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元聖女と牧師の新生活

作者: 丸出音狐

「あんたみたいな聖女は必要ないのよ」


 パチンッと頬を勢いよく叩く音がひらけた建物内に響き渡る。私は頬叩かれ地面に横たわる。ヒリヒリする頬を抑えて叩いた張本人を見つめた。周りには何事かと私達を見ている者が何十人もいるが誰一人として助けようとする者はいない。しかしその理由は簡単な事。私はそう、狙われてはいけない人物に狙われてしまったからだ。


「これでやっと理解した? あんたは本当に不必要な存在だってことを」


 彼女の名はシルヴィーア・エリクセント。聖女である。

 ちょっとだけ説明しよう。聖女はこの世界において国や都市、街、村などに住む多くの人々の命を奇跡で救い長い平和を継続していくという重要な役割を担っている。人々を守る聖女だがそんな聖女の世界にもカーストのようなものが存在しており王国や都市、街を担当出来る者は一握りのためそういった聖女は一流とされ、村の様な過疎地を担当する聖女はもはや聖女として見られることがなかった。そして私の頬を叩いたシルヴィーア・エリクセントは今いるルーシア王国を担当する聖女である。つまりは一流と呼ばれる存在なのだ。だからこそ周りの人々は助けたくともシルヴィーアに目を付けられた以上容易に助けることが出来ない。そしてこの私セリアも同じ聖女なのだがシルヴィーアの様に国を担当しているわけではない。


 シルヴィーアは手に持っていた紙をくしゃくしゃにしてそれを倒れている私に投げつけてきた。私はその投げられた紙を開いてみる。


「んね? 言ったでしょ? あんたみたいな聖女は世界にはいらない」

「……え?」

「だから見えないの? そこに書かれた無数の文字が」

「でもこれ……」

「なに? あんた頭だけじゃなくて目もおかしくなっちゃったわけ?」


 私が開いた紙にはズラーっと書かれた大量の人の名前。それの一番上には【リフィーテル村を担当する聖女――セリアの追放署名】と書かれていた。つまりその下に書かれた大量の名前は私を村から追放することに署名した者達ということである。


「わ、私は村の為にこれまで……」

「あんた馬鹿? もっと利益の事を考えなさいよ。あんたが無償で村民に寄り添ってるせいでリフィーテルから利益が出てないのよ」

「でも、困ってる人がいるなら助けるのが聖女の役目ですから!」

「周りを見てみなさいよ。あんたと同じ村を担当している落ちこぼれ聖女ですら利益を出してるのよ。でもあんたは落ちこぼれ聖女のくせに利益も出さないとか……呆れるわ」

「利益は確かに出してないかもしれないけど聖女としての役目は……」

「だぁかぁらぁ!!!! 利益と役目を一緒にするなって言ってんのよ。一人死んでもまだ人がいるんだからそいつらから搾取すればいいでしょ? なんでそういうことが理解できないの?」

「…………」

「もういいわ。早くそこにある荷物でも持ってこの国から出ていきなさい。ここは私が担当する国よ。あ、それとあんた聖女もやめてもらうから。んじゃせいぜい頑張って生きるのね」

「…………」


 シルヴィーアは私を睨みつけたあとどこか奥の方に歩いていった。周りの人達も事が済んだと思ったようでいつも通りの日常へとすぐ戻り始める。私はなんとも言えない感情を抱きながら床に置いていた荷物を持ち教会をあとにした。


 さてここからどうしようかなぁ。馬車でどこかに行くというのも良いですけど……。


 近くに馬車でもないかキョロキョロ見渡し探してみる。すると近くに運良く馬車が止まっているのが見えた。カバンを開け中に紙を畳んでしまったあと階段を駆け下りて急いで馬車の元へ向かった。


「あの、この馬車ってどこまでなら行けますか?」

「そうだなぁ〜。そこまで時間をかけたくねぇなら隣国のリハインド王国とかあるけど」

「じゃ、じゃあ、そこでお願いします!」

「よぉし、んじゃ乗ってくれ」


 隣国リハインド王国に行くことになった私は馬車に乗り込んだ。乗るとすぐに馬車は隣国に向けて動き出した。


@@


 出発してから結構な時間が経過した。隣国と言っておきながら実はルーシア王国とリハインド王国は結構な距離がある。出発した頃は明るかった空もすっかり暗くなってきている。そんな時いきなり馬車の男の人が私に声をかけてきた。


