表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/70

水筒と紅髪の美少女

「お願い!近寄らないで!」

「ぐふっ!」


故郷のおっとさん、おっかさん……俺は今何かした訳でも無いのに拒絶されたよ、それも現実なら絶対見ることないレベルの美少女にだ。

……小学生の時、昼休みに体育館で鬼ごっこをやってた時期があるんだ。

男女問わず皆で遊ぶ、身体も動かしてスキンシップが取れる。

健全で仲良くなれる素晴らしい鬼ごっこだが、思わぬショックを受ける出来事があった。

ある時俺が鬼になっていた時だ、運動系のクラブに所属してる逃げるのが上手い女子を何とか追い込んで捕まえれた時だ。


『筒井ってめっちゃしつこい!怖い!』 


今にして思えばあの女子が捕まったのが悔しくて出た言葉だったのだろうが、当時は結構心に来るものがあった様に思う。

そこから女子との距離を意識的にとっていた、怖がられて嫌われたくないから……。

今さ、その時以上のダメージが俺を襲っている。

だって近寄るなってハッキリ言われてるし、美少女だし、おっきいし。


「あ、あの俺何かしましたでしょうか……?」

「えっ、あっ、違う!そうじゃなくて、ダメなのよ!」


ど、どう言う事だってばよ?

疑問符で頭がいっぱいの俺を他所に、ロマンスグレーが彼女に対して近付き礼を執る。


「うむ」

「で、“デクスター”?どうして……どうして彼をここに入れたの!?何をしてるか分かっているの!?」

「うむ」


“デクスター”!?

あの侍従の人、デクスターって言うのか……。

しかもどうやらあの美少女とは知り合いみたいだし、デクスターさんの方は彼女と問題なく近くで接している。

俺とデクスターさんはどうして差がついたのか……慢心、環境の違い。

とデクスターさんが間に入った事で多少落ち着いたのか、距離を取っているが彼女はしっかりと此方(こちら)を見た。


「その……取り乱してごめんなさい、あんな言い方」

「い、いえいえ」


さっきまでの皇帝(暴君)ブランドル、宰相(の腹心)クラーク、侍従(うむ)デクスターさんとディスコミュが続いてた。

やっとまともにコミュニケーションですか!?

美少女とお話出来るんですか!?やったー!


「でもここにいてはいけない」

「え?」

「……私は、“呪われて”いるから」


なん、だと……?


「少しでも私の近くにいれば、その影響を貴方に与えてしまうかもしれない……どうしてここにいるのかは知らないけど、早く出ていった方がいいわ」


そ、そんなー!

美少女とコミュニケーション出来ないじゃないですかー!やだー!

とはならない、なれない。

何故なら。


「それは、出来ないんですよ」

「な、何で……?」

「皇帝陛下の命令を受けた、宰相閣下の指示なもんで……」

「────ッ!」


クッソ大嫌いだが立場が上の存在だし、逆らってテキトーな事して何されるか分かったものではない。

だから何があろうと、此処から離れると言う選択肢は現状取れないのだ。

そう言う意図で伝えた言葉だったが、彼女は目を見開いてから苦々しい表情になった。


「……あの人は、何処まで私を……」


右手を額に当てて俯き、歯を食いしばる美少女は“絵的に”様になる。

しかし現実にその場面に遭遇していると、コチラも大変心苦しい。


「うむ」

「……デクスター」


来た!

デクスターさん来た!

これで勝つる!

と俺の中で大歓迎状態だった。

初対面の“呪われて”いるらしい美少女が精神的に苦しんでいる、そんな時どう接するべきかなど、俺の中には答えがないからね。

と、この音は……鐘の音?

