番外編(コミカライズ記念 )
「真白ってさ、その……部屋着ってたまに変えたりしないの?」
「……え?」
突然、凛莉にそんな事を言われて、わたしは面を食らう。
わたし達は、付き合い始めてからお互いの家を行き来する事が多くなった。
毎日のように会うので、出掛けてばっかりでは疲れるから自然とこの形に収まったのだ。
今日はわたしの部屋に集まっていて、わたしはベッドの上でマンガを、凛莉はカーペットにうつ伏せになりながら雑誌を読んでいた。
その中でいきなりわたしの話題を振られたので、ちょっと困惑した。
「別に、これで問題ないよね?」
「問題はない……ないけど、上下黒のスウェットって女の子としてどうなの?」
そう、わたしは部屋着にはスエットを着用している。
以前にこれを着て凛莉と出掛けたら、ちょっと驚かれたやつだ。
それ以降は部屋着としてしか使用しない事にしている。
「いや、いいんだよ? 家の中で何しても自由なんだから、そんな事は分かってるの。でもさ、今ここって真白の部屋ではあるけど、あたしもいるわけじゃん? それってどういう意味か分かってる?」
「……お客さんが遊びに来てる」
「恋人が、来てるのねっ!」
強めに訂正される。
いや、分かってはいるんだけど自分から口にすると恥ずかしい言葉ってあるじゃん。
「つまりデート! これはデートなのっ、お家デートも立派なデートなのっ!」
この短いはずの一文で“デート”を連呼される。
そうやって言葉にされると変に意識して恥ずかしくなるからやめて欲しい。
「あたしが言いたいのはそこねっ、デートに黒スウェット上下はどうなのって話っ。いや、いいんだよ? たまに着るくらいなら全然ね? でも、真白の家に来ると毎回毎回毎回……まいっかい! その服だからさ、ちょっと思う所があっても仕方なくない!?」
よっぽど思う所があったのか凛莉はもう立ち上がっていた。
そんなにわたしの服装に不満があったらしい。
そういう凛莉は確かに出掛ける度に服装はいつも変わる。
今だってカレッジロゴ(だったはず)のスウェットをデニムのロングスカートにインして着こなしていた。
……ん、スウェット?
「凛莉もそれ、スウェットだよ」
つまりわたしと同じでは?
「ちっがうっ! スウェットだからダメって言ってるんじゃないの、着こなしの問題なのっ!」
……分からない。
何で同じスウェットなのに違うのか。
普通におかしい事を言っているのは凛莉のような気もするけど……彼女がそう言うのだからそうなのだろう。
「まぁ……凛莉みたいにオシャレじゃないから、わたし」
「限度がある、さすがに限度があるのっ。ていうか……これ、もう毛玉になってんじゃんっ」
凛莉は目を丸くして信じられないよう物を見たような反応をしてくる。
「わたしに馴染んだ証拠だよね」
ここまで着込めばわたしの体との相性はバッチリだ。
ほら、体の動きに合わせてよく伸びる。
ノーストレスだった。
「あ、ありえない、女の子が毛玉になってるスエット着るなんてダメっ」
「わたしは女の子である前に人間なんだよ」
「深そうなこと言ってるけど今関係ないから。ていうかあたし達は、人間である前に女の子だから」
初耳だった。
わたし達は種別よりも先に性別が来るらしい。
……マインドの話、かな。
「いや、ちゃんと考えて欲しいの。あたしはオシャレを押し付けたいわけじゃなくて、可愛い真白がもっと可愛くなって欲しいなって思ってるだけなんだよ?」
「……えっと」
凛莉は真面目なテンションでこういう事を平気で言ってくる。
それは前からそうなんだけど、付き合い始めてからはそれがエスカレートしている気がする。
そう言ってくれるのは嫌ではないけど、反応には困った。
「逆の立場で考えてみて? 真白があたしの家に遊びに来た時、あたしが毎回黒の上下スウェットだったらどうする?」
「……」
想像してみる。
上下黒のスウェットで全身を包んでいる凛莉を。
だけど、髪型もメイクもネイルもばっちりで、なんだったらスウェットも着こなしやらインナーやらで工夫してくるのが目に見えた。
ボロボロ加減すら、きっと彼女の手に掛かればオシャレになってしまうのだろう。
「いや、美人が何やっても美人なんだけど」
「……え、ちょっ」
変な空気になってしまった。
気付けばお互いに可愛いやら美人を言い合って、勝手に照れている。
完全にのぼせているバカップルじゃん……。
「ほ、褒めてくれるのは嬉しいけどっ。それと真白の恰好は別問題だからっ」
「いや、誤魔化そうとしたわけじゃないんだけど……」
「とにかくっ、何かないの? 部屋着でこういうの着たいな、みたいなやつ」
「それがあったら毎回同じ服着ないでしょ……」
根本的な違いに凛莉には気付いて欲しい。
「じゃあ、なに、あたしが全部選んでもいいわけ? それはそれで文句言うんでしょ?」
「言わないよ」
「え、言わないの?」
「うん、凛莉がいいと思ってくれる物なら、それ着るよ」
「……マジ?」
こんな嘘はつかない。
「前にも言ったじゃん、凛莉が似合うって言ってくれるならわたしはそれが気に入るって」
「い、言ってたけど……まさかここまで口出ししていいとは思わないじゃん」
「いいよ、どうせわたしを見る人なんて凛莉しかいないんだから。凛莉の好きなわたしでいれたら、それでいい」
わたしには可愛くいる事も、オシャレである事の必要性も感じないけれど。
凛莉がそれを求めてくれるのなら、応えたいと思う。
凛莉が喜んでくれるのなら、それだけでわたしにとっては価値があるから。
「そ、その……返事が一番ヤバいんだけどっ」
なぜか声を荒げつつ、頬に両手を当てて微笑む凛莉。
まだ着替えてもいないのに、どうしてか満足そうなのは不思議だった。
【あとがき】
皆さま、お久しぶりです。
この度、コミカライズ記念として書かせていただきました。
真白と凛莉を書くのはざっくりと二年ぶりになりまして、二人の雰囲気ってどんな感じだったかなぁ……なんて思いつつ、手探りで書きました。
もう前とは違うかもしれないですけど、今の白藍が書くとこうなるよ的な感じであたたかい目で見守ってくれると嬉しいです。
詳細は筆者のXか、ネット検索して頂けるとヒットすると思います。
よろしくお願い致します。