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水筒と探索と真実

アユムです。

昨晩は特に工夫せずに片方をデクスターさんに、もう片方を俺とサジェリアで対処したら時間は掛かったけど危なげなく勝てました。

呪いの立場、すっかり無かとです。

アユムです。

今朝起きて違和感を感じたと思ったら右にコーデリアが、左にエレンが、両足の間に丸まったサジェリアがいて包囲網が敷かれていました。

サジェリア、完全にキ◯タ◯クラだったとです。

アユムです、アユムです、アユムです……。


「まさかこんな場所にダンジョンが出来上がっているなんて、本当に驚きです」

「私達もずっといたのに夢にも思わなかったもの、もし知らないままだったらどうなっていたか」

「これもまたアユム様の判断のお陰ですからな」

「流石アユムさんです」

「流石アユムよね」

「うっす」


聞こえていますか、俺は今ダンジョンで美少女サンドイッチになっています。

片や身長160cmのナイスバディな美少女、片や身長162cmのスレンダーな美少女に左右から腕を絡められている状態。

嬉しいよ、超絶最高に歓喜すべき時のはずだ。

でもダンジョン入ってすぐの弱い階層で、デクスターさんが8割方力を取り戻してるとは言え……陣形が、陣形がぁ。


『ボクも前と違って治療や守るのに適した能力も持ってるし、気にする必要ないでしょ?』

『そりゃあ、そうかもしれんが……』

『そもそも前回マスターが危なかったのは事実だからさ、知ってるコーデリアと知ったエレンがこうなる事も分かるじゃん』


ああ、そうだよ……文句あっか!

どれだけ鍛えて将来身体が出来ても俺はコーデリアみたいに天才的なセンスある訳でもない、魔法に割く適正値は召喚者として神器系に極振りされてるみたいで覚えられず、エレンに任せる事になるだろう。

純粋なスペックで精霊のデクスターさんには及ぶわけがなく、魔石で強化出来るサジェリアとは成長速度的に追々抜かされそう。

あっ、そこまでメンツとか気にしてないよ。

ただ柔らかさと香りのハーモニーに対して、笑顔が怖い。

笑顔とは本来威嚇の行動……。


「これで完全にこの階層の調査も終わりですかな?」

「うん!情報解析(スキャン)も終わったし、そろそろ来たんじゃないかな!」

「したへしたへですわ……ぷるぷるですの〜」

「なら流石にね」

「ええ、陣形を変更しましょう」


良かったよぉ!

二人の仲が悪いわけじゃないのは知ってるけど、実のところ妙な圧と言うか覇気と言うべき物があったぜ。

不思議だ、この緊張感!

サクサク弱い魔物を掃除しながらデクスターさんを先頭に、殿が俺からコーデリアに交代して下への階段へ向かう。

先程まではのんびりしてたが、サンドイッチ解除からの陣形変更で今は大変スムーズだ。


「むっ、アレはアユムさんを襲おうとしたと言う“リーフスネーク”ですね!」

「ええ、私達の恩人を襲おうとした敵ね!」


あっ、でたわね。

特別強い訳じゃないが、カモフラージュ能力が高い蛇。


「ここは私に任せてください、皆様のお役に立てる所見せておきたいです」

「お手並み拝見ね」

「おお〜、まほうですわね〜?」


昨日の聖杯恩賜のお陰でエレンは、勉強しても扱う事が出来なかった魔法を取得している。

生み出したサキの特性上、水魔法の才能が特に大きく伸びるが……属性相性的にここでは不向きだ。

どうする?


「我が(たけ)り、その身に受けよ……っ!“サンダー”!」

「なっ!?」

「シャアアアッ!」


か、雷属性だと!?

良くある四大属性すっ飛ばして!?

実は勇者の末裔!?


「凄いじゃない!歩兵級(ポーン)でも派生属性は難易度が高いのに!」

「ええ、お見事ですぞ」


歩兵級(ボーン)は各属性魔法の強さ最下級のランクって事かな?

それでありながら一撃で魔物の命を奪った、ならばかなり適正高いのでは?


「ビックリだ!でも何で……?」

「お、恐らくなのですが……神器の雷を受けた経験が反映されているのかと」

「「「「「あ」」」」」


そうだった、熊倉(金髪野郎)に雷で危うく殺されかけたじゃないか!

サキから聞いた話ではその時に体内に滞留してた雷属性は取り去ったらしいが、魂にあの時の経験が刻まれていた。

それを聖杯が伸び代として大きく増幅し、水魔法並みに適正と才能を得たのでは?


「あの時は大変恐ろしい体験でした……しかしそれが今の(かて)となっている、ならば決して無駄ではなかったのです!」


つ、強い……!

