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侍従とお嬢様と英雄

デクスターさん視点です。

私が生まれたのは、お嬢様のお気に入りの物語からでした。

その物語は村を(おびや)かす魔物を退治するため立ち上がった、とある三人の人物が主役級の存在とされていた。

心優しい少女“オリアナ”。

勇気ある青年“アルフ”。

そして導く強き老人“デクスター”。

彼こそが私の支柱となり、お嬢様の魔力で精霊となったのだ。


『デクス、ター……?』

『ええ、“お嬢さん”』


当初は物語のデクスターをなぞった口調や立ち振る舞いで接した、私にはそれ以外に生き方が分からなかった。


『大丈夫ですかな?』

『デクスター!』


ある時は彼女を守り。


『あの男には貴女の良さが分からぬのだよ』

『うん、そうだよ……!』


ある時は彼女を励まし。


『ごめんね、上手くできなくて……』

『いえいえ、これからですからな』


ある時は彼女を鍛えた。

そうして接していく内に、少しずつ違和感を修正していき……。


『デクスター!』

『はい、“お嬢様”』


今の“侍従”デクスターへ変わっていった。


『私と“契約”を結びましょう』

『そ、それって……!』

『貴女の魔力ならそれが叶います、どうか私を正式な貴女の“侍従”にしてほしいのです』

『────ええ、喜んで!』


この時初めて私達は正式に“主従”となったのだ。

気合を入れ彼女を守り、導くのだと奮い立った。

……だと言うのに。


『自身は呪術師として完成した、我が術を受けるがいい!』

『母サンノ仇ダアアァァァッ!!』

『くだらん』

『────えっ』

『おっ、お嬢様ああぁぁぁッ!!』


不甲斐ない……ッ!

私は自分で生まれて初めての契約、守り導くと言う誓いを守れなかったッ!!


『ひっ、自身は“呪術師”で!ヒギャアアアッ!!』

『はぁ……はぁ……デク、スター』

『う、む……』


憔悴しきり、呪いに身体を蝕まれたお嬢様に……私は何も出来なかった。


『それは呪われ価値が無くなった、“いらない物”だ』

『!?』

『そしてお前もだ侍従、共に捨てられろ……邪魔だ!』

『う……むぅ!』


怒りが湧き上がる、可能ならばあの男をこの手で討ちたい……だがそれは出来ない。

呪いにより契約で得られる魔力の減少による弱体化で奴を討つどころか、お嬢様をお守りする力もない。

私は悔しい思いを抱えながら、外へ歩いていった。


『おい』

『?』

『あの森の先にある館だ、行け』

『……うむ』


何故宰相クラークがこんな指示をしたのか、私には分からなかった。

だがお嬢様を休ませ、お世話する場所が必要だったのは事実だった。

だから従った。


『うむ……!』


館で私はくる日もくる日も、お嬢様のお世話の日々。


『デクスター……痛ッ……身体が、勝手に……!』

『う、むぅ……!』


かつての様にお嬢様を守れない。


『デクスター……今日は良いこと、あるかな?』

『うむ』


かつての様にお嬢様を励ませない。


『デクスター……思う様に、いかないね』

『……うむ』


かつての様にお嬢様を鍛えられない。

それでもお嬢様は3年もの間で、普通に暮らす程度の力に戻ったのだ。

……だが、それだけだ。

お嬢様はあの日からずっと、ここに閉じ込められたまま……!

その名の通り呪縛から逃れられない……ずっと!

何でも良い、誰でも良い……!

お嬢様を、彼女だけでもどうか……救ってはくれまいか!!

そう願っていた時、機会が訪れたのだ。


『おい』

『あっ、はい』

『貴様はあの男について行け』

『……分かりました』


そう彼の……アユム様の召喚の日であった。


『えっと、よろしくお願いします』

『うむ』


まさかこの出会いから、彼が“お嬢様”を……。

厳密には“私達を救ってくれる英雄”だとは思っていなかったな。

本当に、折れずに待ち続けてみるものよなぁ!





*************





『デクスターさん!』

『おじいさま〜』

『起きて起きて〜!』

『おっと、着きましたな』


いかんな、過去に思いを馳せていた。

走馬灯なんぞ流れる状況でもなし、我ながら相当に感慨深いのかもしれん。

ここはアユム様の精神世界、その中だ。

一点の曇りもない青空、清く澄んだ水で満ちた足下(あしもと)……水筒の神器たるサキ殿が魂と一体化しているとは言え、これ程心落ち着く場所を私は知らない。


『やはりこれで最後ですし、思うところが?』

『その様な所です、いやはやお恥ずかしい』

『全然ですよ!共に解呪戦、走りきりましょう!』

『ふふふ……ええ、勿論です!』


この方は本当に“アルフ”に似ている。

決して当人が驚くほど強い訳ではなく、見ているこちらの気が抜ける様な(とぼ)けた雰囲気を出し、しかし必要な時は途轍(とてつ)も無い勇気を発揮して人を救う。

やる時はやる男……それが“お嬢様が惚れた男”だ、最後結ばれて幸せになるオリビアとアルフとつい被らせてしまっても仕方あるまい?


