偽りの世界
この世界は全てが偽りだった。
この景色もこの匂いも思いの何もかもが全て嘘。
生まれてこの方この町でずっと暮らしていたがそんな風には一切思えない。
思いたくもない、だがこの世界は全てが偽り出来ている。「なんなんだよ……一体」
俺には何が何だか分からなかった。
ただ一つ分かることはこのままではいられないということだけ。
そう思った時、ふと脳裏に声が響いた。
(あなたは選ばれた)
それはまるで鈴の音のような綺麗声だった。
いや、これも嘘だ。
本当は何も聞こえなかった、聞こえたそう錯覚しただけだ。
この世界には、魔法のない現代社会だ。
超能力だって疑わしい、だからこそ先程の声は俺の錯覚。
自分が選ばれた特別な人間だと優越感を浸りたいが故に起きたことだ。そうに違いない。
「ふざけんなよ……」
俺は拳を強く握りしめた。
その手からは血が流れ出ていた。
痛くはない、ただ悔しかったのだ。
自分の無力さに腹が立ち、そして自分を特別だと思い込んでいる奴らに怒りを覚えた。
勿論、その中には俺も含まれている。
こんな、嘘だらけの世界で何を信じればいいんだよ。
そもそも、俺はそこに本当に存在しているかすら疑わしい。
ここまで来ると、疑心暗鬼だな。
俺は苦笑を浮かべてた。
どうすればいいんだ? 何をしたらここから抜けられるのか分からない。
考えろ、考えるしかない。
まずはこの世界を脱出する方法を考えよう。
俺は考えた結果ある結論に至った。
そうだ、ここが現実ではないなら夢を見させてくれている何かがいるはずだ、それを破壊すれば元の世界に戻れるかもしれない。
いや、だが俺の生まれも育ちのこの町なんだ。
ここが、消えたら俺は一体どうなってしまうんだ。
仮に、夢を見させている装置があったとしてどうやって探すかが問題になる。
そもそも、ここが夢の中だという証拠もない、ただ、この世界が本当の世界ではないという事だけが漠然と俺は知っている。
ならば、何故ここにいるのかそれが疑問となる。
俺は、その答えを探す為に歩き出した。
歩いていればいつかは見つかるだろう。
そう思っての行動だったが、一向に見つからない。
町の風景は何も変わらず、人が歩いていることもない。
誰もいない道をひたすら歩くだけだった。
明らかに可笑し事態が起きている。
つい先までは、人も沢山いた、勿論友達と呼べる人物だっていた。
なのに、どうだ。
今は、町に誰一人いなし歩いている筈なのに町の景色一つ変わることが無い。
この世界はバッグってしまったのか、はたまた俺がこの世界のバグだとして処理されてしまったのか。
俺には分からない、何一つ理解することが出来ない。それでも、俺は進むしかなかった。
ここで立ち止まってしまえば、もう二度と前に進むことは出来ないと思ったからだ。
それからどれくらい歩いただろうか。
気づけば空は赤く染まっていた。
夕焼けなんてものじゃない。
まるで、太陽そのものが燃え盛っているようなそんな錯覚に陥った。
「綺麗だ」
不覚にも言葉が漏れてしまった。
この、偽りの世界でも燃え盛る太陽が美しく見えてしまった。
だが、それで何かが解決された訳ではない俺はこの世界をどうにかしなければいけない。
その後俺は———。
だけど、俺はこの好きだった世界を壊さなければならない。この世界を壊した先に何があるのか俺には想像出来ない。
それでも、俺は進まなければならない。
この世界を救うため、破壊する為には。
俺にそんなことが出来る何で思ってもいない、俺はただの高校生だ。
なんの取柄もないただの。
それでも、俺は進まなければいけない。
それでも、俺は諦めてはいけない。
「……っ!」
俺は走り出す。
ふと、気づいてしまった。
向かう先は決まっている。
あの場所へ行けば全てが分かる気がしたから。
「やっぱり、お前はそこかよ」
そこにはやはり奴がいた。
「なぁ、教えてくれよ!ここはどこなんだよ」
しかし、親友の山田は俺を見据えているだけで何も答えてくれない。
息がする音は僅かに聞こえる、生きてはいるが一切、山田は口を開こうとはしない。
「なぁ、教えてくれよ」
俺の悲痛な叫びを無視し山田はただ、俺を見ているだけ。
睨まれている訳でもないが微笑まれている訳でもない、だた無心に俺を見つめている。
そうするよう、設定されたかのように。
そして俺はその視線に耐えられなくなりその場を後にした。
俺は走った。
何処に向かって走っているのか分からない。
ただただ、俺は走るしか出来なかった。
俺は何をしているんだろうな。
俺は何の為に生きているのだろう。
俺は何のために生まれてきたのだろう。
親友の山田に話を聞けばどうにかなると思っていたが、現実は甘くなかった。
悔しい、悲しい、死にたい。
俺は何をしたかったんだ。
この世界を救って英雄になりたかったのか。
その結果がこれだ。
所詮俺はただの凡人だ、凡人がいくら努力しようともこの世界を救う事なんて出来る訳が無い。
いっそこのまま何も知らなかった事して生きられないだろうか。
また、あの楽しい平穏な日常が来てくれるのだろうか。
