第六十六話
明日はテスト。
柄にもなく緊張してしまった俺は、駅前のパフェに足を運んでいた。やっぱり甘いもの食べてリラックスするのは大事だよね。
ただ、この行動は間違いだったんだろう。
◇◆◇
「走ったら意外と濡れずに済んだな………バックのおかげか」
外は大雨。いつもより下校の時間が遅いため、電車が来るのは少し時間がある。
暇なので、駅のホーム前でボーっと外を眺めると、紅葉がどこかに向かっているのが見えた。
まだ時間あるし、ちょっと話しかけに行こっ!
このとき、私が話しかけてさえいなければ。
◇◆◇
「紅葉〜!」
「ん?………なんだ暦月か」
パフェに向かう途中、横から声をかけられたため、見ると、暦月がこちらに近づいてきた。
「えへへ、ちょっと入れて?」
「ん、いいよ。って、びしょ濡れじゃん」
「傘忘れちゃって」
なぜか頭だけほとんど濡れてなくて気付かなかったが、肩や足など、サイド部分はかなり濡れている。
「はぁ………間抜けだなぁ」
「えへへ」
「はい」
「ん?」
そう言って、暦月の前に傘を差し出す。
「濡れるでしょ?傘、貸すから……」
「え、いやでも………」
「いいから……」
「でも風邪ひいたら」
「それは暦月も一緒」
「あ、そ、そっか……」
「はい」
「あ、ありがと…………。今からどこかに行く予定だったの?」
「ん?あー、まぁ、そのつもりだったけど、なんかもういいかなーって思った」
「えっ、なんで?」
「んー?暦月の顔が見れたからかな?」
「へっ?」
暦月は顔を真っ赤にする。
別にただの本心だ。
緊張で固まっていたが、暦月の顔を見てリラックスできたんだから。まぁなにも知らない暦月的には意味不明に聞こえるだろうけど。
「じゃ、暦月も風邪ひかないようにすぐ帰るんだよ?」
「え、う、うん」
「じゃあね」
「うん、バイバイ!」
それにしても雨強いなぁ。
傘の代わりになるようなものは特に持ってきていない。
まぁそんなに遠くないし、走れば大丈夫だろう。
その後は、体調を崩すといけないので、家に帰った後は、急いで風呂に入り、体を温めてからすぐに寝た。
◇◇◇◇◇
テスト当日。特に滞りなく進んでいる。
が、変化は三教科目で現れた。
息が速くなり、体が熱い。
(今更になってか…………!)
昨日の雨で?
いや、おそらくそれだけじゃない。
このテスト勉強期間の間、徹夜………とまではいかなくても、夜更かしし続けていた。
当然授業中も寝ていない。
いつもなら、直前に詰め込むとはいっても、ゲームをちょっと我慢するぐらいで、夜更かしをしたりしないし、授業中は寝る。
高度な寝不足で、免疫が下がり、溜まりに溜まった疲れが、昨日の雨で爆発し、今になって現れた。
このテストは後受けは基本的にない。
幸いまだ症状は軽い。
とにかく、頭を回すんだ。今までの努力を無駄にするわけにはいかない。
俺は熱い息を吐きながら、テストを解き続けた。
◇◇◇
結果は…………
一位、伊瀬田天也
二位、平山乃々佳
三位、基山紅葉
こう張り出してあった。
「負けた…………」
伊瀬田はおろか、平山にすら勝てなかった。
拳を握りしめる。
「こ、紅葉………」
晃が気まずそうに話しかけてくる。
「お、お前………どうすんだよ………」
「わからない………」
悔しい…………
こんなに悔しいのは初めてだ……
(くっそ…………!もうちょっと俺が頑張れてたら!)