『来るよ、最後の呪いだ!』

『っとやはりこれは……』

『おおきいですわ〜』

『……なるほど』


お嬢様の腹部と胸部に存在していま呪い……と聞くと妙な感じがしますが、確かに大きい球体。

特に後から入ってきた物が……そう言うことですかな?


『自身ガ呪イ?許セヌ……!ブランドルゥ……ッ!』

『ドウシテ、ダ……母サン、ヲ……帰セェ!』

『ひとのかたちですわ〜』

『あの言ってる事ってさ……』

『間違いないですね、デクスターさん』

『……ええ』


大きな人影が丈夫だったが故に呪いの核となった男、そして少し小さい人影が……。


『“ブラック・ド・リーデン”です』


お嬢様が憑かれた呪い、その始まり……元凶だった男!


『我が強くて呪いに意識が沈まなかったのが、大きな部位に残り続けたんだろうね!』

『しつこいのろいですけど、とびっきりですの〜』

『アユム様』

『はい』

『ブラックは、お任せ下さい』


これは私個人の過去の清算として果たすべき事もある、だが同時にアユム様にわざわざこの様な汚物(おぶつ)と関らせたくない。


『頼みます!俺もあいつを直接倒したかったんです!』

『何かありましたかな?』 


私の知る範囲では核の男とアユム様に因縁はない、あるはずも無いと思ったが。


『よくもコーデリアのおっぱいを3年もの間占領してやがったな!……てずっと思ってたんですよ!!』

『……くっ、ふふふっ!はっはっはっはっ!!』


こ、この方は、本当に……ッ!

いい漢だ!

それでこそだ!


『頼みます、思いっきりぶちのめしてくださいませ!』

『そちらも!ではまた後で!』

『ええ!』

『またですわ〜』

『頑張ってね、デクスター!』


力が(たぎ)る……!

小奴(こやつ)らがお嬢様の身体から離れたのもあるだろうが、久方ぶりに全力が出せそうだ!


『何ダ爺ィ、貴様カ……貴様ガ自身ヲ……!』

『愚か者め』

『ナ、何ダトォッ!?』


剣を構え、魔力を(ほとばし)らせ、殺気を込める。


『今更血迷い出るな、穢れた亡者め!!』


呪いと化したブラックを斬る、斬る、斬る、斬るッ!

人影として現れたばかりに、私にとっては(いささ)か斬りやすい!

(外道)と差異が無さすぎてな!!


『ギ、ギィヤアアァァァッ!!?』

『何だそのざまは、これならまだ今までの呪いの方が手応えがあったのではないか!?』


兄であるブランドルに劣る事をコンプレックスとしていたそうだが、それ以前の話だったのではないか?

……逆に言えばその程度の男にお嬢様と私は、あれ程辛い日々を過ごす羽目になったのだ。

ああ、情けなや。


『チョ、調子ニ……!』

『遅い!』

『ヒッ!』

欠伸(あくび)が出るわ!!』

『オゲェエエエッ!!』


いや、大きさとしては速いのだろうか?

だがあんな見え見えの拳に当たるはずがなかろう、はてアユム様はどうだろうか……苦戦しているなら────。


『ブチギレましたわーーーッ!!』

『どんどんぱふぱふですの〜』

『水蒸気爆発って知ってるかなぁ?』

『意味不明……ッ!何ナンダ、アンタラ……ッ!!?』


────寧ろ追い込んでいますな、流石です!


『アユム様!今からまとめます!』

『任せました!』

『御意!』

『何ヲッ!?』


私は全力を持って呪いブラックを斬りつけながら、呪いの核の元へ動かしていく。

聖水で釜茹で地獄にあっているそこに……ッ!


『シェイハーッ!』

『アヂャアアアアッ!!!』


ブラックも叩き込む!

まだ終わらん、私の魔力を可能な限り剣に乗せ放つ……ッ!!


『チェストォオオオオオオッ!!!』

『『グワアアァァァッ!!!?』』


魔力で強化増幅された真空波を飛ばし、奴らを両断する!!

しかし、奴らはまだ消滅していない……ここは!


『申し訳ない、お任せしますぞ!』

『最高ですよ!ここまで行けばアレでトドメさせるな!?』

『勿論だよ!さぁ、急激に冷やしてからの〜〜〜瞬間沸騰だぁ!!』


新しい能力なのか、或いはアユム様の精神世界だからこそ可能なのか……遠隔で奴らを茹でていた凄まじい熱湯が冷水に変わる。

そしてそこから急激に沸騰され……!


