第七十二話
平和………
「それでは皆さん、良い休日をお過ごし下さい!」
「「「おぉぉ!」」」
担任の締めの一言で、学校が終わる。
終業式。
これが終わったということは今から冬休みが始まる合図ということである。
そして、今日はクリスマスイブでもある!
浮き足立つ者もいれば、早く終われと念じる悲しき男もいる。
まぁ、当然俺は後者なんだが。
「紅葉!今日はクリスマスだね!」
はぁ、やっぱり来たか。
案の定暦月は、嬉々として俺に声をかける。
「正確には明日ね」
「今日の夜中でしょ?」
「はいはい。で?クリスマスがどうかした?」
「てことで、一旦家に帰ったらデートね!荷物になっちゃうし」
「えー、どこで?」
「それは外だよ〜。一緒に晩ご飯食べて、イルミネーション見たりしたら、最後には家でケーキ食べてお泊り!どう?」
「保護者いないじゃん。不純異性交遊だよ」
「今更でしょ。それに恋人だから問題ないって!」
「えー……………」
「え?嫌なの?」
「んー、デートは家がいいかなぁ」
そう言うと、暦月は顔をみるみる赤らめ、両手を頬に当てながら言う。
「こ、紅葉…………大胆っ」
「いやそんなんじゃないから」
全く、何も勘違いしているんだこいつは。
クリスマスデート。カップルにとっては定番中の定番。一種の憧れだろう。
「俺…………嫌いなんだよ………」
「?……何が?」
「クリスマスの外デート……」
「なんで?ロマンチックじゃん」
「そう思ってるバカがいっぱいいるからだよ。浮き足だったアホなカップルどもがここぞとばかりに外でイチャイチャする。手が触れただけで顔が赤くなるくらいのレベルならまだ可愛いものを、ディープなキスで、ホテルの計画まで立ててる。デートそのものが大きな前戯。ロマンチックをなんでもありと勘違いしてやりすぎてしまう。ロマンチックが恋人達を作ってるんじゃなくて、恋人達がロマンチックを作ってるのに」
「ふーん。よくわかんないけどわかった!」
「は?」
「要するに恥ずかしいんだね!照れんなって!」
「違うよ。話聞いてた?」
「うんうん。じゃ、早く帰ろ?デートの時間減っちゃうよ?」
「はぁ…………わかったよ……」
最近いつもこうだ。
俺がどれだけ断っても、暦月は全部聞き流して強引に約束を結びつけてくる。最近は暦月に上手く使われているような気がしてきた。
(天也の一件以来、たくましすぎるんだよなぁ……)
まぁ、それを許してしまっている俺も俺だが。
◇◇◇
「あ、待った!?」
制服姿の暦月が、待ち合わせの駅へ走ってくる。
「いや、別に待ってないよ。それに暦月は一駅あるからね」
「まぁね。って紅葉も制服なんだ」
「だって着替えるのめんどいし」
「うんうん、制服っていいよね〜」
「何が?」
「学生の間しか着られないじゃん?だからやっぱり思い出に残りやすいと思うんだー。特に、紅葉のデートとかは特にね!うん、紅葉とクリスマスに制服デート。中々出来ないよ!」
「んー、たしかにそうだね。じゃ、どこか行きたいとこある?」
「んー………………………………あっ!あるある!」
1分ほど唸った後、思いついたように顔を上げ、こちらを見る。
「なに?」
「まだ高校生なのに行ったことないあそこ!」
「だからどこ」
「ゲーセン!」
「え、ゲーセンでいいの?」
「うん!ショッピングのついでに行こ!」
「まぁ、いいけど……」
そうして、ゲーセンデートに決まった。
◇◇◇
「わぁ……すごい!………」
ゲーセンに到着するや否や、暦月は様々な機材を見て回っては、今のセリフをこぼしている。
てっきり暦月はこういうのはよく来ているものだと思っていたのだが。それとも毎回こうなの?
「意外だな。暦月ってゲーセン来たことないの?」
「んー、来たことないことはないよ?でももうだいぶ前だし」
「どうして?」
「どうしてって言われてもなぁ。成り行きでとしか。ほら、中学生までは私こういうのには無関係の女子だったし、高校に入ってからも、恵奈達は基本的にこういうとこ行かないから」
「ふーん。そっか………」
そういえば暦月って中学までは折り紙つきの根暗だったな。そんな面影なさすぎて、時々忘れてしまう。
「じゃあ、まずは定番にUFOキャッチャーでもやる?」
「えっ、うん!やるやる!やってみたかったんだよねー!」
そうと決まれば!
