第三十五話
キリのいいところが見つからず、長くなってしまいました。
頑張ってお読みください。
うちの食卓に母さんのご飯が並び、しばらくは暦月が料理を絶賛していたが、半分ほど食べたとき、母さんがニヤニヤしながら口を開いた。
「ねーねー、告白したのはどっち?」
「わ、私です」
「へー、暦月ちゃんはどこが好きになったの?」
「え、えっと………無口で冷たいけれど、しっかり自分を持っていて、真っ直ぐ見てくれるとこですかね」
よく言うぜ。罰ゲームの嘘告のくせに……
「あらそうなの!嬉しいわ〜!娘が増えるなんて」
「増える?」
「あら、知らないの?」
母さんが少しだけ俺を睨む。
「あぁ、ごめん暦月。俺、妹いるんだよ」
「えー!びっくり…………」
「晃には言ってた思うんだけど、どうでもいい話だし言わなかったんだ」
「実の妹をどうでもいいなんて、聞いたら泣くわよ?」
「そうは言ってないだろ……」
「妹かぁ…………会ってみたいな」
「文化祭に連れて行くつもりだから会えるわよ」
「ホントですか!やったー!」
「ふふふ………というか、暦月ちゃん?」
歓喜に浸っていた暦月を母さんが現実に戻す。
「は、はい?」
「娘になることは否定しないのね?」
「あ、いや、それは…その……………そうなれたら嬉しいなーって思って………」
顔を真っ赤にしながら答える。
「それにしても無反応だったわよね?普通は照れたりするもんじゃないかしら?暦月ちゃんは紅葉みたいな性格ではないし………もしかしてそういう妄想してたのかしら………?」
「ッ…………!……あ、いや…………その、………」
「あら図星?可愛いわね〜!」
「ッ…………!」
暦月の反応が面白いのか、どんどん攻める母さん。
暦月の顔はかなり真っ赤になっている。
「………………はぁ……母さん。そろそろやめてあげて…………」
「ふふっ、そうね。やりすぎちゃったかも。ごめんね暦月ちゃん?」
「あ、いや全然。あの…1つ質問していいですか?」
「なんでもいいわよ」
「恋乃花さんは……」
「ダメよ、暦月ちゃん?ちゃんとお義母さんって呼ばなきゃ」
「あ、すみません、お義母さん」
「いいのよ、娘だもの」
なんで当たり前のように俺の許可なしで、結婚の約束してんの?
てか、なんで暦月も当たり前のように順応してんの?
妄想のおかげ?そっち関係はもう照れないくらい妄想してんの?
結構やってんなぁ、お前。
「そのお義母さんはどうして名字が志村なんですか?離婚はしてないと聞いたんですが……すいません。気になっちゃって…………」
うわ、結構踏み込んだとこいったなぁ
「んー?別に離婚はしてないわよ?だって子供たちが可哀想じゃない?でも私は基山は名乗りたくないのよ。彼と同じ苗字だから。子供たちと違うのはすごく嫌だけど〜!」
「あはは、そこまで………」
「そうそう。あの人はもう最低なんだから!」
それからしばらくは父さんがどれだけ最低かの話になった。
若い女にベタベタしてり、鼻伸ばしてるとかそういうの。
俺も暦月もとくに興味ないから聞き流していたので内容は全然覚えてない。
そこで、母さんが話していると、俺の顔を見て思い出したかのような顔をして、話を止め、俺に話しかけてくる。
「そういえば、紅ちゃん。どうしたのその顔?」
「あ、これは私が文化祭ってことで無理矢理イメチェンさせちゃって」
「イメチェン?これが?中学のときと大して変わらないじゃない」
「え?…………中学?」
「そうよ。もしかして知らないかしら?」
「いや、全然………」
「この子、逆高校デビューなのよ。メガネをかけたのも、髪を伸ばしたのも高校からよ」
「えー!そうなんですか!」
「そうよ………そういえば、どうして紅ちゃんはあなたの告白をOKしたのかしら?もしかして、彼女、恋人がどんなものか知りたいって言ってなかった?」
「え、あ………言ってました」
「やっぱり………まーだそんなこと言ってたのね?」
「母さん。それ以上言ったら本当に怒るよ?」
まずい、暦月に俺の過去がバレてしまう。
俺の黒歴史が…………!
「あ、聞きたいです!」
「あら、娘が聞きたいと言うなら教えてあげなきゃね〜?」
おのれ暦月ぃぃぃい!
睨むが全く効かない。
あぁ終わった………。超恥ずかしい。
「この子ね、なんでこんな性格になったか知ってる?」
「あ、それは聞きました。なんか、好きなキャラのマネをしてたらって……」
「そうそう………これがもう面白いわよねぇ………それでね?元々は明るい性格っていうのもあって、無口だけど、口下手だったりするわけじゃないし、普通に話してて面白いのよね〜この子」
「それは、わかります」
「中学生の頃は髪も今ぐらい短かったし、コンタクトだし、話しかけるなオーラとか出してなかったから、無口でクールだけど、明るい友達がいっぱいいたのよ。今で言う、所謂陽キャってやつね。友達だってうちに泊まりに来ることも多かったし」
「へぇ………雫みたいな?」
「まぁ、近いと思う」
「この子、顔はギリイケメンだし、クールってのもあって女の子からは結構人気だったのよ。クラスで一番っていうくらい」
「えっ!」
「落ち着いた大人の雰囲気がかっこいいーってね。それこそチョコなんかは2桁はもらってたわよね?」
「半分は義理だよ」
「半分は本命でしょ?」
「………まぁ」
「え、そんなに…………」
「そうそう。まぁ憧れたキャラがクズの部類に入るってこともあってこの子もなかなか性格悪いのか、手作りは絶対に食べなかったけどね」
「だって怖いじゃん」
「女の子から告白とかも結構されてたのよ?この子。超意外でしょ?」
「た、たしかに意外ですけど………納得もできます」
「ふふふ、あらそう。………まぁ全部振ってきたんだけどね。そういうの興味ないって言って」
「へぇ………」
「そしたらね?……プグッ………くふふっ………この子ね………ある女の子に一目惚れしちゃったのよ」
「え!?」
「母さん………」
「それでね?告白して付き合うことになったんだけど」
「そんな……」
「母さん………」
いや、普通彼女の前で元カノの話するか?