『ジ、自身ハ、力ヲオォォ……ッ!ヒギャアアアッ!!!』

『モウ、消エル、母サン……今アアァァァッ!!!』


爆発!!

とてつもない蒸気が沸き上がり、離れたにも関わらず熱気がここまで伝わって来る程だ!

現実でこれをやればどれ程の規模の……!


『ばくはつおちなんて、さいていですわ〜』

『これもまた祓い、だね!』

『リアルじゃなくて良かったな、リアルだったらお前死んでるぞ』


やはりそれ程の技でしたか!

サキ殿のお力のポテンシャルと、アユム様の知識……その合せ技とも言うべきでしょうか。

そして少なくともまだ成長途上とか、お嬢様のお相手としてはとても頼りになる事です!


『おっ、力の塊だ!吸っちゃうね!』

『ほーい』


あの二人の力の塊はまとまったのか、非常に巨大であった。

それをサキ殿は飲み口から吸収しきる。


『まっ、こんなもんかな!』

『やっぱ力の塊での成長も少なくなってるんだな』

『でもマスターも努力してくれるんでしょ?』

『おう、地道にな』


ふむ、それはそれは。


『私の力は必要ですかな』

『勿論です、その努力には俺自身の鍛錬も含んでますので』

『なるほど、いつでもお申し出下さい』

『頼りにしてます』


いやぁ~っ……嬉しいものですな、好ましい相手から頼りにされると言うのは!





*************





「それじゃあ……コーデリアの完全解呪を祝って!!」

「「「「乾杯!!」」」」

「かんぱ〜い」


無事予定通りのパーティーとなりました。

サキ殿を介さない料理は久しぶりですが、自分達で温かみを感じる食事を作れた事が非常に嬉しいです。

酒類に関してはリーデン帝国人は(うるさ)く、バレかねないため拝借出来ません。

よってこちら栄養添加でお酒を作って頂いた次第です。


「このお酒ですが、甘酸っぱくて美味しいですね」

「俺の世界だとカシスオレンジって奴に似てる感じにした」

「へ〜、飲みやすくていいわね!」

「しかし油断すると飲み過ぎそうですな」

「あっ、それはあるあるですね」


やはり。

甘酸っぱくて飲みやすい酒など、加減が分からない若者だとやらかしそうですからな。


「カノスのってか帝国料理ですかね、美味しいですね」

「これかりかりしておいしいですの〜」


料理を美味しく頂けていて良かった。

実際サキ殿の力で用意された料理はすこぶる美味しく、皆こぞって食べていましたからな。

そうですね……。


「今度アユム様の世界のレシピなども頂けると、レパートリーも増えるかと」

「あっ、マジっすか!是非是非!」


ふふふ、胃袋を抑えるのは基本です。

アユム様はお嬢様の事を憎からず想ってくださっているはず、それでも少しでも離れがたい理由を作っておくに越したことはありません。


「私もレシピを知りたいです、アユムさんに食べていただきたいですから」

「な、なら私だって!」

「あはは!分かった分かったって!」 


エレン殿はこういう時、行動が素早く的確です。

頑張って下さい、お嬢様!


「……そう言えばさ、これからは“気兼ねなく仲良く”出来るんだよね?」

「えっ、ああ、そうだな」


おおっ!


「私、アユムならいつでも良いんだからね?」

「ひょっ!?」

「むむむっ!」


お嬢様、その意気ですぞ!

好きな殿方が出来た以上、離さないなら既成事実!

鉄板!


「アユムさん、私……貴方になら何されても良いですから」

「えりぇん!?」

「なっ!?」


これは……酒もあって大胆にくっついて!

おお!お嬢様も負けじとくっついて!


「私が一番だもんっ!」

「ここは譲れません!」

「オーマイッ!」


本当に嫌いあっているわけではなく、ただ女として譲れぬ物をぶつけ合う二人!

そして真ん中で視線を彷徨わす、我らが“英雄”!

まぁ英雄色を好むといいますし、いずれどちらもお相手して下さるでしょう……甲斐性は彼なら自ずと出るでしょうし。

しかしお嬢様の言う通り、一番はお嬢様ですぞ〜!

あっ、アユム様が視線をこちらへ。


「……」

「あっ」


知らん振り知らん振り……頑張って下さいアユム様、お嬢様と貴方様の幸せな未来を私は望んでいるのですからね。

オリアナ→金髪碧眼でロングストレートの正統派ヒロイン、誰にでも分け隔てなく優しい娘だったが次第にアルフに心惹かれていく


アルフ→黒髪黒目で癖毛があるショートの不真面目系ヒーロー、あちこち女の子に目移りしているがオリアナが気になってしまう


デクスター→白髪黒目でゆるめなオールバックの師匠ポジヒーロー、オリアナとアルフを支えて魔物を共に討ち幸せな二人を見届ける

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