あぁ、今更後悔しても遅いか………
「ねね!紅葉!」
肩を叩かれたので、その方を見ると、暦月が嬉しそうに笑っている。
「あ、紅葉すっごい!三位なんて!」
「いや………」
「あー!暦月!なんか紅葉用事あるらしいから、俺と話そう!俺と!」
「げっ、晃。また?」
晃が気を使ってくれたようだ。
(ごめん………ありがとう……)
「あっ、待って!1つだけ!」
「………ん?」
「ふふふ、頑張るって言ったでしょ?ほら!」
そう言って、暦月は俺にテストの結果を見せてくる。
「二十八位!100番くらい上がったんだよ!?」
「暦月………」
「紅葉のおかげだね!」
「でも、俺…何も………」
「紅葉が頑張ってたから、私も頑張ろうって思えた!私、ほんとはわかってる。紅葉、三位で悔しいんだよね?でも………私は、紅葉が誰よりも頑張ってるの、誰よりも見てたから!」
あぁ……………違うや………
どうすればいいかわからない?
ちげぇよ。
俺は暦月といたいし、暦月は俺といたい。
ただ………それだけ。
どうすればいいかなんて、最初から決まってた。
「ありがとう、暦月」
俺は、伊瀬田の元に向かった。
◇◇◇
今は使われていない廃工場。
人気もなく、秘密の話をするのにはちょうどいい。
「よぉ、やっと来たか!」
どうやら先に伊瀬田は着いていたようだ。
「伊瀬田………」
「約束は約束だぁ!お前は俺に負けた!お前より俺の方が優れていることがこれで証明された!暦月に真にふさわしいの俺!お前には、別れてもらうぞ!」
「待ってくれ、頼む。俺は今回は本気なんだ。まだ、別れたくない………」
「だったら嘘告の証拠をみんなにバラすだけさ!きっと白い目で見られるんだろうな!」
「それもやめてくれ………」
「あれは嫌だ、これは嫌だ。じゃあ何しにきた!」
「謝罪を……しにきた………」
「ッ!………そんなもの求めていない!俺がお前ごときの頭1つ欲しがると思ったか!?いらないんだよ!……………俺は……俺が欲しいものは暦月だけだ!どうした!約束だろ!?誓えよ!」
「それは…………できない……」
「お前…………今更……見苦しいぞ……!そういう負けたくせに!劣っているくせに!うじうじしている奴を見るのが一番嫌いなんだよ!!」
「………………」
俺から見た伊瀬田は、怒りというより、恨み、嫌悪、悔しさのような顔をしていた。
「だったら!」
「待って!」
「えっ?」
後ろから声が聞こえる。咄嗟に後ろを振り向くと、そこには暦月がいた。
こちらに近づいている。
「お前!」
「俺は呼んでない……………暦月、どうしてここに………」
「なんとなく、様子が変だったから。後をつけた。それより教えて!2人はなにを話してるの!?嘘告の証拠ってなに!?」
「それは…………」
「いいよもう…………俺が全部話す。俺が脅したんだよ。そこの紅葉を!テストで俺に勝てなきゃ別れてもらう。別れないならお前ら2人が仮の恋人で、暦月が罰ゲームの嘘告で告白したって。暦月は男たちの気持ちを弄び、嘘告なんていう最低の行為をしたんだ!って………」
「そんな……………それで紅葉………」
「………………」
「もういい…………もう知ったことか……全部バラすだけさ…………紅葉は俺に負けたただの負け犬。暦月は人の気持ちを弄んだってな………」
「伊瀬田くん………なんで………」
「その前に………今までずっと言ってなかった」
「あぁ?何を!?」
「久しぶり…………天也くん」
「ッ!……………お前………いまさらぁ!!」
懐かしい呼び方。
そう呼ぶと、伊瀬田はその表情を怒りに変えた。
「えっ、なに?どういうこと?」
暦月は明らかに困惑している。
「今更、なんのつもりだ!!」
「え、ちょ、全然わかんないんだけど!」
「彼の名前は伊瀬田天也…………旧姓、蒼波 天也。俺の中学のクラスメイトさ」
次回は天也の過去編!
紅葉と青葉(蒼波)ね。
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