水筒と召喚
俺は眩い光に包まれた…。
別に朝起きてカーテンを開いて、朝日を浴びた様な健全な現象ではない。
仕事を辞めて無職になってから日課となっている散歩のコースにある公園のベンチで、背負ったリュックに入れてた水筒で水分補給していた時……。
突然ッ!
襲う光ッ!!
浮遊感ッ!!!
改めて言おう、俺は眩い光に包まれた…。
『君が“カノス”に望まれし“星の子”か…』
は?
誰だよこのクソ眩しい上にフワフワと浮遊してる状況の人間に、全く無遠慮にエコー音声掛けてくるのは?
こちとら24歳無職やぞ、舐めんなよ?
『落ち着き給え、星の子よ』
あら良いハスキーボイス、落ち着いた!……なわきゃない。
そんな簡単に人間気持ち切り替えられない、変われない。
しかして話は進まないし、いい加減光が鬱陶しい。
どちら様?
『神だよ』
……マジ?神マ!?
────続けて。
『君は私と私の対たる神、二柱が存在する異世界“カノス”から召喚を受けた』
召喚、だと?
ラノベやアニメとかで良くある異世界召喚系のそれに、理不尽に巻き込まれたんすか?
つらい。
『召喚自体の実行者はさる大国の皇帝だが、正直な所私の対に傾倒している人物である以上……気に入られるのはオススメ出来ない』
召喚者自体に気に入られるのをオススメ出来ない……さては対の神様は破壊神で、皇帝はかなりの暴君ですか?
そして殺伐とした労働環境で酷使の毎日ですか!?やだー!
『皇帝については概ね当たっていよう、対は破壊神と言うより軍神と云うべきか…』
ああ、なるほどですね。
いわゆる戦闘狂な感じと。
あっ、対と言う事はあなた様は……。
『私は人の子らの営みこそを尊いと思っている、繁神と云うべきであるかな』
おー、良い神様なのに響きが某大型肉食動物の顔が頭に過るのは仕方ないな?
『話を戻すが召喚の際に我ら二柱はカノスに選ばれた星の子に、“神器”を授ける事が運命られている』
“神器”!
何と素晴らしき言葉!
……あっ、でも。
『カノスには危険も多い故に召喚者の自衛の為、武器型の神器を授ける事が多いのだが……此度は悪手となり得ような』
暴君様気に入られて、共に血で血を洗う世紀末な道を歩む?
いやいや、冗談じゃない!
ただでさえ現代の社会人生活送ってるだけで、ストレスでボロボロだったってのに耐えられるはずが御座いません!
『では武器型は避けるべきだな……むっ、君の持つその道具は?』
あっ、これっすか?
こちらボタンを押すと簡単に蓋が開き呑み口が出てきて、気軽に水分補給出来る黒い水筒に御座います。
2Lも入ります、一人なら便利ですよ。
『なるほど、そこから水をか……それならば』
えっ、繁神様?
────って急に脳内にイメージが!?
これは……青い水瓶?
『この水瓶は私が作った神器の一つ“アクエリアス”、現状では魔力で水を生み出す力があります』
魔力さえあれば絶えず水を出せると考えれば十分凄い……現状では、ですか?
『神器とは神の力のほんの一部ですが混ざっている物です、そこには魂があり意思があり成長するのです』
成長、ですか…。
『……と言う理由で君の水筒とアクエリアスを一つとし、より便利で強力な神器としよう』
ひょ?
気づけば手元の水筒がすり抜けるように離れ、脳内イメージで水瓶型神器のアクエリアスさんと……!
合体ィッ!
質量保存の法則を無視して水瓶が消え、代わりに黒い水筒が何か神秘的なオーラがある青い水筒に。
テレレレレーッ!
おめでとう!俺の水筒は水筒型神器に進化した!
とか言ってたらヌルリと元の右手に収ま……らない!?
か、身体に入って!?
『神器は主たる星の子達の魂と融け合い、常に共にある様になります』
『そうすれば何があろうと失う事はありませんし、共に成長出来る訳です』
お、俺と神器が……出来ますかね?
『……君に何があったかは知っています』
────ッ!
『人の子らは生きる限り修行の様な物です、楽しい事も嬉しい事もありますが……辛い事や悲しい事もあるでしょう』
……はい。
『皇帝の召喚に対しカノスが何を望み君を選んだのかは私にも分かりません、ですが私は君が成す事全てを肯定します』
えっ。
『間違えて後悔する事もあるかもしれませんし、思った様にいかない事もあるでしょう』
『それでも幸せを掴み、尊い未来へ辿り着ける可能性はいつだって側にあります』
繁神様…。
『……そろそろ行くべき時ですね、対の側の準備も終わった様です』
え?
それってもしかして、軍神様の方にも?
『ええ、二柱に合わせて二人召喚と決まっていますので…』
なるほど、それは良かった……んすかね?
『対に寄った魂の星の子が選ばれている可能性が高いですから、皇帝に気に入られる役目は任せて大丈夫でしょう』
まさかの生贄乙。
いや、話的には普通に馴染むかもしれませんな。
と、何かそろそろ飛ばされそうな予感。
『はい、これで最後ですね……何か私に答えられる事があればどうぞ』
おお!
それじゃあ……筒井歩です!
あなた様の名前って何でしょうか?
『“ラミト”です』
繁神ラミト様、ですね!
俺向こう着いたら絶対お祈りしますね!
頑張って、寄進とかも!
『ふふふ……無理はなさらないで、程々にですよ』
はい!ありますがとうございました!
……あっ、光に呑まれ。
────と言うのを最後に思考が途切れた。
*************
「ふん、ようやく着きおったか」
低く威圧感がある声が聞こえて、ハッと勢い良く起き上がる。
先程まで横たえていた床には、良くわからない魔法陣を煌きがあるチョークの様な物で描かれていた。
右には髪を金髪に染めた、柄物の目立つジャケットを羽織ったヤンキーっぽい日本人がいる。
彼が軍神様の方が担当した召喚者なのだろう。
そして豪華なレッドカーペットの先に輝く玉座に、威風堂々とした佇まいをする皇帝がいた。
長く紅い髪を後ろで結上げており、顎に蓄えた髭が天に向かい跳ねているのはまるで竜の逆鱗の様。
此方を見据える爬虫類の様な瞳が、俺達を見据えていた。
「召喚者よ、疾く名乗れ」
もうこれ威圧感越えて殺気じゃないか、と思える程に強い感覚に気圧される。
学生時代からそうだが、怖い雰囲気ある人に圧をかけられるのが本当に苦手だ。
大体がこちらに非があろうがあるまいがお構いなし、まして今目の前にいる存在相手にとか肝が幾つあっても足りんのだ。
圧から早く逃れる為にさっさと答える……いや、下手に先に答えて積極的だと印象にプラスされる方がまずい気がする!
────抑えろ。
「く、熊倉力矢っす!」
金髪ヤンキーが先に名乗った!
ヨシ!
「筒井歩、です」
「……」
「「……」」
「まぁよいか」
ふぅ〜っ!
とりあえず名乗りで理不尽にお怒り買っての無礼討ちって感じではなさそう、セーフ。
しかし無事召喚は成されたものの、その矢先がこの圧迫面接地味たファーストコンタクトって。
これ大丈夫、かな?
信じてますよ、ラミト様!
星の子→地球人の事、主に神々がそう呼ぶ
カノス→中世ヨーロッパっぽいファンタジー異世界、或いはその意思
神器→神々が作った物、膨大な神の力のほんの一部が宿る事で特別な物になる