「もしかしてだがその服装、聖女様なのか?」

「え、あ、はい! そうです!! と言っても聖女をやめさせられてしまったんですけどね……」

「やっぱり聖女様だったのか。ところで聖女様みたいないい人が追放されたんだ?」

「簡単に言えば価値観の違いだと思います。私は利益より人々の平和を優先したいのですがどうやらあちらはそうではないようでして……」

「そりゃあひでぇ話しだ。ん? ってことは聖女様はリハインド王国に行くけどその後はなんもないんだよな?」

「そ、そうですね。でも一応お金はあるのでどこかに泊まろうかと」

「いやぁ、聖女様を泊めてくれる宿はないと思うぞ? こんな神聖なお方を容易に泊めて嫌われたら終わりだからな」

「そ、そうですか。ではどうしたらいいでしょ……」

「確かリハインド王国はお金面が足りなくて聖女様がいなかったはずだ。そこに行くといいと思うぞ。聖女様はいないが教会も確かあったはずだしな」

「本当ですか。行ってみます!」


 男の人と会話をしているとあっという間に時間が過ぎていきついにリハインド王国の門前まで到着した。しかし何やら馬車の男の人は門前にいる門番と何か話しているようで馬車は進まなくなってしまった。


「通してくれよ」

「悪いがここ最近不審な者が出回っていて馬車を入れることは出来ない」

「んじゃ歩いていけばいいのか?」

「……それなら構わないが」


 男の人は私の方を向きすまないといった表情をして見てくる。気づかなかった私は思わずハッ!となって反応した。


「聖女様、悪いがここまでしか乗せられねぇみたいだ」

「そうですか。ではここからは私が歩いてきます! お代はいくらくらいでしょうか?」

「あぁ、今回は払わなくていいぞ」

「ですが!」

「その代わり聖女として国の人を守ってくれ。この国には俺の姉が居てな。まぁ、頼んだ」

「わ、わかりました」

 

 私はは荷物を持って馬車をゆっくりと降りて門の方へ歩き出した。その時馬車の男の人は「んじゃあな」と言って旋回しだした。


「あ、あの待ってください!」

「なんだ? まだ何かあったか聖女様」

「貴方のお名前は!」

「俺はロッグだ。んじゃ気を付けろよ」

「私はセリアです! またどこかで会いましょう!!」


 私は去っていく馬車に対して荷物を持っていない手を大きく振って見送った。そんな事をしていると近くにいた門番が私に声をかけてくる。


「あの、先程の者が聖女と言っていたが本当に聖女様なのか?」

「ばか、お前服装とあのバッジを見たらわかるだろ」

「!?」


 隣にいたもう一人の門番の男が指摘しようやく私の正体に気づく。門番が言っているバッジとは私の様に聖女の人のみが持っている特別なものでこれがあれば色々な事で融通が効くとっても便利なものだ。

 

「し、失礼な事を」

「構いませんよ。私はもう聖女をやめさせられましたから。ところで教会があると聞いたのですが」

「あ、はい。この先をずっと真っ直ぐ行くと少し丘になってる部分があってそこの上にありますので……暗いですし案内をしましょうか?」

「大丈夫です。私もう聖女じゃないので一人でやってみます!!」

「そ、そうですか。ではお気をつけて」


 私は初めてやってきたリハインド王国に心を踊らせながらついに足を踏み入れる。空は暗いが街中は様々な明かりに照らされてキラキラとしている。あちこちで陽気に笑う人達の声などが聞こえてくる。その中を私はどんどん歩いていく。


 私はもう元聖女! 自由気ままに過ごしたいので教会はどこですか!!


 歩いて数十分。

 元聖女の私は迷子になりました。


****


 あわわわ……。

 迷子になったあと行き道もわからないのに立ち止まって人に聞くということはせずさらに進み続けた結果、さらによくわからない道にたどり着いた。先程の道とは違って明かりが全くなく不気味だ。

 

 ここはどこでしょうか……?


