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好きなもの足し合わせていけば最強になるという完璧な理論

勇者が魔王を倒し、世界が平和となって14年の月日が経った。

当時の記憶は色褪せ、今では娯楽の一つとなっている。

【マジック・ブレイブ】はそんな娯楽の代表格。



■括弧のルール(抜けがあったらごめんなさい)

【マジック・ブレイブ】

[カード名]

≪用語全般≫

'フレーバーテキスト'

大まかなルールくらいしか決めてないです。



エタるのが恐かったら、完結させてから投稿すればいいじゃない。と言う訳で完成したので投稿します。

3が日中には完結話まで投稿します。あと言うほどガールズラブ色はないです。ごめんなさい。

 【マジック・ブレイブ】

 このカードゲームは、14年前に終止符が打たれた人魔大戦がモデルになっている。

 世界が平和になり、復興もある程度終わると人は過去の災禍を娯楽に変えることができるらしい。

 もっとも、私にはそんな他人事みたいなことを言う権利はこれっぽちもないんだけれどね。


「クリスちゃん、勝負だよ!」


 名前を呼ばれて改めて目の前の女の子を観察する。

 私と同い年で中等部二年生、長い黒髪を赤いリボンで結び、小柄ながら腰のあたりまで届くポニーテールの女の子は愛らしく笑いながら宣言した。


「いくら【マジック・ブレイブ】開発者の娘だからってそれだけで勝てると思わないでね」


 【マジック・ブレイブ】を世に出したのは私の親だけど、もう私も携わっている。

 このカードゲームに関して、既に幾ばくかの責任を負う立場だ。


「ノア、私はもう開発者の娘じゃないの。今回から私も製作に関わってる。つまり開発者の一人なのよ」


 ここは王立魔法学園中等部の生徒会室。

 他の、例えば初等部や高等部ならもう少し多くの学生が生徒会に所属しているのかもしれないけど、中等部の生徒会メンバーは現在私一人だ。


 向かいに座っている女の子――ノアは生徒会メンバーではないけど、この場の法は私だ。何とでもなる。

 一日の授業全て終え、放課後となった今この場にいるのは私達だけ。

 この生徒会室は業務をするために借りたけど、メンバーは私しかいないんだから邪魔は入らない。


 私達は業務そっちのけでお互い自分が使うデッキを取り出し、カードゲームに興じている。

 今回のゲーム、先行はノアだ。


「[比翼連理]、コストはこれ。持って来た[精霊勇者リオン・レベル1]をそのまま参戦、[勇気の誓い]でレベル3をデッキからサーチ、手札のレベル2と合わせて一気にレベル3まで上げるよ」


「待って待って、1ターン目から回り過ぎじゃない?」


 私の正面に座っている小柄な女の子が、恐ろしいことを宣言する。


 可愛いからと言って騙されてはいけない。

 その小さな手が生み出しているのは盤面の悲劇。向こうからすれば喜劇。

 そもそもある程度事故を避ける事ができるとはいえ勇者を先行1ターン目に出すことができるというだけでもう厄介だというのに、あっと言う間にレベル3になってしまった。最大のレベル5になれば私のデッキでは手が付けられない。


「[勇者レベル3]でドロー。よし、[精霊シルフィード]。[聖剣:オラシオン]装備させる。'この剣は世界から祝福を受けた証明 あらゆる魔を切り裂く力を持つ'。聖剣の効果はもちろんドローを選択、1ターン目は攻撃も防御も上げるメリットないからね。せめて防御は次ターンまで続いて欲しい」


 運良くデッキを運用できているからか、テンションの上がったノアが[聖剣:オラシオン]のフレーバーテキスト――ゲーム進行に関わらない雰囲気作りのための文章をノリノリで読み上げる。

