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七雄物語  作者: みやっち
2/7

小さな幸福

気が付くと小さなお手々とひたすら高い知らない天井が目に映った。

人を呼ぼうとして声を上げようとしたが声が出ない。代わりに小さくしゃっくりを上げると何か悲しいのかわからなかったが大きな泣き声をあげていた。

「ほんぎゃあほんぎゃあ!あうあう。ヒクヒックほんぎゃあほんぎゃあ・・・・」

(って赤ん坊!!!?)

こうして俺の第二の人生が幕を開けた。



俺は21世紀初頭の日本で社会人として十年近く生活をしていたのだが、何の因果か、わけのわからないまま赤ん坊へと転生を果たした。残念ながら黒づくめの男に毒薬を飲まされたわけでもトラックにひかれたわけでもない。ただ気づくとこの世界に落っこちていたのだ。

しかし、俺は生きている。生きている以上は何とか少しでも健康で文化的な最低限度の生活は求めていきたい・・・と思う。周囲の声に耳を澄ますと急速にこの言語に慣れていく赤ちゃん脳の偉大さにおののくばかりだ。だんだんと理解できていってしまうのだ。そして赤ちゃんアイは最初は非常にぼんやりとしていて赤ちゃん脳と同様にくらくらしていたが、そこはやはり赤ちゃん。時間はかかったもののどんどんと視界はクリアになっていった。

とはいえ分かったことは少ない。どこか日本ぽい雰囲気がある世界ではあったが、周囲の者が身に着けているものは着物と胡服のハイブリットのような恰好で純粋な日本の文化圏でないことはわかる。あるいは似ているだけかもしれないが、畳などはないものの木材を多用してあまり飾りっけがない部屋の雰囲気は日本家屋のような感じを受ける。

さらに時間をかけて見回すと少なくとも電気はまだ登場していない時代のようだが、食卓には塩漬けの魚よりも肉が多く出ており、簡易的ではあるが水道のようなものあるようだった。

「おうおうおう。あむあむあむ」

(どのくらいの文明なのかまるで分からん。少なくとも地球でないのだけは確かだが・・)

「おやおや起きたのかい」

そういって近づいてきたのはおそらく母親ではない小太りな女性だった。母親らしき女性も度々来ていたが、顔をのぞき込んだりいくらか抱き上げたりしていたが、疲労の色が強く出てしまう体質らしくすぐにこの女性に俺を預けるのが常だったからだ。

「坊丸様はほんと手の掛からねえお子だなぁ。うちんもんもこのくらいおとなしけりゃよかったんだがなぁ」

そういって熟練の手つきで抱き上げる。何ともしっくりとくる抱き上げ方で何とも言えない安心感がある。

「あや。あやはおるかえ」

「あ、はい。御新造様、こちらにおりますだ」

「ああ、あや、坊の世話を任せっぱなしでわるいわね。先ほど隊商が村境にやってきたそうです。こちらにも挨拶が来るはずなので旦那様のお着替えと準備をお願い」

「あ、はい。わかりましただ。しばらく坊丸様をお願いしますだ」

「ええ、寝かせて頂戴」

あやと呼ばれた女性は忙しい忙しいと呟きながら足早に去っていく。俺は床に寝かせられ、母親と目を合わせながらなぜか気になった親指を噛むことにした。

「坊、ごめんなさいね。もう少し私に力があればこのような辺境に来ることもなかったのに」

そういって袖口を口元によよよと押し当てる。とそこに

「しの!しの!ここにおったか」

無駄に大きな声で俺の親指を唾液まみれにする仕事を中断させた大男こそ、おそらく父親。服の上からもわかる筋肉と固そうな髭面が特徴だ。第三者目線でもなかなかの強面だが意外と子煩悩で夜な夜な俺を抱き上げては大泣きさせるまでがデフォであった。

「旦那様。お役目ご苦労様です」

「おお、しの!坊丸は元気にしておるか?」

「まあまあ、そんな大声で。また坊丸が泣き出しますよ」

「はははっ。赤子は泣くのが仕事。元気な証拠じゃ」

個人的な見解だが、よくこの父親がこの細身で美人な奥さんをもらえたなと親指と語っていると

「どうら」

「ふぇええええええええん!」

何とも無遠慮な持ち上げ方に機嫌を悪くした俺が泣き出して大慌てであやし始める両親を眺めながら今生が良いものになりますように神か仏かわからないものにそっと心の奥底で祈っていた。


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