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第四十六話

「紅葉ちゃんがあんなに声出して応援するなんて!何か勝ってほしい理由でもあったの?」



天下一武道会の決勝戦が終わり、しばらくした後、俺と音々さんは2人であっていた。


2人っきりだけど、決してやましいことはありません。



「とぼけないでよ。あなた張本人なんだから。それに、わざと負けたでしょ?」


「あら、本気よ!むしろあの声援の中、勝つほうが難しいくらいね!」


「ま、そうかもね………じゃ、シフトだから行くね」


「頑張ってらっしゃい!」


「へいへい」



俺は、まっすぐ教室に戻った。



そもそも、どうして俺がそこまで筋肉主将を応援したのか。



時を遡ること、決勝戦が始まった直前のこと。



「紅葉はやっぱりあのオカマさん応援してるの?」


「音々さんね。俺はどっちでもいいかな。見ろって言われただけで応援しろなんて言われてないし」


「でも、瑠美ちゃんは応援してたじゃん」


「いやいや、それとこれとは違う気がするけど」


「んー?そうかなぁ」



客席にて、俺と暦月は2人で話していた。

するとそこへ後ろから声がかかる。



「あ、紅葉くん!」


「あ、店長………」



振り返ると、後ろには店長が立っていた。

唐揚げ棒を持って。



「もう決勝戦始まるじゃん!」


「そうですね」


「やっぱ紅葉くんは心配だよねー」


「心配?」


ーーゴォォン



試合開始のゴングがなる。


それより、心配ってなんのことだろう。



「あれ、聞いてないの?」


「何を?」


「音々さん、これに勝ったら紅葉くんとジムデートに誘うってよ」


「断りますよ、そんなの」


「なんでも言うこと聞くって約束あったじゃない」


「あっ……………」



そのとき、ドンッ!という音が会場に響き渡る。


どうやら筋肉主将が倒されたらしい。

らしい………らしい……………


いやいや、やばいって!勝ってもらわないと、俺がやばいって!まだ立つよな?そうだよな?


「ま……」



へ?嘘だろ?おい!筋肉!



「い」



言わせるか!



「っ」



「真那元!その程度かよ!」



俺は怒声を上げた。このまま負けるなんて絶対許さない。ジムデートなんて、なんの罰ゲームだよ!


すると、俺の応援に便乗するかのように暦月も応援する。俺も再び激励する。

するとそこへ、運良く秋田登場。


応援によって力を取り戻したのか、筋肉主将は立ち上がり、今度は音々さんを倒し、決勝戦は筋肉主将の勝利で終わった。



これが、俺が応援した理由。


あとで主将に色々礼を言われたり、お前をボコボコにしようなんて今は思ってないとか言われたが、適当に返事をして流しておいた。







◇◇◇◇◇




「いらっしゃいませー!」



再びシフトの入った俺は教室へ戻り、また接客をしていた。

だが、時間もそろそろいいころだ。あと1時間程度で店じまい。


大変だが、そろそろ慣れたのか、昨日ほどの不快感はない。

それは他の人も同じなのか、昨日よりも笑顔が自然だ。もちろん暦月も。



「へー!ここが話題の喫茶か!」



どうやら新しいお客らしい。声からして男性。メイドの出番だ。ちょうど手が空いていたらしい暦月は受付の方に行く。



「いらっしゃいませー!お客さ……………」


「やっほー!久しぶりー!」


「ど、どうして…………!」



何やら、暦月が困っているらしい。


心なしか声が震えている気がする。ちょうど俺も手が空いたので、とっさに暦月の元へ行く。



「お客様ー、どうかなさ………………」


「あっ、眼鏡!」



そこにいたのは例の元カレ、酒井だった。


暦月は震えており、俺の後ろに立ち、服をギュッと握って離さない。



「今は眼鏡かけてませんけどね」


「お、イメチェン?」


「違います。で?何しにここへ?」


「なに?用がないときちゃダメなの?」


「そうですね。できれば早急にお帰り願いたいです」


「俺は客だよ?」


「あなたは出禁です」


「俺何かしたっけ?」


「うちの店員に手を出した。立派な犯罪だ。お引き取り願えますか?」


「証拠は?」


「証言者がいる」


「そんなの証拠にならない。俺をはめてるかもしれないだろ?」


「この震えが本物かどうかぐらいはわかる」


「俺には嘘に見えるなぁ?目、腐ってんじゃないの?」


「そうかもしれませんね」


「この店は客に差別するの?俺は客だよ?早く接客しろよ。男にはメイドだったよね?男のお前には興味ねぇよ」


「………………失礼しました。誰か代わりにこの人の接客ついてください!暦月ちょっと気分悪いみたいで…………」


「いーや、俺はそいつに接客ついてもらいたいなぁ」


「おい!てめぇ!何しに来た!」



同じシフトに入っていた晃がこちらに気づいたみたいだ。

物凄い勢いで酒井を怒鳴りつける。



「晃、待って…………今は何もできない」


「そーいうこと。早く暦月ちゃん接客してよー」


「くっ……………!」



悔しいが何もできないのは本当だ。

せめて、酒井と暦月をこれ以上接触させないようにするしかない。



「申し訳ございませんお客様。当店は人員の指名はできません。この子は少し具合が悪いみたいなので」


「えー、さっきまでそんなふうに見えなかったぜ?」


「そんな昔のこと、いちいち気にしても仕方ありません」


「昔ねぇ」


「それでは……」



俺は暦月を休憩室に連れて行くため、肩に手を回す。

が、暦月はそこで立ち止まり、俺の顔を見る。



「………紅葉、ありがとう」


「それより、早く行こう」


「だ、大丈夫…………紅葉の言うとおり、昔のこと、いちいち気にしても仕方ない」


「俺はそういう意味で言ったんじゃ………」


「私も、逃げたらダメだ。もうあいつは過去の人。今の私には1ミリも関係ない。今ここで逃げたら、それを自分で否定してしまう」


「暦月…………」



その目はたしかな強さがあり、震えを無理やり抑え、恐怖を必死に我慢しているように見えた。


俺は酒井を見る。ニヤニヤしている。いけすかない。

でも、俺が何をしても無駄だし、暦月のせっかくの覚悟を無下に扱うこともできない。


店内なら、何かすることもないだろう。



「わかった…………ただし、俺も一緒に行く」


「うん…………ありがと……」


「あぁ」


「んー、まぁいいよ。2人でも」


「お、お客様、お席にご案内します」


「はーい!」



先程までの違い、暦月の笑顔はぎこちなく、違和感だらけだった。




ついに到来、元カレ酒井!


トラブルメーカーだね。


二章も残り三分の一だ!キスやら旅行やらは一体どうなるのか!



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― 新着の感想 ―
[一言] 金払う前なら店の側の意向が優先で、客は別に偉くもなんとも無いから『出ていけ』は正当な要求なんだよね。 なんで押し切られてんのかサッパリ解らないんだが、制裁への仕込みと思っていいんだろうか。
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