 どうやらまだノアのターンは続くらしい。


「もう十分強いわよ。ノア、ソリティアしないで」


「この程度ソリティアじゃありませーん。それにクリスちゃんの方がソリティアデッキ好きだよね」


 確かに回っている方だけど、このくらいなら想定範囲。ソリティアというには少し甘い。私がソリティア系好きなのも本当のこと。

 とはいえこれデッキと手札によっては既に降参するレベルなのよね。ノアはその可愛らしい童顔に似合わず勝つことに特化したデッキを好んで使う。


「[勇者の幼馴染]。[氷龍を従えし魔女]。[魔術師のアミュレット]。ママ強い。ターンどうぞ」


「勇者デッキが1ターン目にそんな動くとやりづらいったら」


 さすが現在環境トップに君臨する勇者デッキ。理想的な立ち回りをされたらこちらも同等以上に回さないと負ける。


「≪街≫に[カジノ]設置。勇者の行動にコイントス要求。[邪教徒の誘い]で勇者に≪罪≫属性追加。≪信仰≫消費して[異端審問]で勇者の残機減らす」


「クリスちゃんも大概じゃん。アミュレット貫通したぁ」


 [カジノ]の方は[氷龍を従えし魔女]があるからそこまで効果的じゃない。妨害としてはやらないよりマシ程度だ。

 [勇者]は特殊なカード。レベル分の残機を持つ代わりに退場した瞬間強制的に敗北になる。

 そんなデメリットを受け入れられるほど、強い。加えてサポートカードも多い。


「冷静に考えると勇者に異端審問っておかしくない?」


 ふと冷静になってしまった。

 こういうプレイができること、教会はどう思っているんだろう。


「でも、パパ旅の途中で一回異端審問されかけたらしいよ。ちょうどカジノの裏側調べていたときだったはず」


 葬られたはずの歴史を知ってしまった気がする。


「それ口にしない方がいいんじゃない? 私も聞かなかったことにする」


「えへへ。クリスちゃんなら言っても大丈夫かなって」


 何が大丈夫なんだろう。

 まぁノアならともかく、ギリギリ一般人な小娘の私が何を訴えようと説得力はないし、そういう意味なら確かに大丈夫だ。


「[イカサマ]。手札全部捨てて5枚ドロー。[ギャンブラー]参戦」


「うぅ。それ強くないけど鬱陶しいんだよね」


「このくらいできないとサレンダーくらいしかやることないでしょ。[怠惰の邪教徒]参戦。コイントスは……裏、デッキトップから3枚落とす」


「あっ」


「あっ」


 ……。

 このデッキの要が消えた。


「カジノ軸じゃなくて邪教型魔王デッキなんだね。[魔王]落ちたけど大丈夫?」


「まだサルベージ手段残ってるし……」


「[魔王復活]だけだよね。何枚入れてるか知らないけど」


「[魔王]ってなんで1枚しか入れられないのかしら」


「二体もいたら人類滅んでいたからじゃない? それにパパも一枚制限なんだから順当だよ」


 ノアの幸運は父親譲りとして、それなら私だってある程度運は持っているはず。

 いや待て。できればこのターンは魔王軸だという事を伏せたかったけど、それは必須じゃない。逆に言えば、もうキーカードの所在は分かっているんだから、これはまだマシな方だ。まだ勝ちの目は潰えてない。




 負けました。




「怖かった。[精霊王の祝福]引けなかったら詰んでた」


「こんなに回っても駄目かぁ。やっぱり[魔王]落ちたら厳しいよ。参戦条件厳しいんだし、もっと手軽にサーチかサルベージしたい」


 最も、魔王デッキが勇者デッキより強かったらそれはそれで問題あるし、全力で回してもなお勇者の方が強いというのは娯楽として優秀とも言える。


「新環境、やっぱり勇者優勢ね。[比翼連理]でだいぶ強化される。従来勇者じゃ入りにくかったセレナさん関連のカード大量投入できて拡張性が段違いだわ」


「追い詰めておいてよく言うよ。今回ママの声がだいぶ反映されたって言ってたの本当だったねぇ。フレーバーテキストがしっかりしてるのも高評価。'世界中から感謝されたって、君一人からの祝福には及ばない'、我が父親ながらいいこと言うよね。将来言ってみたい台詞ナンバーワンだよ」