暦月と共に、色んなUFOキャッチャーを見て回る。
一口にUFOキャッチャーといっても、取れる物はそれぞれ違うし、アームの強さ、アームの数、操作のレバー型とボタン型。
暦月は賞品を見ながら、しばらく考えている。そして、
「決めた!これにする!」
結局暦月は、クマのぬいぐるみが入ったやつを選んだ。三本足のボタン型だ。
「よし!じゃあ行くよ!」
お金を入れ、ついに始まった。
暦月は最初の方こそ安定せずに、変なところで止めてしまうことが多々あったが、今では掴むところまではできている。あとはそれを入れるだけだ。
と、やっている間に15回が終わった。一回100円だが、これだけ回数を重ねると中々………
「むぅ!惜しいところまで行くのに!」
「はぁ………わかった。俺がかわりに取るよ」
「ホント!?やった!」
そう言って、UFOキャッチャーにお金を入れる。
慎重に、ボタンを操作し、ちょうどのタイミングで離す。
すると、アームは下に落ちていき、目当てのぬいぐるみを掴むと、そのまま穴まできちんと運ぶ。
俺は落ちてきたぬいぐるみを取って、暦月に渡す。
「はい」
「わぁぁ!ありがとう!さすが紅葉!」
「別に…………俺ちょっと飲み物買ってくるから」
「はーい」
そう言って、暦月から離れて、急いで飲み物を買うと、こっそり暦月を見る。
暦月は再び別のUFOキャッチャーを始めると、なんの無駄もなく、一発で落とす。
(はぁ………やっぱりか………)
「暦月!」
「え?ん、何?紅葉。あ、そうだ!見て!UFOキャッチャー!何回かしたら取れた!」
「嘘つけ…………暦月、本当は超上手いでしょ」
「え?」
「一発だったじゃん。それ」
「う、うぅ……………だってぇ!やっぱり紅葉からのプレゼント欲しかったもーん!」
「別にそれぐらい………」
「買うんじゃだーめ。UFOキャッチャーでしょうがねぇなって言いながら取ってもらう夢のようなシチュエーションが良かったの!」
暦月は嬉しそうに、俺の取ったぬいぐるみを抱く。
「はぁ…………なんでそんなに上手いの?」
「小さい頃はゲームセンターきたことあるからねー。そのときさんざんやったんだー」
「はぁ…………ちょっと待ってて」
そう言って、適当にUFOキャッチャーを選んで、お金を入れ、ぬいぐるみを落とし、それを暦月に持っていく。
「はい、これプレゼント」
「え?」
「暦月に騙されるような形じゃなくて、俺があげたいと思って取った。暦月へのプレゼント」
「こ、紅葉!」
そう言うと、暦月は勢いよく俺にダイブする。
「あ、いい匂い……」
「くすくす、変態みた〜い」
「かもね。さ、次行こっか」
「うん!」
その後は暦月も、完全に昔の調子を取り戻してきたのか、様々なゲームで、一緒に遊び尽くした。
対戦系のゲームももちろんやったのだが、ほとんど暦月の勝ちで終わった。
めちゃくちゃ強いんだこの女。元の運動神経も相まって、エアホッケーなどはめちゃくちゃ強かった。
「あ、最後にプリクラ撮ろ!?一回してみたかったんだー!」
ゲーセンを出ようとしたとき、暦月がそう提案する。
プリクラかぁ。本来なら自分の顔を盛りに盛りまくる別人メデカ製造機なのだが、暦月の場合、下手に何かすると逆に気持ち悪くなりそうな予感。
「別にいいけど、暦月は今でも十分盛れてるよ?」
「えー、化粧濃いってことー?」
「いやいや、それぐらい可愛いってこと」
「むっ………………急にそういうの禁止!」
暦月は顔を真っ赤にしながら、俺をプリクラの中へ腕を引く。
お金を入れると、機械がモードを選んでね!とかぬかすので、暦月は嬉々として恋人を選び、結局ほぼ加工なしのやつを選んだ。
そうして、撮影は進む。
プリクラの指示に合わせて、バカップルがやるような恥ずかしいポーズの写真を撮りまくる。
ふと暦月を見ると、暦月も顔を赤くしている。
そして最後に
『最後は、手を繋いでほっぺにチュー!』
だって。
ふざけんな。
「紅葉…………お願い………」
「はぁ!?いやだよ!暦月得意でしょ?」
「いや!無理無理無理!恥ずかしい!」
「いや、それは俺も」
『3』『2』
「あっ、始まる!」
『1』
「ん……………んんんん!!!」
───パシャッ
出てきた写真には、目を大きくあけ、顔が真っ赤になっている暦月と、そのほっぺに触れている俺の横顔が写っていた。
紅葉が甘く、暦月は扱い慣れしてきました。
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新作、永満亭の早瀬さん
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同じくラブコメです。是非お読みください!