皇城からだろうか、そういえば夕方だっけ。


「……どうするかは兎も角、食事にしましょうか」

「あっ、はい」

「うむ」


どうやら色々脇に置いといて、ご馳走してくれる様だ。

先を行く彼女とデクスターさんの後を追った。




*************




館を正面から見て左の方にある扉から先が、そこそこの人数が食事をする為の長テーブルが置かれた部屋であった。

美少女は上座で俺が下座に座って、離れた距離で向かいあっていた。

距離にして(およ)そ20歩。

身長175cmで胴長短足でもないフツーの俺が、散歩するくらい気楽に歩いた場合の計算だ。

やはり“呪い”は何かの隠語とかではなく、実在する様で彼女は注意を払っている。


「うむ」

「あっ、ありがとうございます」


デクスターさんは相変わらずだが、丁寧な様子で俺にも料理を出してくれる。

内容としては冷えたパン、冷えたスープ、干し肉を散りばめた山菜のサラダ。

ま、まるで温かみがねぇ!

しかし俺に歓迎の意がないから、敢えて冷えっ冷えの料理を振る舞っているわけでは無いらしい。

何故なら向かいにいる彼女も、全く同じ内容を召し上がっているからだ。

……と、兎にも角にも!


「いただきます」 

「神々の振る舞いに、感謝を」


おー、この世界……カノスだったか。

こっちではそう言う風に言うんだね、覚えとこう!

……とは口に出ない。

パンは固くは無いがパサついてるし、スープはマシだけどやはり温度が欲しい、サラダは干し肉が事実上の調味料でやたら(しょ)っぱい。


「「……」」


会話が、ねぇ。

美味しくて止まらねぇ!!って理由じゃなく、食卓が静かなのは寂しいものだ。

一人暮らしで彼女いない歴=年齢な事実と何方(どちら)が上かは、甲乙(こうおつ)付け難い。

むっ。

もう食べ終わったわ、向こうじゃ健康考えて早食い避けてたのに何か居た堪れなくてつい……。

紅髪の美少女の方は────って向こうも食べ終わってるじゃねぇか。

光沢の無い緑の瞳が此方を見て何か言いたげな様子を見せては、やっぱり逸らして落ち着き無く悩んでいる。


『落ち着き(たま)え、星の子よ』


……そうだよな、ラミト様。

ここで俺までパニクってたら、彼女と今日中に距離縮められずに終わりかねん。

────間違えんな。


「ご馳走さまです、人心地つきました」

「あっ、え、ええ……どういたしまして?」


よし、大丈夫だ。

畳み掛ける。


「改めまして初めまして、この度異世界から召喚された者で筒井歩って言います」

「異世界の……」

「ええ、お陰様で繁神様から神器を授かったんですけど……武器型じゃない物で、皇帝陛下には気に入られないどころかお怒りを買ってしまった様です」

「……」


うーん、唖然と言う表情の美少女。

これはどう言う感情であろうか、俺や神器ちゃんに対する失望とか落胆で無いであってほしい。


「その後宰相のクラーク公爵閣下の指示で、デクスターさんについて森を歩きこの館へ来た次第です」

「……」


これでここに来るまでの仮定は話し終えれたぞ、やっと前に進んだ気がするぜ!

だが今度は彼女は両手で顔を覆ってしまった。

しかも震えてきやがったぞ?

だ、大丈夫か?


「酷いッ!あの男酷すぎるわ!!」


!?


「自分の都合で貴方を召喚したと言うのに、“呪い”に塗れて“いらない物”扱いした“娘”の元に送るなんて……あの悪魔ッ!!」

「えっ」


……マジかよ。


『“いらぬ物”にも“いらぬ物”なりに“使い道”はある、か』

『後は任せる、コレはアレの元で良い』


分かってはいた。

皇帝ブランドルは異世界の為政者で暴君だ、日本で生きてきた俺とは価値感以前に倫理レベルで異なる人種である。

だがそこまでか……そこまで外道かよ。


「……ごめんなさい、あの男のせいで貴方は巻き込まれただけだったのにあんな」

「……」

「ごめんなさい……ッ!」


彼女は涙を流し、俯いてまた顔を覆う。

今度は俺が暫く唖然とさせられたが、そんな姿見せられたらただ固まってる訳にはいかない。


「大丈夫です!」

「……え?」

「俺は召喚者です、神様の力の一部が宿った神器が魂と一体化してる奴なんですよ!」

「魂と……」


俺の言葉に顔が此方を向く。

かつてを思い出せ、純粋に性別の垣根が隔たりなくあったあの頃を。

────攻めろ。


「だから“呪い”も問題ないです、大丈夫ですって!」

「それは……でも絶対は……貴方にもしもが……」


再び俯く彼女、今です!