「ノア言われる側じゃないの?」


「一理あるね。クリスちゃん言ってみて」


「あー、はいはい。セカイジュウカラ」


「棒読みじゃん。心を込めて言ってよ」


 素面で言うには少し恥ずかしい台詞。ノアはさっきさらっと口にしたけど、それができるのはこの娘の一つの才能だと思う。

 少なくとも私には無理だ。


「あ、パパ軸デッキだけじゃなくてママ軸デッキも作ったんだ。もう一戦やろう」


「いいけど、私今日はこれと教会デッキよ」


「……どんと来いだよ。あ、始まる前にちょっと[真実を写す鏡]抜いといてくれない?」


 その一言で悟る。

 この娘とりあえず自分のデッキに有意・無為で判断して新カードの大部分は効果を把握していないんだ。

 まぁ発売日昨日だものね。むしろよく新カード取り入れてここまで完成度高いデッキを作り上げたものだ。


「元から入ってないよ。ノア、教会のデッキはこれまでとガラッと変わる。それを見せてあげるよ」




 勝ちました。




「うぅ。本物のママなら教会本部くらい壊滅できるのに」


 敬虔なアリス教徒にあるまじき発言をして机に突っ伏し項垂れるノア。リボンでまとめられているポニーテールも心なしか力なく垂れさがっているように見える。

 やっていることは可愛いのに、言っていることはかなり物騒だ。


「冗談でもやめなさい。貴方の頼みなら実現しそうでしょ」


「さすがにママでもそこまでは……しない、よね?」


 小さな慎重に見合った小顔を上げて反論……しきらなかった。

 そこは断言していいところよ。

 貴方が教会に誘拐でもされない限りは大丈夫。


「もともと好きじゃなかったけど、今回からさらに嫌いになりそうだよ」


「そんなノアに一ついい事教えて上げる。今回の【マジック・ブレイブ】の売上の一部はアリス教会に寄付させて貰っているわ。お買い上げありがとうございます」


 アリス教はこの国の国教で、起源の聖女アリスを祀っている。

 たくさんのプリースト・プリーステスが修行しており、神聖術を修めた一流の僧侶達によって日々の王都は守られている。

 代表格として、勇者パーティとして魔王に挑んだ僧侶もおり、【マジック・ブレイブ】ではデッキに一枚しか入れられない≪英傑≫として数えらていれる。ただ、残念ながら教会デッキに入れると重くなり過ぎるので入れない型の方が一般的だ。

 勇者やセレナさんみたいに、英傑を使いこなそうと思ったら専用の構築にするのが一番強い。


「教会が強くなったっていうより【マジック・ブレイブ】と教会が組んだってこと? これからも教会パーツ増えそうだね」


「私は好きよ、特殊勝利狙いデッキ。スタンピード速攻は面白かった」


「相手にターン渡った時点で勝率半分以下になる蝉みたいに儚い浪漫デッキじゃん。それよりパパとママ同時に出せるようにして欲しい。クリスちゃんから頼んでみてよ」


「英傑は1種までよ。だいたい今でも夫婦でシナジー強いカード多いし今回の[比翼連理]がまさにそれじゃない。流石に勇者リオンと魔術師セレナが同時に参戦出来たらバランス壊れちゃう」


「だからさ、英雄になる前のパパとママなら≪英傑≫なしでも実装できると思うんだよ。勇者の卵なパパと魔術師見習いなママなら二回りくらい弱体化して出せばそこまで気にする必要ないでしょ」


 この娘の場合、強いカードを使いたいって理由じゃないことが分かるから叶えてあげたくなる。

 私としても、このカードゲームの相手をしてくれるノアのモチベーションに関わることなら協力してあげたい。


「そういうことはセレナさんに頼りなさいよ。正直私が頼むより可能性高いわよ」


「……」


 このやり取りも何度かした。

 ノアの母親であるセレナさんは、ノアのことを溺愛していることは周知の事実。会う機会もそれなりにあった私は、噂に違わぬ溺愛っぷりを初めて目にしたとき少し引いてしまった。


 ノアが直接頼めずにいる事情はよく分からない。


「ねぇ、パパってどんな人だったのかな」


「魔王を倒した英傑の中心人物。教科書に載ってるわよ。人類滅亡の危機を救った勇者で、魔王をその命を賭して討伐した英雄だよ」


 勇者リオンはこの世界で唯一精霊魔法と呼ばれる未知の魔法を使うことができ、魔王と戦った結果相打ちになったらしい。

 十四年前、私達が生まれる少し前の話だ。


「パパが生きていたらどんな人だったのかな?」


「それこそセレナさんに訊きなさいよ」


「だって、ママにパパの昔のこと、特に勇者になる前のこと聞こうとすると絶対はぐらかすんだもん。何か、私が知っちゃいけないことでもあるのかなぁ」


 この娘にとって、【マジック・ブレイブ】は自身の父親の英雄譚を追体験する手段だ。今はもう会えない寂しさを埋める様にプレイしている。当然、デッキの使用率は勇者が一番高い。

