表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/70

水筒と暴君とヤンキー

「貴様らを召喚したは他でもない、この我“ブランドル・ド・リーデン”……リーデン帝国が皇帝よ」


遂に名前が出たよ、紅の暴君の名前が。

皇帝ブランドルは変わらず威圧感を放っているが、(かたわ)らに立つ臣下の方々は大丈夫なのだろうか?

……ここは敢えて俺が動くか?


「あの…」

「陛下の御前だ!!軽々しく(おもて)を上げ、口を開くな!!」

「はい!」


声でか!!

いや〜、思ったよりしっかり忠誠心ある感じですわこれ。

重要な役職に就いてる方々は、軒並みこんな感じかもしれない。

さっきの行動で、俺に対する臣下方の好感度低下してそうかなぁ。

一方で暴君殿は特に変化なし、俺と臣下のやり取りに特に興味が無い様だ。


「召喚の理由(わけ)はある程度知っていよう、神器を持ちし異界の人間を我が帝国の戦力とする為よ」


ですよね。

軍神派で暴君呼ばわりでも繁神ラミト様から否定が無かった人物だ、面構えが違う。


「では神器を見せい……リキヤとやらからだ」

「分かりました!」


許しが出ないため顔を前に向かず、金髪ヤンキーの熊倉力矢は両手を掲げた。

すると黄金色(こがねいろ)光球(こうきゅう)とその周囲に(いかづち)(ほとばし)り、二又(ふたまた)の槍が姿を現した。


「ほう、二又槍か」

「は、はい!」

「現れる際に、雷が出ていましたな」

「雷を扱えると見て問題なかろう、中々面白い」


なるほど、神器って普通に出そうと思えば出るもんなんすね。

そしてさっき怒鳴ってきた人と暴君が、熊倉の神器を品定めしている。

武器だった事、そして強い力を持っていそうな事から評価高めな印象。


「よい、納めよ」

「はい!」


どうやら満足したらしい。 

熊倉が神器の柄を握り込むと光球に戻り、彼の中へと吸い込まれた。

男である以上厨二病(ちゅうにびょう)(ごころ)(くすぐ)られるのだが、武器型神器には縁がなかったって事で。

竜みたいなおっかないおっさんからの評価高めとか、後の事考えてストレス貯まっちゃう。


「ではアユムとやら、神器を出せ」

「は、はい」


熊倉を見習い両手を掲げて『神器ちゃん出て〜!』と心の中で祈ると、青い光球が水を(まと)いながら出現した。

一瞬興味深そうな反応をしていた皇帝ブランドルと臣下達だったが、姿が現れて明らかに反応が冷めた。

一方で熊倉は、明らかに見覚えある形状(けいじょう)の品が出現したためか驚いていた。


「……何だこれは?」

「少なくとも武器には、見えませんな」

「フゥーッ……であろうな」


皇帝ブランドルは明らかに落胆した様子で、ため息を吐きだした。

臣下達は勝手に顔を上げて口開いた辺りから期待していなかったらしいが、更に評価を下方修正した様子だ。


「貴様の、神器は何だ……?」

「すっ、水筒です」

「フッ、フフフフフ!……水、筒、か……ッ!」


わぁ、何か空間が歪んで見える気がする。

口元は笑っているが目が笑ってないブランドルは、青筋を立てながら水筒型神器ちゃんを見ていた。

あかん、これ終わる!?

やっぱり理不尽な事になっちゃうの!?

助けておっとさん!おっかさ──


「……いや、そうか」


──え?


「“いらぬ物”にも“いらぬ物”なりに“使い道”はある、か」


おいおいおい、“いらぬ物”って直接的に言ってきたよこの男!?

しかも“使い道”って嫌な予感しかありませんが!?


「納めぃ、もう見たくもないわ」

「……はい」


こんクソがよぉッ!

俺を一切見てねぇのは計画通りだから兎も角、神器ちゃん見て“いらぬ物”はかなり腹が立った!

強いし顔怖いしデカいし権力あるからってぇ、偉そうにしやがってよぉッ!!

はい、偉いです本当にありがとう御座いました。

……色々言いたい事はあるが、今の俺は奴にある物が何一つない。

我が手にあるはラミト様より授かった、水筒型神器ちゃんのみ……。

雄弁(ゆうべん)は銀 沈黙(ちんもく)は金、今は雌伏の時だと思うのだ。

神器ちゃん、すまぬ……俺の中でゆっくり休んでくれ。


「クラーク」

「はっ」

「後は任せる、コレはアレの元で良い」

「承知致しました」


クラークってのは俺を(とが)めた臣下の男らしい、宰相とか?