もう、無理をしているわけじゃない。

真に居場所を得て、それを守るため覚悟完了しているのだ。

エレン、強い、エレン、正義……っ!


「ああ、その通りだ……素晴らしいよエレン」

「────ッ!あ、ありがとうございます!」


頑張って成果だして認められ、褒められる。

これからは、俺達が一緒だぞ!


「次は私を褒めて欲しいわね!」

「わたくしも、かつやくしておほめのことばを……」

「ボクの事も褒めてよね!ねー、マスター!」


わーっ、へっへっへっ!

皆スゴイ勢いですけども!

デクスターさん、ヘルプ!


「アユム様、ファイトです」

「うっす」


分かってた。

こう言う時のあのロマンスグレーは、壁になって眺める側に立つって。





*************





次の階段から下へ向かうと、最初の階層とは明確に違う魔物だった。

戦闘に向いた形態をしており、高い殺意を持って襲い来る。


「ガホホーッ!!」

「ギシャーッ!」

「その様な(なまく)らで!」

「「ギャフッ!?」」


粗悪な剣を片手に群れで襲い来る、緑色の毛並みの二足歩行犬型魔物“グリーンコボルト”。


「シュルルル!」

「今の私にそんな寝惚けた動きの蔓、見え見えよ!」

「フシューッ!?」


ドリアードと比べて花に口がついた姿で、積極的に捕食しようとする危険な魔物“ミートイーター”。


「我が(たけ)り、その身に受けよ……“サンダー”!」

「キーッ!?」


緑の翼を羽ばたかせて滞空し、虎視眈々と隙を(うかが)い突撃しようと狙う鳥型魔物“モスバード”。

どこ行っても魔物と遭遇からの戦いが発生しており、このダンジョンが放置されていた事で魔物が溜まっていた事実が分かる。


「アユムは大丈夫?怪我ないわよね?」

「ああ、大丈夫大丈夫」


と言うか俺は戦ってないんだが?

サキを持って魔物の死体を収納して能力筒内解体(ボトルカット)で素材を綺麗に分けた後、魔石だけ出してサジェリアにモグモグさせてただけだ。

……しかしコーデリアめっちゃ強いな、無駄が無さすぎて一方的なんだよな。

他の皆も危なげ無くて魔物が哀『マスター!』おっと、もう良い頃合いか。


「そろそろ切り上げよう、時間としても午後3時前だしエレンの魔力が尽きそうだ」

「はぁ……はぁ……面目ありません」

「いいえ、大活躍だったわよ!それじゃあ、今回は引きましょうか」

「はっ、畏まりましたお嬢様」

「てったいですわ〜」

「帰ろう、帰ろう!」


休憩も挟んでいたが、魔力容量はすぐにどうにかなるもんでもない。

それに今日は呪いの最後の祓い日だ、腹部はともかく胸部はさぞかし強敵だろう……用心して体力を残しておくに越した事はない。


「……コーデリア、さん」

「何かしら」

「実は疑問に思っていた事をお聞きしても?」

「良いわよ」


おろ?


「貴女が呪いに掛かる事となった経緯を、私は勿論アユムさんも知らないのでは?」

「────そう、ね」


そこに踏み込むのか!?

俺は気になるって思ってたが、当人が言わないならばと結局知ろうとする事は無かったけど……。

エレン!聞くんだな!?今!ここで!


「お嬢様」

「そうね、もう呪いも祓い終える……つまり気兼ねなく皆と向き合う時が来たって事よ」

「呪いとは長い付き合いでしたが、終わる時はあっという間ですな」

「アユムとサキが居てくれたから、ね?」

「はい」


何だ視線向けてきた、主従。

たまたま俺とサキにとって相性が良かったのが功を奏したが、ここまで問題なく共にあれて良かったとは思う。


「いやはや、照れますな!」

「ニシシッ、まぁ理由が『可愛い女の子と仲良くしたい』とか純粋な下心だけどね!」


ちょっと待ってそこ言いっこなしじゃん!


「わ、私とは仲良くしたくない……てすか?」

「仲良くしたい、そりゃもう沢山」

「────ッ!私もです!」

「わたくしともなかよくしていただけますの〜?」

「そりゃそうだ、俺の使い魔だもん」

「やりましたわ〜」


そんな事言ってたら、エレンもサジェリアも俺にハグハグ祭りになっちゃった!

ほらコーデリアさん不機嫌なってるって!!