 大通りの様に沢山の光もなければ人もいないので不気味さが最高潮に達している。私は恐怖という感情を抱きながらもなぜか進んでしまう。好奇心とは止められない。少し歩いた時私はギィィィィ! というまさにホラー感マックスの音を聞き立ち止まる。それがどこから聞こえてくるのかわからず私は後ろを向きながら前に進んでいく。


「いつでも見つけますから」


 そんな声が聞こえてきて私思わずビクッとなる。私は恐る恐る後ろを後ろに進んでいくと何かにぶつかり止まった。私は体を震わせながら後ろを振り向くとそこには柔らかい赤い瞳の高身長の男性が立っていた。


「あ、ああああの、すいません!!」

「別に謝ることはないですけど。どうしたんですか?」

「じ、実は迷子……になってしまいまして」

「そうですか。なら行き先を言ってくれればお連れしますよ」

「ほっほんとですか!!」


 私と男性が喋っていると家の中から女性が顔をひょこっと出して見つめてくる。女性は男の肩をちょんちょんと叩いて何かを言い出す。


「もしかして牧師様、気になってたりしちゃってます?」

「シーシルさん、あまり変な事を言うのはやめてください。この女性は迷子になってるんです。それじゃあ俺はこの女性を目的地まで届けに行くので」

「ふ〜ん、牧師様も男の子だから仕方ないよねぇ〜」

「そんな事を言ってたらもう探しませんよ」

「あぁ〜! それだけは許してぇ。そんなことされたら私滅んじゃう〜」

「冗談ですけど、でもこれ以上しつこいなら本当にしますから」

「いえす牧師! 誠心誠意気をつけます!」


 くせの強すぎる会話を繰り広げる男性と女性に対して私は「あ、あのぉ」と声をかける。すると男性が私の呼びかけに反応してくれた。


「すいません。それでどこに向かう予定なんですか?」

「ここには聖女がいないって聞いたのですけど……」

「はい、この国は他の国に比べて貧困ですから。でも生活が苦しいというわけではないので特に文句はないです。それがどうかしましたか?」

「私、教会に住みたいんですけど」

「……はい?」

「教会は聖女が住む場所……なんですよね?」

「そうですけど……」

「なら私住みたいです!」

「「え!!!?」」


 男性と女性は私の言葉に異常に驚いていた。

 そんなに驚くことなのでしょうか……?


「貴方、もしかして聖女様なの?」

「はい! 元ですけど! やめたてホヤホヤです。これからはフリー聖女としてやっていこうと思ったのですが……」

「牧師様! これは大変だよ。来たよ、この国に光が!」

「そのバッジ、服装、本当に聖女様みたいですが……」

「わ、私は聖女です! 元だけど列記とした聖女なんです!」

「どうするの、牧師様〜。ほらほらぁ、教会! 教会!」


 私は二人の反応に困惑しながらもひとまず会話を続ける。


「教会は住めないのですか?」

「そもそもあそこの教会は昔聖女様は来るかもってなって作られたけど結局来なくてあのまんまなんだよぉ。だから住めないことはないんだけどねぇ」


 女性は男性の方を見てニヤリと何か悪そうな顔をしていた。一方男性は片手で顔を抑えていた。何をしてるのかとよく見てみると手の隙間から頬が赤くなっていた。

 もしかして風邪とかなのでしょうか?

 

「やっぱり問題があるのですか?」

「も、問題はないと言えばないのですが自分的に問題と言いますか……」


 私は男性が言っていることが理解できずポカンッ……っとしていると女性が声をかけてきた。

 

「あの教会はね、誰も使わなくてどんどん汚れていってたんだけど牧師様が掃除して綺麗になったんだよね。それからそこの管理は牧師様がやっててそれでもう住んじゃってるんだよねぇ。だから同棲になっちゃうよね。あの牧師様がついに……!!」