ていうか、その話は本当にやめてほしい。
俺の一生の黒歴史だ。
「彼女いたの………?」
「言ってなかっただけ……」
「あっ!ごめんなさい!別に暦月ちゃんに辛い思いをさせるために話してるわけじゃないよ?これはただの面白い話だから」
「え、あぁ、そうなんですか」
「そうよ!きっと暦月ちゃんも笑っちゃうわ」
「母さん!ホントそれ以上は………」
「どうする暦月ちゃん?」
「一応聞きたいです…」
「よし!わかったわ!それでね?付き合ってはいいんだけど、この子その後何したらいいのかわかんないって言ってるのよ。デートしたら?って言っても『めんどくさいし、俺たちはそういうのじゃない』って、すごいかっこつけて言うのよ」
「……別にかっこつけてはないよ………」
「あら?そうだったかしら?『そういう子供みたいなのじゃない気がする』って大人づらしてたのに?」
「……………」
そうです。俺にもあったのです。
思春期特有の拗らせが。
俺の場合はそれがたまたま元の性格とマッチして、大人な気分でいたのです。
「それで、一ヶ月間何もしないまま経って、彼女の方も数回誘ってたみたいだけど、断ってて。そしたらこんなとは思わなかったって振られちゃったのよ〜。あっちは元々好きで付き合ってたわけじゃなくて、中学生とかにありがちな振る理由もないから付き合うみたいな感じらしくてね〜」
「それで、紅葉はどうしたんですか?」
「それからよ!そもそも付き合うということの意味がわからないって言い始めたのは。多分紅ちゃんもそこまで好きじゃなかったんでしょうね。多分可愛いなくらいにしか思って無かったのよ。私は好きになる理由にはとくに拘らないけど、紅ちゃんは好きだから付き合ったんじゃなくて、付き合いたいから好きだったんでしょうね。普通なら付き合った後も独占欲とかが湧いてくるけど、紅ちゃんは性格上そういうのはないから、なんか冷めちゃったんでしょうね……」
「へぇ………」
「ま、それで、恋人とはなんなのかよくわからない。世界が違って見えるとか言うけど全然違って見えなかったんだけど。とか言い出したのよ」
「なるほど、それで…………」
「ね?この子の拗らせ方とか面白いでしょ?」
「そうですね………ちょっと面白いですね……」
「でしょー!」
はぁぁ…………
ぜーんぶ話されました。
拗らせて大人ぶった挙句振られて悟り開くって、超やばいじゃん。めっちゃ恥ずかしいやん。
「そういえば、2人はいつから?」
「2ヶ月くらい前です」
「ふーん…………どうして告白したの?」
「え?いやそれは」
「本当のことを教えて?この子は変なとこで真面目だから好きでもないのにOKしたりしないもの。それくらいはわかるわ、親子ですから」
「えっ………と」
「大丈夫よ……怒らないから……」
「いや………」
母さんは優しい口調で言うが、暦月には多分わからないんだろう。相当焦ってる。多分認めてもらえないとか思ってるんだろうな。
「母さん、それ言わなきゃだめ?」
「あら、言いたくないの?」
「あまり教えたくはないかな……」
「んー、でもやっぱり気になるわ」
仕方がない。
まぁ、別に母さんはそういうの気にするタイプじゃないし、大丈夫だろう。
「じゃあ俺から言うよ。そんぐらいはいいでしょ?」
「いいわよ。私は理由が気になるだけだから」
それから話した。罰ゲームのこと。一ヶ月の期限の日のこと。俺が暦月を好きになりたいと思っていること。
「へぇ…………ずいぶんキザに決めたわね、あなた」
「ん、そうかな?」
「ねぇ、暦月ちゃん?」
暦月は目が泣き目になって、明らかに怯えている。
「言ったでしょ?好きになる理由には拘らないって。紅ちゃんも思ってることだと思うけど、私は嘘告してくれてよかったと思うわ。だってそのおかげでこんなに可愛い娘ができるんですもの!」
「ほ、本当………?紅葉……よかった………?」
「うん、とても」
「………ありがとう」
暦月は泣いてしまう。
いつもどおり抱きしめ、頭を撫でると割とすぐ泣き止んだ。
その様子を母さんは楽しそうに見ていた。
「あらあら、お熱いわねぇ」
「はいはい」
「ふふふっ…………それで?もう好きになったの?」
「んー?まだかな………でも楽しいし大切だよ……」
「ッ……………!」
「あら、真っ赤よ?」
暦月は再び真っ赤になってしまった。
そうしてこの後も俺の存在を忘れ、2人の女子会は続いた。
かなりの頻度で暦月の顔は赤に染まっていた。
紅葉くん、妹と彼女いたんですね………
驚いてます。いつの間にそんな設定が!?
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