夜は独りで電車に乗りたい
「……切符、よし」
切符を確認しながら、僕は呟く。
『一番線からまもなく電車が参ります』
すぐ脇のホームから、アナウンスが流れる。
僕はさっき買った切符をポケットに入れて、ホームに入った。
▪▪▪
僕の名前は河白友弥。
田舎の高校に通っている。
僕には、一つ秘密の趣味がある。
それは、『夜に独りで電車に乗ること』。
嫌なことがあったり、家族や友達と喧嘩したときに乗るんだ。
誰も居ない、静かな電車に乗るのが好き。
こういう時が、一番気持ちが落ち着く時なんだよね。
……まあ、その趣味は親が寝てからなんだけどね。
▪▪▪
「ふぁぁ」
欠伸をしながら、電車に揺られる。
(アイツにまた、いじめられたなぁ……)
腕のアザを見ながら、そう考える。
僕にちょっかいを出してくる、一人のヤツが居る。
親とか先生に話しても、一向に収まる傾向に無い。
(あと、もう半年の辛抱)
そう思いながら、窓の外を見ていると――
「……坊や」
誰かに話しかけられた。
「はい?」
声をかけられた方を見ると、一人の老婆が隣に座っていた。
「なんか、心配事のような顔をしとったぁから、ついな」
そう老婆が言ってくる。
「………」
なんでか知らないけど、この人に話してみよう。
「……あの」
僕は思った事を、全て話した。
学校のこと、家のこと、未来のこと……
老婆は、じっと僕の話を聞いていた。
「そっかぁ、大変じゃったのぉ」
聞き終えたあと、老婆はそっと呟く。
「……けどな、あんたはもうすぐ楽になるじゃよ」
そう言ったところで、下車する駅に着いた。
「お婆さん、僕はもう出るね」
そう言って、僕は電車を出た。
――その時、居たであろう老婆が窓から見えなかったのは気付かなかった。
それを気付かない僕は、下り列車を待っていた。
アナウンスが鳴り、下り列車がやって来た。
(……!?)
その時、何者かに手を引っ張られる感じがした。
(なんで、なんで!?)
抵抗もむなしく、僕は線路に落ちた。
(……轢かれる!)
そう思ったのが、僕の最期だった。
「気の迷いを抱えながら、夜中の列車に乗り続けると……幽霊の老婆が現れるって」
「えっ、何それ?」
「その老婆に話をするとね、ホームから線路に謎の力で引きずりおろすらしいよ」
「……うっわ、怖い怖い……」
ヒューマンドラマにしようと思ったらホラーになった(言い訳)