第四十七話(暦月視点)
あの日、今日から一ヶ月前のことだ。
私は紅葉に告白し、振られた。
そして、チャンスをもらい、罰ゲームの嘘告ということで、私たちは仮の恋人になった。
紅葉は仮も本物も大した差はないと言ってくれた。
それがただ、嬉しかった。
だからこそ、1秒でも早く本物になれるように、私は日々、アピール継続中。
そして、文化祭の昨日と今日。いやぁ楽しいわぁ。
昨日なんかお泊まりしちゃったしね!
キスの約束だってしてくれた。
それを思うと、売り上げのために、疲れなんか吹っ飛んじゃう。昨日よりも笑顔で元気よく、私は働いた。
紅葉との初キスを胸に働き続けていた。
私のその想いに、その笑顔に雲がかかるなんて、ないと思っていた。
思っていたのに、奴は現れてしまった。
酒井だ。初めてみたときは驚いた。進学先の学校なんて教えた覚えもない。きっと調べたんだ。
そもそも再会したときも制服だったんだから、すぐわかるだろう。
最初、逃げ出そうと思った。
でも、紅葉が助けてくれて、これじゃだめだ、っと思った。逃げるんじゃなくて、立ち向かって、越えなければいけない。
「わかった…………ただし、俺も一緒に行く」
「うん…………ありがと……」
「あぁ」
「んー、まぁいいよ。2人でも」
「お、お客様、お席にご案内します」
「はーい!」
私は酒井を空いている席へと案内した。
紅葉はそばで、黙って見守ってくれている。
これなら大丈夫だ。私は不思議と安心した。未だに恐怖はある。それもそうだろう。レイプ未遂だ。一朝一夕で拭えるトラウマじゃない。それでも、紅葉がそばにいるというだけで、どこか安心した。
「こちらがメニューです。ご注文は何になさいますか?」
「んー、暦月、似合ってて可愛いよ」
「ご注文は」
「あはは、反応薄いなー。前ならもっと喜んでくれたのに」
「そんなこと忘れました」
「いーや、嘘だね。忘れるわけがない。だって暦月は俺に依存してたんだから」
「そんなのっ……」
「依存してたからあんなこt」
「お客様、ご注文がないならお帰りいただいても結構ですが」
酒井の言葉をすんでのところで紅葉がかき消す。
「うるさいなぁ…………思い出の時間だ。少し黙っててくれないかな?」
酒井が紅葉を睨みつける。
対して紅葉はいつもと同じ表情で酒井を見ている。
酒井側からだけ、火花がばちばちと散っている。
「お客様のくだらない世間話に付き合っている暇はありません」
いつもと同じ雰囲気で淡々と喋る。
「………はぁ……………ちょっと考えていただけだよ………………じゃあ、このオムライスで……」
「飲み物は?」
「いらねぇ」
「承知しました」
私と紅葉は注文を聞くと、そのまま厨房へ向かう。
しかし、その途中で声がかかる。私ではなく、紅葉にだ。
「お前、変わったなぁ!」
「何がですか?」
「前会ったときは、なんというか変な怒り方だったのにな、有無を言わさず怒りをぶつけるって感じ?今は冷静で、俺を相手にしないようにしてるっていうか、静かなら怒りってやつかな?」
「そう」
「次邪魔したら、潰すぞ眼鏡」
「…………好きにしろよ」
わ、私のせいで………紅葉潰されるの?
私が不安になっていると、横から手が伸びてきて、頭を撫でられる。
「大丈夫、気にしないで」
とても優しい笑顔で、私のことを励ましてくれる。
私が不安になっていることに気づいたんだ。
本当に優しい………………その優しさが大好きだ。
私もこれ以上は絶対逃げない。
◇◇◇◇◇
「それじゃ、今日は解散だ!お疲れ様でしたー!」
「「おつかれー!」」
酒井は特に何をするわけでもなく、料理を食べたら普通に帰っていった。
いや、普通にじゃない。
1つだけ、私に手紙を渡してきた。
多分私を呼び出すつもりだろう。
ただ、この場合は紅葉にも手紙のこと話すべきなんだろうか……………
危害を加えたくないなら、黙って一人で行くのが……
「暦月、手紙なんて?」
「うぇっ!」
後ろから紅葉の声がかかる。
咄嗟に手紙を隠し、後ろを向く。
「な、なんで…………」
「見てたからね。手紙渡されたでしょう?どうせ呼び出しかなんかだと思うけど、1人で行こうとしてるのかなぁって」
「う、鋭いね………」
「まぁね、それよりもう見た?」
「まだだけど…………」
「そっか、じゃあ見よう」
「いや、でも…………私1人の方が……危険だよ?」
「いいの。気にしないでって言ったでしょ?それに、俺達2人で行くわけじゃないよ」
「え、どうゆうこと?」
「友達の危機は放っておかないってこと」
「そーゆーこと」
「俺が守ろう」
「み、みんな…………」
そこには、恵那たちが立っていた。
紅葉だけじゃない。みんなが私のために戦おうとしてくれている。
嬉しくて、涙が出そうになる。下を向いて、必死に我慢する。今まだ、泣いたらダメだ。
「いや、そういう涙とかめんどくさいのはいいから、早く手紙を」
は?
カッチーン
「まだ泣いてないしー!」
「でもいずれ泣くじゃん」
「せっかくの感動雰囲気が台無しじゃん!」
「だからその感動がいらないんだって」
「2人ともー?喧嘩してる場合じゃないよー?」
はっ、それもそうだった。ついつい熱くなってしまった。
おかげで、緊張やら不安やらは吹っ飛んでしまったけど。もしかしたら、それが紅葉の狙いだったのかもしれない。
「はい、えっ……と、あー、駅の近くの廃工場だって………」
「あー、あそこか………たしかに、いかにもって場所だな」
「こんな場所ならもう十分でしょ。警察、今回は呼ぶよね?」
「う、うん………」
「それなら、工場に行って、酒井がいるのを確認してからの方がいいぜ」
「そーだね」
「そんじゃ、早速行こうぜ!」
私たちはそのまま学校を出て、呼び出しされた場所へ向かう。
横には紅葉が立ってくれている。
やっぱり、ちょっと不安だな…………
「大丈夫だよ。ほら、真那元がいるんだし。警察呼ぶから、喧嘩するわけでもないしね」
私にそう囁くと、手を絡ませてくる。
今までは全部私からだったのに、今は紅葉から手を繋いでくれた。
「明日の文化祭も、2人で楽しもうね」
「うん!」
手にあるこの温もりが、全身を駆け巡り、私に笑顔をくれる。
紅葉だけは………離さない。
何度断られても、必死にしがみついてやる!
酒井のことなど忘れ、今はただ、そう強く決意した。
幸せそうで何よりです。




