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もう帰っていいですか  作者: 倉名依都
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17.エレとタビーの作戦会議

エレとタビーは、自分たちの未来について話し合いを続けてきた。

そもそも、王女身分は絶対に回避したい。勘弁してほしいよ、まったく、と言うところだ。

住むところとしては、第二王子宮なんて考えるのもいやだ。母が希望している離宮住まいは、どう考えてもダメ。

祖父と自分たちが母の傍にいられるためにはどうしたらいいか、と。



「あのね、私の世界では、女王もいるし、女性宰相(首相)もいるのよね。

私、神さまと話をして、こっちの王家について聞かされて、それなりに案を考えてから来たの。だから双子にしてもらったんだよね」

「ふーん、どんな案?」

「うん。王位継承、って、こっちじゃ男子限定でしょ? 女子に順番が来たときは遠慮して降嫁するか外国に嫁ぐよね。女子の継承権は名目だけよね。

だから、王妃がいても男子がいないことを理由に愛人を囲ったり、女性から愛人志望の人が出ちゃったり。

もし、王じゃなくて女王さまだったら?」

「まあ、女王の夫になった人が浮気はムリよね」


「一応、側妃とかは、後継ぎ問題が理由になってるでしょ?

でも、現実問題として、そんな必要ある?

っていうか、私の世界の歴史からすると、後宮があって10人以上の愛妾がいても、子どもができない王さまとか、女子しか生まれない王さまも実在したのよ。

まあ、こっちじゃ知られてるかどうかわかんないけど、子どもが作れない男性もいるの、現実に」

「うん、あるかも」

「そういう時、王さまを取り換えることもできるけど、もっと現実的なのは、近親から養子を迎えることよね。 

何としても男子を、と言われて、側妃か愛妾をと勧められた王さまの中には、そんなに血が大切なら、俺の血を抜いて王座に置いておけ、後を継ぐ皇太子がいなくても俺が死んだあとも血がなんとかしてくれるだろうよ、とか叫んだ人もいるくらいでさ~

直系男子限定の王位継承は、王さまにとってもストレスなんだよ」

「う~ん、そうなのかな~王さまも普通に男でしょ? 奥さんが大勢できるのは大歓迎、ってことはないの?」

「さあねぇ、男性になったことないからわかんないけどねぇ、人によるんじゃないの?

男が全員そこそこ好みの女なら何でもいい、って程無節操じゃないだろうしね、であってほしいかな。

王さまが全員そういうタイプってこともないんじゃないのかな、苦しむ人もいるんじゃないのかな」


「最初から養子を視野に入れていれば、家の為に嫌々側妃に上がることもないし、側妃が欲しくない王さまが苦しむこともないわけよ。 そもそも王さまが色好み系なんだったら、何と言い訳しても愛妾作ってしまうだろうしねぇ」

「あ、そっか、つまり、男の子はいないけど側妃なんていらない王さまをお守りすることにもなる?」

「うん、ま、そゆこと。役目柄複数の妻を持って、あっちこちでお色気満杯の毎日。最初はともあれ、次第に辟易しても、一度妻にしてしまえばもうどうしようもないじゃんね、順番に訪問するしかない、年齢とともに辛さもいや増し~。放置すれば苦情山盛り~、それぞれの側妃には高い地位の貴族家のバックアップが付いているしね~」


「あのね、面白い話をすると、昔政治が苦手で工芸が得意だった大国の王さまがいたのね。王さまは政治は王妃と宰相に任せて、自分の工房を王宮内に持って、300年たっても使えるような複雑で開錠困難な錠前を作り続けたんだよね。

つまりね、生まれで人を差別するってのは、貴族が庶民より上とか、男の方が優れているかどうかなんて単純なことじゃないってことなのよ。この王さまは自分が王になるのは嫌だったのよ、でも生まれのせいで王さましか選べる職業がなかったわけね。


人は自分の生まれとは関係なく、社会の中で役割分担するっていうの? どの人も掛け替えのない人、職業に貴賤はないっていうコンセプトなんだけどさ、うーん、説明極ムズ~」

「ふーん、じゃあ、たとえば私も村で果物育てたり、厩で馬を育てるのを仕事にしてもいいってこと?」

「もちろんよ! 何? エレは厩務員になりたいの?」

「うーん、そうだねぇ、女性騎士はいいよね。馬に乗れて、帯剣できて、王宮騎士団ならおかあさまの警護ができる、タビーの案が好きだよ」

「うん、ありがとう、がんばろ?」



こよりが考えたのは、男しか王さまになれないシステムを変えたらどうかということだった。こよりの生まれた現代地球には何人もの女王や女性首相がいる。

いきなりそこまではいけないだろう。蒼天城で暮らし、領地を治める人々、伯父伯爵、第二王子などの話を聞くにつれ世界の違いを実感していった。

だが、まず女性王族が降嫁しないで、騎士を拝命してみてはどうか、最初の一歩としては悪くないのではないだろうか。



「私の世界のお話だと、きりっとした騎士が、実は女性でした、しびれた~~、っていう設定があるんだよ。

この国じゃそういう発想ないよねぇ」

「うん、ないない、どちらかというと、いかつい体形で生まれてきて、いい嫁入り先がない貴族女性のための職業って感じ? 失礼な話よねぇ」

「女性王族の警護も男性騎士が多いよね、騎士と言えば大概男性のことでしょ?」

「そうね、男性が入れない場所では、侍女がお護りするけど、やはりどうしても手薄になるみたいね」


最終案の女性騎士団結成を通すためには相当がんばらないとだめだ。

「言いたいことを言ってやりなよ、エレ。無茶苦茶言ってんのはあっちの方なんだよ、今更父親とかうるせーんだよ、ありえねぇ、王子がそれほどえらいか! ってね。 チャンスはこの1回だよ。私の世界には、言いたいことを言わないで我慢しているとおなかが膨れちゃう~、っていう古い文章が残っているんだよね、ストレスでおなかがぷっくりしちゃうよ~~」

「うん」

「手、握っててあげるし」

「よし、がんばる!」

「おう、がんばろう!」


その夜、父と伯父にタビーとエレの提案をじっくりと説明した。

辛抱強く聞いてくれた二人は、最初あきれ果て、次にシュリンの傍にオーサー、タビー、エレが一緒にいられるというこの案の利点、王家の系図に名を残しながらも臣籍降下する合理性、王宮に女性騎士団が結成されるということの歴史的意義などに次第に説得されていった。

この案を受けるも拒否するも、実際のところは王宮次第だ。諮問会議も、紛糾こそするだろうが、身内の女性に修道院に入る以外の選択肢ができることに気が付けば、そして宮中に入った自分の娘に身内の女性騎士が警護に入る可能性に気が付けば、じりじりと賛成票が増えることだろう。



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