 今環境トップのデッキだけど、例え弱かろうがノアは勇者デッキを使っていただろう。彼女が望むのは、強力なカードではなく勇者リオンの人物像を紐解くヒントだ。


「はいはい、そろそろ私仕事しないといけないから、そういうのは後にして」


 そういう、私では解決策を提示できない問題を愚痴られても困る。

 胸がちくりと痛む。


 私はノアを利用している。

 カードゲームはお金がかかる。新カードが出る度にデッキを更新していかないといけないし、シナジー考えてデッキを組むのは楽しいけど、対人故に必ず勝てるとは限らない。続けるためのハードルがとても高い。

 単なる学生で私と同じくらい【マジック・ブレイブ】に本気な人は、もうノアしか残っていない。

 私と同レベルという事は、カードプールが現在使用できるカード全てという事だ。


「ノアも手伝ってよ。そういう約束だったでしょう」


「えー。もうちょっとやろうよ。丁度一勝一敗だし、決着着けよう」


 ノアが頬を膨らませ、年相応の駄々をこねる。

 私としても、今日はそこまで無理して終わらせる必要が薄い仕事しかないからカードゲームを続けたいという意見は賛成したい。

 私も新カードを試したくて、ノアとの対戦を待ち望んでいたんだ。


「ノア、もうすっかりはまっちゃったね」


「そりゃねー。クリスちゃんと対等に遊べるのってカードゲームくらいだし、勝ったり負けたりは楽しいよ」


「でもだーめ。そもそもここ遊び場じゃないのよ。大義名分は大事。ここ使えなくなるといろいろ面倒でしょ」


「むぅ。堅物生徒会長め。もっとあそばせろー」


 口を尖らせて抗議する様は、もう中等部の二年生になるというのにそんな雰囲気が微塵もない。

 ちょっと子供っぽ過ぎないだろうか。


 そんなノアの前に書類の束を置く。

 別に多くはない。ただ、整理はされてないから読みづらいし、一人ではあまりやりたくない作業だ。


「はい、これ目を通しておいて」


「何これ」


「一般生徒からの嘆願書。上下揃えて、明らかな悪戯だけ除いて緊急と不急、できれば可能不可能も分けといて」


「はーい」


 今日はもう対戦できないと悟ったのか、大人しく書類とにらめっこを始める。


「生徒会って実はそんなに忙しくない?」


 バレてしまったか。

 直近のイベントはまだ猶予があるし、先生から頼まれごとを受けた訳でもない。何より生徒会メンバーは私ひとりだ。新しいことを始める訳でもないなら人数は少なくていい。時間や意識を合わせる必要がない分去年よりスムーズに進んでいる感触さえある。


「というより毎日入り浸っているから一日一日の仕事量が少ない感じ。昨日はカードの発売日だったから休んだだけで、毎日何かしらやってるから仕事を消化するスピードの方が速いのよ」


 ノアは正式なメンバーではないけど、一緒にカードゲームするための口実として生徒会の仕事を手伝ってもらっている。

 私もノアも書類仕事は嫌いじゃないし、承認しているだけの書類とかもたくさんある。カードゲームに割く時間を確保することはそこまで難しくない。ほぼ毎日仕事をしているようにみえるからか、教師の受けもそれなりに良い。勉強するために生徒会室を貸してください、と言えば通る。職権乱用できるというのは素晴らしい。