「わ、私が最初なんだから!!」

「ワオ」


あかん、おっぱい強い。

でも皆貴賤ない、そして皆好き、落ち着くべきそうすべき。

暫く抱き合うと誰からともなく離れ、見合って頷いた後陣形に戻って、移動しながらの会話となった。


「発端は皇帝ブランドル・ド・リーデンの弟である“ブラック・ド・リーデン”だった」


なるほど、コーデリアからすれば血統上の叔父に当たる人物か。


「彼は兄ブランドルに劣る自分がコンプレックスで、何としても奴を超える方法を模索していたようなの」

「そうだったのですか……私が知る限り故ブラック皇子殿下は、暗殺と聞き及んでいました」

「当然の事ながら、それは隠蔽ですな」

「当然の事だろうね!」


多分この処理したのクラーク宰相じゃないか?

面倒臭くて凝った理由とか細工しないで、ただ二文字と簡潔かつ高貴な身分なら良くある“暗殺”で済ませてるし。


「後にブラックは研究の結果、人の負の念と大きな力の塊でもある“呪い”を操る術が在るのではと考えた」

「呪いを自在に操る“呪術師”の自分を夢想し、罪人や貧民等を数多殺して、従順で頑丈な男に呪いを貯め込んでいきました」

「な、何て酷い……!」

「はわわ……おぞましいですの」

「兄も兄なら、弟も弟だな」


どっちも他人など自分の目的の為の道具としか思ってない。

こんなのが一国の皇帝と弟とか、世も末だ。


「そしてある時、私はブランドルに玉座の間に呼び出されていたわ……お前は他国への偽装婚姻をする事に決めたからって説明の為に」

「は?」


そんな事までやろうとしてたの?

しかも当人の了解抜きでか?

許せねぇよなぁ!?


「ただこの時は正直帝国から脱出するためのチャンスでもあったように、当時の私は思っていたわ」

「私はリスクが高いですが、どう決断をされようともお守りするつもりでした……その時です」


……まさか?


「呪い塗れの男を連れたブラックが玉座の間に乱入、『自身は呪術師として完成した、我が術を受けるがいい!』と呪われた男を矢で射殺したわ」

「男は皇帝ブランドルに母を理不尽に殺され、それを恨んでおりました……結果呪いは指向性を得て、ブランドルに襲い掛かりました」


ブラブラ兄弟は罪のバーゲンセールだな。

……そして結果が読めてしまった、辛い。


「それに対してブランドルはお嬢様を咄嗟に掴み蹴り、呪いにぶつけたのですッ!」


あの時を思い出し、腸が煮えくり返ると言った表情で手を握りしめるデクスターさん。

そりゃあそうなる、当たり前だわ。


「……奴の代わりに私は呪いに取り憑かれ、呪いの指向性は数多の負の念たちが恨みつらみがあるブラックへ向けられた」

「それで故ブラック殿下……いいえ、ブラックは死んだのですね」


……つまりブラックも今までの呪いの中にいた?

いや、そういう奴はしぶとそうだから今回やり合う事になるかもな。


「その時の私は成人したての15歳、そこから3年あの館でデクスターに世話されながら過ごしたわ……」

「ええ……そしてアユム様と出会い、今があります」

「────そうね!その通りなの!」


おーっ!?


「私達がどれだけ貴方に感謝しているか、分かったかしら!?」

「お、おう!」

「私達だけでは呪縛に囚われたままだった、貴方様こそ英雄なのです!」

「そうなんですね!?」


コーデリアが呪われた経緯、デクスターさんが感じた怒りと後悔……確かに理解し、その呪縛から解放出来た事を感謝された。

その圧力も分かるけど、俺自身がやった事に対して『楽すぎワロタ』って感じだから落差がね!


「なるほど……つまりアユムさんは私達の英雄って事ですね」

「そうよ!」

「まさしく!」

「わたくしにとってもそうですの〜」

「わー!モテモテじゃん!やったねマスター!」

「わっ、わぁ……!」


だから俺を置いて盛り上がるなって!

こんな時どんな反応をすればいいか、わからないの。


『笑えば良いと思うよ』


そうね。

じゃないんだわ。


「今日終わったらパーティーしましょうか!」

「久方ぶりに我々で料理を振る舞いましょう、呪いが完全に消えればサキ殿に頼り切りでなくて構いませんからな!」

「私もお手伝いします、自炊するため料理はやってましたので」

「ぱーてぃーにぎやかでたのしそうですわ〜」

「良いね良いね〜!皆楽しく盛り上がろーっ!!」


もう良い、存分に盛り上がってくれ!

俺も好きにやらせてもらうからなっ!

……やれやれだぜ。

美少女サンドイッチ→他には美少女回転寿司とかある、きっとおいしい


雷属性→四大属性の1つである風属性の派生、より早くより火力を追求されている


呪術師→呪いは人の手で扱える物ではない、だからこそ彼の者はその代償を払った



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