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もう帰っていいですか  作者: 倉名依都
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13.当惑と納得

伯爵の目配せに反応して、アラシュミーが妻を促して席を立った。侍女が全員これに従って部屋を後にする。

居間に残るのは、王子と侍従、護衛、伯爵と弟、サーブ係と伯爵家の侍従だ。

当惑したままの王子、輪をかけて当惑している筆頭侍従。無表情な護衛。

これに対して、伯爵家側には何とも言いようのない雰囲気が漂っている。


王子の筆頭侍従が、場を救うためにやむなく主人に許しを求める。

「畏れ入ります、発言をお許しください」

「よい」

侍従が伯爵に体を向ける。

「第二王子筆頭侍従を務める、メーム子爵、カットリアニ・トリエンテスにございます。

勿体なくも、王子殿下の乳母の次男にて、幼き時よりおそばに置いていただいております」

持って回っているが、自分はトリエンテス侯爵の次男で、第二王子の乳母を務めた侯爵夫人が母、身分は伯爵にひけを取らない、と言っているのだ。幼い時から、の部分で、シュリンの件についても身近に知っていることを伝えている。


「メーム子爵であられるか、シュリンが王宮侍女であったときには世話になった」

伯爵の返事はそっけなく冷たい。お前がしっかりしていなかったから、シュリンが閨に引きずり込まれたのだという意味だ。

「至らぬことばかりでございました」

「いや」

苦々しさしかない。カットリアニの脇を冷や汗が流れていく。

「誠に僭越ではございますが、わたくしどもに手違いがありましたようで、これすべてわたくしの責めにございます。レディ・モンスコンデの御助言に従い、早急に書類を改めます。どうぞ、猶予を頂きたく」

「よいであろう。この度のこと、誠に不手際であることを申し入れる」

「は」

顔色がどんどん悪くなる。何しろ何が何だかわからないのが現実なのだ。


王子は、話の接ぎ穂を失い、なすすべもなく宿泊している館へと帰っていった。



夜に入って晩餐室で豪華なメニューが振舞われたが、シュリン、エレ、タビーの出席はなく、ただ疲れるだけの晩餐となった。

晩餐までの間に、第二王子宮へと早馬を飛ばしている。返事をもって帰ってくるまでは、王子の下働きの中から気の利いたものを選んで、城側の下働きに接触させるくらいしかできることがない。

メーム子爵自身も城の侍従に話を聞こうと試みたのだが、歯牙にも掛けてもらえないでいた。



晩餐後、王子一行を宿泊用の館に送り出し、伯爵とアラシュミーはせわしなく打ち合わせていた。

「どういうことだ」

「わかりません」

「改竄が起こらなかった」

「はい」

「オクタビアが挨拶した瞬間、王子側に改竄が起こるはずだろう」

「ええ、私もそう思っていました」

「どういうことだ」

「わかりません。ですが、これが神の改竄の遺漏だとはとても思えません」

「そうだな、ではこれが目的か?」

「可能性はあるかと」

「時間がない、オーサーが待っている、明日の朝執務室に来い」

「はい」


アーサーとオーサーの双子兄弟は、伯爵の居間でアルコール度数高めの酒をグラスに注いでいた。

「兄貴、どういうことだ」

「ああ、わからん」

「王宮は、オクタビアを知らんということか、いや、オクタビアはいらぬという意味か」

「うーむ」

グラスの酒を舐めるように口にする。

アーサーは神の改竄に気が付いたが、オーサーには気付いた気配もない。するりと懐に潜り込まれてオクタビアはシュリンが生んだ双子の姉、それが当然だと受け取っている。



客棟では王子が荒れていた。

「どういうことだ、カッティ」

「わかりません」

「わからんですむか!」

「は」

「一体どうなっている」

「殿下のお子は、エレクトラさま、それは間違いありません」

「そうだ。シュリンは隠れ里で女子を生み、エレクトラと名付けた、と報告を受けている」

「文書でもそのように」

「それでは、あのオクタビアとは何者だ」

「さようですね、殿下。エレクトラさまとオクタビアさま、そっくりでしたが、お気付きで?」

「え? そっくり?」

王子は見ていなかったらしい。洋服も髪型も全く同じ、双子だとわかるように、いや、わかるようにしていたと後々にも言い募ることができるように、エレとタビーは謀っていたのに。


「はぁ」

「ため息なんかつくな。本当にそんなに似ていたのか」

「はあ、全然見ておられない?」

「ああ、まあな。シュリンに気を取られていたかもしれん。同じようなドレスを着ているとは思った」

「はぁ」


「殿下、エレクトラさまとオクタビアさま、双子であられたということはありませんでしょうか」

「何? 双子だと?」

「はい、伯爵と弟君は、一年ずらして王宮に出生の報告を上げておりますが、双子にございます」

「何だと、そんなことがあるのか」

「ご存じありませんでしたか、はあ」

「ため息をつくな!」

「伯爵家当主のことですから、兄と弟をはっきりさせておいた方がよろしいのです。これが男女の双子または、女子の双子である場合は問題ございません」

「そうか、継承順位の問題だな」

「はい」


「よろしい。双子だとしておこう。では、なぜ出産に立ち会った者は、オクタビアについて報告しなかったのだ」

「さて?」

「さて?ではない。いったいどういう訳だ」

「一度王宮に戻り、立会人本人を喚問いたしますか」

「いや、そうだな、どうだろう。ここで王宮に帰れば、シュリンとはもう会えぬだろう」

「さようですね、あの隠れ里から出ておいでにならぬかもしれません。あそこは外の者には容易にたどり着けない場所、病に伏しているとされても確認できません」


「殿下、どうなさりたいですか。

シュリンさまを王宮にお連れできればそれでよろしいでしょうか」

「何を言う、シュリンを妃に後々は公爵夫人に、エレクトラは王女に身分を直す」

「オクタビアさまはどうなさいます」

「我が子かどうかわからぬ」

「はぁ」

「ため息をつくなと言っておろうが」

「はい……」

この王子が現実に対応できないのは幼い時からだ。また同じ苦労をさせられるのかとため息が収まらないのも当然の事。


待つほどもなかった。行きの早馬よりもさらに早く、王太子宮から魔力で編まれた通信鳥が飛んできた。

「バカ者、オクタビアと晩餐を共にして瞳の色を確認せよ。

エレクトラ姫は王家の瞳を持っている、他にそんな者がいると思うか、双子だ、見ればわかる」

薄い通信紙を広げて、メーム卿は“バカ者”も遠慮なく読み上げた。



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