冒険者ならダンジョンで慣れているが、そうじゃない人間からすると脅威でしかない。
ウォルターさんとジェーンさんがワイバーンを倒してクイーンランク冒険者に推薦されたのも、魔物はそれだけ一般的に恐ろしいものであるからだ。
この馬車を引いてくれてる馬も、“ブレイブホース”って言う魔物だ。
テイムされ飼いならされてるからこそ安全に見えるが、野生の個体に会えば襲われる事間違いなし。
「しかしデクスター、あんたかアルフって偽名をアユムに使わせたのは」
「私とお嬢様ですな」
「やっぱりそうか、実際コイツはアルフらしい所が多々あるからな」
「そうなのですよ!女性に気が多いのは確かですが、特にお嬢様に対してはですね────」
「クククッ、確かに好みそうな雰囲気してるもんな!そしてお嬢様的にもベタ惚れで────」
おっと、これ完全に例の物語に関する話で盛り上がってます。
この手の話題はついて行けないし、催したから行ってこよ。
人いないし、皆から離れてるし、ここが良いかな。
……ふむ、よし終わっ……た?
「なんだコレ、煙……?」
いや煙たくはない、そもそも魔具で明り取りしてるから焚き火してないし……なら霧か?
でもこんな急に湧き出すものか……異世界カノスだし良くあること?
『なぁ、サキ……サキ?』
────反応が、ない。
『サキ!?ラミ!?』
嫌な予感がして振り返った、辺りは霧だらけだ!
「皆、大丈────」
ぐっ!?
組み付かれて絞められてる!?
誰に!!?
「視界が悪い!アユム何処!!?」
「アユムさん!ご無事ですか!アユムさん!!」
「御主人様!返事をしてよぉ!!」
返事したいけど無理だ!
く、苦しひ……!
闇属性状態異常付きっぱなしだから、どうにもならない!
意識がぁ……。
「─ユム様─離せ!外道─ら!!」
デ、クスター、さん……!
たす、かる、か……?
「この─はこち─に必─なのだ、─語の精─」
「ま─か貴─も─霊か……!?」
「──、あの─の為─」
だ、だめ……だ、もたな、い……。
*************
う、んぅ……なんだぁ……?
明る、い?
「朝か……!」
「その声、目覚めたか」
「うおぉ……!?」
ビックリしたぁ!
何だ何だ!?
ドコだここは!
「落ち着け、今は攻撃の意思はない」
……すぅ〜、ハァーッ!
少しだけ落ち着けた、正直まだ混乱してはいるが。
とりあえず殺す気なら既に命はない、ジャックに言った事がそのまま自分に返ってくる。
因果応報。
「手荒な手段に打って出たのはすまなかった、しかし時間が無かった」
そう言って入って来たのは……。
“翡翠色の髪”、“緑の双眸”、“尖った耳”をした美青年だ。
やっぱりそうだ!
精人族はあの“エルフ”なのだ!
いや、こっちではそう言わないんだろうけど!
「時間……?」
「あの方は悪しき企みを持つ人族に生み出された、“黒き獣”との戦いで傷つき消耗していた……それ故にお休みになられる“揺り籠”が早急に必要だった」
“黒き獣”、覚えあるけど“邪獣”って終わったはずだよね?
変態助祭だけじゃなかったってことか?
“揺り籠”、思い当たるものとしては“精神世界”しかない。
それで傷ついたあの方ってのが、今俺の中で休んでる?
「俺が召喚者と言うのは……?」
「神聖性があったから理解していた、同時に敵対されてしまった際に神器が危険だと考え、“霊霧”を“森の精霊”様に出していただいた」
うーむ、あの方とは別に“森の精霊”がいるのね
“霊霧”はあの時の霧で、あの霧の中だとサキラミ姉妹達神器は無力化されると。
……まだ会話できないな?
「敵対する気は無いのだが……?」
「あの方が直接お主の中にいる、だから霊霧が出ている時と同じ様に神聖性を阻害する状況が出来ているのだ」
つまり“あの方”とやらが回復するまで、サキとラミに再会できないと……辛い。
だが状況は飲み込めていたな。
精人族はハートリー王国内にいる悪人が生み出した邪獣に定期的にカチコミかけられてて、対抗できるあの方とやらが消耗。
放って置くとあの方の回復手段がなくてピンチで、困ってた所に俺達が来てたまたま精神世界を持ってた俺がいた。
精神世界は精人達には揺り籠と呼ばれていて、あの方が回復出来る手段だった。
交渉をするには“森の精霊”も精人族達も焦ってて、強力な召喚者に敵対される可能性があったから、不意打ちによる拉致を敢行。
そして現在に至る、と……は?
「完全に俺、飛ばっ散り……!」
「すまなかった」
「他の皆は……!?」
「里の場所を隠す為に撒いた、すまない」
おいいいいいぃぃっ!
俺が何したってんだよぉ!?
首絞めて気絶させる意味ありました!!?
背中に張りのある良いの当たってたけど関係ないな!!?
全部終わったら皆ギッタンギッタンに……いや。
────違うだろ、落ち着け。
「もう、こんな事はしないでいただきたい……あんたら精人族を嫌いになりたい訳じゃないんですから」
「────ッ!申し訳、無かった……!」
彼らも被害にあって疑心暗鬼になってたんだよな、それに熊倉力矢みたいな例があるんだから召喚者が信用出来るとは限らない。
それにここで怒って暴れたりして険悪になったら、ここに来た意味がないしな。
────切り替えよう。
「俺は召喚者アユム・ツツイです、貴方は?」
「……セドリック・シャーウッド、この里に住む精人族の長を務めている」
パーティメンバーの皆と離れ離れ、相棒のサキとラミが封じられている。
精神世界の中にはサジェリアとフィオナが入ってたが……とりあえずサジェリアなら判断を誤らないだろうし、フィオナは最近素直ないい子になってきてるから問題ないはず。
不安も不満もある、だがこういう時こそ落ち着いて前を見よう。
俺がんばりますんで……見ててくださいね、ラミト様。
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一方繁神ラミトはアユムの事を見れており、『山あれば谷ありですね』と落ち着いていた。
ただしうっかり神託で語ってしまい、エリザベスが暴走しかけていた。
お土産→最近アンデッドダンジョン近くで、フィオナの形のクッキーが売られ好評である
精人族→魔力が豊富で信心深く里に籠もりがち、名前の割に精神力が弱く一度崩れるとパニックになる
霊霧→自然界で生まれた精霊が扱える神聖性に対してのチャフの様な物、ただし“神”には通用しない