例え、偽りだとしてもこの世界は俺にとっては本物なんだ。
「世界を救わないと」
自分でも不思議だ、辛いのに苦しいのにそれでも、世界を救うなんて事が言えるなんて。
どうしても、俺がやらないといけないのか。
この思いも何者かが作った嘘だどしても俺は、大好きなこの町を救わないといけない。
そうしないと、俺はきっと後悔する。
俺は、その決意と共にとある場所にたどり着いた。
それは、俺の家。
俺の家は一軒家、そしてその二階にある俺の部屋。
その部屋には、俺の机があり、その引き出しの中には俺の大切な宝物、家族写真を手に取り俺は部屋を後にする。
今は亡き母と研究熱心で家にあまり帰ってこなかった父親と俺。
家族が全員そろったたった一枚の写真。
それを、懐に入れ俺は決意を新たにしこの町を進む。
人気のないこの果てしない世界を俺は歩む。
この世界を救うために、いやそんな大それたことじゃない。
俺自身が救われたたいからだ。
「俺は、もう逃げないぞ」
そう言って、俺は歩き出した。
それからどれくらい歩いただろうか。
時間の感覚がない、だが確実に時間は過ぎている筈だ。
「あれは……」
遠くの方に見覚えのある建物が見える。
間違いない、俺は父の研究所に侵入する。
侵入は容易だった、警備員もいなければ扉を開けっぱなしで如何にも待ってました、と言わんばかりにザラだ。
俺は覚悟を決めた。
俺自身をこの呪縛から解き放つために、この嘘つきだらけの世界に決別をし俺は歩む。
直観で感じた、もう全てが終わると。
この感じ全てが作り物でも構わないが、たった一つの真実を俺は叩きつけなけらばいけない。
父の研究資料を見つけ俺は確信した。
「やっぱり、そういうことか」
その資料には、この世界の仕組みについて書かれていた。
この世界は、父が作り上げた電脳箱庭。
この世界の人間は皆、その偽りの世界に囚われている。
俺の行くべき場所は定まった。
過去に一度だけ父に連れていてもらった、父の研究室だ。
そこに、行けば全てが終わる。
そしてこの、皆が………いや、俺が解放される。
そして、父の研究室のドアを開けると、そこには誰もいなかった。
代わりに机には一枚のレポート用紙が置かれていた。
そこには、この箱庭は母を生き返らせるために作った小さな世界らしい。
そして、レポート用紙の隣に一枚の写真が在った。
そこには、父と母が二人で楽しくお茶をしている写真だった。
だが、問題はそこではないその写真の日付が母が死んでから三年後に取られているという事だ。
つまり、父は本当に実験を成功させたのか。
「……っ!」
俺は走り出す。
向かう先は決まっている、母の眠る場所だ。
俺は、甘かった。
そのせいで父は、禁忌に触れてしまった。
死んだ人間を甦れせてしまった。
もっと、早く気づいていればこんな事にはならなかった筈なのに。
「ごめんなさい」
俺の頬に涙が伝う。
しかし、俺の足は止まらない。
止まるわけにはいかない。
俺のすべき事は決まっている。
「あぁ」
俺の視界に映る光景は、あまりにも残酷。
周りには沢山の血が死体が転がっていた。
吐きそうなるのを堪え俺は目の前に居る人物を睨め付ける。
「お前がやったのか?」
俺の問いに対し奴は答える。
『そうだ』と。
奴の名は、山田。
俺の親友だ。
いや、親友に擬態した———父だ。
父の身体は血まみれで所々に切り傷がある。
恐らく奴はこの惨状を作り上げた張本人。
全ての元凶だ。
だか、なぜ今更母の墓場の前なんかに居るんだ。
ふと、周りに転がっている死体を見ると違和感を思え次第に俺は全てを後悔した。
本当の真実を知ってしまったこと。
そこに転がっている死体は全て母だった。
そして、父は山田に成り代わっている。
そう、写真に写っている父の姿とは遠い俺と同い年の山田の姿に。
「なんでだよ! どうして殺したんだよ!!」
俺の叫び声は虚しく響くだけだった。
俺は、ただの凡人だ。
だから、天才の父には勝てないと思っていた。
それは、今でも変わらない。
ただ、一つだけ違うとすれば俺が俺自身で決めた道が俺を導いた。
俺は、母が大好きで母を生き返らせようと必死に頑張っていた父を本当は知っていた。
だからこそ、俺は許せない。
俺の大切な家族を弄び殺している父が。
本とは知っていたのにそれは、知らないふりしていた自分が俺は許せない。
だからこそ、これは決別だ。
腐りきった俺が少しでもまともになる様に。
母に心酔している父に現実を叩きつけるために。
俺はここで本当の意味で変わらなくてはいけない。
だから、俺は父を殴った。
初めてだった、人を殴るのは。
痛い、手がしびれる。
だが、俺はそんな痛みに構ってはいられない。
俺はそのまま、父の胸倉を掴み叫ぶ。
「俺の家族を返せよ」と。
すると、父は笑いながら言う。
「何言ってやがる。俺がこの世界を作った、いくらでも家族を作ってやる」
俺はもう一度父を殴った。
こいつは何も分かっていない。
家族は作るものじゃない、居るものなんだ。
ここで、全てを終わらせる、何もかも。
そして、俺は父と本当の世界で家族として暮らすんだ。
平穏な生活を俺は求めるために———