そして見る物は見たと言わんばかりに乱暴に立ち上がり、去っていくブランドルあんちくしょう。

腹を据えかねてるのはこっちもじゃい!

つーか多分コレが俺で……アレ?

アレって何よ?


「リキヤ殿、召喚から神器のお披露目までご苦労様でした」

「あっ、はい!ありがとうございます!」

「私はリーデン帝国宰相にして、ギレット公爵家当主クラーク・ド・ギレット公爵です」


熊倉に丁寧な挨拶をするクラーク宰相。

そりゃあ結果出してるからそうなる、当然此方には一瞥(いちべつ)もせず。


「召喚者として我が国の“客将”になっていただく貴殿には、既にお部屋や“歓待(かんたい)”の準備も済ませております」

「か、歓待っすか!?」

「ええ、とびきりの“綺麗どころ”を引き合わせ致します」

「う、うおおおおぉぉぉッ!!」


さっき“戦力”として利用する事を、皇帝ブランドルが言っていたのを聞いてたはずなのにもう忘れてる……。

“客将”なんてさも敬ってますよ感ある言い方に、“綺麗どころ”による“歓待”……。

熊倉完全に乗せられちゃった、敵味方問わない屍達で出来たビックウェーブに。

クラーク宰相はコソコソとこれまた綺麗な侍女(じじょ)に指示し、熊倉を案内させる様だ。

鼻の下を伸ばしてウキウキな熊倉、見事に術中(じゅっちゅう)である。

グッバイ金髪ヤンキー、次会った時には世紀末色に染まってるかもな。


「おい」

「あっ、はい」


雑ぅ。

さっきまである程度柔らかい表情だったのが、明らかに能面(のうめん)みたいな顔になってます。

上司に言われたから対応してるだけ感が凄い。


「貴様はあの男について行け」

「……分かりました」


クラーク宰相が指したのはロマンスグレーな侍従だった、俺は結構好きよこう言うタイプの人。

逆に言えば女を充てがって機嫌とる必要ない程度の存在だと言う、明確な意思表示の側面がありそう。

良いよそんな見え透いたハニートラップ、何処までも堕ちて地獄へ真っ逆さまだよ。


「えっと、よろしくお願いします」

「うむ」


……無口なのか、クラーク宰相同様好感度低いのか一言だけ。

以後は無言で先導して歩いていく、ちゃんと着いてきてるかは確認してるから怖い人ではないのかな?

玉座の間から出て暫く歩いては階段下り、歩いては階段下り。

うーん!皇城から出る感じだなこれ!




*************




日が沈みだしている、時刻は夕方か。

召喚された時間が散歩休憩中の午後4時過ぎだったし、納得の感じ。

皇城から出て少々歩くと森が見えた。

まさかあそこ!?

と思ったらマジでそうだった様だ、今現在皇城離れの森を侍従の人と歩いてる。


「あの、この先なんですか?」

「うむ」

「……」


会話終了。

この人マジでどっちか分からん、喋るの苦手部なのかおめぇと喋る趣味ねぇから!なのか……。

不安になって声を掛けたのに、「うむ」で終わらせられた奴の気持ち考えた事ありますか?

とか一人で頭の中でやってたら何やら建物が……?


「うむ」

「ここなんですね?」

「うむ」


この人マジで「うむ」しか言えないのかもしんない!

じゃなきゃここまで頑なに「うむ」としか言わないわけないもん!

と言うわけで深く考えるのは止めにした、それよりも目の前の事よ。

背の高い木々に阻まれて遠くから見えなかったが、塀で囲まれたそこそこ大きな洋館が合った様だ。

城出る時も外出ると思ってなくて意識してなかったから、全然気づかなかった。

侍従さんが堅牢な門の横の扉の鍵を開けて(いざな)ってくる、ついて行く他あるまい。

洋館の玄関扉を侍従さんは特に呼び出しやらの合図をするでもなく、扉を開ける。


「えっ」 

「うむ」

「え?」


エントランスホール、そこで出会ったのは女の子だった。

何処かで見たような長くて紅い髪、身体を覆うような黒いワンピース、光沢が無く暗い緑色の双眸。

そして、何より彼女のある一部は豊満であった。

リーデン帝国→戦う力こそが正義、戦う力無き者に対して冷酷な国民性


二又槍→軍神が雷雨の日にノリで作ったらしい、まぁまぁ自信がある神器


熊倉力矢→調子に乗りやすい、でも明らかに強い者に対しては媚びる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