カーペット床のお陰で静かに左側へ椅子から立ち上がり、泣いてる少女の前へ。

音を可能な限り立てず、しかし素早く向かうこの歩法。

どうやら久方振りに上手く行っているようだな!

とか思ってる間にあと少し!

残り5歩、俺が急に黙ったと思い不安から顔を上げた美少女。

残り4歩、俺が黙々と接近してきていたのを視認したが理解が追いつかない。

残り3歩、理解はしたが今度は身体が追いつかない。


「うむ」

「!?」

 

残り2歩、ここでまさかのデクスターさんが肩を抑えてナイスフォロー。

残り1歩、立とうに立てず少しでも身体を離そうと足掻く。


「『捕まえた!』」

「あっ!」

「うむ」


残り0歩、彼女の手を右手で掴み握る。

ミッションコンプリート。

デクスターさんも何処か満足した雰囲気。

一方で俺に捕まってから、繋いだ手を呆然と見つめる美少女。

手の感触?

スベスベで気持ちいいよ、文句ある?


「う、嘘……何で……?」


もう片方の手でも、俺の右手の甲に恐る恐る触れている。

この反応から今まで触れたり、最悪近い距離にいるだけで周囲の人間が呪いの脅威に晒されたのかもしれない。

だが、俺なら大丈夫みたいだな!

良かった良かった────で終わらせちゃ駄目だ。

昔から間違えばっかだらけの俺なりに頑張ったと思う、そんなご褒美にこれくらい許されますかね?


「“お嬢さん”」

「え?」

「どうかお名前をお聞かせ願えますか?」


そう俺は彼女の名前を知らない、だから知りたい。

だが知りたいのは暴君の娘で、リーデン帝国のお姫様の名前じゃない。

紅い髪で緑の瞳で豊満な美少女のお嬢さん、ただそんな人の名前が知りたい。

そんな意思を伝えた時、暗く濁った彼女の瞳に光沢が戻った気がした。


「“コーデリア”、ただの“コーデリア”よ!」


コーデリア、良い名前だ。

心の底からの綺麗な笑顔を浮かべて、彼女の両手は俺の手を握り直した。

おお、嬉しい嬉しい。


「よろしくねコーデリア、さん?」

「いいえ、さんも畏まった口調も要らないわ……アユム」

「わ、わかり……わかったよコーデリア」

「よろしい!」


大丈夫となったら気安くなったね君、その方がとっても良いけれど!

本来はこう言う明るい性格だったんだな、色々あって変わってしまっていただけで。


「うむ」

「あっ、お疲れ様です」


デクスターさんも俺に礼を取ってくれる、ありがとうマジ助かった。

けど何者なんだよ、そこ早く知りたいわ。

……ん、あれ?


「……ハァ、ハァ……」

「あ、アユム?」


さっきまで大丈夫だったのに急にダルくなって来たなぁ、風邪かな?

呼吸も荒いし、視界も掠れて……。


「すま、ん……何かダル……」

「アユム!」

「うむ!」


力、が上手く入らん、倒れ込ん……でしまった?

コー、デリア……デクス、ターさん……支え?


「デク─ター!お願─急─で寝─に!!」

「──!」

「─ユ─!死な─い─!!」


僕、は……死に、ま……しぇ……ん……。

呪い→死後強まった魔力が、死者の負の念と(まじ)り取り憑いてくる危険な物


鐘の音→リーデン帝国では朝6時、昼12時、午後6時に鐘がなる


豊満→大変偉いが、貴賤はない……ないったらない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