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七雄物語  作者: みやっち
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俺は香信の栽培方法と栽培所を秘匿することと交易のための権利を得た。これで俺の子分である悪ガキ軍団が独自の収益を得ただけでなく規模の拡大をも可能となった瞬間であった。

(まずは香信を売る態勢を整えないとな)

ただ、はっきり言って香信は希少性が売りの一つなので大量に出荷できない。また近隣の村で売りさばくには市場が狭すぎる。最低でも近隣(といっても片道5日はかかる)交易拠点である油川くらいにはいかなければ僅かばかりとはいえ定期的に香信を売りに行くことはできない。

(香信だけじゃ効率が悪すぎる。ポメやその他農産物も潤沢ではないし、商材をもっと見つけないとな)

とはいえ先立つものが必要な事には間違いない。早速、油川に向かおうと準備を始めた。


「おーい。権蔵いるか」

小さな駄馬の手入れをしている体格が立派で所々に白髪が光る男に声をかける。

「これはこれは、坊丸様。いかがされましたか?」

予想通り権蔵であった。村々の農産物を市場に運び売りさばく運送業のようなことも行っている雑貨店主兼農家だ。

「今度の油川に行く時に連れて行って欲しくてさ」

「油川にですか?あそこまで5日はかかりますぞ。一回は野宿しますし」

少しいやそうな感じで答える。どうやら付いて来てほしくないようだ。

「構わんぞ」

そんな空気を無視してあっけらかんと答える俺。権力者の子供はわがままをいうもんだ。

「ですが、次回は一週間も先であまり荷台に余裕もないのですが」

「俺の荷物は大きくはないし、大丈夫」

「はあ、しかしこちらとしても坊丸様だけだと心配でなりません。どなたか大人をご一緒に連れていただけなければ責任は負いかねます。油川には一週間後に出発の予定ですのでそれまでどなたかお連れ下さい」

どうやら梃子でも動かないと悟った権蔵は手を替えて来た。どこも人手不足なので10日以上手が空く者がいないという読みだ。

「大人?か?面倒くさいな。わかったよ。誰か連れてきてやるぜ」

「・・・あと路銀は自己負担でお願いします」

あっさりと承認したことに眉間にしわを寄せる権蔵。

「おう」

はっきりと断るべきだったかと天を仰いだ権蔵にちょっと迷惑をかけたかなと反省しつつ軽やかな足取りで家に向かった。


そんな会話があってから13日後、やっとたどり着いた油川は、想像以上にしょぼかった。

「ここが油川か」

「ええ、見てください。堀もありますし、周囲には土塀。立派なものでしょう。流石は物流の一大拠点ですよね」

堀も確かにあるがかなり細いように見えるし、土塀も土そのものがむき出しでどこか安っぽさがある。

「健吾は来たことがあるのか」

健吾は親父の小姓だった人物で現在は駒城家の警邏隊の隊長格のひとりだ。剣の腕前は領内で1,2位を争うほどだという。今回は俺の大分早い初めてのお使いみたいな扱いらしくこんな強力な護衛が付いたのだった。

「いえいえ。油川は初めてですよ。ですが交易所ですね。辺境にしてはなかなかの店構え。王都の大店には及びませんが、巴国西部の大領主千当候殿の居城白耶にもこれほど大店はそろっていませんよ。もちろん人口は天地ほど違うのですがね」

千当候といえば西部38家で最大の家だ。それでもこの規模の商家があまりないのはこの世界はそれほど商業が発展していないのだろうとあたりをつける。見回すとこの町の構造が分かる。ざっくりというと大通りが一本あり、いくつかの路地や裏通りがあるだけで大通りも住居兼倉庫兼店舗って感じでそれぞれそれなりに大きな建物だが件数としては10くらいだろうか。おそらく塀の内側には数百人しか住んでいないだろう。

「で、この荷車はどこに置くのだ?」

権蔵に訪ねると二番目に奥まった場所にある商館を指さした。


ここまでくるとこの町が交易所として発展した理由がよくわかる。視界の左右に広がる日本の河。ここは二本の河が合流する場所にある。川岸には多くの船が並んでおり、ここで荷物の集積、出荷が行われているようだ。

「坊丸様。右を流れるのが揖水、左を流れるのが推江ですよ」

「これが推江か。すごい大きさだな」

前世の世界では涇は渭を以って濁るって言葉があるが、こちらでは推は揖を以って濁るって感じだ。流れは緩やかに見えるが対岸までかなりの距離がある。

「坊丸様。こちらが湊屋です。ポメなどを交換する場所でございます」

「・・・まんまな名前だな」

と同時にここでも物々交換かと貨幣経済はあまり発展していないようだ。日本史では鎌倉、室町では貨幣経済になっていたと記憶にあるのでそれ以下なのか

(ここが辺境すぎるのか判断がつかんな)

そう思いながら店に入ってゆくのだった。


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