「今までありがとうございました。シーシルさん。本日付で手伝いをやめさせていただきます」

「あぁ〜!! ごめんってごめんなさい! 牧師様! 神! カッコいい!!」

「俺、そんなちょろいと思われてたんですか」

「さぁ〜? どうだろ。でもほらどうするの? 聖女様をこんな真夜中で暗闇、人通りの少ない場所に放置していく気なの?」

「…………わかりましたよ。聖女様が構わないなら良いですけど」

「私は大丈夫です! よろしくお願いします。牧師様!」

「聖女様にそんな呼び方をされるとあれなので名前で呼んでください。私はレントリアンスです」

「あ、私はシーシルねぇ!」

「わ、私はセ、セリアです!!」


 最初はどうなることやらと思っていたけどなんだか優しい人ばかりでなんとかなりそうな気がしてきました。


「それでは聖女様、もう遅いですし教会まで行きましょうか」

「はい! よろしくお願いします」


 私はレントリアンスさんと一緒に教会まで歩き出した。


****


「と、とても大きい教会です!」

「気に入って頂けたなら嬉しいです。ではどうぞ中へ」


 レントリアンスさんが教会の扉を開けてくれたので中に入る。建物の中は綺麗に整理されており清潔感が完璧に担保されていた。それと歩いてきている時に聞いたことなのだがどうやらこの教会はレントリアンスさんの家とくっついているらしく行き来が出来るらしい。とても便利です……!


「荷物はてきとうに置いて椅子に座っててください。今暖かい飲み物を出しますから」

「ありがとうございます!」


 私は四つある椅子のうち一席に荷物を置きその隣の椅子に座ってレントリアンスさんが暖かい飲み物を持ってくるのを今かと待っていた。その間も家の中をぐるーっと見ていたのだが一人暮らしの男性とは思えない完璧さ。もしかしてレントリアンスさんは凄い人なのかもしれない。


「聖女様、どうぞ、ホットミルクです」

「あ、ありがとうございます」


 レントリアンスさんはテーブルにホットミルクの入ったコップを置くと私の反対の席についた。私は持ってきてくれたコップを持つ。とても暖かい。一口飲むと体の芯から暖まっていくのを感じる。そして自然と私のことについてレントリアンスさんに話してしまった。


「こんな事言われたら迷惑かもしれないのですが、私はただ一人一人に寄り添って平和な村を作りたかったんです。利益よりも人々の幸福、それを優先すべきなのに今の聖女達は目先の利益ばかりを……私は間違ったことをしてきたとは思いません。でもでも……なのに私は……聖女になるべきではなかったのでしょうか……」


 どうしてそんな事をいきなり話し出してしまったのか私にもわからなかった。こんなことを言ってもただレントリアンスさんに迷惑をかけるだけなのにどうして……。


 するとレントリアンスさんが少し涙を流す私に声をかけてきた。


「聖女様は何も間違っていません。聖女様というのは人々に幸福をもたらす素晴らしい存在です。それは他の誰にもなし得ることの出来ない本当に特別なちから。私達はそんな聖女様達を尊敬しています。救いたくても救えない者達にも手を差し伸べるそんな聖女様達を。だから私は! そんな聖女様を守りたいんです! 聖女様は私達人々を守り私達は聖女様を守る、そうして平和は成り立つんです。だから諦めないでください。私が絶対守りますから」

「……!? そ、そそそんなこと言われたら……!」

「あ、いや、すいません、でしゃばったことを言ってしまって。でもこれは本音です。もしよければ聖女様をお守りしてもよろしいですか?」


 私は聖女を辞めさせられた時涙を流すことなかった。それは心残りとかそういうものがないからだって思っていた。でもそれは違った。知らない間に色々な感情を心の奥底に押し込んで知らないフリをしていただけだった。私は間違っていないと肯定して欲しかった。守って欲しかった。でもでも誰もいなかった。だけど今私の目の前には……。


 私は涙を溢しながら答える。


「よろしくお願いします!! わ……私もこの国を守ってもいいですか……?」

「勿論です。聖女様!!」


 レントリアンスさんの守る、そんな一言で私の心は救われた。聖女になって良かったと素直に思えた。そしてそれと同時にこれから私の思い描く聖女生活が始まると思うとワクワクしてしかたがなかった。


 これから何があろうとも私はもうめげない。だってこの人が私を守ってくれるから。


「ハックシュンッ!!!!」

「だ、大丈夫ですか、聖女様!!」

「か、風邪を引いてしまったかもしれません……」

「なら急いで薬を貰いに行きましょう。確かこの時間でも開いているところが……」

「そ、そんな大げさにならなくても大丈夫ですから!!」


 こうして私の新しい聖女生活が始まったのだった。


読んでいただきありがとうございます!


お試しでちょっと異世界恋愛に触れてみました

さらに良いのが出来るように勉強します……

暇が出来たら連載版でも書こうかなと思います


よろしければ評価やブクマなどお願いします

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