「まぁもともとは生徒間の揉め事解決するための組織だもんね。それならクリスちゃんが生徒会長な時点で役目の大部分はこなしているようなもんだよ」


 そういう面もあるかもしれない。

 去年は生徒からの依頼ももう少しあったと思うけど、今年に入ってからはめっきり減った。


「まぁ一年生にしてこの学園の覇者になったクリスちゃんに頼みごとをするのが畏れ多いって感覚は分かるよ」


「あれは運が良かっただけって何度も言ってるでしょ」


 この学園では毎年武術大会がある。トーナメント方式で魔法や武器等で一本とれば勝ち残れる。

 所詮学生の大会、という訳でもない。結果を残しさえすれば宮廷魔導士にだってなれる。近衛騎士団からスカウトだって来る。将来がかかった大事な大会だ。


 ちなみに去年の優勝者は私。


 生徒会長なんてものを任されたのもその所為で、当時は忙しくなってカードに触れる時間がますます短くなると悲観したものだけど、蓋をあけてみれば去年より時間を取ることができている。引き受けて正解だった。


「およ?」


 不意にノアが声を上げる。

 目線を上げると目が合った。


「えっと……、ごめん何でもないよ」


「……」


「そんな顔しないでよ、もっと笑って笑って。ほら、にぱー。才色兼備な社長令嬢がそんな顔しちゃだめだぞ」


 はぁ。

 なんでもない訳なさそうだけど、話してくれるわけではないらしい。


「……社長令嬢って、勇者の娘ほど希少価値があるように思えないけど?」


「私はほら、パパの才能もママの才能も引き継げなかったみたいだから」


 力なく笑うノアの成績は中の上、より少し上くらい。

 普通に優秀だけれども、勇者の娘という肩書には追い付けていない。

 それに、魔法実技に至ってはからっきしだ。


 魔力がない訳じゃないしセンスもあると思っているんだけど、何故かできない。

 ノアが自主練していることは知っているし、何度かノアが魔法を使えるように特訓に付き合ったこともあるけど、残念ながら成果と呼べるものは今のところ存在しない。


 そういえば機会があったらノアにあれを試して貰おう。ようやく形になってきた魔法がある。


「それに【マジック・ブレイブ】も唯一無二でしょ。大流行している訳だし、ママより稼げているんじゃない?」


「それは、まぁ。それなりに?」


 英傑のセレナさんがどのくらいお金持ちかは分からないし、そもそも私の家がどのくらい稼げているのかも知らない。

 私の場合【マジック・ブレイブ】の目的は単なるお金稼ぎではないからあまり興味がなかったけど、お金はあって困ることはないことを知ってしまった。できることがびっくりするくらい増えるんだ。

 財力はなかなか便利な力。流行の最先端を生み出している会社に買えないものなんてほとんどない。


「その服装だってお金の力で無理やり通したんでしょ。お嬢様っぽくていいよね」


 私の制服にはそれなり以上に手が加わっている。

 黒を基調とした制服がドレス風に改造してあり、白いフリルをふんだんに扱っている。

 私はノアの黒髪と対称的な白い髪をストレートにおろしているので、全身で優雅なゴシック調になるように研究した。

 一見しただけではノアが来ているシンプルな制服と同じ服とは思えないはずだ。


「これ便利なのよ。それに服に魔法を仕込むならこのくらい普通よ普通」


 余談ではあるが……。

 一番難航したのはデザインだそうだ。

 気の毒なことに着用予定者に何度も駄目だしされて何人かのデザイナーの心が折れたらしい。


「フリフリな衣装って私じゃ似合わないけどクリスちゃんが着るとすっごく綺麗。もはやずるいよね」


「はいはい、ありがとう」


 少し赤くなってしまった顔を隠すように書類に目をやる。

 誤魔化されたことに気付くまで、もう少しかかった。






 話しているうちにも作業を進めていく。

 いくつか備品が切れているようだから今日はそれだけまとめて帰ろう。書類を作成して、担当の先生に渡せば終了だ。

 配分を自分で決めれるのは一人生徒会の特権。これ今後の伝統にしよう。


「はい、今日はこれ提出して終わり。ノア時間余ったしやっぱり……」 


「ほえ?」


 【マジック・ブレイブ】の誘惑に負けて早めに切り上げたけど、ノアの方はもう帰る準備を終えてしまっていた。残念。


「ううん、何でもない。帰ろっか」


「うん」


 ノアが【マジック・ブレイブ】を忘れて早く帰ろうとした意味をもう少し考えても良かったのかもしれない。

 でも、やっぱり単なるきっかけだったから遅いか早いかの違いしか生まれなかったと思う。


次回

1日 12:00

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