第六話
デート! 圧倒的デート! 放課後デートがもうすぐそこまで来ている! チャイムはなった! やばい! 心臓が、やばい! 語彙力もやばい! ドキドキが! 止まr
……このキャラ疲れるな。無理にテンション上げようとしても無理か。でもなぁ、こうでもしないと、帰りたくなっちゃうから……。
「それじゃっ、行こう?」
「うん」
背中に冷やかしと嫉妬の視線を受けながら、橘の後を追って教室を出た。
校内はもちろん、校外ですら明らかに敵意を帯びた視線を感じる。
微妙に気まずい空気が流れる。自分で誘っておいて、橘はまるで話そうとしない。
仕方ない。計画のためにも、デートするから最大限アピールしなくては。
「ねぇ」
「ひゃいっ!」
ひゃい?
いきなり声をかけたのが悪かったのか、橘はビクンッと大きく跳ねて変な声を出した。
「な、何かな……?」
グギギ……とブリキが軋む音が聞こえてきそうな感じで、顔を赤くした橘がぎこちなく振り返る。
「大丈夫? 顔赤いし。デートやめる?」
「い、いや! 全然平気だよ。それよりどうしたの?」
「あー、どこに行くとか考えてるのかなって思って」
「そ、そういうのは、ほら……二人で考えたいっていうか。どこ行きたい?」
「それなら家に帰りたいかな? 今すぐ」
「じゃあ何がしたいとか」
「ゲームかな。一人で。家で」
「さっきからデートしない方向に持って行きたがるね」
「冗談だよ」
半分は。
「そんなに家が好きなの?」
「まぁね、外に出るのは疲れるし、人混みが嫌いなんだよ」
「みんなそうでしょ。外に出ない理由にはならないって」
たしかに。
というか、横に並んで歩いて初めてわかるが、やっぱり歩くの遅いな。体が焦ったくってうずうずしてきた。
「それで? 結局どこ行くの?」
「んー、時間も大してないし、カフェとかでいいんじゃない? 好き?」
ほほう。カフェか。
「大好きだよ。甘党だからね。カフェはいいよね。うん、大好き」
しかしデートというのは、思ったり疲れるな……
相手のペースに合わせて歩くのはもちろん、車道側を歩いたりとか、やや前を歩いて曲がり角のときはきちんと確認したり、とにかく気を使うことが多すぎる。
「そーいえばさ、なんで私の告白OKしてくれたの?」
「えっ?」
「な、なんでそんなこと聞くの?」
「だって明らかに私のこと好きじゃないじゃん? さっきの会話もさ……。学校とかRINEでも、話そうとしないし」
話そうとしないのはお互い様じゃ……と言いかけてやめた。チラリと見えた橘の顔が、少し寂しそうに見えたから。
元はと言えば罰ゲームで告白なんてふざけた物。僕が気を使う必要なんてこれっぽっちもないはずだけど、こんな表情をされたんじゃ何も言えない。
「……なんか悪いなぁって。好きでもない人と付き合わせるの」
「それは違うよ、橘。僕は好きだよ、君のこと。ただ、少々マイペースというか、めんどくさがりというか、陰キャ根性が染み付いてるからね。それに、そういう感情を表に出すのが苦手なんだよね」
「そっか……なんか、ありがと」
ふぅ……、なんとか誤魔化せたみたいだ。
「ねぇ」
橘が突然足を止めて、僕の袖を親指と人差し指だけで掴んだ。
そうして顔を赤らめてただ一言。
「私も好きだよ。基山のこと」
「そっか。ありがとう」
「うん!」
笑顔で返すと、橘はにっこり笑って、そのまま僕を引っ張って歩き出した。
そうして、しばらく歩いて、カフェがすぐ近くに見えて来たそのとき。
「あれ? 暦月じゃん! ひっさしぶりー! 新しい彼氏とデートかい?」
後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、見るからにチャラそうな男だった。
セリフからして橘の友達。
えー……まいったな。晃みたいなやつならいざ知らず、こういうやつは苦手なんだよなぁ。
ブックマークよろしくお願いします!